「わたしは神様が嫌い」   作:アビ田

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前作品に間を置いてどうしても納得行かなかったので、再構成の形で筆を取ることにしました。
バドエン厨抜けて幸せになれるのか悩みどころですが、温かい目で見てやって下さい。


誕生

 昔々、神様から楽園を追い出された哀れな女性がいました。

 

 

 女性はアダムの(あばら)から作られた「イヴ」という存在です。

 神様は二人に言います。

 

 

『アダムよ、地を耕しなさい。イヴよ、子を産みなさい』

 

 

 二人に言われた言葉は罰でもありました。

 二人はエデンから堕とされる前に、神様が食べてはならぬと言っていた禁断の果実を食べてしまったのです。

 

 

 二人はしかしその罪を受け入れ、地上で自分たちの(その)を築き、幸せに暮らしましたとさ_____

 

 

 

 

 

 

「おしまい」

 

 

 そう言って、いつもの朗読をシスターは終えた。

 周囲の子供はシスターの教えに従い、感謝の言葉を告げる。

 

 

「「私たちを生んでくださって、ありがとうございます!」」

 

 

 シスターは微笑み、子どもたちに遊びに戻っていいわ、と言った。

 すると蜘蛛の子を散らすように、かしましい声を上げて子どもたちは駆けていった。

 

 そこで一人ポツンと残された、端に座る子ども。

 

 茶髪にぴょこんと生えるアホ毛が特徴的な少女だった。

 

 

「またあの子ね…」

 

 

 シスターは溜息を吐き、少女に近付く。少女が手に持っているのは童話の本だ。

 少しは神様に興味を持ってもらいたいと、シスターは思った。

 

 

「マリア、また絵本ばかり読んでいるのね」

 

「………」

 

「聞いてるの?」

 

 

 柔らかい頰がムニムニといじられていれば、少女特有の声が漏れた。

 

 

「はにゃー?」

 

「はにゃー、じゃないの。もう、またあなたは本ばかり読んで…少しはみんなと遊んで来たらどう?」

 

「お外で遊んでるより、本を読んでいる方が楽しいもん。それにシスターのお話もちゃんと聞いてたよ」

 

「じゃあ遅いけど、一緒に神様に祈りましょう?」

 

「それはイヤ」

 

 

 清々しい笑顔で断ったマリアに、シスターは深くため息をついた。

 

 

 

 

 

 この小さな田舎町は海沿いにできている。昔は貿易が盛んだったらしいものの、数世紀前の海賊荒らしでめっきりその交易が途絶えてしまった。

 

 しかし人々は交易した食物で何とか知恵を出し合い、こうして数百年も生き伸びてきた。

 村自体はその間独自の文化を形成し栄えてきた。

 

 そんな村の中央にそびえるのが、この教会。崇める神は聖母マリア。

 

 そもそもこの町の西の海には、一段と輝く『マリス・ステラ』と呼ばれる星がある。

 

 この周囲の人々は古くからこの星に祈り、どんな困難も乗り越えて来たとされている。

 

 教会からは海を一望できないため星が見えないが、数十年前は本当に崖の上に教会が建っていたらしい。

 それも火災によって無くなってしまったらしいけれど。

 

 しかしその場所には今もなお、碑石が建てられている。

 

 

『アヴェ・マリス・ステラ』の曲が刻まれている。

 月に一回は子供達を連れてそこで歌うのが、この教会のきまりでもある。

 

 

 

 この少女_____マリアはしかし、どれだけ手を尽くしても、歌ったり石碑に行こうとしない。

 

 大抵本を読むか、ぼーっと、生き物と戯れているのだ。

 

 一瞬鳥葬かと思うほど鳩がマリアの上に乗っていた時は、流石のシスターも悲鳴を上げた。

 

 

「まったく、あなたは神様のご加護で救われたっていうのに……」

 

「親が石の前に捨てただけじゃん。わたしね、神様は信じてないけど、シスターやみんなは好きだよ」

 

 

 マリアは数年前、石碑の前に捨てられていた子供だ。

 何も身に纏わず、ただポツンと座っていた。それを保護したのが、この教会で一番歳を経ている老シスターだった。

 

 

「だっておかしいでしょ?神様がいるんだったら、親にわたしを捨てさせたりしないわ」

 

「そんなこと言うから、マリアは体を壊しやすいのよ」

 

 

 改めてみると、この教会が信仰する神様、つまりマリア様の名前を付けた老シスターも中々にすごい。

 

