「わたしは神様が嫌い」   作:アビ田

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知らない方が幸せな時もある。


ぬかるみに足がハマった

「はぁ〜……」

 

 穏やかな朝。しかし起きて早々、昨日のことを思い出した女は顔を覆った。

 クロスの前で子供のように大号泣。20代の大人が何というみっともなさ。

 

 自業自得だが婦長にも怒られたばかりなので、気分が憂鬱である。

 

「こうなったらヤケ食いしかない…」

 

 そうと決まれば食堂だ。

 病室の扉を開けたマリアはしかし、固まることになる。

 

 見知らぬ少女が、しかも中央庁の服を着た少女が、無表情で立っている。

 閉じられようとした扉は、少女が靴を滑りこませたことで防がれる。

 

 

「おはようございます、アリア殿」

 

「…お、おはよう」

 

 見たところ、少女の年齢は10代半ば。髪は淡いレモンイエローで、ゆるく巻いている。腰ほどまであるそれは一つに括られていた。

 

「本日からルベリエ長官の命により、貴女の監視をすることになりました。(わたくし)はテワク捜査官。以後お見知りおきを」

 

「……なぜ私が監視されるのか、聞いてもいい?」

 

「貴女は現在、ノアと関係がある可能性の人物として、疑われています」

 

「ゴフォッ!!」

 

 いけないマリアったら。思わず咳き込んでしまった。

 まぁ、怪しまれて然るべき出来事が起こり過ぎているので、仕方あるまい。

 

 

「巻き戻しの街に出現し、また、アジア支部襲撃事件でAKUMAの一体を仕向けた人物である『夢』のノア。彼女の言動から、以前から貴女を怪しむ声が上層部でありました。しかし、今回のクロス元帥やアレン・ウォーカーの一件を経て、貴女への疑念もさらに強まったのです」

 

「…つまり、元帥とその弟子がノアと関わりがあるから、私もそうだろ、って?」

 

「少しでも可能性があるならば、というのが長官のお考えです」

 

「えっと……ノアの関係者、ってことで疑われてるんだね?」

 

「はい」

 

「…そっか」

 

 

 “()()()”程度で疑われているのならまだいい。

 

 

 クロスが言ったように、彼女だって千年伯爵やロードの言動を考えれば、わかっていたのだ。

 

 けれど認められない。「マリア」はエクソシストだ。

 自分で選んだ道を否定したくない。仲間を裏切るような真似をしたくない。

 

 それに本当にそうなのか、疑惑半分だ。確固たる証拠がまだないのだから。

 

 

「あと先に言っておきますが、貴女の監視理由は表向きでは「ハートの可能性があるため」ということになっています。私がその監査兼護衛の立場です。本来の理由は中央庁でも一部の者しか知りませんので、くれぐれも口外なさらないようにお気をつけください」

 

「随分とややこしいなぁ…」

 

「現在はクロス元帥とアレン・ウォーカーの件でも手一杯なのです。さらに貴女への疑念も加われば、教団は混乱を極めます。何より貴女の『ハートの可能性』もまた、強くなっているのは事実です」

 

「……勝手に私の意志と関係なく、イノセンスが動いたから?」

 

「はい。アレン・ウォーカーやリナリー・リーの例で挙げますと、エクソシストが適合者を守るという事例はありました。ですが貴女は、その事例と同様なことが幾度と起こっている」

 

「………」

 

「さらに貴女のイノセンスは適合者が気絶している中、突如動き出し、伯爵に攻撃した。つまりイノセンスが()()()()()()()()()()()()()()。こんな例は、未だかつて一度もない。明らかに貴女のイノセンスは特異なのですよ」

 

 マリアは頭を押さえて、深いため息をついた。

 監視の件はもう諦めるしかない。

 

 なのでせめて、この無表情ガールと仲良くやって行けるよう努めることにした。

 

「仕方ないや。よろしくね、テワクちゃん」

 

