穏やかに寝息をたてて、あたしのふとももで提督が寝てる。頭を脚にあずけて、無防備な形。鼻をつまんだりとか、いたずらしたくなるような。
「う、ん…」
小さく寝返りをうって、横を向いてたのが上を向く。顔が見える。
無邪気に緩んだ表情。穏やかに眠る顔。どろどろの疲れを癒やしてる。
邪魔したくない。そっと、起こさないように額に手を乗せた。
そのまま、壊れ物を触るよりもっと気をつけて、額を撫でてみる。
くすぐったそうに微笑む。寝顔がもっと柔らかく。
「ふふふ。可愛い」
言葉にすると、胸の奥が堪らない気持ちになった。
よく眠ってる姿。重みを預けきった顔。良いね。良いよ。うんうん。
いっちばん愛らしい。ふふふ。夕立もこの場で眠ってたら、ちょっと危なかったね。もう添い寝が恥ずかしいとか超えて、二人を抱きかかえて寝てたよ。
ふう。…ん?
「ぅ、あ、ぁ」
提督がうなされてる。さっきまで穏やかに寝てたのに、夢見が悪いのかな?
ど、どうしよう。起こす…いや、疲労を考えればしたくない。
頭を撫でてみるけど。
「ぁ、あ、ったかい…お、れ、おれは」
まだうなされてる。どろどろの疲れが流れて、深く眠りについてるんだ。
悪夢。間違いなく疲れの原因が、おっきなストレスが眠りを壊してる。深く眠ってるから起きれもしなくて、延々とむしばまれてる。苦悶の表情。辛そうな顔。
――熱い雫が流れてた。彼の涙。
「ご、めん。ごめん、なさい…」
うわごとの様に寝言を呟きながら、ただただ謝り続けてる。…守る。守るよ。
えっと、その。意識するな。吐血したときといっしょ。今度は本当に錯乱してるんだから。
彼の頭を抱き込むように、やわらかく抱きしめる。
ぎゅっと、その、胸を押しつけてる。意識すると恥ずかしい。…熱い。涙がしみこんできた。じゃあだめだ。変に意識するな。落ち着いて。
大丈夫だよ。暖かい? 重みを預けて、疲れを許して、癒やしを認めて。
あたしが守るから、響と提督が得た日常を守り切るからさ。
「大丈夫だよ。よしよし。今まで頑張ったね」
「…ぁ、ぅ」
また穏やかに寝息を立て始めた。そっと抱擁を止めて顔を見れば。
緩やかな微笑み。ちょっとスケベな気もするけど、優しい笑顔。ああ、良かった。
…強くなろう。この守りたい心を貫き通せる位、もっと強くなるんだ。
今はただ重みを受け止めて、日常を許すだけのあたし。
だからこそ。
「もっともっと、日常を楽しんでね」
言葉を誰にも届かず。誓いを心に秘めて。穏やかな休日を過ごしてく。