ありがとうオルガマリー姉様 作:小指技師
レイシフトの描写は面倒なのでカット、詳しい説明もオールカット、お願いだから私にショタを幸せにさせてくれ(切実)
酷い夢を見ているようだった。
轟々と燃え盛る火炎に倒壊する瓦礫、呻き声もこの凄まじい光景に耳に入って来ないだろう。息を吸えば噎せるし目も乾く。臭いも酷く、正直直ぐにでもこの場を離れたい。
ノエルは腕に抱えたオルガマリーを見た。
──無傷だ。
障壁を
と言っても全くの無傷と言う訳では無い。無茶な高速展開に耐え切れなかったのだろう一部焼け焦げた礼装がノエルの肌を焼いた。
けれど常より遅い回復力。痛む火傷に身体を震わせるノエルは堪らずバイザーを取り去り観た。魂と言う情報体から健常な状態をインストールし適用する。仄かな光を発生させた後、焼け爛れた肌は元の柔肌に戻っていた。
「姉様」
オルガマリーに目立った外傷は無かった。意識は落ちているが、呼吸も脈拍も顔色も異常は見受けられない。
だがノエルから観たオルガマリーはそうではなかった。決定的な物が姉には無かった。
「姉様、何処?」
この身体には魂が無い。
見回せど見つからない。身体が生きてるのにも関わらず中身が伴っていないのだ。これでは起きることも無いし昏睡の状態が続いてしまうだろう。最悪な場合死に至る。
それが意味する所は至って簡単、放っておけば腕に抱く姉が死ぬと言う結果。それはノエルにとって到底許容出来る結果では無い。
「助ける、絶対…」
姉を抱き寄せる。ずしりと重い彼女の身体はノエルにとっては全く違う意味に感じてしまう。魔力を強化に回しこの場を離れようと外へ駆ける。
だがその際に見てしまった。瓦礫に下半身を呑まれた友人の姿。満身創痍のマシュ・キリエライト。無二の友人がまさにそこで死にかけていた。
足が止まる。
「マシュ」
「あぁ、ノエル。生きていたんですね、良かった。取り敢えずこの場を離れて下さい、危険ですから」
「でも、マシュ…」
マシュは微笑んだ。後で私も行くからとバレバレな嘘を吐いて遠ざけようとする。
「私より所長を優先して下さい。彼女は此処の責任者ですから。速く…」
優先すべき事は既に決まっていると言外に伝えて来る。それはノエルにとって卑怯だと思った。
「…すぐ、戻る。マシュの、バカ」
彼は無表情だった。けれどマシュの霞んだ視界には確かに悲しそうな顔をしたノエルが見えたのだ。
「嫌われて、しまったでしょうか…」
既に生きることは諦めた。瓦礫の下の脚は既に潰れて出られたとしても歩くことは困難だ。血も出ているからこのままではどのみち出血死する。けれど─
「仲直り、したいですね。しばらく口をきいて貰えないかもしれない」
彼女は死にたくはなかった。
「マシュ!」
瞼を固く閉じようとしたその時、駆ける足音と共に自分の名を呼ぶ声が聞こえた。今日初めて会った人の声、先輩と慕いたくなった橙色の少女。
「先輩?」
「マシュ、今助けるから! 痛ァ!」
瓦礫を持ち上げようと隙間に指を差し込めば火傷しそうになるほど熱かった。しかし立香はマシュを思い諦める素振りを見せない。
だがその思いも虚しく、瓦礫はびくともしない。
「もういいんです。十分ですから」
「十分なもんか! 今日会ったばかりだけど、マシュとはもう友達じゃない。なのに、なのに……そんな事言わないでよ」
「友達、ノエル以外の友達は初めてですね。私今とっても嬉しいです」
マシュはそっと立香へ手を伸ばした。
「手を、握って貰えませんか?」
「……分かった」
ありがとうと一言零した後で彼女たちの意識は燃え上がる赤のカルデアスへと引っ張られて行った。
☆★☆
骨と骨が擦り合い、打ち付け合う音で目が覚める。
「何処よ、此処…」
焦土に倒壊した建物がチラホラ、漂うは生者を寄せ付けない死の気配。そこを徘徊するのは勿論生者にあらず、死した者の残骸が闊歩している。俗に言うスケルトン。
「まさか、特異点? そんな馬鹿な!?」