 そんなことをシスターが思っていれば、隣で大きなくしゃみをする音。

 

 

「ほーら、言わんこっちゃない」

 

「えへへー」

 

 

 シスターはマリアに自分の上着を着せ、暖房の点いている部屋まで向かった。

 

 まだまだ寒い、冬のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 雪がしんしんと降るある日。

 

 マリアは上機嫌に街を歩いていた。老シスターが子どもたちにお小遣いをくれたからだ。

 

 一人を好むマリアは友だちを作りたがらない。ゆえに他の子どもがグループを組んで移動している中、彼女はひとりだ。

 しかし気分は上々。それに伴って、少女のアホ毛も揺れる。

 

 周囲の視線を物ともせず、ショーウィンドウに張り付く。

 少女に視線の先には、白と赤に輝くケーキがあった。

 

 人の数倍食欲旺盛なマリアは、食に対して貪欲だった。美味しいものを食べられればいいと思うものの、質よりは量を重視している。

 

 でも今回ぐらい……と、悩むアホ毛は揺れ続ける。

 

 

「やっぱり飴でいいや」

 

 

 キャンディ状の飴が入った袋を買い、少女はそれを抱えて歩いた。

 純粋に小分けにされた飴ならみんなと分けられるからと、そういう理由だ。

 

 

 それにしても寒い。体の弱い少女にこの大寒は天敵だった。免疫が下がってしまうのだ。

 早く帰ろうと少女は走って、曲がり角に差しかかる。

 

 

 ーーーードン!

 

 

 案の定ぶつかり、飴の入った袋は宙を舞って、固い音が響いた。

 

 ボリボリと何かを食べるような音。

 驚いてマリアが頭上を見上げれば、なんと金色の丸い何かが、自分の飴を食べているではないか。

 

 

「………」

 

「ガウ!」

 

 

 少女が怒りに体を震わせた直後、今度は顔面にその金色の物体が衝突してきた。踏んだり蹴ったりである。

 

 猫のようにすり寄ってくるそれに爪を立てて抵抗していれば、上から男の声が聞こえた。

 

 金色の物体はその声を聞き、名残惜しそうに少女から離れた。名前は「ティム」と言うらしい。もちろん飴の仇である存在を、名前で呼んでやる気などさらさらマリアにはない。

 

 そこまできて、ぶつかったことを思い出した少女は、男に頭を下げる。

 

 

「ご、ごめんなさい!ぶつかって…」

 

 

 マリアが顔を上げた先の男は、真顔でこちらを見ていた。

 

 燃えるような赤い髪。

 仮面に髭、そして眼鏡………

 

 

 

 怖い。

 

 ファイナルアンサーだった。

 

 

「キャアアアアアアアア」

 

「うるせェ…あっ、おい」

 

 

「うなるぜ私の足ィ!」とのたまった少女は見事にすっ転んで、気絶した。

 

 辺りには一部始終を見ていた人物たちの苦笑いと、赤髪の男の深い溜息が聞こえた。

 

 

 

 

 

 *****

 

 _____ガウ!

 

「んーにゃうるさい……」

 

 _____ガウガウ!!

 

「うるさいぃ……」

 

「ガウ!!!」

 

「うるさいって言ってん………うわぁぁあああああ」

 

 

 視界を開ければ、一面暗闇。何事かとマリアが周囲に手を探らせば、冷たい金属のような感覚が。それにこの声は………。

 

 

「何これ何これ食われてる!?!」

 

「静かにしなさい、マリア!」

 

 

 シスターに一喝され、マリアは渋々止まった。大人しくしていると、自分を食べていた…というより、犬のようにじゃれついていたティムが離れた。

 

 ここはどこだと、少女が目を配らせていれば横にはシスター。

 そしてテーブルを挟んだ向かいのソファーに、あの赤髪の男が腰かけている。

 

 混乱するマリアを見兼ね、シスターはことの顛末を話した。

 

 

「気絶した貴方を、神父様が運んで来てくださったのよ。ちゃんとお礼を言いなさい」

 

「ウソだッ!こんな怖い顔の神父様がこの世にいるわけないもん!!」

 

「失礼よ!」

 

 

 若干顔を赤くしたシスターは、「おほほ」と笑い、拳骨をしたマリアの肩を小突く。

 神父の男は少女が最初に見た無表情とは違い、女性受けしそうな笑顔を見せている。

 

 この人、ゼッタイ女ったらしだ。

 

