ありがとうオルガマリー姉様 作:小指技師
ほのぼのはありませぬ。戦闘もありませぬ。
頼む、早く来てくれほのぼのぉ!!
アサシンを倒しカルデアの連絡を待ちつつ、マスター候補たちの捜索とエネミーの撃破を並行して熟すオルガマリーとクー・フーリンのコンビ。
出会すスケルトンを切っては投げ、ちぎっては投げと無双ゲームの如く蹴散らしていく。二人の息は自然に合い誰もがマスターとサーヴァントの主従契約をしていると思うだろう。
だが現実は非情である。
「益々惜しいぜ。何でアンタはマスター適正が無いんだ?」
「弟の為に置いてきたのよ。て言うかそう思ってないとやりきれないわ!」
オルガマリー・アニムスフィアはマスター適正は無く、レイシフト適正さえ無い。だがしかし、弟のノエルには実はどちらも有る、それもそのどちらも良好。きっと母親の腹の中に置きっ放しに来たのだろう。
「弟ねぇ」
「何よ?」
「いや別に大した事じゃねぇけどよ。えらく溺愛してんだなと」
顔見りゃ直ぐに分かっちまう程にと冷やかす様に言ってのける男に思わず片眉を上げる。
「弟が可愛くない姉なんて居る?」
「あぁ何だったかこう言うの……ブラコン?」
「サーヴァントが一体何処でそういう言葉を知るのよ!?」
この姉驚愕の声を上げながらも一言も否定しない。ダ・ヴィンチに言われ慣れてしまったか、ただ事実だと受け止めているのか。いやそもそもダ・ヴィンチに言われても最初から否定しなかった事実を鑑みるに後者なのだろう。
「ん? 探知に誰か引っ掛かったな」
「こういう風に見るとルーンって便利ね。一時期廃れてた魔術には思えない」
「まぁランサーのオレはそこまで多用しねぇがな。このクラスじゃあ俺の生命線だ」
そう言って反応がある方向へと強化した視線を巡らせる。どうにもスケルトン多いがその中に紛れて大盾を振り回す少女の姿を確認した。
「ありゃあ嬢ちゃんの言ってたマスター候補とそのサーヴァントか?」
「……その様ね。ここに来てデミ・サーヴァント化が成功するなんて」
見えた人物はマシュ・キリエライトと藤丸立香。どちらも記憶に残った者達。付け加えるとそれぞれ違う意味で印象が悪い。立香の姿を見た瞬間に頭痛がするくらいには悪い。
とは言えここに来てのマスターの存在は大きい。マシュはサーヴァント側だが立香はマスター。この際へっぽこでも居眠りと言う前科を持っていても横に居る協力者の楔になるならば贅沢は言えない。
「正直言えば外れ枠よ。片方一般人だし…」
「マスター適正はあるんだろ?」
「……生意気よね」
「まぁアレだ。ドンマイ!」
英霊にフォローされる魔術師もそうは居ないだろう。まぁ頑張れとしかかける言葉が見つからない。オルガマリーの背中はやや煤けてる。
「さて、どうするね?」
「どうするって、合流以外に何があるって言うの?」
ここに来て首に手を当ててクー・フーリンは言い淀み、少しばかりのやりづらさを感じる。目の前の魔術師は即合流以外に見えていない様子。
合流するとしないでどのような事が想定出来るのか、クー・フーリンはそこを考えて欲しいとオルガマリーに伝えた。
「まずあの嬢ちゃん達を見てどう感じる?」
「……ぎこちないわね」
「そうだな、良いとこ新兵ってとこだろうよ。いや戦う術すら模索しながらだと最早民間人かもな」
やや顰めっ面を晒しながら思考するオルガマリーはハッとした。クー・フーリンが言わんすることに思い至った。詰まるところ良い的だと言いたいのだろうと。
「──囮ね」
「あぁ、ここいらにはオレのお株を奪った奴がいる」
杖を肩にポンポンと叩き、口を尖らせるクー・フーリンにオルガマリーは苦笑する。この男、槍恋しさに杖を代替品にする程にはキャスタークラスに不満がある。そもそもルーン魔術って面倒臭いなんて宣う事態キャスターらしからぬとは思わないだろうか。そんなキャスターはマーリンだけで十分だ。冠位がつくキャスターなのに劣化版聖剣を取り出して来るのはどうなのだろうか、クー・フーリン(キャスター)は杖で我慢してるぞ。──もう原初のルーンで作れば?
