プロローグ+0話+本文8話+エピローグという構成の予定です。
艦これ二次創作、極力ゲーム内で知れる設定には反しないようにする予定です。
もしこのサイトの流儀に反する物があれば指摘ください。
「関根君、ちょっと良いかな?」
平智3年(1985年)5月、霞ヶ関海軍省。
関根小佐は、廊下で呼びとめられた。相手は肩に星が乗っている、将官様である。
礼儀として1mmの隙もない敬礼を返すが、相手はどうにも、老獪なようだ。
「いつ見ても、完璧なのに尊敬の念を全く感じさせない敬礼だな、関根君?俺には構わんが、他人にその敬礼は止めとけ。君を推しにくくなる。」
「私を推すなんて酔狂な上官は、少将殿だけであります。」
「まぁそう厭味を言うな。満足に動く船もない海軍には、官位で遊んでる連中しかおらん。やりたい事をやる為には、心の中で舌を出すのも控えにゃ。」
相手は、小林少将。既に数少ない、大海を知る生き残りであった。
「それでだな、関根君。君が前から提案していた、特種鎮守府再設置の件だが、何とか通りそうだ。」
「それは、本当ですか?いえ、この言い方が失礼なのは承知しておりますが、まさかという思いが強すぎまして…」
「君が思っている以上に、あの件を悔しがっている奴らは多い、ということだ。とはいえ、予算は殆ど分捕れない。実績が上がらねばな。」
「無い物をかき集めてその場でなんとかするのは、十分に経験させていただきましたので。」
「またそういう言い回しをするか、君は。まぁいい。任命は来月頭で、君がその特鎮の実務頭だ。君は既に分かっていると思うが、その任命までの3週間、熊野へ行ってこい。」
「分かりました。」
小林少将に再度敬礼をした関根は、足早にその場を去る。
その時の敬礼は、最初の敬礼と寸分違わない物だったはずだが、恐らくそれを見た者は、全く違う印象を受けただろう。
(熊野、か。こんなに早く、あの婆さん達に、また会いにいかねばならない時が来るとは…)
◇◇◇◇
国内で唯一、長距離幹線で電化されている新東海道線と、ローカルディーゼル線を乗り継ぎ、関根が熊野に到着したのは、2日後。
熊野古道最奥の、名もない道を上がった場所にある、目立たない社にたどり着いた関根を迎えたのは、齢を推測することすら難しそうな、老齢の巫女であった。
「久方ぶりじゃな。20年前に泣きながらワシを殴った小僧が、立派になったもんじゃ。」
「その節は失礼を…」
「礼儀なんぞワシには不要じゃ。まずは名を寄こせ。」
「はい。帝国海軍少将、関根 守 です。この度は、特別鎮守府の再設置に向けて、お話を伺いに参りました。」
「守と書いて、”まもる”か。その字、”かみ”とも読む。名に縛られたな、守とやら。」
「私は縛られた事自体を悔いてはおりません。それを果たせていない事には身を焦がす程に悔いておりますが。」
「困ったもんじゃ。念、願、誓、讐、全ては『あれ』には極上の餌にしかならんというのに…」
「私は、不適格だと?」
「更に困ったことに、お前等が呼ぶ、特鎮とやらの仕事には、適格過ぎてな。」
「ならば、是非にも。私は、戦いを続けねばならぬのです。理由はご存知でしょう。」
「ワシ達に、また、童女を死地に送る用意をさせろと?」
ここで、守は、10年掛けて用意してきた言葉をようやく吐きだす。
「死なせません。逝かせません。囚わせません。私は、前の特鎮を作った下衆とは異なる方法で、戦いますゆえ。」
「ふん。心意気は立派だが、死地に向かわせる決断をさせるのは、お前の意思ではなく、民の総意よ。それに抗う事が出来る覚悟はあるか?」
「例え、七千万国民全ての総意であろうとも。」
老齢の巫女は、更に皺を増やす表情を示し、ため息交じりに言った。
「…分かった。もう一度だけ、『あれ』と戦える術を整えよう。これから10日、お前にはみっちり教えるでな。」
その言葉を聞いて、初めて守は、安堵の顔を見せた。
ようやく、自身の手で、目的に進む事が出来るという確信。
何かを果たしたという達成感ではない。が、今までそれに着手することすらできなかった時間に比べれば、待ちうける困難など、むしろ幸せだろう。
「ありがとうございます。正直、こんなに素直に、お話を通していただけるとは思っておりませんでした。」
巫女はその表情、感情すら、予測していたであろう。そして、この先、どんな事になるかも。
それでも、ここで初めて、自身の言葉を紡いだ。
「ワシもな、こんな歪んだ時にはもう飽いた。本来であれば、神だのなんだのに頼らず、人は人の力だけで、世界が進んでおったはずなのだから。」
その言霊は、人には決して理解される事の無い、神の言葉だったのかもしれない。