 そう思いながら、マリアはお礼を言った。残念ながら異性にときめく感情を、思春期もまだな少女は持っていない。

 

 それにしてもと、少女の鋭い視線の先が、ティムに向く。

 

 

「私のキャンディ返しなさいよ!」

 

「ガウ……」

 

「返して、この飴ちゃんドロボウ!!」

 

「ガウゥ……」

 

 

 切なげに鳴くティム。この珍妙なゴーレムがマリアの飴を食べた事を知っているシスターは、呆れたように頭を押さえた。

 

 

「…おい、お前」

 

「え、何?」

 

「マリアって言ったか」

 

「うん、そーだよ神父様」

 

 

 ティムの頰を抓ったまま、振り向いた少女。するとそこには、男の手にマリアが買ったものと同じ飴の袋があった。

 マリアは驚いて、男を見る。神父は淡白に、侘びだ、と告げた。

 

 ぱぁぁっと、少女の周りで舞った花。視線の先は男ではなく飴だが。

 

 シスターはそのチョロさ具合に、呆れを通り越して笑ってしまう。

 

 マリアはお礼を言いながら飴を受け取ると、そういえばと、思い出したように口を開く。

 

 

「そういえば神父様、ふしぎな感じがする」

 

「………これか?」

 

「ん?んー……そう!コレコレ!」

 

 

 おもむろに男が取り出したのは、一丁の銃。煌びやかな装飾がなされていたが、いきなりの危険物にシスターは悲鳴をあげた。いかんせん、こんな田舎に危険物など(くわ)ぐらいしかない。ガチの代物に耐性がなかった。

 

 

「じゅ、じゅじゅ、銃!?本当にあなた神父様じゃないんじゃ……」

 

 

 この手のひらの返しよう。マリアの胡乱な目が、シスターに突き刺さる。

 

 

「シスターはショージキ(、、、、、)者だけど、そんなだからいい相手が見つからないんだよ」

 

「だ、だって怖いじゃない…」

 

「子どもの後ろに隠れるなんて、なさけないったらありゃしない」

 

 

 大のオトナが少女の後ろに隠れている図は、中々に強烈である。

 ため息をついたマリアは、興味深々に銃を見た。やはり、不思議な感じがする。

 

 一向に怖がりもしないマリアに男は片眉を上げながら、いくつか質問をしていく。

 

 

「最近この街で、何か異常なものを見たことはあるか?」

 

「特にない。……あ、でも、東のオーウェンさん家はあまり行かないようにしてる。血の匂いがするんだ」

 

「……その感覚はいつからある?何かきっかけになったもの、もしくは事象に心当たりはあるか?」

 

「うーん…昔からだよ。記憶があるときから、ずっと。きっかけもよくわからない」

 

 

 その様子を淡々と、シスターは見守った。あまり喋らない子だと思ってはいたが、ここまで異常な子どもだとは思わなかった。

 

 

「最後だ。お前自身が、何か不思議な経験をしたことはあるか?」

 

「うーん……強いて言うなら今かな。なんかね、外にいっぱい感じる」

 

 

 シスターは悲鳴を上げた。幽霊?悪魔??言い方的にそう捉えた彼女は、失神した。元々極度のビビリである。

 

 

「あれ、シスター?シスター??」

 

「きゅー」

 

「ダメだこりゃ」

 

 

 シスターは仕方ないと、マリアは神父を見る。

 少女自身不思議に思っている。今まで血の匂いを感じることは度々あった。それは子供だったり、老人だったり。

 

 いつもシックスセンスのようなものが働いているのかと、本で調べながら思っていた。

 

 しかし今日はどうだろう、いつものように血の匂いがするが、それとは違う何か別の存在を男から感じ取ったのだ。

 

 ただ少女は、()()を好きになれなかった。まるでそれは、神を前に祈ることを強要されているようだったから。

 

 

 辺りには鼻を覆いたくなるほどの血の匂い。昨日まではなかった。元凶はこの男かもしれないと、マリアは思った。

 

 

「神父様って、何者なの…?」

 

「見ての通りだ」

 

 

 やはり、この男はエセ親父に違いない。不躾な感想を抱きつつ、少女は眉を寄せる。

 

 血の匂いの中に、何か得体の知れないものが混じっている、そう感じたからだ。

 

 

「ねぇ、神ぷ…むぐっ」

 

 

 手袋をした手で口を塞がれた。

 黙っていろとのことらしい。

 

