ありがとうオルガマリー姉様   作:小指技師

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ポップな文章にしようとして失敗した文章がこれです。

あとダ・ヴィンチちゃんだけ一人称視点です。


彼は今日も学ぶ

 爛々と光る魔力の水晶、これは所謂電池である。蓄えた魔力を通電することでエネルギー使用する形になる。宝石魔術を雛形にした巨大な特殊人工水晶に魔力を注ぎ、空になりまた注ぐ事が繰り返される。数回も使い回せば劣化し自壊する。

 

 天然の水晶であれば容量も耐久値も向上するが最終的に自壊する為人工水晶に落ち着いた。そもそも巨大な天然水晶をバカスカ買えない。

 

 その電池に魔力を注ぐ存在こそがノエル。少ない魔力で多くの結果を生む稀有な性質を持ちながら膨大な量の魔力を保有する少年。そんな彼は少ない自由時間を除いた殆どを水槽で過ごしている。

 

 けれど今日はどうも違うらしい。

 

「休暇?」

 

「えぇ、休暇がノエルには必要だと判断しこれを可決したわ。私がね」

 

 オルガマリーはそれなりの戦闘力を有する胸を張る。その顔は大きな案件をこなしたサラリーマンの様に晴れやかだ。

 

 コネクションを利用し入念に根回しをした上で勝ち取ったノエルの時間。部下と自身の名を利用しロードとしての立場をも最大限活用してこそ成り立つゴリ押しだった。脇を突かれたならば喰い破られる様な不安定な体勢であったがどうにかやり切った。

 

 いつ喰われるか分からない泥沼で胃液を吐くこともあったが、愛しい弟を思えば気丈であれた。長く苦しい闘いであったが、日々の弟との触れ合いで闘い切った。

 

「でも、仕事…」

 

「ノエル…」

 

 思わず下唇を噛んだ。ノエルは今も尚死した筈のマリスビリーの呪縛から逃れられないでいる。その事実が悔しくて堪らない。弟を水槽に縛りつける鎖など早く引きちぎってやりたい。

 

 なのに何故ノエルは自ら己を縛るのか。

 

 何故縋る様に水槽へと帰って行くのか。

 

 まるで殉教者だ。

 

 許しを乞う罪人だ。

 

「休むこともまた仕事よ。気にする事は無いの」

 

「だけど…」

 

「お願いノエル。今は姉弟で居させて?」

 

「……分かった」

 

 しっかり間を取った応答にオルガマリーの心が磨り減ったがどうにか耐えた。いや心など砕けた所でスペアの硝子玉を交換すればいいだけだ。彼女の心は伽藍堂であり、幾らでも換えを用意出来る。

 

「さぁノエル、何がしたい?」

 

「ん、じゃあ、ハンバーガー、食べたい」

 

「……今日だけですからね」

 

 ピクつく口の端を必死に抑える姉とは対照的に弟は顔に出ない分身体で喜びを表している。最近になってノエルの偏食防止策が施行され始めジャンクフードを味わえない日が続いていたからだ。

 

 与えた場合には罰則がある為、ノエルにジャンクフードを布教した職員もロマニも手が出せない。密告したら金一封なんていう禁じ手に出たオルガマリーの必死さが伺える。

 

 自分の健康を気にしての行動だと察している分駄々を捏ねる事も出来ず、然れど諦める事も出来なかった。もどかしい思いをしたが雌伏の時と耐えた。流石にお菓子を制限された時はショックで水槽に引き篭ったなんて言うことも有ったり無かったり。

 

 そんな耐え忍ぶ日々も終焉を迎えた。最早ノエルは隠れることなくあの大雑把な味で有りながら癖になる至高の食物を口に出来る。

 

「姉様、行こ」

 

「複雑な気分だわ」

 

 まさか制限したジャンクフードに此処までの無邪気さを発揮するとは思わなかった。ノエルの健康を気遣ってこその対応だった事もありオルガマリーの胸中はほろ苦い。

 

