「わたしは神様が嫌い」   作:アビ田

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閲覧いつもありがとうございます。

方舟編脱しました。やっぱ推しキャラ出せると意欲が上がる。ストーリー展開も薄っすら組み込めて来たので焦らず執筆頑張っていこうと思います。相変わらずお話暗いのでごめんなさいと言いつつも、お付き合い頂ければ幸いです。


ぼくらは仲間

 ロードが倒れた後、マリアは自力で立てなかったため、チャオジーに支えられて歩いた。

 

「…何だったんスかね、さっきの」

 

 さっきの、とはロードがアレンの名前を呼んだことだ。

 最後に聞こえた少女の声は、やはりマリアにしか聞こえなかったようだ。

 

 アレンに攻められてばかりだったラビは、この件を持ち出しここぞとばかりに反撃する。

 

「アレェーン、お前あの子に一体何しちゃったんさぁ」

 

「何もしてません。女性たちがいる前で変な言いがかりはよしてください」

 

 アレンの肘打ちがラビの鳩尾に入る。

 痛みで赤毛の少年が「ぐぬおっっ!」と苦悶の声をあげた時、ふとマリアと目が合った。

 

 息を飲んだラビはとっさに視線をそらしてしまう。先の今で、とんでもなく気まずい。気まず過ぎる。

 

「そう言えばロードが消えたけど、扉の方は残ってるのかしら…?」

 

 リナリーの呟きに、全員がハッとした。

 一同は急いで塔の天辺に向かう。

 

「俺が先に上の様子を見てくるさ」

 

「お願いします、ラビ」

 

「……なら、私も一緒に行くわ」

 

「え゛っ」

 

 ラビはチラッとアレンに助けを求めたが、向こうは「僕がリナリーを支えるとして、チャオジーは手負でマリアさんを抱き上げるのは無理だと思いますから…」と、遠回しに断った。

 

 心の声で表すなら、

 

(アレン、アレンよヘルプ!!)

 

(せっかくの機会なんですから、とっとといつも通りに戻ってこい、このウサギ野郎)

 

 だろうか。

 

 

「危ねぇからここで待ってて欲しいさ…」

 

「そう言って、本当は私が重いから持ちたくないんでしょ」

 

「いや、全然重くねぇって!!」

 

「じゃあ、持てるね?」

 

「………はい」

 

 観念した少年は、マリアの体を抱き上げる。槌を使って上がる以上、おんぶだと落ちるかもしれない。右腕、それと左肩を負傷しているマリアは今、上手く手に力を込めることができない。

 結果、抱っこの形になる。少年の片手が女の膝裏に回って、もう片方の手が伸縮する柄を握る。両足は下の円柱を足場にした。

 

 それでもマリアからすれば上体が不安定だ。そのため少年の頭に抱きつく。

 

「フゥー……」

 

「大丈夫、ラビ? 顔が険しいけど…」

 

「ちょっと内なる俺と戦ってるだけさ。……つか、何笑ってんさぁ、アレン!」

 

「いえ、別にぃ」

 

 アレンがこれでもかとニヤニヤしている。今日でいったい、いくつのゆすりネタを得られたかわからない。

 

 

「じゃあしっかりつかま……いや、しっかりつかまないでくれさ。行くぞ」

 

「うん………え?」

 

 矛盾したブックマンJr.の一言の後、槌が動き出す。

 

 改めてマリアを持った少年の感想だが、身長の割にやはり軽すぎる。寄生型はアレンのように大食らいが多く、マリアもその手だ。

 しかし体に入れた分のエネルギーが、イノセンスにほぼ取られている。

 

(アレンは分析した感じ、身長や体重、あと筋肉量も加味して、全体のバランスが取れてたけどな…)

 

 人間の身体的情報を読み取るのも、ブックマンであればお手のもの。

 

(……肉がないから胸もねェんさ…)

 

「ラビ、今失礼なこと考えてない?」

 

「はははは、ちょっと空が青いなぁ〜って」

 

「ふーん、真っ暗な天井がラビには青空に見えるんだ。その目玉大丈夫? 私がくり抜いて、新しい目をつけてもらうよう科学班に頼んであげようか? ねぇ?」

 

