「わ、笑うな。怒るぞ」
意識的に提督が威圧感を強める。謎の異能。そうやって圧を高められるなら、弱めるのも工夫すれば良いのに。そうしたら駆逐艦の他の子達だって、もっと近づきやすいんだよ。
いつの間にここまで慣れたんだろ。全然怖くないや。
涙目で怒ってる子供みたい。かなり失礼な感想だけどさ。可愛く思っちゃう。
抱きしめたら…怒るよね。恥ずかしさも若干ある。提督を子供扱いするには、お互いの体が大きいし、その。ねえ。男女だもの。精々体の大きい弟。
きっとそんな扱いも、提督からしたら困るのかな。どうだろ。
「ああ、落ち込んじゃった。ごめんね?」
謝ったら雰囲気が和らいだ。素直だなあ。拗ねた夕立にも似てる。
夕立の幼さと、時雨の感じも合わさってる。他の妹とは似てないけど。ふふふ。それが提督らしさ。可愛いなあ。
「ほらほら。いっぱいお話しようよ。姉妹のことはあたしがいっちばん知ってるから」
ニコニコと笑ってじ~っと見てたら。
「俺は白露の事も知りたいんだが」
ぽつりと言葉が返ってきた。
「あたし?」
白露型駆逐艦・一番艦の白露として。なんて無粋すぎるよね。
あたしが過ごしてきた日常を聞きたい。真っ直ぐな眼差しは、戦争の臭いなんて求めてないよ。暖かい日々を知りたがってる。
日比生。日々を生きる。名字の通りな気性。でも軍神としても語られてる。ううん。
いや。あたしが考え込んでも仕方ない。どう語ろうかな。
「白露を知りたい。教えてはくれないか」
「うん。う~ん」
期待されると困っちゃう。あたしは妹達と違って、愛らしさに欠けるというか。
春雨みたく女の子してないし、夕立みたく無邪気でもない。時雨の儚さはなくて、村雨みたいな美もないや。海風は家庭的で、逆に山風は甘えん坊の愛らしさ。
江風は元気いっぱいで、五月雨はがんばり屋さん。涼風は勢いが強いわんぱくな子。
でもあたしがいっちばんだけどね! ふっふっふ。ふう。ど、どうしよう。
思ってみれば、語る事がないや。いきなり一番とか変だよ。ううむ。
「好きな食べ物は何だ?」
「おいしいの!」
良かった。素直な答えを返せた。これで提督も優しい微笑みで。
「ふふっ」
――そんなに愛しそうに笑うんだ。わあ、すごい。あたしにじゃない。艦娘に対する、絶対的な信仰すら感じる。
定年後に報われた人? 変なイメージだけど。とても報われた笑みだった。
もう一回見たい。どうすれば良いかな。そうだ。
「あ、提督笑った! なによもう。そんなにおかしいの?」
怒ったふりをすれば。
「ははは!」
薄ら涙すら浮かべて笑ってくれた。堪らない笑顔。良い笑顔してるじゃんか。
ああ、もう。可愛いなあ。弟がいたなら、こんな感じだったのかな。ふふ。