「姉様、血…」

 

「え?」

 

 どうやら唇から血が出ているようだ。滲んだ血が口に入ってきて思わず顔を顰めた。

 

「痛そう、今治す」

 

 バイザーをずらし、覗き、仄かな光と共に治癒した。唇に触れても刺すような痛みは無く、出血も無かった。巻き戻ったかのように以前と変わらぬ瑞々しい唇がそこにあるだけ。

 

「治った」

 

「えぇ…ありがとう」

 

 子供らしい小さく柔らかい手に引かれ食堂へと脚を伸ばす。しかしオルガマリーの胸中はジャンクフードを頬張る弟よりもっと重大な事実に掻き乱されていた。

 

(あの子に教えた魔術に治癒はない。魔術礼装も自己回復は出来ても付与は出来ない完全な自衛設計。アレは一体何?)

 

 オルガマリーは姉として、魔術師としてノエルのことをまだまだ知らない。

 

 マヨネーズベースのソースを口にベッタリ付着させながらピクルスの酸味と薄っぺらいながら肉の味を全面に押し出してくるパティの不健康な味の調和に舌鼓をうちながら今後の事を考えた。

 

 ロマニの所には行けない。何故なら彼の居場所は大抵あのサボり部屋だからである。口約束とはいえ部屋について秘密、であるなら姉同伴では近寄る事さえ叶わない。

 

 あと察しの通りオルガマリーは休みを取った。弟の休みに合わせて休暇を取った。所長にまず休暇が存在するのかとノエルは訝しんだ。だが気にしてはならない。皺寄せはレフに行くとだけ言っておこう。

 

「もう口の周りがソース塗れよ。ほら拭ってあげる」

 

「ん、姉様、ありがとう」

 

 では実質残るのはダ・ヴィンチの工房だろうか。あの玩具箱の様に多彩な物品が並ぶ場所なら退屈もしない。甘くて美味しいココアまで付いてくる。

 

 更に今なら自称美人眼鏡講師ダ・ヴィンチちゃんがあんな事やそんな事まで手取り足取りマンツーマン二人三脚ねっちょりと教える事だろう。しかし教えた内容が役立つかどうかはイマイチ分からない。

 

「美味しかった」

 

「それは良かったわ…えぇ本当に良かった……グスン」

 

 個数制限を掛けなかった事でまさかハンバーガーの山が出来るとは思わなかった。後にオルガマリーはレフにそう愚痴ったそうだ。

 

 

☆★☆

 

 

 やぁやぁダ・ヴィンチちゃんだよ。

 今日はどうやら助手君の保護者が来るらしい。正直言えば彼女とは反りが合わない、と言うか居ると色々と面倒な事がある。疚しいことがあるからしょうがない。

 

 開き直るわけじゃないけど、ノエルは未知の塊だからしょうがないと思う。あれは現代に残る神秘だろう。存在すれど実態が分からない。実に興味深いよ私の助手君は。

 

「おっと、忘れる所だった。ココアを用意しないと」

 

 甘味を好む彼の事だ。何時も出るココアが出ないとなれば目に見えずとも落ち込む。あのバリカタな顔面の向こうは存外子供らしいのかもしれない。

 

「ダ・ヴィンチ、ココア」

 

「ダ・ヴィンチちゃんはココアじゃありません。ともあれダ・ヴィンチの工房へようこそ。必要な品を持って行くといい、勿論対価は頂戴するけどね!」

 

 まぁノエルからはリソースを工面して貰ってるから実質大安売りだけれども。

 

「気になってたんだけど、これらのリソースってどうなってるの? 依頼品じゃ無いわよね…」

 

「ノエルからちょちょいっと拝借してるけど?」

 

 理解している事だったけど所長って重症だよね。見てみろよあの悪鬼羅刹、あれが実態のない威嚇だなんて到底信じられないよ。所長がサーヴァントだったらキャスターよりバーサーカーの方が適正が高いんじゃないかな。