「大変申し訳ございませんでした」

 

 どうせ胸のことだろう、とマリアは思った。

 こうも頭に押しつける形になれば、さすがに思考がそちらに向かってしまうだろう。相手はしかもティーンであるのだし。あからさまにやましい視線は感じないので、彼女もそれ以上怒ることはなかった。

 

 今はそれより、別に解決しておきたい問題がある。

 

 

「あのさ、別に怒ってないから。さっき額を地にこすりつけて謝られもしたし……」

 

「………でも、よぉ」

 

 操られていたとはいえ、ラビがマリアを傷つけてしまったことは確かだ。

 さらにマリアの方はなるべく傷つけないように立ち回っていたというのに。

 

 その感情の出所を、少年は理解している。仲間へ抱く感情とは違う。

 

 ブックマンの後継者である少年にとって、その感情は本来不必要だ。

 それでも、アレンたちに仲間意識を抱いているように、この感情もまた、彼にとって切り捨てるには大き過ぎるものになっている。

 

「あぁ…めんどくさい。そんなうじうじしてると、ロードがアレンくんにしたみたいにちゅーしちゃうぞ?」

 

「俺を……殺す気か?」

 

「……し、死ぬほど嫌なの? ごっ…ごめん、冗談だから」

 

「………」

 

 に、に…………ニブチンッ、ウワァァァァ!! ────な感じで、ラビは心の中で絶叫した。

 

「じゃあ教団に戻ったら、そっちの手持ちで美味しいものを大量におごる、でどう?」

 

「それで俺のやったことが釣り合うと思えねぇけど…」

 

「それでも足りないと思うなら、さらに美味しいものを私に食べさせてくれればいいから! …あ、お酒でもいいよ? 種類は甘いのでお願い」

 

「……分かったさ」

 

「うん、じゃあ仲直りね!」

 

 嬉しそうに笑った女に、少年は天を仰いで──。結構、悪い気分じゃない。

 

 完全に立ち直ったとは言えないが、それでもブックマンJr.の心は先ほどよりはいくらか軽くなっていた。

 

 

 

 そうこうしているうちに二人は上にたどり着いた。

 

 幸いにも、まだロードの扉は残っている。

 

「扉が残ってる……ってことは、もしかしたらロード・キャメロットはまだ生きて……」

 

 考え込むラビの隣から離れ、剣を支えにマリアは扉の前に立つ。

 

 触れれば冷たい感触がして、手のひらの温度を奪っていく。頬もつけようとしたが、仲間がいる手前、どうにかそれは堪えた。

 無機物であるはずの扉が、脈を打っている気がする。

 

 不思議と一つの確信がマリアの中に生じる。

 

 

(ロードちゃんは生きてる)

 

 

 思わず涙がこぼれそうになる。

 

 その間、ラビがアレンたちに上が安全であることを伝える。

 そして柄につかまったアレンたちを確認し、慎重に引き上げ出した。その時ふと、あることを思い出す。

 

「そういやさぁ、あのロードってノア、アレンのことすげぇ好きみたいだったよな」

 

「……うん」

 

「それに、マリアのことも気に入ってる様子だったな。俺がその……やらかしちまった時も、ずっとマリアの側にいたって、リナリーたちから聞いたさ」

 

「ロード、ちゃんは…」

 

「……()()()?」

 

 女の視線は扉に向かっており、ラビの方を振り返ることはない。

 

 何かあの少女に思うところでもあるのだろうか。

 ラビは視線を下に戻そうとして、そこで引っかかりを覚える。

 

 

 その時ラビが思い出したのは、巻き戻し町の一件である。

 あの件にマリアもファインダーとして同行していた。

 

 事件後のアレンやミランダの報告書には、その時に起きた内容が詳細が書かれている。

 ラビもブックマンとして、ノアが表舞台に現れた巻き戻しの事件は、詳しく調べた。

 

 その町で現れたのが、ロードというノア。

 

(…待て、何か引っかかる)

 

 ブックマンの記憶は仔細に、それも膨大にある。

 その中で、ミランダの調書に気になる点があった。

 

 

(ロードが捕まえていたファインダーの女性=マリアは、リナリーと同じく人形のように着飾られていたとあった。それも、その女性にずっとロードが抱きついていた──と)

