昼を食べ終えて、黄昏に近づく夢うつつの時。
どうして午後一時位って、こんなにも眠たくなるのだろうな。
夕焼けが近づく匂いがする。今日は良い天気だった。暖かな陽気。ぽかぽかと体を温めて、執務室の空気を柔らかくしている。
そんな場所で、俺は白露に膝枕をしてもらっている。
俺は彼女のしなやかな両脚に後頭部を乗せて、ソファーで横になっていた。
暖かい。ちょっとくすぐったそうに彼女が微笑む。
髪の毛がくすぐったいのか? スカート越しだが、色々と伝わっているのだろうか。
自分でも驚く位に、この状況に興奮していない。
優しく緩やかな雰囲気は、いつもの明るさと合わさって。不思議な程の抱擁力を感じる。受け入れられている。重みを、疲れを、許されている。
とても切ない気持ちと、だらしなくも緩む心が胸に同居していた。
「思っていたより固いな」
あえて憎まれ口を叩いた。イジワルに彼女が笑う。そうして。
「…そういう生意気を言う口は、これかな~!」
くちびるをつままれてしまった。細い指が力強くつまんでいる。
「ぐみゅむ」
変な声が漏れた。
「ふふふ」
楽しそうに笑う彼女の声が聞こえた。ああ。穏やかだ。とても穏やかな微睡みの時。
…普段、まともに眠られていない自覚はある。悪夢なんてしょっちゅうだ。
ああ、ほんとう、このまま死んでしまえたら良いのに。
ははは。いかんなあ。いかん。とても眠い、意識が、どうにも。
……白露、むねでかいなあ。ぎゅっとしてもらった。心配してくれた。やわらかかった。きれいだ。きれいだよ。とろとろと意識がとけている。
じ~っと彼女の胸を見ている。大きくて、とても柔らかいのを知っている。
ああくそ気持ち悪い思考をするな。ガチすぎる。いい加減気付かれ。彼女がのぞき込んできた。
「――やらしい眼で見た?」
「み、見てないぞ」
慌てて顔を横に向けた。白露の体とは真逆に視界がある。
危ねえ!! 理性が融けてた。久しぶりに疲れを感じたからか。ないない。いかんぞこれは。
「あやしいなあ。このこの」
つんつんとほっぺをつつかれる。良かった。幸い、彼女を傷つけずにすんだ。
俺は怖い奴だ。触れあいを求めても、自分の異常性と影響力を忘れるな。
艦娘に惚れ込んだ男のプライドである。でもおっぱいすげえ。やっぱりおっぱいはすげえよ。理性が融けていた。ふう。まったくもうである。
「ふっふっふ。のんびりしてね。あたし達も頑張るからさ」
白露の掌が俺の頭を撫でる。子供みたいで恥ずかしいのに、どうしても拒絶は出来ない。激しい衝動はなく。ただただ泣き出しそうな照れと、それ以上の嬉しさがあった。
暖かい。やはり彼女はお姉さんなのだな。
「そりゃあ、響が一番に強いけど。あたしもいっちばん頑張って、支えるから」
強さだけでなく。こうして支えてくれる人がいる。
提督として情けなくもあるが、彼女は姉の様に支えてくれている。
艦船から考えれば、遙かに年上ではある。顕現の在り方によって、精神性は随分と変わる。
こうして抱擁力ある彼女でいてくれた事に、最大限の感謝を。
精一杯努力を重ねてきた俺で、最大級に応えたい。応えるんだ。
「だから、提督もあたし達姉妹に話しかけてね」
「…ありがとう」
怖がられないように気をつけよう。押しつけないように触れ合おう。
彼女たちを知りたい。仲良くなりたい。愛しい。艦娘達との日常を求めて。
「いえいえ。ほうら、おやすみなさい。夕食前になったら起こしたげる」
「おやすみ」
見守られる安堵感に包まれながら、久方ぶりに穏やかな眠りへ就いていった。