走り抜けて執務室まで辿り着いた。すごい早さだと自画自賛。
提督、お腹空かせて泣いてないかな? ふふふ。さすがにないよね。
「たっだいま~! へへ、いっちばん早くとってきたよ!」
おにぎりとたくあん。単純だけどおいしい組み合わせ。
「ありがとう」
提督も嬉しそうに微笑んでくれた。雰囲気だけだけど、とても柔らかい。
「どういたしまして!」
後は舌に合うかどうか。さすがにおにぎりを失敗はしないけど、ちょっと不安だ。
「「いただきます」」
ソファーに隣同士で座りながら、あたし達のお昼ごはんが始まった。
なんでか分からないけど、提督がちらりとあたしを見た。
どうしたの? と表情で問いかけても、何もなかったように目を逸らす。どうしたんだろ。まあ良いや。ごはんにしよう。あたしもお腹が空いちゃったよ。
鳳翔さんが握ってくれた方を、思いっきりかぶりつく。
「ん~! やっぱりごはんがおいしいと幸せだねえ」
ほわほわと胸が温かくなって、元気が全身から溢れ出てくるんだ。
さっすが鳳翔さんだね! うんうん。すっごくおいしいよ。…あたしが握ったのはどうだろう? 提督をちらりと見れば。
「そうだな」
黙々と食べていた。一口ずつ少なめに、きれいな食べ方だ。大きな口を開けて食べたのが、今更になって恥ずかしくなってきた。お、落ち着いて。
「ほ、ほんとにそう思ってる?」
雰囲気は柔らかくなってるし、どことなく感動して見える。おいしく思ってくれてるのは、ほんとだと思うんだけど。
なにせ表情に出ない。観察しないと感情が読めないんだ。
「もちろんだ」
言葉も平坦。威圧感こそ薄れてるけど、感情が乗ってないよ。
注意深くじっと見つめてみた。な、なんだろう。予想以上に感激してるような。
仄かに頬が赤い。表情も緩んでる。うきうきと体が揺れている様子。
今までの鉄面皮を考えると、とっても喜んでくれたみたい。それは嬉しいけど。
「一切表情が変わってないんだけど。このこの」
嬉しいけども、もっと表情に出してほしいな。提督の笑顔が見たい。
提督のほっぺをつついてみる。
かなり柔らかい。弛緩しきった証拠。嬉しさが頬を緩めてるのに、笑顔にはならないんだ。不思議なほっぺ。…さわり心地が良いな。この、このこの。
だめだ。止め時が見えないや。なんでこんなに柔らかいんだろう。夕立のほっぺみたい。
「こ、こら。止めないか」
照れた様に言ってるけど、やっぱり表情は変わらない。
くすぐったりしたらどうなるんだろう。さすがにソレはまずいよね。