 

 

 まるでパンドラの箱を開けてしまったような。いや、さすがにそれは大げさだろうか。

 

 ともかく、得体の知れない“何か”を感じ取ったラビは、さらに思考を進める。

 

 

(ロードが普通の人間、それも初めて会ったファインダーに抱きつくか? ティキ・ミックの件もそうだ。スーマン・ダークから得た情報の人間はファインダーだろうがエクソシストだろうが、全員殺害されている。

 そしてそのティキ・ミックよりもロードの方が残忍性が高い。今までの件を鑑みれば一目瞭然だ。

 

 人間を()()と同等にしか見ていない。

 アレンの場合はエクソシストだ。普通の人間じゃない────、

 

 

 待て……まさか、マリアはロード────ノアと、何かしらの関係があるのか?)

 

 

 瞬間、ぶわっと少年の額から冷や汗が吹き出た。

 

 ノアの関係者は少なからずいる。

 伯爵にAKUMAのボディに必要な素材(ニンゲン)を提供する連中が、酷なことにもいる。それも、この世界に相当な数。

 

 大抵は悪行が露見すれば、教団によって制裁を受ける。

 ケースによっては、伯爵に見切りをつけられ、AKUMAに殺される事例も多い。

 

 そう。千年伯爵にとって、関係があってもただの人間なら、代替が利くものに過ぎない。

 

 例外なのは、裏切り者のノアの協力者と思われるクロスなどごく一部だ。

 

 そんな中で、ロードの執着心さえ感じる行動はやはり、異常だ。

 改めてアレンという存在に疑問が起こる傍ら、マリアにも疑念が湧く。

 

 

 孤児で教会に拾われ、その教会すら町ごと伯爵に壊され、さらにイノセンスを壊された過去。

 

 パンダ爺(ブックマン)が語っていた、イノセンスがマリアに見せた異常な執着。

 

 最近で言えば、アジア支部に出現したティキが送ったAKUMAとは違う別のレベル3。

 

 

「………!!」

 

 

(そうだ…! アジア支部に現れたもう一体のAKUMAは、突如出現した“扉”から出てきた。同様の扉はアジア支部長が壁にこもりAKUMAと戦っていた時も、マリアが中に入ろうとした際に現れたのを、何人もの人物が目撃している…!!)

 

 

 冷たい空気が辺りを支配する。

 槌はどんどん収縮し、もうすぐアレンたちが来る。

 

 マリアがロードと何かしらの関係があることは確実だ。

 そう判断したラビは、でも、と呟く。

 

「仲間、なんさぁ」

 

 マリアは自分の命をかけて、ラビが目覚めることを信じた。

 確かな信頼がなければ、できる行動ではない。

 

 

「あぁ、ったく……」

 

 到着した三人を見ながら、ラビは頭をかく。

 

 マリアが何者であれ、まず自分が信じないでどうするというのだ。

 

 

「さ、早く行こうぜ。ここもいつ崩れるかわからねぇし」

 

「…ぁ、はい」

 

 アレンはラビの声に反応したものの、その視線は未だ下に釘づけだ。

 

「………」

 

 沈黙したアレン・ウォーカーは、直後駆け出した。

 それを慌ててリナリーが止める。

 

「アレンくん!?」

 

「っ…下には、まだティキ・ミックとレロが…!」

 

「でも…」

 

「ティキ・ミックはもう神ノ道化(クラウン・クラウン)の能力でただの人間になった! それに…彼にも、帰りを待っている人間がいるんです!!」

 

 ティキ・ミックは、ノアとしての裏の顔と、人間としての表の顔がある。

 

 残虐性の反面、鉱山で働きバカ騒ぎする仲間がいる。

 アレンたちが表のティキと遭遇したのは、クロウリーが仲間に加わった直後だ。

 

 アレンがポーカーでパンイチにした連中の一人。トランプをアレンに投げたビン底メガネと同一人物である。

 

 ノアの中でも珍しい、人間臭さを持つティキに、アレンの心は揺らいでいる。

 これがただ残虐なだけのノアだったら、切り捨てられたかもしれない。だが「人間」のティキ・ミックをアレンは知っている。

 