「………テワク、()()()?」

 

「うん。テワクちゃん」

 

 これまで無表情だった少女の眉間に皺が寄る。テワクは差し出された女の手を見て、納得のいかない様子で握り返した。

 

 それに少し溜飲の下がったマリアは、疑問に思ったことを口にする。

 

 

「でもさ。いくら何でもノアとの関係性を黙っておくのはおかしくない? 神父…元帥の件やアレンくんの二人がすでに上がってるんだから、もう一人増えたところで混乱の大きさは変わらないと思うけど」

 

「それは中央庁の決定に意を反する、というわけでしょうか?」

 

「いや、そういうつもりじゃないんだけど……」

 

 もしかしたら、と彼女は思う。

 

 マリアとノアの可能性を知るのは、中央庁でもごく一部。そしてテワクを監視につかせた「ルベリエ」という人物は長官の立場であり、この事を知っている可能性が高い。

 

「あなたの長官なら、知っているのかしら?」

 

「……何を、でしょうか?」

 

「…いえ、何でもないわ、テワクちゃん」

 

 

 マリアは何者なのだろう。

 エクソシストなのか。それとも本当に────。

 

 

「あの」

 

 思考に耽りかけた女に、テワクの声がかかる。

 

「どうしたの?」

 

「……「ちゃん」はやめていただきたいのですが」

 

「えっ? でもテワクちゃんって小さいし、可愛いし、私の歳下だし、いいじゃない」

 

「かわっ………わかりました。お好きになさってください」

 

 監査官の可愛らしいポイントを見つけたマリアは、微笑ましげに笑う。

 その顔にテワクは少し驚いた様子だった。

 

 女の顔は優しく、まるで子を持つ親のようなものだったから。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 こうしてマリアの生活に、テワク監査官が加わった。

 食堂で出会したアレンにも「ハワード・リンク」という監査官がいた。

 

「……! リンク兄さ──ゴホンッ」

 

「ほほぉ〜〜?」

 

「…何ですか、マリア殿。その面白そうなものを見たと言わんばかりの顔は」

 

 リンクをとらえた少女の顔は頬を少し染めて、年相応だった。

 しかしてリナリーとアレンが繰り広げる甘酸っぱい気配もある。肝心のリンクの方からテワクへの矢印は感じられない。

 

「テワクちゃんてさぁ…。リンク監査官のことが好きなの?」

 

「……ぶはっ!! な、なな、何を言っ……!?」

 

 顔を真っ赤にした少女はマリアを睨んだ。

 

 当の本人はリンクから差し出された「お近づきの印にケーキ」を、ムカつくぐらいに美味しそうに食べてやがる。

 

「ハァ…マリア殿、貴女には午後にイノセンスの詳しい検査に出てもらいますから」

 

「えっ」

 

「連日の忙しさで延期になっていましたが、ヘブラスカに見てもらいます」

 

「……ほ、ほら! リンクくんのケーキテワクちゃんにもあげるから、だから今回は無しに…」

 

「出 て も ら い ま す か ら」

 

「はい……」

 

 

 一方で、マリアと監査官の仲睦まじい様子(?)を見ていたアレンは、己もリンクと親交を深めようとみたらしを一本差し出した。これは少年にとってのきび団子である。

 

「リンク、みたらしです! どうぞ!」

 

「満腹なので結構です」

 

 ハワード・リンクはテワクよりも攻略が難しいようだ。

 

 

 

 

 

 *****

 

 ヘブラスカにイノセンスを見てもらう間、コムイ同伴のもと、マリアは生きた心地がしなかった。

 

 しかし意外にもあっさりとヘブラスカの診断は終わった。

 

『シンクロ率は96%…。非常に高い数値だ…』

 

「ヘブラスカ、彼女は今ハートの可能性が最も高い人物とされているんだが…。キミは何か気になる所があったかい?」

 