よってやや私怨が絡もうとも敵であるランサーとは決着を付けたいと肩をいからせながら語る。ランサーからしたら只のとばっちりだが言わぬが花である。
「正直な所だが、此処で合流したらランサー奴が最後の最後まで出て来ない可能性がある」
「戦力差で勝ち目が薄くなるものね。如何に強力なサーヴァントであろうと二対一の真っ向勝負は避けたいはずだし」
敵サーヴァントはセイバーを除き性能が劣化していると道中で聞いた。アサシンの様子からして宝具の真名解放もままならない程に性能が落ち込んでいるとすれば尚更戦闘を避けてくるだろう。
宝具とは戦況を大きく作用する鬼札、有ると無いとでは雲泥の差と言えるのだ。
「てな訳で、此処は身を潜めて出て来たとこを逃がさずに倒すってのが良いと思うんだわ…」
「──分かったわ」
あっさりと了承した。それは気持ちの良いほどに迷いが無く、滞りが無い。これで驚かされたのは何回目だったかとクー・フーリンは唸る。
「アンタは魔術師らしく無い魔術師だと思ってたんだがな。正直此処で拒否されるのも考慮に入れてたしよ」
「私はただ成功確率の高い方に賭けただけ、囮作戦が失敗すると見えたなら反対していたわ」
「そうかい」
「だけど隠れ潜むのは貴方だけよ。私は行くから」
「あん?」
人差し指を立てながらオルガマリーは急遽立てた作戦とも言えない提案をする。それは本当にシンプルな物だった。
ランサーが現れたならばオルガマリーサイドで足止めをする、その一瞬で一気に燃やし尽くせとただそれだけ。結構無茶苦茶な作戦であった。
「無茶なオーダーに応えてこそのオレたちだ。良いぜ受けてやるよ」
肝が据わっていて、強気で負けん気が強く、人間臭い一面も垣間見え、無茶苦茶な作戦行動を求めてくる。そういう女が横にいる時にこそクー・フーリンと言う英霊は真に身体の奥にあるモノを熱く滾らせる。
「じゃあ行ってくるから、くれぐれも失敗しない様に!」
「ケルトの戦士に二言はねぇ」
その言葉に満足気に頷くと全速力で足を走らせて行った。何だかんだで見知った人物が恋しいようだ。特にカルデアとの通信に気を急いている。
「剛毅に見えて根は小心者ってか? 悪かねぇなそう言うのもよ」
☆★☆
魔術師に於いて重要なのは知識と経験と少しばかりの根性である。オルガマリーは常日頃そう考えている。やや強引で粗野だと認識しているが極論だとこれだけで十分なのだから仕様がない。
特に根性。これを欠けば最後、オルガマリーは何もかもを喪失し失墜するだろう。家を守れず、最愛の弟も守れず、自分自身さえ例外では無い。文字通り全てを失う。
若きオルガマリーにとり、隙あらば取って食おうとする外敵が多かった。名家にして時計塔のロードを冠するアニムスフィア家の強大さは彼女が継いだ後も顕在、変わったとすれば若輩にして未熟な当主のみ、であればそれに付け込む輩も少なくは無い。
時計塔も一枚岩ではない。派閥が有り、常に水面下での睨み合いを続けているのだ。余りに狡猾で憎たらしい狸達は日々の生活で化かし合っている。
そんな最中にオルガマリーは突如として放られた。カルデア次期所長として一定の知識や経験を積んだオルガマリーであったがそれを水泡に帰す程濃密な不可視の戦争は彼女の胃をよくよく苦しめる結果となった
だが彼女は強かに意志を通した。首を噛まれたら牙を砕き、鋭い爪を振り翳してくれば懐に潜り込んで顎をかち上げる。全ては安心と安全のため、オルガマリーは魔術師として根源に挑みながらも弟との生活も捨て切れなかった。故にゲームで言うコンティニューを心に設けたのだ。
心が砕けても何度でも前へ踏み出せるように─
「だがらカルデアの礼装は貴女の様なズブの素人でも扱える様に魔力とワンフレーズで起動してくれるの!」
「いや、まず魔力って言うのがですね…」
「そこから講義しなきゃならないの!?」
見事合流を果たしたオルガマリーが最初に始めた事は現状最後のマスターである藤丸立香を使える様にする事である。移動しながらでも魔術の『ま』程度は教えてみせると奮起したが早速一個目の心に罅が入った。
一般人である立香は一度シミュレーターで訓練した程度の急造のマスター候補、当然と言えば当然だが魔術の行使に難がある。強化、回復、回避と言った仕込まれた術式も満足に隆起活性化出来ない程だ。
「レフは居ないし、ロマニはカルデアの指揮を執ってるし、マシュはデミ・サーヴァントだし、藤丸以外のマスター候補は残らず爆発に巻き込まれて再起不能だし、当の藤丸は使えない。ここに来て幸運だったのはノエルの無事を確認出来たことくらいよ!」
『久し振りにヒステリックモードを見たなぁ…』
『ロマニ、姉様煽る、ダメ』
「ウガァァァァァァァ───!!」
今までノエルにより抑えられていたゲージが度重なる現状の厳しさを伝える事で『