 その男が自分のイノセンスを一度壊した奴だとしても、それでも、助けたかった。

 

 

 リナリーとラビは困惑したが、許容する。

 唯一、チャオジーが食ってかかる。

 

「何で助けるんスか? だってアイツらはAKUMAとグルになって、アニタ様やみんなを殺したのに……」

 

「チャオジー…」

 

「アレンさんだって、アイツにイノセンスを壊されたんでしょ? どうして「助けたい」なんて言うんスか…!?」

 

 重い空気が流れる。

 リナリーは気まずさのあまり視線をそらした時、女の後ろ姿が目に入った。それが、ゆっくりと振り返る。

 

 

「アレンくん。君って、確かに私より甘いね」

 

「…彼らはノアであるけれど、僕らと同じ人間でもあるんです」

 

「だから? だから助けるの?」

 

 足を引きずって、剣を杖代わりに一歩一歩、マリアはアレンと距離を詰める。

 

 

「連れて戻ったところで、ノアは中央庁に拘束される。尋問と拷問。あぁきっと、死を迎えるより凄惨な未来が待ち受けているでしょうね。それでも、助けるの?」

 

 そして、二人が向かい合う。

 

 

 確かにアレンの考えもわからなくはない。しかし実際問題、マリアは教団の闇を見たことがある。咎落ちがその例だ。

 

 それに、間もなく伯爵が助けに来るだろうと推測している。

 

 ロードはノアのメモリーは破壊されたはずのティキ・ミックを抱きしめ、エクソシストに怒りを見せた。

 

 ノアではなくなったとわかった上で、愛情を見せていたのだ。

 

 ノアは、家族を唯一に愛する。

 

 それを考えれば、心配はいらないと判断した。

 

 

 それより今一番に考えるべきは、自分たちの安全である。

 

 早くしなければ、本当にみな方舟の消滅に巻き込まれる。

 

 

「アレンくん…」

 

「アレン…」

 

 リナリーとラビは唇を噛むアレンを見つめる。二人は静かに、少年の言葉を待つ。

 

「僕は、僕は……!!」

 

 アレンの対AKUMA武器、神ノ道化はノアのメモリーだけを殺し、人間自体は殺さない。

 ヒトもAKUMAも────ノアでさえも、救済を望む。そんな少年の感情は、荒波に飲まれたが如く揺れ動く。

 

「僕はそれでも、ティキ・ミックを助けに行きたい…!」

 

 どんな奴であれ人間である以上、目の前の命をみすみす見逃すことは、アレンにはできなかった。

 

 だがその時、頬に衝撃が走る。

 

「………ッ!?」

 

 マリアがアレンにビンタを食らわせたのだ。

 

 何をするんですか! ──とアレンは言おうとしたが、既視感のある瞳に睨めつけられ、動けなくなる。

 いつもは柔らかな色を宿す黒い目が、冷たい色を孕ませている。

 

 

「…ははっ、そうですよね…。あなたも、師匠の弟子でしたもんね」

 

「私が言えたものじゃないけれど、君のは甘過ぎる。甘過ぎて自分だけじゃなく、周りさえ傷つけている。考えなよ、アレン・ウォーカー」

 

「………すみ、ません」

 

「…いいよ。後でお返しに一発叩いていいから」

 

「それは死んでもできませんしやりません」

 

 

 マリアに腕を引かれたエレンは、その後に続く。

 けれどそれでも一瞬立ち止まって、後ろを振り返ろうとした。ほかの三人はすでに、扉の前にいる。

 

「おいで、アレン」

 

「────ッ?」

 

 優しささえ感じる女の言葉が、少年の耳に入って、脳に刻まれる。

 唾を飲み込んだアレンはのろのろと前に進み出した。

 

 

「……っ、アレンくん! マリア!!」

 

 

 だがその瞬間、アレンがいた真下から床を突き破り、ムカデの足のような触手が複数現れた。

 驚きに固まった少年の肢体を、それが絡めとる。

 

 とっさにマリアの手を離そうとしたが、遅かった。

 

 触手は少年の体を這って女にまで伸び、二人は暗闇の底へ吸い込まれる。

 

 そして一瞬の静寂が、彼らに訪れた。

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