皆との大切な思い出を、胸一杯につめこんだ想いを込めて語り続ける。
白露との出来事には、なぜか仄かな嫉妬を感じたり。夕立とのは泣きそうになったり。他の皆の事は興味深そうに聞いてたけど、それが何だか面白くて。
想いは段々と高まってく。見守られてる。愛されて……ああそうだ。
どこか見覚えがある眼差しだと思ったら、白露にそっくりなんだ。あれだけ元気な人なのに、僕の話に耳を傾けてくれて。
『あなた達の幸せが、あたしのいっちばん幸せなのよ!』
って。一番艦として拘ってるのに、僕とか他の妹達にすぐ譲って。
そうして、一番大変な事は率先してやってくれる。そんな彼女や皆の輝きを知ってくれて、認めてくれてるんだ。
楽しかった。ただ微笑みながら聞いてくれてる。真剣に聞いてくれているんだ。
どれだけ嬉しかったかを、提督は分からないと思う。
この綺麗な人達との、とっても素敵な経験を語りたかったんだ。誇りたかった。
ああ。終わっちゃう。まだまだ語る事はあるのに、終わってしまう。
一度会話が止まって、お茶に手をつける。ぬるくなったのが心地良い。
「時雨。君が皆を大好きなのは分かった」
そう言い切った提督の表情こそ、皆の話を深く愛してる。
なんだろう。とても真剣な雰囲気を感じる。今まで柔らかで、優しい人って感じだったのに。今は違った雰囲気。
闘志。鋼の如き強靱な心が、二つの眼から見て取れる。怖い…けどとても頼れる眼。
「う、うん。あらためて言われると照れるよ」
「そんな時雨は、何を望む?」
願えば全てが叶うのだと、強く確信させる何かが込められてた。
正直に言えば怖くて、それなのに心が疼く。本心を伝えたい。これまでの提督の様子を見て、僕は。
「望み…今十分に叶っているからなあ。う~ん」
これも本音。最愛の家族達がいて、頼りになる仲間がいる。
守れる自分でありたいと願い、積み重ねて生きてるけど。僕の願いは叶ってる。
他ならない提督のおかげで、この鎮守府は必要性を高められた。
皆が生活していられるのは彼のおかげ、と言っても過言じゃない。
「安心しろ。この平穏は軍神の名に賭けて、必ずや保って見せよう。誰も死なせない」
見透かしたような言葉。まるで本心がそこにはないと、告げるような声。
「前線にも頼りになる仲間がいる。戦神と謳われた同期もいてくれる」
気づかいも忘れず。僕が甘えても言いようにと、言葉を尽くしてくれてるんだ。
「だから、ありふれた望みで構わない」
「ありふれた…」
この望みは、果たしてありふれているのかな?
強く激しく望んで、離したくないからこそ自戒する想いは、本当に望んでも良いの?