 

「まぁまぁ落ち着きなさいお義姉様」

 

「貴女のお義姉様になった覚えなんて無いわ!?」

 

 ついこの間まで顔面蒼白で胃薬片手に執務してた人間には見えない。彼女個人はそこまで興味は惹かれないけれど、姉弟としては中々に面白い。目の前に居る小心者でチキンハートで拗れた性格の持ち主がノエルと言う一人の存在を横に据えるだけで化けるのだから。

 

 互いに全幅の信頼を起きながら相手に凭れる事を忌避し、逆に凭れかかって欲しいと欲する。それが彼等の依存の形。どちらも受け容れる体勢で気を張り続けていると言う一見して微笑ましい光景だ。

 

 けれどノエル達の場合は目に見えない、もっと歪な──

 

「ダ・ヴィンチ、これはノエルの私的利用ですよ? 聞いていますか、これは立派な規則違反──聞けって言ってんでしょうが!」

 

「あばば、ちょっ、所長。崩れる! 私の黄金比がアイアンクローで潰れる───!?」

 

 握力を強化してまで私の頭蓋を砕きたいのかこのブラコン。ノエルもココア飲みながら観戦するくらいなら助けて欲しいな。後で鏡でチェックしなきゃならない。いや何時も見てるけどね。結局自分の出来栄えに惚れ惚れして暫く眺め続けるまでがワンセットだ。

 

「大丈夫だって、ノエルに強要した訳でも無いし体液を採取したりもない。所長が危険と判断する事柄は何一つ犯しちゃないよ。天才に二言は無い」

 

 さっきまで私的利用やら規則やら言ってる彼女だけど、結局はノエルに被害が無ければ罰則なんて与えない。偏食防止策も身体への配慮からだし。

 

 どうにもポンコツと言うか、アホというか、若干残念な所はノエルが関わると悪化するみたいだ。視野狭窄なんて目じゃないよノエルしか見えてない時あるよこの人。

 

 まぁ気持ちは非常に分かる。

 

「今日、何教える?」

 

「おっと、お義姉様とお話してたら忘れてたぜ」

 

「お義姉様って言うな! あと毎回その眼鏡は何処から出てくるのよ!?」

 

 ツッコミ役が仕事をすると何時も脱線してしまうな。いや脱線するのもさせるのも私だけど。だって面白いんだもん。

 

「では今回はこの指輪型の礼装について解説といこう。後で改善点を聞くから考えながら聞くするといい」

 

「分かった」

 

 

 

─やっぱり美少年は最高だぜ─

 

 

☆★☆

 

 

 空気はまさに混沌を極めていた。

 マシュ・キリエライトはオルガマリー・アニムスフィアにとって頭痛の種の一つだ。所謂上司と部下の関係に相違ないのだが、マシュの存在はオルガマリーにとって些か複雑なのだ。

 

 父が行なっていた実験の一つ、その主産物。離反の可能性も高い─と勝手に思い込んでいる─存在、それもAチームに所属が決定しているのだから余計に悩ましい。

 

 そんな目に見えてソワソワとしている友人の姉であり上司をマシュはどう思うだろうか。

 

(睨まれてますね。仏頂面に眉間に皺を寄せて……ぁ、今の一瞬ノエルに似てました!)

 

 身に覚えなど勿論ないので困惑していた。

 

 だが此処で沈黙に耐えかねたオルガマリーが膝を叩き言葉を発した。

 

「貴女はノエルの何なの!?」

 

 いや違うそうじゃない。

 

「ひゃ、はい!」

 

 いきなりの大声に背筋が思わず伸びた。

 

「友人をやらせて頂いています! マシュ・キリエライトです!」

 

 真面目に答えてはならない。ポンコツに成り果てたオルガマリーは返答など考慮に入れていない。そうなれば最期─

 

「そんな破廉恥な仲はお姉ちゃん許しません!!」

 

