「そうだ。これまで何も関わってこなかったろう。だから、君達を知りたい」
真面目な顔で真っ直ぐな言葉。胸をくすぐる言葉だった。
素直に嬉しい。大切な家族を語って、それで提督の役に立てる。とっても嬉しいよ。
「そうなんだ。うん。それなら微力だけど、お話させてもらおうかな」
ふふふ。この間の夕立は可愛かったな。春雨がごはんを作ってくれたり。村雨とお散歩して、日向ぼっこも良かった。それにそれに。ああでも怒られちゃうかな。
挨拶の反応で落ち込んだ僕を、白露が慰めてくれた事。とっても大切な思い出。
提督からすれば失礼な話だよね。まともに反応出来なかった僕が悪いんだ。
ソファーに座った。提督を見上げると座ってくれてない。どうしたのかな?
「まあ待て。今お茶と茶菓子を用意しよう」
どこかうきうきとした感じで、提督が言ってくれた。なんで彼が嬉しそうなんだろう?
白露が絶賛してたから、実は楽しみにしてたり。でも申し訳ないな。どうしよう。
「良いの?」
言葉を聞いて嬉しそうにはにかみながら。
「俺が食べてほしいんだ」
暖かい。とても優しい声だった。うん。甘えさせてもらおうかな。
「そっか。ありがとう」
お礼の言葉を伝えたら、もっと嬉しそうに微笑んでくれた。…胸が温かい。
そうして、かなり手際よくお茶会の準備が整う。
緑茶とねりきり。可愛らしい桜花びらみたい。食べて良いのかな? 美味しそうで、食べるのがもったいない。
夕立が見たらとても喜びそうだ。甘い物と可愛いのが大好きな子。
『すっごい良いお菓子っぽい! た、食べて良いの!?』
ふる尻尾が見えそうな位。かなりの大はしゃぎが目に浮かぶ。微笑ましいよ。
でも、僕はそこまで素直に喜べない。嬉しい。とても暖かな熱が胸にあるけど、言葉にも表情にも出ない。鏡はないけど分かるんだ。
提督はがっかりしたかな。けど、だけど素直な心だけでも。
「ふふ。可愛らしいね」
愛おしいって想いが伝わってほしい。せめてものお礼を伝えたい。
ちらりと彼を見れば。
「だろう。中々気に入っている」
自信ありげな表情で喜んでくれた。良かった…! えへへ。
白露は表情が怖いって言ってたけど。全然じゃないか。表情豊かな人で良かった。
仲良くお話し出来そうだ。えっと。気軽に話しかけてみよう。
「手作りなんだって?」
「ああ。白露は好んで食べてくれたが、時雨はどうだろうな?」
とっても食べてほしそうにうずうずしてる。
早く食べないと悪いね。ふふふ。甘いお菓子。楽しみ。
「さっそくいただこうかな」
じ~っと不安そうに提督が見てる。なんだか恥ずかしいけど。
お菓子楊枝で小さく切り分けて、そっと一口食べてみる。
すっごい! 市販のより美味しい!! 提督ってお菓子屋さんだったんだ。
幸せってこれだよね。はあ。良い味わいだった。口の中でするりとしみ込む甘味。何が違うんだろう? 味に変化が出るお菓子じゃないよね。
ううん。なんだろう。う~ん。――提督が味の感想をそわそわと待ってる。