「絶対権限はある。立場上は上でもある。だが、命がけで戦っているのは君達だ」
だから、命がけなのは同じだって。言い返せない。大真面目な表情で、提督は真っ直ぐに言っているんだ。
艦娘の中には、そういう考えの者達もいるらしい。
実際、あたしも契約している主の人間性で、思う所はあったかもしれない。
だけども、伝説を聞いてる。ここでの働きを知ってる。
ああもう! ままならない事が多すぎる。あたしは。もう。面倒くさくなってきた。
「振る舞いの自由を許す程度には、度量があるつもりだが?」
そうやって言っても……良いよ。だったらそうするから。ちょ、ちょっとだけ。いやかなりその、敬意はあるけどさ。
「…その割には、顔怖いくせに」
ぼそりと冗談交じりにからかってみた。
「ぐはっ!」
再び彼が吐血した。
「て、提督!?」
冗談だろうけどさ! 全然洒落になってないんだけど!
もう。服も汚しちゃって、おふざけに全力すぎるでしょ。なんなのさ。まったくもう。
「血糊だ」
しかもドヤ顔してるし。嬉しそうにしてるし。子供っぽいと思ってみれば、本当にそんな所がある! なんだかなあ。いたずらがばれた夕立みたい。
可愛い所があるんだ。それならもっと怒ってみよう。
「む~! 反省してないでしょ!」
しゅんとしつつも、怒ってもらえて嬉しそうな反応。
に、似てる。夕立にそっくりだ。
ふふふ。面白くなってきた。人を傷つけたくなくて、でも触れ合いたくて。
そんな雰囲気が、本当に愛おしい妹とそっくり。
「とにかくだな」「ごまかしてる」
こほんと一つ咳払いをして、格好つけた顔で言うんだ。
「とにかく。俺は君達の自然な姿が見たい」
似合わない。と、失礼な感想だと思うのに。もう失礼という感情が消えてきた。
仲良くなりたい。思っていたから挨拶して、皆の反応にしょんぼりとして。
じゃあダメだ。あたしはそんなのやだ。いっちばん頑張った彼が、報われないなんて間違ってる!
「つまらない話を持ち出すが、艦娘もその方が力を発揮出来るのだろう?」
そんな理由がないと、あたし達とお話すら出来ないの?
…う~ん。あたし達は提督を畏れてるけど、提督も、あたし達を畏れてない?
大丈夫だって伝えたい。怖くないよって教えたい。
「まあ、うん」
ここで強く言うのも変だ。今日一日向き合って、ゆっくりとお話しよう。
「なら何よりだ。変に畏まる必要はないと、白露の方からも姉妹達に伝えてくれ」
うん。あたしから動けば、きっと妹達も受け止めてくれる。でもなあ。
「難しいと思うよ」