「わたしは神様が嫌い」   作:アビ田

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不確定な鏡合わせ

 昔、リナリーちゃんが言っていた。

 

 

『私にとって仲間が死ぬことは、「世界」の一部が欠けることと同じなの』

 

 

 だから危険なことはしないでと、泣きながら言われた。

 

 その時は確か、任務後だった。

 わたしが怪我をした子供を助けようとして、脚にかなり深い怪我を負ったんだ。

 

 側で一部始終を見ていたリナリーちゃんに、ひどく怒られたのを覚えている。

 

 

 

 わたしにとっての世界とは何だろう。

 

 

 目を閉じて想い浮かぶのは、みんなの笑顔。

 笑ってわたしの名前を呼ぶんだ。

 

 

『マリアさん!』『マリア』『バカマリア』『マリアちゃん』『ガキ』

 

 

 そんな彼らがわたしの世界の一部になっていることに気付いたのは、本当に最近のことだ。

 フォーにアレンくんの姿で叱咤(しった)というか…激励かな? ほんと不器用だよ、彼女って。

 

 でもその彼女の想う心が、わたしに変化をもたらすきっかけとなった。

 

 

 ちっぽけだったわたしの世界は、今では両手で掬えばこぼれ落ちるほどに大きい。

 

 生きるための理由にしていた薄っぺらい「守る」という感情は中身を伴って、確かなものになっている。そんな気がする。

 

 ねぇ、神さま。覚悟ってきっと必要なのね。

 自分を曲げる覚悟、それはきっと()()()()()覚悟でもあるんだ。

 

 誰かを、大切な人をもう失いたくない。

 

 わたしに笑いかけてくれたシスターは、もういないけれど。

 それでも、進むよ。

 

 

「守る」ための力、力がなきゃ何も守れない。

 

 だから神さま、言ってやるわ。

 理不尽で大っ嫌いなあなたに、自分の何もかもをかなぐり捨てて言ってやるわ。

 

 私にとってそれは、自分を殺すことと同義なのだから。

 

 

 

 

 

 ここは思考の中なのだろう。

 

 意識すれば祭壇が現れ、目の前に聖母マリア像を(かたど)ったステンドグラスが目に入る。

 歩く度に目に入る透過光の具合が変化し、虹彩が変わる。

 

 そのまま引き込まれてしまいそうだ。

 わたしは祭壇の前で膝をつき、両手を握った。

 

 

 嫌いだ。

 

 お前なんか、理不尽なこの世界を創った神なんか、大嫌いだ。

 

 

 

「神よ、大いなる神よ。我が魂があなたのままにあらんことを。愚かな魂に、神の救済を。神よ、神よ、我らが神よ。(マリア)があなたに祈りを捧げます」

 

 

 

 その瞬間強い光が全身を包もうとしたところで、目の前にあった十字架の棺が鈍い音を立てて開いた。

 

 真っ黒いミイラだ。

 

 けれど二つの顔のくぼみには、人間界には存在し得ない鉱石のごとき輝きを放つ、彩度の高い紅色の眼球が覗いている。

 あまりに綺麗で、場違いに魅入ってしまった。

 

 

『クスクス、クスクス』

 

 

 ミイラは────いや、あいつだ。わたしに『愛を知れ』と言った、アイツ。

 

 ドス黒いミイラの声でわかる。

 年齢や性別さえ感じさせない不思議な声は、アイツしかいない。

 

 楽しそうに笑って、呆然としたままのわたしの腕を取り、そのまま棺の中に引きずり込む。

 抵抗してもアイツは笑うだけだ。

 

 

『神はあなたをのぞみ、ほっしている。あァ、嗚呼────! じゅんすいで何も知らないむく(、、)なオンナ!! でも本当はまっ黒。いくらおとしても、穢れは取れない』

 

「ア…ンタ、何も……の」

 

『ふふ、ふふふふふ。えぇ、いいわ。あなたが神の御前で晒した眇眇たる死と、「愛」を知ったほうびに教えてあげましょう』

 

 

 ゆっくりと眼前の唇が動く。

 くち…びる? 