 一瞬視界に眩しさを感じたと思えば、目の前に床以外の壁といったすべてのものが無くなり、外の景色が覗いていた。

 辺りには黒煙が上がっている。

 

 どうやら街が、血の匂いのする奴らに襲われたらしい。

 

 霧散していく埃を手で払いながら、少女は目を凝らした。うさぎのような男と、機械のようなグロテスクな何かがいる。血の匂いの元はあの機械からだ。

 

 

「クロォースゥー・マァ〜〜リアン♡ここで会っタが100年目♡」

 

「この後デートの約束があるんでね。デブに付き合ってるほど暇じゃないんだ」

 

 

 あ、この男の本性がこれか。

 

 そう思いながらマリアは、シスターを抱き寄せるようにして、その様子を見ていた。

 繰り広げられるバトルに呆気に取られていれば、その視界を遮るように紫の煙が漂う。

 

 次第に濃くなるそれは、数歩先が見える程度の視界を残す。

 

 

「うわ、ほぼ何も見えない……って、アレ?」

 

 

 先程まで己の側にいた、シスターの感触がない。少女が周囲を見渡すと、声がした。

 

 

「こっちよマリア」

 

「シスターどこ?怖くないから、出ておいでー」

 

「………」

 

 

 視界の先に出てきたのはシスター。

 

 ビビリのくせに、なぜ勝手にうろちょろするのか。

 マリアは伸ばされたシスターの()()()()()()()を薙ぎ払い、側にあったガラスの破片をつかんだ。

 

 

「どうして逃げるの、マリア?」

 

「シスターはもっと、田舎っぽい顔してるわ。あんたの顔は都会から引っ越してきた顔よ」

 

 

 独特な基準で物を言いつつ、少女はガラスを握りしめた。

 

 

「シスターを……どこにやったの」

 

「キャキャキャキャ、この町はもうお終いさァ!!」

 

「………シスターはどこって、わたしは聞いてるの」

 

 

 ビリッと、素肌を襲う悪寒に、バケモノはそこから飛び退いた。

 恐ろしい何かを見た気がした。

 

 ゆらりと揺れた光景は、裁きを行う執行者そのもの。

 

 恐怖の感情を拭うようにバケモノは跳躍し、煙を縫うように少女を狙う。

 

 右、左、右。

 

 錯乱させ背後に回り、一気に爪で体を貫こうとして___、

 

 

「がっ、あ゛っ………」

 

 

 煙が晴れる。視界を奪っていたものが消え、辺りの黒煙や炎がありありと窺える。

 マリアの周囲には、気絶しているシスターが転がっていた。

 

 気絶していた彼女は、呻き声を上げて起き上がる。

 

 

「マ、マリア!?マリアァーーー!?」

 

「こっちこっち、シスター」

 

「何だ、無事なのねマリ………」

 

 シスターが背後を向いた時、少女の腹から白い禍々しい何かが突き出ていた。

 

 その切っ先は自分の形に似たバケモノを貫いている。

 時折、痙攣すようにその肢体が動いた。

 

 

「マリア……そ、それ何?」

 

「何だろうね?多分、あの神父様のと同じものだと思うけど」

 

「ぎ、ぎさま゛ぁ……エグゾ、ジスど…!!」

 

 

 エクソシスト?と、呟いた少女は、自分の体のそれを引き抜こうとする。

 

 そのとき、脳裏に不思議な言葉が浮かぶ。

 唱えよと、内の何かが囁く。

 

 まるでそれは神へ捧げる、祈りの言葉のようだ。

 

 

「堕罪を持つ者よ、呼吸し、生きよ。神の御許しの下、我は創生する___

 

 

 

 

 

 _____神ノ剣(グングニル)

 

 

 

 言葉と共に現れたのは、黄金の大剣。

 

 眩いそれは暗く立ち込める周囲の闇をかき消すように煌めいた。

 

 剣の鞘部分には、アバラをあしらったような突起が無数にある。

 

 大きな大剣は大槍のようでもある。自身の体の二倍はあると思われるそれを、マリアは軽々と持った。

 

 放たれた衝撃で地面に落ちたバケモノは悲鳴を上げた。

 少女は静かに歩み寄る。

 

 なぜこんな少女にと、バケモノは思った。同時に恐ろしい何かが、目の前に存在している錯覚に襲われた。

 

 

「さぁ、お前の罪を数えよう」

 

 

 そうして、マリアは数えていく。

 

 

 一、この街を傷付けた。

 

 二、街の人々を殺した。

 

