――それは笑みと言うには、あまりにも凶悪だった。壮絶な笑み。悪鬼羅刹が牙を剥いた表情。場の空気が冷え込む。戦場の臭いを感じる。体が震えた。
油断すれば、武装を目の前の悪鬼に向けてしまいそう……また考えたあたしが言うのも変だけど。
ダメだって! 作り笑いの提督は怖すぎるんだって!!
「それはなしで」
落ち込んでも駄目。ぜったいに泣かせる笑顔だもん。
…そういえば響も笑顔が苦手だったな。そんな所も似通ってるコンビ。なんだかんだと、一番相性が良いのは彼女なんだろうけどさ。
でも、他の皆だって知りたがってる。だから今日を頑張ろう!!
「じゃあ今更だけど、今日はあたしね! よろしく~」
握手を求めて手を差し出したら、一瞬躊躇って応じてくれた。
ゴツゴツな掌。武骨な手。絶え間ない修練と、戦場の臭いを感じる手の熱。皮膚も分厚い。酷い火傷を負った経験もあって、肌が独特の感触をしてる。
大きいね。頑張ってきた人のだ。うんうん。あたしも頑張ろう!
「よろしくお願いする」
ふっふっふ。いっちばんよろしくする! 姉妹艦で一番になるからね。
クッキーもおいしかったし、紅茶も良い香りだった。元気いっぱい。がんばるよ。
「でさ。秘書艦って何をすれば良いの?」
今更だけど仕事が分からないや。いっつも響がやってくれてたから、全然経験がない。これはまずいね。
いっぱい仕事があるイメージ。クールな感じ。ふふふ。メガネをかけようかな。
大淀さんが一番イメージに近いんだけど。この鎮守府にはいないから。
「基本的には提督の補佐だ。必要と思ったことをすれば良い」
提督の補佐。後ろに控えて見守る? それとも肩もみとか。凝ってそうだよね。
ううん。よく分からない。書類も溜まってないよ。お茶も今飲んだばっかり。昼食は用意したけど、クッキーには劣るような。
秘書艦の仕事が出来てない! どうしよっか。変に働こうとして、提督に迷惑をかけたくないよ。
「書類整理やお茶淹れ。後は会話の相手など」
うんうん。イメージから逸れてなくて、ありがたいんだけど。
前二つは済んでるよね。お茶は早すぎる。会話の相手はいまやってる。
提督も気付いているのか、言ってから困った様に。
「仕事は少ないからな。どうにも」
これだけのんびりしてたから、正直予想はついてたけども。
まあ良いや。出来ることはまだあるでしょ。一生懸命頑張ろう。
「ふむふむ。白露型で一番上手にこなしたげる。一番艦だからね!」
気合いを入れていくよ。