 

 

 

『あなたは私、私はあなた。堕罪をもった穢れたバケモノ』

 

 

 

 ミイラにはいつのまにか瑞々しい肉と皮が付いていた。

 棺の中だというのに、永遠と闇の中に沈んでいる傍らで見えたのはわたしだ。

 

 

 ────()()()? 

 

 

「……何でっ、え…??」

 

 わからないけど、自分の奥底でジクソーパズル揃っていく感覚がする。

 

 

『最初から最後まで、私はあなた。知らないフリはもうゆるされない。さぁ「愛」を知りましょう、「愛」を。あい、アイ』

 

「っ…愛? そんなの知って何になるのよ…」

 

『もっと知りましょう。もっと私を知りましょう。私は、わたしは、私は_____』

 

「わたしは?」

 

『私は』

 

「わたしは…」

 

『私は』

 

「わた、しは」

 

『わたしは』

 

「わたし」

 

『わたしは』

 

「私は」

 

 

 

 ──────そう、私。私の名前は、

 

 

 

 

 

 

 

Ave Maria(アヴェ・マリア)

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ、そうか。彼女は()なんだ。

 

 彼女が何者であるとか、そういった次元にない。

 わたしと()はイコールの存在。

 

 ()()()だから私なのだ。()だからわたしなのだ。

 

 

「そう、そうだ。アヴェ・マリア。それが私の名前。どうして、どうして忘れてたんだろう」

 

 

 瞼を閉じて見えてくるのは、懐かしい故郷の景色。

 

 教会の祈りの時間、子供たちは大いなるマリス・ステラの星に向かって祈っている。

 その光景に目を細め、風に気持ちを託し、子供たちを優しく包む。

 

 

『愛』だ。

 

 世界は『愛』に満ちています。

 

 一雫も愛を零したならば、それは罪となるでしょう。

 愛とは尊いものであり、愚かな人間たちの隣人です。

 

 

 さぁ、もうすぐ夜が来ます。

 輝く星の下、『マリア』は人々に慈しみをもって笑いかけましょう。

 

 

 

 アヴェ・マリア、おはようマリア。

 黄金に煌めくマリス・ステラが私を見つめています。

 

 堕罪を持ちし女の姿を、神に伝えるように照らしています。

 

 

 

 

 

「あぁ、吐き気がする」

 

 

 

 

 

 *****

 

 新たに現れたレベル3の奇襲により、アジア支部はさらなる混乱を招いた。

 

 AKUMAの目的はアレンではなく、ハートの可能性のあるマリアの奪取とみられる。

 バクは守り神の力を使い防ごうとしているものの、一向に事態は好転しない。

 

 既に死傷者は数え切れないものとなっている。

 これ以上仲間を失うわけにはいかない。

 

 

「…ウォン、私が内側から囮となって隔離する。犠牲者をこれ以上出すのは、支部長として許されない」

 

「し、しかしバク様ッ!!」

 

「ウォーカーの方もどうなっているか分からない今、私たちで動くしかあるまい。それに…フォー(やつ)が生きて帰った時、この有様では示しがつかんだろう」

 

 

 そう言ったバクの顔には、強い意志が宿っていた。

 気絶させたマリアを背負っていたウォンは口を噤み、下を向く。

 

 

「外の対処は任せた」

 

 

 他のメンバーと逆方向に走り出したバク。

 その手は震えることなく、しっかりと握られていた。

 

 自分と彼らの様子をじっと見つめていたAKUMAだけを壁の中に閉じ込め、辺りは不気味なまでの静寂に包まれる。

 

 側にいた蝋花(ロウファ)は「バク支部長!」と叫ぼうとして、視界の端に動く何かを見つけた。

 

 

「マ、マリアさん…!?」

 

 

 いつのまにか気絶していた女が立っている。

 

 AKUMAから逃げていたため彼女の靴は片っぽ脱げており、邪魔だと言わんばかりにもう片っぽも脱ぎ捨てた。

 

 ウォンも背負っていた女が急にいなくなったことに驚く。

 

 ひたりひたりと、少し湿気のある地面に彼女の足が触れては離れていく。

 白い肌がやけに地下特有の暗さを混じえて浮いている。

 