 三、シスターを傷付けた。

 

 四、わたしの平穏をお前たちは壊した_____、

 

 

 

「よって罪人に刑を言い渡す_____死刑」

 

「う、ウルセェェェェェェェお前が死ねェェェェ!!!」

 

 

 伸びる爪を剣で弾き、少女は下から上に、一直線に切り裂いた。

 

 ごうごうと、血の雨が降る。

 

 既視感にマリアが目を細めていれば、横から肢体を掴まれた。

 なんだと思っていれば、隣にはシスターもいる。

 

 二人は仲良く、ティムに食われていた。

 

 

「キャアアアアア」

 

「シスター落ち着いて!」

 

 

 上空高く飛ぶティムは向けられるバケモノの猛追を交わしつつ、街の外れまで飛んで行った。

 

 途中で少し息を切らす神父から、連絡が入る。

 

 

【そのまま、お前らは保護してもらえ】

 

「誰に?」

 

 

 問い掛けた答えは戻って来ず、ぶつりと切れた。どうやら戦っている最中らしい。

 

 飛ぶ中ふとマリアは思い出し、エクソシストというバケモノの言葉を思い出した。

 

 

 少女自身、自分の中にある不思議な存在は昔から知っていた。

 

 それがずっとあの機械のようなバケモノの存在を、血の匂いを伴って知らせていたことも、神父の持つ銃が自分のこの剣と同じものであろうことも、理解できた。

 

 エクソシストとは、悪魔を倒す存在だ。

 それくらいならマリアも知っている。

 

 もしそうなら、神父はエクソシストなのかもしれない。

 

 そしてあの機械が悪魔で、自分は恐らく悪魔を倒す力を持っているのだろう。

 

 信じる、信じないの話じゃない。実際目にしたのだから、事実なのだ。

 

 でも少女はそれ以上に、許せないことがあった。

 

 

「エクソシストって神様に仕えるんでしょ!?わたし絶対イヤッーーーー!!!」

 

「ちょ、マリア暴れない……あっ!!」

 

 

 急に暴れ出したマリアはティムの歯からすっぽり抜け、落ちて行った。

 

 少女は自分のこの力が、エクソシストにならなければならないという強制力を持っていると、野生の勘で感じ取った。

 

 

 

 _____ドボン。

 

 

 マリアは海に沈もうとする中、憎々しいほど輝くマリス・ステラを見た気がした。

 水の中なのに耳には歌声が響く。

 

 

(絶対歌ってなんかやるもんか。祈ってなんてやるものか)

 

 

『ーーー♩』

 

 

(わたしを一人ぼっちであそこに置いた神様が悪いんだ)

 

 

『ーーー♩』

 

 

(わたしには、何も、ないんだから)

 

 

 少女の意識はだんだんと、掠れて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 ある日訪れた伯爵によって、海に臨した街は壊滅的な被害を受けた。

 

 

 その中で埋まっていた一人の少女。

 

 寄生型のイノセンスを持つ存在。

 

 

 あの後ティムに助け出された少女は、意識を取り戻した後も断固拒否の意を示した。

 

 結局そのまま教団へ連れて行くことはせず、クロスは少女の手を取った。

 

 

 

 今は生き残った子供たちとシスターたちに、マリアは手を振っている。

 

 そのままイノセンスを持っている存在を置いておくことはできない。

 また、伯爵はあの時突如現れたイノセンスに驚いた様子を示していた。

 

 大体イノセンスを持つもの同士、共感覚がある。

 

 こいつは同じ存在だと、力の強いものほどその傾向が強い。

 

 少女自身もあるようだ。

 また、寄生型には稀に特有にAKUMAを感じ取る者がいる。

 

 はっきりとではないが、何となく気配を察知出来るのだ。

 

 

 確かにイノセンスだ。

 しかし悪魔が発動直前まで感じ取れないイノセンスなど、それが伯爵となると、さらに疑問が残る。

 

 

 

「行こ、神父様!」

 

「…あぁ」

 

 

 少なくとも、この謎の存在はまだ教団に預けるべきではないだろう。

 

 己で歩める意志と強さを持った時、少女は自身の道を進めるとクロスは判断した。

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 乗り物に揺られる中、遠ざかる少女に星々は歌い掛ける。

 

 

 

 

 

 そして天に最も輝くマリス・ステラは、まるで少女の誕生を祝うように、優しく照らした。




マリア
神様嫌い。大食感。ゴーイングマイウェイで生きていく。
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