内心です
すっごく怖い人。あたしや姉妹たちが提督に抱いてるイメージ。
白露型の一番艦として、いっちばん早くに話しかける! と思ってたけど。着任してからすぐ、仕事づけで部屋にこもってた。
とっても忙しい人なんだろう。でも、皆だって提督と関わりたくて。
仲良くなりたい。提督を知りたい。
皆が思ってる反面、どうしても向き合う時間がなかった。
もちろん、提督には何の責任もない話。
あたし達みたいな駆逐艦たちに、ここまで役割をくれた人。
演習で強くなって、遠征で皆の為に働かせてくれた。
とっても感謝してるよ。だからこそ、あたしは提督を知りたいんだけど。
彼と仲が良い艦娘もいる。…二人だけだけど。響と川内さん。
提督以外の、響や川内さんとはよく話してるんだ。
彼女たちが言うには、外面ほど怖い人じゃないらしいけど。うーん。
…正直、むずかしいよね。ううん。それじゃあ駄目だよ。
皆の為にかは分からないけど、提督は皆の助けになってる。
そんな彼を怖がるばかりなのって、最低だと思うから。
「よし」
執務室に行ってみよう。ちょうど響が長期休暇に入ってる。助けがいるかも。
そう思って、廊下を進んでいくと。――提督が前から歩いてきてた。
猛禽類の如き瞳。くっきりと浮かんだ目元の隈。感情の浮かばない顔立ち。不衛生な点は一切なく。それが逆に隙のなさを感じさせて、機能美を保つ機械みたいだ。
黒髪黒目が凶相を強めてる。纏う雰囲気が凄まじい。ただ在るだけで放つ威圧。
あたし達の提督。
通称は軍神。名前に劣らない格を感じる見た目だ。正直、とっても怖い。
でも、ここ数日はあいさつとかしてるらしい。
『提督さんが、せっかく、せっかく声をかけてくれたのに~!』
などと、涙目で落ち込む夕立を覚えてる。時雨も言ってた。
『声をかけてくれたのに、僕は気の利いた言葉も返せなかったんだ』
しょんぼりとした二人を慰めてから、あたしは考えた。
あたしから声をかければ良いんじゃない?
…とは思ったけど。なにごとも一番が好きだからか、あたしの声は大きいらしい。
妹たちは慕ってくれてるけど、提督は、その。うざいとか思ってないかな。
分からないんだよね。その上で見た目も怖くて。ど、どうしよう。
「おはよう」
ぼそりと告げられた声。強い警戒心を思わせる言葉に、思わず。
「へぇあ!?」
変な声が出ちゃった。だめだめ。失礼すぎる。
「あ、その、おはよ!」
友達じゃないんだから。もっと敬意とか。
「って、そうじゃなくて。その、ご、ごめんなさい!!」
妹達と同じように、耐えきれなくなって逃げちゃった。