 白く浮き彫りにされた姿は、閉じられた壁へと近づいていった。

 

「………なきゃ」

 

 覗いたマリアの目はいつもの黒曜石ではない、真紅の血色である。

 紅をさしていないはずの血をささやかに塗ったような口元が動く。

 

 

「たたかわ、なきゃ」

 

「だ、ダメです! マリア殿、あなたはイノセンスが…っ!?」

 

 

 その瞬間、周囲の空気が震えた。

 イノセンスが、マリアと共鳴している。

 

 

「まもらなきゃ」

 

 

 明らかに周りの声が届いていない。

 いつもバクをからかって爆笑していたフォーの様子を、優しい目で見ていた彼女とはどこか違う。

 

 まるで仲間たちのことが見えていないようだ。──いや、明らかに見えていない。

 

 蝋花はマリアの名前を叫ぶ。

 しかし反応はあらず、白い手が壁に当てられた。

 

 するとAKUMAが通って来たものと同じ扉が出現し、女の肢体を呑み込んだ。

 

 その様子を見ていることしかできなかった蝋花は、ふいに不気味な笑い声を聞いた気がした。

 

 

 

『クスクス』

 

 

 

 

 

 *****

 

 

「は……ぐっ…」

 

『にんげン(ごと)き勝てナィ、馬鹿だネ ぇ』

 

 

 AKUMAはバクの身体を少しずつ嬲り楽しんでいた。敢えて能力は使わない。

 

 このまま傷を増やしていき、この人間の全身が切り傷で覆われて、真っ赤に染め上げて死ぬその瞬間を想像し、哄笑する。

 

 

『ahhハハ、あひゃ、アハ』

 

 

 その異常性にバクは歯噛みし、AKUMAの攻撃を躱した所で鳩尾に蹴りが入り呻く。

 人間とAKUMA、勝てるはずがない。

 

 それでも支部長として、このアジア支部を指揮する者として、守るために戦う。

 

 

「ぐあっ!!」

 

『ア〜?』

 

 

 AKUMAが楽しむあまり力加減を間違えたことで、吹っ飛んだバクの身体は壁にめり込んだ。

 骨の折れる音がし、その悲鳴を何とか飲み込もうとする。

 

 痛みを堪えようとする人間をつまらなさそうにAKUMAは見て、180度首を捻る。

 

 

『何でェ、なんでなんで、なんでなんでもッとサケんで、苦しんで、泣き喚けよォォ、ォォォォオオ!!!」

 

 

 金切り声とともに異形の肢体が一直線にバクめがけて突進し、数十倍も肥大化した腕を振り上げる。

 当たれば一瞬で肉ミンチと化すだろう。

 

「クソッ…!!」

 

 だが折れた箇所が悪かったのか、バクの身体は全く動かない。

 

 逃げようともがく男の姿を捉えAKUMAが恍惚と笑んだところで、その合間を挟むように扉が現れた。

 

 

『……!』

 

「みつ、けた」

 

 

 現れたのは女だ。闇の中に映える、生白い肌を持った女。

 

 突然の来訪者にバクは瞳を大きく開ける。

 周辺は自分の能力で塞いだはずだ。バクが死んだとしても一度塞げば壁も戻らない。

 

 マリアは果たして、このレベル3のAKUMAがアジア支部に進入した扉と似た扉から入って来た。

 

 

 つまり────これは罠。

 

 

 

 AKUMAの指すご主人はノアであり、マリアがアレンと同じ“とある存在の関係者”だとして狙われているのか、はたまた純粋にハートの可能性として狙われているかは不明だが、今この状況は確実に彼女を殺す、または攫うために作られている。

 

 

「マリア、下がりなさい!!」

 

『邪魔ダァよ、おまえ』

 

 

 もっともなく這いつくばりながらも、バクは術を発動しようとしていた。

 だがいち早く気付いたAKUMAが避け、バクの背中を壊れない範囲で踏み付ける。

 

「あ゛ぁっ…!」

 

 洞窟の中でさらにこだまとなって悲鳴は重なる。AKUMAの口角は歪に上がった。

 

 

「逃げ……が、あ゛っ!! ………にげろ、マリア!!」

 

『アーア──アハぁハ!!』

 

 

 悲鳴。笑い声。悲鳴。笑い声。

 

 

 それが渦を巻いて、女の脳に直接注がれる。

 マリアは耳から髄液が溢れていそうな気がして触れてみたが、別に濡れた感触はない。

 

 ただ真っ黒かった思考が、だんだんとクリアになっていく。

 

 

「……あ、れ?」

 

 

 そういえば、マリアは先ほどウォンに不意打ちを食らって気絶したはずだ。

 何故自分はこの場所にいるのだろう? 