オルガマリーは頭を抱えた。自身にはレイシフト適正が無いから。何より一人でこの場に居るから。
「ノエルは、ノエルは何処?」
弟の姿は勿論ない。そもそもここに来る直前の事も朧気でいまいち覚えていない。もしかしたら自分だけ此処に来てしまったのかもしれない。
「管制室、応答しなさい。こちらオルガマリー。管制室! 駄目ねカルデアとは一切連絡が取れない…」
八方塞がりに吐息を漏らす。そして骨の音が一際大きく聞こえた。
「
振り向けばスケルトンが群れをなしていた。オルガマリーは慣れた様に心のガラスを取り替える。
「動きは遅い。脚を強化して逃げた方が良いわね」
前方に居るスケルトンの脚をガンドで粉砕し空かさず逃走を選択した。後方を確認すれば脚を破壊され倒れたスケルトンに躓き、後のスケルトンが山になっている。
「そう言えばあの頭蓋って空っぽなのよね」
企みに成功したオルガマリーは皮肉を吐きつつ逃走に成功した。
「マスター候補の誰かが来てるならまず龍脈へ向かう。ならそこに賭けるしかないわね」
遠面の目標を定め、冷静を保ち、最善を尽くそうと悲鳴がするガラスハートを必死に切り替える。
しかしオルガマリーは出鼻をくじかれる事になる。肩に
「精度が落ちたか、魔術師一人殺しきれんとは」
「アサシンのサーヴァント!?」
黒い襤褸の外套で身体を覆い隠した髑髏仮面の大男。彼自身を表す固有名詞は無く、一種の称号として山の翁ハサン・サッバーハと言う。
彼は手に愛用の暗器である投擲剣を見せつけた後消えた。
「恐怖しろ」
「気配遮断のスキル、なんて厄介な」
「こっちだ」
真後ろから聞こえる低い声に反射的に回避行動をとった。丁度首があった場所にアサシンが投擲剣を横に走らせていた。
「悪くない反応だ。だがいつまで持つか」
「暗殺者が良く喋るじゃないの」
もう既にいくつのガラスが砕かれたのか。死の恐怖は確かにオルガマリーの首を締め付ける。身体の震えを抑え、上擦った声を誤魔化し、脳内の警報を叩き壊す。
肩に刺さる投擲剣を引き抜き左に構えたオルガマリーは神経系を強化し待った。相手の高い敏捷と気配遮断による奇襲に踊らされてると言う実感があったからだ。
投擲をせずに直接攻撃をしてくる辺りこちらの実力を測り損ねている可能性がある。勝負を次で決めなければ確殺される。
「シャアァァァァァ───!」
「そこ─────ッ!」
頭上から脳天狙いで襲い掛かるアサシンにオルガマリーは肩に刺さっていた投擲剣を型も何も無い力任せな一振で向かい打つ。
「浅い!」
「それは腰が入ってなかったからよ!」
振り抜いた左の奥に見える右の固く閉じた握り拳、強化された腕力は確かにアサシンの胴体を穿った。
肉を叩き、骨を砕く感覚が拳に伝わる。アサシンは弧を描きやがて地面に打ち付けられた。
「ゴフッ、魔術師が肉弾戦をするとは思わなんだ」
蹲り吐血するアサシンの残心を解かず魔術まで待機状態を敷いた。
「最近の魔術師は近接戦闘も視野に入れるものなのよ」
「ハハハ、それは勉強になる。次があれば気を付けよう……だが貴様も覚えておくといい。ハサン・サッバーハはタダでは死なん!」
よろりと立ち上がるアサシンに目を見開く。急所を穿ち消えゆくのを待つのみと考えていた。オルガマリーは倒しきれなかった事に顔を歪める。
襤褸の外套を脱ぎ捨てた。そして異形の手を覗かせる。人とは似つかないその赤い右腕にオルガマリーは瞠目し判断を鈍らせた。人を超える軽快な疾走は双方の距離を一気に縮める。
「星の輝きよ、彼の目を焼き滅せよ。
恒星を模したバレーボール大の光弾が六つ、オルガマリーを起点としてアーチ状に展開されアサシンに殺到した。だがアサシンの右腕は光弾より速かった。異様に長く伸びる腕は目と鼻の先まで届くと言う距離にある。
「この身では宝具の開帳は叶わない、が頭蓋を砕く程度どうということはない」
眼前に広がる死神の手を睨み付ける。
(まだよ、まだ諦められない!)
