白露が、感情のままに楽しそうな語り口だったのに対して。
時雨は静かに、大切な宝物をそっと示すような声だった。響き良く。耳を心地良くしてくれる優しい音色。目を瞑れば眠れそう。…とまで言えば、話を聞いていなかったみたいで駄目だが。
それでいて、白露よりも細部を覚えている。
決して忘れない。大切な日常の尊さを、彼女が抱える想いが声色だけでも伝わる。
「でね。この間江風がね」
ニコニコと楽しそうに笑い始める。皆の笑顔がある所に、彼女の笑顔があるんだ。
自分を語らない。皆の方が好き。これは白露とそっくりだがね。
ああ、本当に。切ない女の子だ。…頭撫でたいし、ぎゅっとしたいのだが。駄目だ。
熱く煮え滾る想い。くんかくんか。ぺろぺろな気持ち。しかし。
俺の欲望はどこへ消えた。いやもう尊すぎて。触るのとか無理。ほんと無理。尊い。
だって笑顔が素敵なんだもん! もう駄目。写真に撮って額縁に飾りたい。
それで恥ずかしがる彼女を、白露といっしょに眺めたい。そんな白露型の姉妹を、末永く守っていきたい。響がいるからな。大丈夫だな。
良し。決めた。今回は触れあいなしの方向でいこう。
川内とか白露は、触れ合う魅力が強かった。…響は性欲まで強く抱いた。
彼女にも触れたくないと言えば嘘になる。提督として、でも。一人の人間としてでも、こんな愛らしい子を、愛でたくないとは言えないさ。
だけど、彼女の大切を守れる俺で在りたいのだ。格好つけろ。つけすぎて、取れなくなった提督の在り方。日常という名の、宝物を抱える時雨を目にしたんだ。
焼き付けろ。世界に何度も宣言しただろう。俺は、ちっぽけだけど。
今日この時ばかりは、人間としての俺は捨てよう。
――遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ。我が背負いし称号は、畏れ多くも神へと至り。軍を司りし頂として、全ての災厄を凌駕する。
俺を舐めるなよ。俺に不可能なんてない。守り切るが提督の役目だろう。
命がけで戦う少女達すら守れぬ無能。そんな俺は認められない。
さあて。今は時雨に向き合おう。真っ直ぐに俺として向き合おう。
「時雨。君が皆を大好きなのは分かった」
「う、うん。あらためて言われると照れるよ」
何を恥じる事がある。誇れよ。俺は君の献身を愛している。報いたい。
間宮のアイス券も良いな。本とかどうだろう。…冷静に考えると、若い子に入れ込む金持ちみたいでげんなりだがね。
でも、彼女たちの日常に笑顔があってほしい。
「そんな時雨は、何を望む?」