 

 何か暗い場所に沈んでいくような夢を…夢? 

 でも近い何かを見ていた。

 

 

 今は不気味なほど彼女の心は静かだった。

 欠けていたジクソーパズルが足され、自分が揃った感覚である。

 

 パズル自体は何の色もない、真っ白なものなのだ。

 

 

 目の前にはレベル3、そして瀕死のバクの姿。

 

 

「守、らなきゃ。────そうだ! 守るために、私は祈ったんだ…!!」

 

 

 マリアの脳裏によぎるのは祭壇の目の前で、神に誓いを立てた自分の姿。

 

 すると彼女の肋付近から枝のようにイノセンスが突き出て、その肢体を覆っていく。

 繭の形を成したそれは、AKUMAの元に近づいていった。

 

『アー…?』

 

 AKUMAは幼子のように小首を傾げて、目の前の球体を見つめている。

 

 

『お迎え、キィたヨ。ごしゅじん様待ってるゥよ。ぱーてぃのお誘ィだぁよ』

 

 

 ボコリと波打つように球体が一瞬肥大化したと思えば、次第に小さくなっていく。

 段々と形を成していき、その姿があらわになる。

 

 

 手に握られた黄金の剣は、女の腹ほどの高さしかない。

 形状はレイピアと酷似しており、柄の部分には肋の形が模されている。

 

 女の頭部は黒いベールで隠され、赤い口元しか見えない分、やけに香をもって目立った。

 

 細い肢体を彩るのは黒いドレス。

 装飾はさほど目立たず、白い方脚が際どい部分から出ている光景は、黒のコントラストと相まって目を引きつける。

 

 

 マリアは愛しいものを見るかのように微笑んで、AKUMAに歩み寄る。

 

 

「誰にお願いされて来たの?」

 

『ごしゅじんサマ、会いたいッテェ ぇ。あいた、イっテ』

 

「ふふ、そうなのね」

 

 

 ご主人、その存在が誰なのか、マリアには見当が付いている。

 

 最近めっきり現れていないノアの少女。

 パーティーという単語が引っかかるが、恐らくマリアのイノセンスを復活させようと企んで、AKUMAを寄越したのだろう。

 

 

 これがパーティーで遊ぶための前戯なのかはわからない。

 そもそもロードの思考など、完全に読めたことは一度としてなかった。

 

 でもあちらが邪魔をするというなら、彼女も戦うしかない。

 

 

『かってルかな? 勝ってルゥかぁナ?』

 

「さぁね」

 

 

 AKUMAがバクの元から離れ、一気に駆け出す。

 不気味な笑い声も意に返さず、マリアは神ノ剣(グングニル)を握る。

 

 

『ハァァ!!』

 

 

 巨大な手足を振るい、AKUMAは女の肢体を潰そうと狙う。

 マリアは大きさに見合わない速さの攻撃を避け、レイピアの形状をした神ノ剣を構える。

 

 繰り出される技は、大剣と比較にならない神速の突きによる攻撃。

 

 

『…!!』

 

 

 避けようとレベル3は後方に下がったものの、巨大化している手足はまさしく自分からマトを大きくしているようなものだった。

 次々と目にも止まらぬ速さの攻撃に貫かれ、ボディから黒い血が吹き出す。

 

 

『ギャアア、アアアアアア、ア、ァ』

 

「そうね、痛いねぇ」

 

 

 不思議と、マリアはもう血の匂いを感じなかった。

 

 反対に自分の何かが消えて、混ざった。そんな気がした。いや、元どおりに直ったような感じだろうか。

 でもその代わりに聞こえる。

 