『ハートか…分からない。私も実際に見たことがないからな…。彼女がハートの可能性というのも捨てきれないが、他のエクソシストと差異があるようには思えない。それに、コムイ』

 

「なんだい?」

 

『私にはこの状況で、ハートが姿を現すとは思えないのだ…。目覚めてはいても、この世界のどこかで機を窺っているように思う…』

 

「そうか……。意見を聞かせてくれてありがとう。いやぁーごめんね、立て続けに調べてもらって」

 

『気にするなコムイ…今はお前の方が辛いだろう…』

 

「………」

 

 そう。ハートの可能性が高いのはマリアだけではない。リナリー・リーも示唆されている。

 

 そもそもリナリーにハートの可能性があるなら、同様の理由でリナリーにも中央庁が監視をつけてもおかしくない。中央庁の目がつくのと、もしもの場合に守ってもらえる点を考えれば、一長一短ではある。コムイ的には中央庁への疑心が拭えないので、監視がつかずに良かったと思っている。

 

「マリアさん、監査官とは仲良くやっているかい?」

 

「え? …あぁ、はい。ボチボチは」

 

「そうか。アレンくんは何だか胃が痛そうだったからね」

 

 なぜ、中央庁はこの女に“目”をつけたのか。コムイが感じた違和感をバクや他の支部長や元帥も感じたはずだ。

 バクがその疑問をルベリエに向けた時は、それ相応な理由を述べられ、ぬらりくらりと躱された。

 

(バクちゃんとルベリエ長官の、あの一幕。マルコム・C・ルベリエの方には間違いなく、牽制の意図があった)

 

 

 ────「マリア」について調べてくれるな、と。

 

 

 だからバクもコムイも、それ以上追求できなかった。

 

 そんな冷戦のやりとりが上であったことなど知らない女は、ヘブラスカが伸ばす触手をつかんで縄跳びのように振り回している。

 

「……マリア?」

 

「さぁどうぞ、室長! いつもデスクワークじゃ体も鈍っているでしょう? 動けば悩みも吹き飛びますよ!」

 

『やめてくれないか?』

 

「………もしかしてだけど、僕がリナリーの件で悩んでいると思って気遣ってくれてるのかい?」

 

「あっ、そうだ…! 方舟にいた時に、クロス元帥が泣いてるリナリーちゃんの頬に触れてました!!」

 

「うおおおおっ!!!」

 

 涙と鼻水で一気に汚れた室長の男は、慟哭しながら跳んだ。

 何てこったい、妹の純潔が奪われて(?)いたなんて! 

 

 最後は撃沈して、コムイは床にうつ伏せのまま転がった。その様子をマリアは爆笑して見ている。

 

『コムイ…まだ伝えることがあるのだがいいか?』

 

「いいよぉ……。でも立ち直れるまでもう少しこのままで居させて…」

 

『わ、わかった…』

 

 ヘブラスカはそして、語る。

 

『彼女の場合、イノセンスの範囲が骨から血液へと広がっている…。寿命がいくばくか、縮んだ可能性が高い…』

 

 寄生型は謂わば、人体には強力すぎる(イノセンス)を抱えているも同然だ。

 

 マリアはしかし拍子抜けした表情を浮かべる。

 

「何だ、そんなことか。力に代償は付きものだもの。より多くを守るための犠牲ならば、些細なことよ」

 

『……っ』

 

 無垢な子供ように女は笑う。

 

 その在り方が、ヘブラスカには歪に見えた。同時に、彼女から感じるイノセンスの凄まじい「執着」の所以を垣間見た気がした。

 

 どうしてそこまで神はこの女に執着するのだろう。そこにはきっと“愛”がある。粘着質で、おぞましい愛が。

 

 

『お前のその狂おしいまでの生き方が、神は愚かしく、しかし愛おしくてたまらないのだろう』

 

 

 マリアは微笑む。その瞳だけは血のように紅く染まった。

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚫︎

 

