けれども、俺から強く言っても仕方あるまい。
これは彼女の心の問題だ。何も知らない俺にだからこそ、分からないけど、戦歴は凄まじい俺にだからこそ、言ってくれているんだ。
訳知り顔で語るなんて言語道断。艦これの押しつけに等しい。
だから、言うべきでないと思ったから、無言で頭を撫で始める。
優しく撫でる。壊れないように甘えを許すと伝え続ける。
時雨から、もう一度抱きしめる力が強くなった。ぎゅっと、重みを渡すように強くなった。嬉しいね。泣きたくなってきた。
「僕は嫌なんだ」
強い言葉。彼女の意思を感じる。儚い雰囲気と強靱な骨子。相反する二つの在り方こそ、時雨の魅力であり脆さなのだろうさ。
俺は好きだがね。これも素直な想いだから伝えよう。
「でも、白露は甘えてもらいたがっているぞ」
俺も存分に甘やかしてもらった。頭が上がらないレベルである。
凄まじい長女力。もうヤバいね。融けている。心が溶かされる力があったね。
「僕は十分甘えているさ」
嘘だ。抱きしめ合う体から伝わっている。力を強めて、もっと白露に甘えたいくせに。そうやって、一人でも大丈夫と意地を張るのか。
愛らしくも切ない。
「でもね、共に戦う仲間でもある」
「負傷を庇われたら困るか?」
「甘えから、守るべき存在と思われたら嫌だ」
庇われたりとか嫌だろう。実際にそんな事はなっていない。でも想像出来る。
愛おしい妹を庇って、轟沈する彼女を夢想する。――嫌だ。認められない。
俺は、転生者は運命を引き寄せる。覆す力があるかなんて分からない。ああ、くそ。少し時雨の雰囲気に引きずられている。思考がガチになってきている。
暖かい。彼女の甘えも俺を本気にしてくるんだ。悪くはない。
「村雨の時みたく。我慢出来なくなるのはあるけど」
「ふふふ。今みたいに、ぎゅっとしたのだろう?」
「暖かかったなあ」
彼女の愛情が強いのは、こうして抱き合っているとよく分かる。
俺にすら、甘えるときはこんなに愛らしいんだ。親愛なる家族達ならば、もっともっと願う心が強まって、堪らぬ姿になる筈だ。
見たい。でも思われてないからこそ、こうして甘えてくれている。
本当に泣きたくなる矛盾だ。かなり胸が痛い。でも嬉しい。困ったな。
「我慢しなくて良いと言っても、時雨は嫌なんだな」
「……うん」
不安に揺れる心。大切だからこそ弱みを見せられない。
周りにいる仲間達が、姉妹達が甘えてほしいと思っていても、運命を信じ切れず。
そんな自分に嫌気が差して、段々と心が軋んでいく。悪循環だ。
どっかのどいつの思考と似ている。毎朝、鏡で顔を合わす愚か者と似ている。
なんて格好つけたけど。俺の事だ!!