「んっ。美味しいよ」
ああ我ながらつまらない言葉。がっかりしてないかな?
「ならば良かった」
ほっと一息ついて、心底から嬉しそうに笑ってくれた。
優しいんだ。ただこのやり取りだけで優しさが伝わる。
白露が言っていたように、とても面白い人なのかな? あ、甘えても。いや。駄目だ。
良い人だからこそ、僕が守る為に動くんだ。
佐世保の時雨は呉の雪風と並び。武勲艦でなければならない。でも駆逐艦は弱くて。こんな後方にいるんだ。
緩み過ぎちゃ駄目だ。甘えるな。そんなの駄目だよ。
「これだけ素敵なお菓子をいただいたんだ。がんばって話すからね」
よし! 気合いを入れて期待に応えよう。皆を良く思ってほしいし、大切な姉妹の話をしたい。そうすれば自然と、他の皆も提督と接しやすくなる。
戦略的にも正しいよ。だから、熱が入ってもしょうがないんだ。
「気負わなくて良い。君の自然体を知りたい」
穏やかな声が落ち着く。なんでか分からないけど、見守られてる気分になる。
とても優しい瞳。もしかして緩んだ顔でお菓子を食べてたかな? 恥ずかしい。
ううん。落ち着こう。平静を装って言葉を出す。
「そう? それならいつも通り」
大切な姉妹達の話をしよう。胸に秘めた想いを、言葉に紡いで語るんだ。
……言葉が出てこない! 改めて語ると気恥ずかしくて、全然口を開けないよ。
「ど、どんな話をすれば良いのかな?」
恥ずかしい。もう本当に恥ずかしい。穴があったら入りたい。
ううっ。提督が微笑んでる。また見守られてる。でも。
悪い気分でもなかった。
「最近で何か良い事はあったか?」
「そうだなあ」
助け船がお父さんみたいで、父も知らない僕が言うのも変だけど、提督は良いお父さんになれる気がした。ふふふ。
『時雨も良い子だな』
って、頭を撫でられたら――はっ!? だ、だめだめ。今はお話ししないと。
それにしても良い事かあ。う~ん。うん。毎日良い事だらけで。
「皆が元気に笑ってくれてる」
白露の眩しい笑顔。夕立の無邪気な表情。村雨や春雨の微笑み。江風と涼風の豪快な笑い声。海風の静かな微笑。山風のとろんとして寝笑顔の可愛さ。
全部全部僕の宝物。このちっぽけな命を賭しても、ちっとも後悔はないさ。
こんな小さな命で守れるなら、幾らでも捧げて構わない。
「良い事だな」
ああ。そう言ってくれると思ってた。
軍神と語られていて表情も怖かったから、もっと武闘派なのかと思ってた。平穏が好きなんだ。日常を愛してくれてるんだ。
白露は触れあいが好きだとも言ってた。僕も触れ合うのは嫌いじゃなくて。その。
こうして語り合うのも良い。うん。心が触れ合ってる気がするんだ。
「うん…とってもね」