 ヘブラスカに見てもらった後、テクワちゃんに少し距離を置かれるようになった。

 監視と監視対象の距離が近い、というお叱りをリンクくんからもらったらしい。

 

 そして、資料を科学班に持って行ったコムイさんを室長室で待っていれば、知らないおじさんが来た。

 

 ケーキを持ったちょび髭のおじさんで、()()()()()を着ている。頭の中で「気をつけろぉぉ!!」とサイレンが鳴った。

 

 

「お初にお目にかかります、マリア。私は中央庁特別監査官、マルコム=C=ルベリエ。そちらのテワク監査官の上司に当たります」

 

「……初めまして」

 

 明らかにお堅い人がケーキって、どういうことなんだ? 待って、ほのかに甘い匂いが鼻腔をくすぐる…。それはアレなの? リンクくんと同じで「お近づき印ケーキ」なの? 私がいただいていいやつなの? 

 

「これはほんの──「ありがとうございますっっ!!」……」

 

 あぁ、美味しい。リンクくんも美味しかったけどこの人のケーキの方が美味しい。テワクちゃんが冷えきった目で見てくるけど気にしない。ほら見てよ、あなたの上司だって微笑むだけで、何も言ってこな……いや、瞳の奥に温度がないな。さすがに自重しよう、今は。どうせケーキは逃げないもの。

 

 

「失礼しました。それで長官殿が、私に何のご用でしょう?」

 

「おやおや…クロス・マリアンとは違い、貴女は随分と常識というものに理解がある」

 

 色々破綻してるあの人と私を比べられてもね。長官殿は理解がある。

 まさかケーキを頬張ってた私への嫌味なわけないだろうし。うん、そう思いたい。

 

「来て早々で申し訳ないが、時間がないのでお暇させてもらおう。………おっと、そうでした。ハートの可能性が高い貴女には関心がありましてな。どうですか? 今度一つ、ゆっくりとお茶でも」

 

「…要件はまさか、それだけですか?」

 

 何とも芝居がかった、お茶のお誘いだ。

 

 この男はやはり、「マリア」について何か知っている。こうして会って確信が持てた。

 

 

「────アヴェ・マリア。では、私はこれで」

 

 

 ………え? 

 

 脳がうまく回らなくなって、長官殿が退室した後、呆然としていたところに肩を叩かれる。

 訝しそうに私を見るテワクちゃんの顔がある。

 

「貴女、アヴェ・マリアというのですか?」

 

 長官の言葉を彼女は私の本名だと思ったらしい。

 

 神父様と同様に、あの男は「アヴェ・マリア」という言葉を知っていた。

 

「ッ……」

 

 頭が、頭が痛む。痛くて、割れそうで………、

 

 

「ガウ!!」

 

「痛ッッ!?」

 

 

 突如シャツの下から出てきたティムが、私の左手を噛んだ。

 やんちゃな相棒を叱っていたら、不思議とその痛みも引いていく。

 

 

 それからコムイ室長は結局ほかの仕事が入り、戻って来れなくなった。

 

 ケーキは逃げないけど私のお腹は待てないので、ウエディングケーキの如き大きさのそれをパクパク食べた。

 

 

 

 

 

 その後、お腹が空いたので食堂に向かった。「さっきケーキを食べていましたよね…?」とドン引くテワクちゃん。あれはほら、おやつだから。

 

 廊下を歩いていれば途中でバク支部長に会った。

 その隣には北米支部長のレニー・エプスタイン氏に、オセアニア支部長のアンドリュー・ナンセン氏もいる。

 

 レニー支部長は気さくな女性で、私より身長が高い。鍛えられたその体に感嘆した。

 そして話しているうちにいつの間にか彼女に気に入られたのか、私も研究所(ラボ)へ連行される。食堂ぉ……!! 

