抱きしめた提督の体が、震えている。まるで何かに怯えてるみたい。
みたい、じゃなくて。当然じゃないの。いきなり血を吐いた本人が、一番怯えてるに決まっている。ぎゅっと力を強めた。
…体は温かい。体温に異常はない。病気の類いじゃない? 分からない。
容態は安定してる。今すぐに動かす必要はなさそう。
だとしたら、ストレスからの吐血? 胃を痛めていたのかな。
食事も不摂生なイメージもあるし、健康とは程遠い生き方だと思う。
とりあえず落ち着かせなきゃ。
だからお願い。この一瞬だけで良いの。あたしの体、震えないで。安心させる力を出させてね。
「大丈夫。大丈夫だからね。あたしが側にいるから」
響ほどは強くないけど、あたしだって艦娘よ。提督を守れるんだよ。
落ち着いて。大丈夫。守るよ。守れるんだ。そう言い張れなければ、一番艦の資格なんてない。
白露型の皆、あたしに勇気を分けてね。姉妹達の姿を覚えてるからさ、あたしは堂々と一番だって誇れるんだ。さあ、落ち着いて動くんだ。
「深呼吸して」
むずがるように提督が動いた。肺が駄目になってる? 嘘。
でも、さっきから何も話してない。ずっと口を開かない。息が出来てない?
「大丈夫。大丈夫だから」
すぐ動かなきゃ。あ、あれ? 体が震えて動かない。どうして。駄目、お願い。
提督があたしの背中を優しく叩く。力は加減してるけど、死にそうな感じじゃない。よ、良かった。体は大丈夫みたい。
「ご、ごめん。苦しかったね」
抱擁を解いた。でも油断は出来ない。真っ直ぐに彼を見る。
出血のショックはないみたい。眼の力は強く。相変わらず覇気に溢れてる。
「落ち着け」
低く静かな声。怯えはしないけど、長たり得る強い力がこもってた。
良かった。大丈夫そうだ。
「提督…?」
体調を気遣う言葉は出なかった。色々と衝撃的で、体がついてけない。
「大丈夫だ。ほら白露も座って」
わっ!? て、提督にだっこされてる。すごい力。何も力んでないのに、あっさりと持ち上げられちゃった。って、何で?
そのままソファーに座らせてもらう。全然ダメージを感じない動き。元気だ。良い事だけど。腑に落ちないよ。
「吸って、吐いて。肺と腹部を意識して息をするんだ」
「は、はい」
動揺してる自覚はある。というか、提督はなんでこんなに落ち着いてるの。
「ふっ!」
提督が部屋を整えてく。すごい身体能力だ。とっても健康体。
でも吐血…いや、良い事なのに。もうわけが分からないよ。
大丈夫、なんだよね? そうなんだよね?