こつこつと時計の音が聞こえる。もうすぐ昼になるのだろうか。
春が訪れ深まる季節。陽光は暖かく。過ごしやすい季節だ。日の光が差し込む執務室は、静かに緩やかな時が流れていく。
そんな中で、俺は時雨を抱き座っていた。
まさかの対面し抱きしめ合う形。彼女のこぶりな胸が、俺の分厚い胸板にくっつく形。
互いの鼓動が伝わっている。彼女の匂い。不思議と仄かに甘い香り。白露みたく、なんというか活動的な匂いでなく。涼やかな香りを感じた。
抱き合う体は暖かい。これはイメージと違って、時雨は体温が高いのだろう。いつもクールだと思っていたせいか、妙に気恥ずかしい。
変に興奮しないのは、照れながらも無邪気に甘える時雨のおかげだ。でもこれって、完全に入って。
などと考えない。間違っても愚息を反応させるな。素直に甘えさせろ。
俺は軍神だ。どや! うむ。わけが分からない。
「重くない?」
耳元で彼女の声が聞こえる。儚い声でささやかれると、とてもくすぐったく心地良かった。一発だけなら誤射かもしれない。落ち着け。落ち着くんだ。
いきなり甘えてきた理由は分からない。しかし、これが誘惑でないのは考えるまでもない。
「軽い位だ。ちゃんと食べているのか」
下手したら響並に軽い。細身で、なんだろう。疲れを意地でつなぎ止めている体。
…白露型で一番気を張っているのは、彼女なのだろうな。白露も認めるだろう。
「うん。お腹いっぱい食べてる」
仄かに照れての言葉。ふふふ。可愛らしいぞ。
「なら良い」
のんびりと時間が進んでいく。お互いに何も話さない。
言葉を交わさなくても、ただ触れ合っているだけで心が伝わる。少し大げさな表現だが、あながち間違ってもいなかろう。
「提督」
ぽつりとした呟き。とくんとくん、と彼女の鼓動が早まる。緊張が分かった。
だからこそ何でもないように。落ち着いた声を意識して。
「ん?」
「頭、その」
続く言葉がなくても分かった。それに続く言葉を待っていたら、恐縮して求めないだろう。…なでなでである。うむうむ。
「ああ。よしよし」
彼女の艶やかな黒髪を撫で始まる。まずは頭のてっぺんを優しく。徐々に髪を梳く形で静かに撫でていく。手触りが良い。つやつやとした撫で心地だ。
「えへへ」
嬉しそうな声が耳元で聞こえた。表情は見えないけど、きっと微笑んでくれているのではないか。嬉しいね。なんだか毒気を抜かれる反応。
川内の頭を撫でた時とは違う。妙な感覚。完全に父性を刺激されている。
甘えられているなあ。可愛いやつめ。うりうり。もっと甘えて良いんだぞ。
「…いきなりでびっくりしたよね」