 

「おいレニー、その筋肉でマリアが潰されてるじゃないか」

 

「あら、何よバク? もしかしてこの子ってあなたのガールフレンドなの?」

 

「恋人ではない! ただの知人だ」

 

「そうですよ、レニーさん。バク支部長はリナ──」

 

「うわぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「………そんなに叫んでぇ、どうしたんですかぁ? バク支部長ぉ?」

 

「きっ、貴様……ァ! おのれェ……!!」

 

 興奮のあまりじんましんが出たアジア支部長殿は、恨みがましい目で私を見た。

 フォーの気持ちもわかるな。からかいがいがあり過ぎる。

 

「……あれ?」

 

 そこでふと、私はテワクちゃんがいなくなっていることに気づいた。

 

「あら、どうしたの?」

 

「私の監査官が急にいなくなったので、驚いて…」

 

「ラッキーじゃない。ずっと番犬に見られてるよりはいいでしょ?」

 

「でも…」

 

「……あの監査官にとって、私はヘビみたいなものなのよ。ルベリエがバクにとってヘビのように」

 

「…何かご関係があるのですか?」

 

「まぁ、昔ちょっとね」

 

 テワクちゃんにも色々あったのかな。

 今触れるべき問題でもないから、ひとまず流そう。

 

「ところでバク、研究所の方舟についてだけど……」

 

 レニー支部長は、バク支部長と話し出し、私は輪から外れる。今度はナンセン支部長が近づいてきた。

 

「君が会議で挙げられてた『ハートの可能性』の女性だよね? 名前は…」

 

「マリアです」

 

「…マリアか。いい名前だね」

 

 ナンセン支部長はさりげなく人の腰に手を回してくる。微笑みがイケメンも相まって眩しい。

 振り払わず歩いていれば、バク支部長が「!?」みたいな顔をした。

 

「キサマ、結構面食いなのか…」

 

「リナ」

 

「何でも、何でもないからそれ以上言うなッッ!!!」

 

「すっかり手玉に取られてるわね、バク…」

 

 

 

 その後、研究所に到着し、「科学班以外立ち入り禁止」の看板を支部長三人が押しのけて入る。

 

 科学班員は”卵”の解析に忙しいようで、三人の中に私が紛れ込んでいることに気づいていない。

 数人は資料の山に埋もれながら床で死んだように寝ている。静かに黙祷しておいた。

 

「ホォ、これが例の……」

 

 バク支部長は卵をしげしげと見つめる。

 

「本当に不思議だ。未だ人類にない高い科学力の水準値を誇る物体が、数千年前からあったとは…」

 

 

 ────そう、本当に不思議だ。

 

 初見だったけれど、脈打つように動く卵は、本当に中からナニカが生まれてくるんじゃないかとさえ思う。

 

 耳に響く脈の音。ひどく心が安らいで、身体の力が抜けていく。

 崩れ落ちそうになった私を、ナンセン支部長が支えてくれた。

 

「眠いんですか、マリア?」

 

「穏やか、とても…」

 

 バク支部長は一瞬倒れた私を見て驚いた顔をしたけれど、ナンセン支部長が支えに入ったのを見て、また卵に視線を戻す。

 

「眠っていても構いませんよ。起きた時には、()()は終わっていますから」

 

「……そ、う?」

 

 眠い。ひどく眠い。

 

 

「マリア、あなたは今、何を「感じて」いるのですか?」

 

「何を…?」

 

 この男にロードちゃんや千年公と似た気配を感じたから、バク支部長らを守るためにわざわざ付いてきたのに、不思議とイノセンスも神も、その何もかもを忘却してゆりかごの中で眠る赤子のようになれる。

 

「とても穏やかで、幸福な気分」

 

「そうですか。あなたは今、「幸せ」なのですね。私もとても「幸せ」ですよ、マリア」

 

 微笑したナンセン支部長の言葉を最後に、強烈な睡魔に意識が遠のく。

 

 

 こうして────マリア()は眠った。

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