彼女もこんなやつです
駆逐艦・響として生を受けてから、数年の時が経過した。
そう言葉にしただけなら、とても軽いんだって。不思議と笑いが零れたのを覚えているよ。
――地獄の様な時間だった。司令官との、
何度も死にかけた。激戦を越えた先に彼は軍神と呼ばれ、私は不死鳥の最果てと呼ばれた。
大切な仲間達との時間。創が許された部隊は一つ。
私含めて、六人の精鋭が彼の全てだった。今側にいてあげられるのは私だけ。
戦力の集中を恐れて、他の皆は違う場所で活躍している。
…寂しい。とは思っている。素直に言えば不安もある。
強がりな彼の孤独を、私一人で埋められるのかな。激戦がまた起これば。
かつての激戦に、誇らしさはあったかもしれない。
だけど、正直に言わせてもらえるなら、彼をもう休ませてほしかった。
私は良いさ。どんな地獄でも行こう。それが役目だから。艦は戦いから逃げられない。でも創は人間だろう。
と、思っているけどね。きっと創は、私達が戦えば逃げられない。
ああまったく。愛されてるなあ。
自室。大切な姉妹達との部屋。ここから私の一日は始まる。午前五時。まだ他の姉妹が眠っている時間。
「暁姉さん。電、雷」
愛おしい姉妹の名前を呼ぶ。ただただ胸が温かくなる。
皆を起こしたら悪い。早く身支度をすませて、今日を始めよう。
寝間着から艦装へと着替えて、武装は出現させずに執務室へと向かう。
ついたらすぐにノック。返答を待つ。仄かに高鳴る鼓動の音。ああ、いつだって。司令官と会う時は嬉しい。
それだけ、色んな時間を過ごしてきたからね。
「入ってくれ」
低い声。精一杯威厳を出そうと努めて、威圧感すらある声。くすりと私の笑みが零れた。だって可愛いんだ。阿武姉さんだったら、じゃれつきたくなるのかな。
龍驤さんだったら、からむね。絶対にからむ。他の三人はどうかな。
私は…胸の想いを隠して、艦娘として向き合う。
「失礼するよ」
入室した私を、執務机を挟んで椅子に座った彼が見ている。
創の面立ちを一言で言うなら、これしかない。
修羅。
きつく寄せられた眉間の皺。くっきりと色濃い目元の隈。眼光鋭く。衣服に隠されて見えないけど、首から下は火傷や銃創などの傷痕が、多く刻まれている。
顔立ちはまだ若く。黒髪黒目の大和男児。語られる戦歴は数知れず。
歴戦の軍人であり、神と謳われた司令官であり。
本当は臆病でスケベなだけ。運命に愛されてしまった臆病者なんだって、私はよく知っているんだ。
長年付き合った艦娘と提督は、何となく心が読めるようになる。私たちだけが気付いているみたいだけど、創も意識したなら、きっと心が読めるんだろうね。
そう。今日の創からは強い決意を感じる。つまり――私のパンツを彼は見たがっている!!