諦めない。諦めたくない。オルガマリーは諦めることを許さない。諦めの先には何も無いことを知っている。藻掻けば何かを掴み取れるかもしれない。なら諦めてはならない。
声が響いた。
「その度胸、気に入ったぜ嬢ちゃん!」
その声はオルガマリーのすぐ側から聞こえた。そして眼前に青髪ローブの男が杖でアサシンの腕をかち上げる姿を認めた。
「
「貴様、キャス──」
アサシンは言葉を言い切る前に業火に呑まれ、光弾で形も掻き消えた。
「フゥ、これでアサシンも退場だな」
「貴方は…」
「そう警戒すんなよ。って言っても無理か…」
助けてくれた事には変わりない。だがそれがタダの親切心なのかと問えば絶対に違うだろう。目の前の男はタイミングが良すぎた。何かを企んでいるのか、それともまた違う思惑があるのか、どちらにしても信用しきるには材料が足りない。
痛む肩に手を添えて男と相対する。
「信用は出来ません」
「おお、えらくストレートだな。まぁ納得出来るが」
「しかし私も情報が足りません。よって貴方の真名を含めた情報提供を求めます」
男は面白いものを見たと犬歯を覗かせる。
「随分だな。オレには何の得があるのか明らかになってねぇ」
「私が気に入ったのでしょう?」
男は今度こそ大きく口を開き笑った。
「ハッ、合格だ。オレの名はクー・フーリン。嬢ちゃん、名は?」
「オルガマリー・アニムスフィア。取引成立で良いわねキャスター」
「おうよ、取り敢えず契約といこうや。魔力に余裕は有るが十分じゃねぇからな」
ピシリとオルガマリーは固まった。口を横一文字に引き結び、何処と無く目が死んだ魚のようだ。この明らかな変化にクー・フーリンは首を傾げた。
「私、無いのよ…」
「ん?」
「マスター適正…」
「……はい?」
クー・フーリンの目から見たオルガマリーは魔力も魔術回路も一級の肝の据わった女だ。今回ばかしはオレにもマスター運が巡ってきたと期待もあった。
だが結果はマスター適正が無く、契約出来ないと来た。
「お互い運がねぇな…」
「解呪不可の呪いよきっと…」
仄かな哀愁を漂わせながら肩を寄せ合い、目的地の龍脈へと向かうのだった。
☆★☆
外の喧騒を遮断した医務室にノエルは居た。姉をここまで必死に運んで来たノエルはロマニを捕まえて医務室に連れ込んだ。
ベッドに横たえられたオルガマリーは呼吸の度に胸を上下させている。横にあるバイタルも異常はなく、至って健全な状態だと示している。
「異常はない。だけど意識を取り戻さないのが不自然だな。気絶ってだけならもう目を覚ましても可笑しくは無いんだけど」
「やっぱり、中身、無いから」
「中身?」
「魂的な」
「霊魂的な?」
「そう、幽体離脱、的な」
「え、じゃあこの所長抜け殻なの!?」
「言い方、酷い。でも、そう」
ロマニは口をあんぐり開けて茫然自失と言った様相だ。そしてはっと気付いて頭を抱えてしまう。そろそろ相談料が高いがネットアイドルにどうしたらいいのか質問したい所まで到達しそうだ。
「なんでそんな面白おかしい現象に巻き込まれたんだマリー!?」
「取り敢えず、探そ?」
「うん…」
あたふたと慌てふためく頼りない大人が一回り小さい子供に落ち着かされてる図。それでいいのかロマニ・アーキマン。大人としての尊厳は無いのか。
ロマニが端末に手を伸ばすのをやめた時、ある事に気が付いた。まず所長はカルデアに居るのかと。と言うか見えるのかと。
「たぶん、立香たちと、一緒。レイシフトした」
「だから隔壁をこじ開けようとしてたのか…」
ノエルは医務室にオルガマリーを寝かせた後、ロマニを人波の中から引っ張り出し、マシュを助けに走り、隔壁が閉まっていく中レイシフトのアナウンスを聞き、慌てて隔壁がこじ開けようとしている所を保護された。
保護する際にダ・ヴィンチまで出張るところまで発展した。必死だったノエルはダ・ヴィンチだと分からず裏拳を数発打ち込んだが、殴られた本人が何処と無く満足げだったので問題とはならなかった。
「まぁ今職員が彼女たちを補足しようと躍起になっている。もし本当に所長がレイシフトしてしまったのなら時間の問題だよ」
まぁ悉くが補欠組なのが不安でならないけどと不穏な言葉を残すロマニは姉の手を離さないノエルを見て申し訳ない気持ちになった。
オルガマリー姉様が頑張るの回でしたね。ハサン先生を殺したくなくて無駄に長引かせた結果なんですけどね……
あぁ、速くほのぼのしたい(血涙)