「所長落ち着いて下さい。それよりこれからどうするかを決める事が先決だと考えます」
「……お陰様で凄い落ち着いたわ。カルデアに一時帰還する事も考えたけど、貴女たちの報告で悠長に構えている暇は無いと分かった。確かに見たのねマシュ・キリエライト」
剣呑な雰囲気を身に纏わせるオルガマリーは真っ直ぐマシュの目を見つめた。報告の中にカルデアに於いて最も忌避し、全人類ならず地球上の生きとし生けるものにとって看過できない事柄が含められていた。
それを報告したのはマシュと立香。曰く爆発が起きてからレイシフトする迄の短い情報の中に含められている。
それは謂わば地球と言う星そのものであり、過去未来現在を映し出す惑星規模の地球儀。気象衛生が地球に浮く雲の動きや配置を観測する様にカルデアはこの鏡を使い人理、即ち人の歩んだ足跡を見通す。
もしその地球儀に異常が見られた時、地球にも異常が起こっているという事になる。
「はい、私たちは見ました。
暫し沈黙。それだけで置いてけぼりの立香にも、事の重大さを理解することが出来た。漠然とマズいと思ったわけじゃない、もっと本能的なものだ。命の危険に心臓が大きく跳ねるのが緊張と同居した静けさで嫌という程分かる。
誰かが生唾を飲み込んだ後にオルガマリーは話し出した。
「藤丸はよく分かってないだろうから説明するわ。カルデアス、正しくは『地球環境モデル・カルデアス』は地球に魂があると言う理論に基づきその魂を投影したものよ。つまりカルデアスは地球そのものと言っていい」
「じゃあそのカルデアスが赤く燃え上がっていたとすれば…」
「えぇ地球が燃え上がっているってこと。荒唐無稽だと断ずるには材料が足りない。でも楽観視は出来ない」
深呼吸により大きく呼気を漏らす。あくまで冷静に成功率や生存率の高い方に舵を取る。オルガマリーは両肩に重みを感じたが敢えてさも何も感じないと言った体で自信満々に言ってのける。
「──故に動きます!」
凛とした物言いに聞いたカルデア職員たちは背筋を正した。管制室に残る職員は補欠ばかりだがこの時ばかりは戸惑いや不安を胸の奥に仕舞い込み、ベテランの様に引き締めた表情を晒している。それぞれが今出来ることに全力を尽くすだろう。
「ブリーフィングの内容に大きく変わりはありません。私たちの居る特異点を" 特異点F "と呼称。特異点Fの異常の調査解明を第一優先。しかし積極的に問題の解決にあたることも念頭に置くこと。そして生きてカルデアに凱旋すること──以上」
オルガマリー・アニムスフィアは上位者では無い。ただ弟が一番大好きなだけの姉である。故に今しがた見せる自信溢れる姿は偽りだ、虚栄でしか無い。
けれど彼女の道はそうしなければならない過酷なものだ。乗り越えねば有るのは無のみ。だから毎日両足に力を込め、根性でコンティニューを繰り返す。
そして彼女は今日この瞬間も虚勢を張り続ける。
誰も弱い自分に気付かない様に──
──気付いている者の目にも気付かず
☆★☆
「どうやら本人の記憶は飛んでしまっている様だね。いやマリーの事だから敢えて記憶に蓋をしてるのかもしれない」
通信の切れた管制室ではロマニが独り言の様に呟いた。眉を八の字に曲げ、手は先程まで映っていたモニターを無表情に見つめる少年の頭に乗せられている。
「人間の防衛本能って言うのはあくまで自分のことを守る為に働くんだ。彼女の場合は記憶に蓋をすることで精神に異常をきたすことを防いだって事」
友人の、そして大人しく撫でられている少年の姉がどういう状況なのか、容態について語る。少年ノエルにどの様な言葉を掛けるのが良いのかロマニには分からなかったから。感情を読み取りにくいと言う事もあり取り敢えず撫でていた。
オルガマリーを心配しているのか、今起こっていることが不安なのか、傍らにオルガマリーが居ないことにより寂しさを感じているのか、ロマニは一通り当てはまりそうな感情を挙げ連ねて行く。
だがどれも違うと次の瞬間理解した。
「良かった、姉様……生きてた──」
無表情な顔に一雫の水滴が流れ落ちた。
「……助けよう、絶対。大丈夫だよボクたちも手伝うからさ!」
精一杯の励ましの言葉は気付けば出ていた。ふんわりした笑顔も添えた心から生じた言葉。それに深い首肯が何度も繰り返された。雫の数は気付けば増えていた。
──ノエルは自分が嬉し涙を流せる事を知った。
はい、キャスニキが遂にアサシンの真似事をしだしました。クラス詐欺が横行し過ぎだけど、是非もないよネ!
ちゃうねん、私はノエルを泣かしたいわけじゃないねん。オルガマリー姉様をピンチに陥れたいわけでもないねん。ほのぼのしたいだけやから!
感想、評価はドシドシ送ってきてくだされ。何でもいいよ、何でも!
ノエルきゅんと結婚したいとかでもいいよ!