「何を仰っているのか分かりません!?」

 

 ──著しく残念度が上がる。

 

 顔を真っ赤に染めて目の焦点も合っていない。言動も会話の前後に関係性を認めず、更に残念が加速する。

 

 あと補足するとオルガマリーが破廉恥と称したのはノエルに膝枕をしているマシュを指している。頭を撫でる技量を日々更新しているマシュの攻撃にノエルは既におねんね中だ。

 

「何様なの貴女、一体その膝に誰を乗せていると思ってるのかしら? 私の弟よ、私の(・・)!!」

 

「えぇ…」

 

「毎日部屋に連れ込んでは、膝枕なんて私もやってない事を見せ付けるように……羨ましい」

 

 絞り出すように本音を零す辺り相当に膝枕にご立腹だと分かる。分かるがそれを恥ずかしげもなく言えるところを見ると手遅れかもしれない。ダ・ヴィンチは間違ってはいなかった。

 

「えっと、では代わりましょうか?」

 

 その言葉はまさに悪魔の囁き、オルガマリーは何かと世話を焼いては鬱陶しがられるお母さんくらいノエルに構って構って構い倒したいのだ。

 

 だがオルガマリーは現在こんらんしている。わけもわからず自分を攻撃してしまった。

 

「本人の合意無しでそんな事していい訳が無いでしょう!?」

 

「えぇ…」

 

 一体膝枕とは何だったのか。マシュは二回目の「えぇ…」の中で思わざるを得なかった。

 

「助けてレフ、こういう時どうすれば弟のハートを掴めるの? 私の理想は姉様と言って私に抱き着いて離さないくらいの好感度なのに…」

 

 オルガマリーは端末を弄りだし、仕事を押し付けた信頼出来る部下に通信を入れた。写しでた彼は目が座っていた。

 

『何かなオルガ、見ての通り君に頼まれた仕事に忙殺されているんだがね。急用なら余っ程なんだろう』

 

「そうよレフ。貴方の知恵を借りたいの」

 

『ふむ、まぁ私で良かったら相談位は乗るとも』

 

 所長の中の頼れる部下に堂々一位を飾る彼は何処までも頼もしかった。彼の立場上自分の仕事もあるのにも関わらず相談に乗る程度の余裕を持っていることに感服するばかりだ。

 

 そしてオルガマリーは至って真面目に相談した。

 

「マシュから弟を取り返す為にはどうすればいいのかしら?」

 

 通信は切れた。

 

「レフ、ちょっとなんで切るの? ねぇってばぁ!?」

 

 何度もコールを掛けたが繋がらない。着信拒否の機能は無いので全て彼の意思で切っているのだろう。今頃彼は仕事を片手に拒否のアイコンを連打している事だろう。

 

「姉様、五月蝿い…」

 

 

☆★☆

 

 

 今日は姉の部屋で寝た。

 けれど何時もは感じない布団の中にある体温の温もりはどうにもなれそうになかった。抱き枕の様に全体的に覆われているノエルは水槽に比べてやっぱり少し居心地が悪い。

 

 普段全裸で寝ることを強要されている彼は姉が用意したパジャマが身体の動きを阻害している様に感じてならない。全裸ではダメなのかと姉に聞いたら顔を真っ赤にして却下されてしまった。

 

「今日はどうだった?」

 

「楽しかった」

 

 偽りの無い感想。

 オルガマリーは一言そうと返し、幸福感を咀嚼した。頑張った甲斐があったと抱き締めながら思った。

 

「姉様」

 

「ん?」

 

 

 ──大好き。

 

 

 オルガマリー・アニムスフィアはそっと目尻の水滴を拭った。

 

 

 ──私も大好きよ。

 

 

 




マシュはショタコンじゃないよっていう弁明な話でしたね。眠そうなショタ友が居たら膝枕して寝かし掛けるのは常識だからしょうがない。

あと書いててあれなんだけど、これでいいのか(困惑)

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