 

 

【痛●●い゛いだ●、い●●●、●●●●●】

 

 

 

 AKUMAの魂の声が、彼女に救済を求める。

 

 エクソシストとして、アレンのようにAKUMAやノアに感情移入をするのは愚かなことだろう。

 それでも、マリアはそこに一種の自分の守ろうと決意した根源を見出していた。

 

 AKUMAになったシスターの姿。彼女の最期はまるで自分に救いを求めているようだった。

 

 或いは、神に救いを求めていたのかもしれない。

 

 

 エクソシストはAKUMAを壊す存在だ。

 マリアはその上で守ろうと思う。

 

 人間をAKUMAから守り、同時に苦しみの中から壊すことで魂の解放を願う。

 それも一種の守りだ。だからこそ、魂の救済をしなければ。

 

 

 この世界はだって、苦しみだらけだ。

 

 

 マリアは苦しみの中で守り、救済し、愚かな聖戦を終わらせたいと願った。

 それが自分の願いなのだと、ようやく自覚した。

 

 聖戦の終結。それがアヴェ・マリアの望むべき終着点なのだ。

 

 

 

「フゥー……」

 

 

 静かに息を吐き、マリアは剣を強く握りしめる。

 そして跳躍し、悲鳴をあげるAKUMAに頭上から串刺しにした。

 

 

 

「ゆりかごの中で、おやすみ」

 

 

 

 AKUMAは微笑んで、塵となり消えていった。

 

 


 

【故郷】

 

 月に一度の石碑の前での合唱会。

 

 子供たちは夕陽に照らされ紅く輝く海の前で歌いながら、神に祈りを捧げる。

 まるで風が子供たちの祈りを空へ届けるように強く吹いて、上へとのぼっていく。

 

 

「ねぇシスター、今声がしたよ! なんかね、女の人の声!」

 

「オレも聞いた! ざわざわぁって吹いて、ごぅーって突き抜けてった!」

 

「何よそのたとえ〜」

 

 

 子供たちが大騒ぎする中、一番の老シスターは笑って応える。

 

 

「きっと神様がみんなの姿を見て微笑んでいるのよ」

 

 

 その言葉に先ほど豪快なたとえをした少年が口をひきつらせる。

 

 

「神さまが見てんのかー? じゃあ悪さできないじゃん…こんな風に!」

 

「きゃー!!」

 

 

 隣の少女のスカートをガバッとめくり、得意げに笑う少年に少女の怒りの一発が決まる。

 

 喧嘩はおよしなさい、と老シスターは苦笑いを浮かべながら、ふとこの教会が崇める神様と同じ名前を付けた少女のことを思い出した。

 

 

 少女がここを出て行ってから、もう10年以上が経つ。

 

 しかしきっとあの逞しい少女なら大丈夫だろうと、老シスターは瞳を閉じた。

 少女の今を想い、祈りの言葉を捧げる。

 

 

 

「神の母聖マリア様、

 罪深い私たちのために、

 今も、死を迎える時もどうかお祈り下さいませ。

 

 ────そしてどうか我々を、見守り続けてください」

 

 

 

 その言葉に乗せて、ごうごうとまた風が吹く。

 

 

「…今日のマリス・ステラは、なんだか一段と輝いている気がするわ」

 

 

 地平線の上に覗く一段と煌めく星。

 妖しくも、美しく輝くマリス・ステラは、今日も数奇な運命にある少女を見つめているのだ。

 

 

 

 

 

『人々が愚かに生きる中で、貴女は知ることでしょう。

 

 或いは人間の業を。或いは神の慈悲を。

 

 その中で貴女は生き、聖戦のピリオドを打つ存在となるのです。

 

 あぁマリア、愚かなマリア。

 

 戦い苦しみの中で貴女は自分を知り、悩み、そして目覚めるでしょう。

 

 罪深き己の堕罪を知り、この聖戦を終わらせた時、神は貴女に赦しを与えることでしょう。

 

 

 

 さぁ戦いなさい_____マリア』

 

 

 

 

 

 星は今日も、やさしく輝き続けている。

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