「うるさいのう、お父様」
「僕が教育し直しちゃるーー!!」
「ほんと兄サンキショイ」
「ほら…デザイアス、ボンドムの二人はどうだのぅ?」
「えっ………論外」
「「ひでぇ!!」」
実質パパンは伯爵なノア一家(いや、ママンか?どっちでもエエけど)。
(本編とは一切関係ありません)
現在アルマ=カルマ編。
多分ここらでお話が一気に進むかなと。ワイズリーくん出てこいヤァ!
「グルガウ!! グルルル!!」
「こら、ティムキャンピー! 重傷者に噛みついてはいけませんわ!!」
「グルルルル!! ガァァァァ!!」
ひどい倦怠感の中で目を覚ましたら、視界が真っ暗だった。
さてはティムだな。案の定だった相棒をひっぺがえす。
薬品のにおいが鼻につく。病室らしいのだけれど、妙に頭が働かない。
私の体には無数のチューブやらが腕に取り付けられている。
「安心して下さい。既にレベル4との戦いは収束しました。取り敢えず貴女は、絶対安静です」
「テワクちゃんさっき「〜ですわ!」って言ってなかった?」
「気のせいです」
「私のこと「殿」じゃなくて呼び捨てで呼んでたのも?」
「えぇ、気のせいですわ………ッハ!!」
思わずニヤけた面をしたら、顔を真っ赤にしたテワクちゃんが睨んできた。それなりに彼女も私に気を許してくれるようになったのだろう。
「意識の方は問題ありませんか?」
「…? うん、大丈夫だけど」
「そうですか…。まぁ、冗談をおっしゃるくらいですから、確かに問題なさそうですね」
どうやらアレンくんの報告で、「意識障害が見られたため、ノアに何かされた可能性がある」とあったらしい。
確かに大分あの時は取り乱していたかもしれない。
「ではこれまでの経緯の続きを……と行きたいところですが、長くなるのでお茶でも淹れて来ましょう」
「茶菓子!! プリーズ!!!」
「……分かりましたよ。その代わりちょっとだけですよ」
「ありがとうツンデレテワクちゃん!!」
「私は「つんでれ」じゃありませんわッッ!!」
テワクちゃんはプンスカしながら出て行った。
部屋に残されたのは私とティムだけ。上体をベッドに戻したら、スプリングが軋む。
小さな相棒は胸の上に乗って、じぃとこちらを見つめる。
「滑稽だね。「マリア」の望みは誰かを救うとか、そんなんじゃなかったんだ」
守りたいという感情は「マリア」の本願の副産物に過ぎなかった。
アヴェ・マリアの望むこと、それは聖戦の終結。
愚かだね。私は本当に、敷かれたレールの上で踊ってただけなんだ。
でももう、考えなくていいんだ。自分が何者なのか知ってしまったから。
「私が私でなくなって、狂ったとしても……お前は私の側にいてね」
「ガウ!」
「ふふ……お願いだよ」
私もいつか、本当にあの狂ったメイドの女のようになるのだろうか。
自分を知れば知るほど、私を形作る土台が壊れていく気がした。
*****
「色」を司るノア、ルル=ベルの襲撃により、教団本部は甚大なる被害を受けた。
AKUMAのボディを造る「卵」は敵に奪われてしまったものの、エクソシストの連携した攻撃により壊すことはできた。
伯爵側は直すにしても相当な時間がかかると予想されている。その間に教団側は今の体制の計り直しを余儀なくされた。
「被害の大きさもさることながら、伯爵に本部の場所がバレてしまった以上、本拠地の移転は確実に行われるでしょう」
またテワク曰く、レベル4の破壊に一役買ったのがリナリー・リーだったと。
エクソシストの血を媒介にしてできた彼女の武器は、「結晶型」と名づけられた。
「進化か。おぞましいねぇ」
紅茶の湯気が揺らぐ。
どこか他人事のように呟く女の横顔が、妙にテワクの記憶に残った。
*****
とある舞踏会にて。
頰を赤らめる数人のご令嬢の真ん中に、長い黒髪を結えた美青年が立ち、愛想のいい笑みを振りまいている。
今日の舞台の主役がこの男だと言わんばかりだ。
「ミック候、久しく会っておりませんでしたが、お元気でしたの?」
「お久しぶりですね、マダム」
いつもの薄汚れた服とは違い正装を着こなすティキ・ミックは、周囲の誰もが見惚れるほどの美丈夫だ。
遠目からその様子を眺めるロードは、隣の男──義父のシェリルに頭を撫でられながらニヤニヤを隠さない。
「ティッキーモッテモテェ〜〜」
「そりゃあモチロン、僕の格好いい
「ボクの方がティッキーの側にいるあの人間よりも、ぜーんぜん可愛いのに」
「ロードより可愛い存在なんてこの世にいないさ!」
愛娘にベッタリなシェリルをよそに、ロードは手すりから飛び降り、千年公の元へ向かった。
舞踏会の後には、悪役たちのティータイムが催される。
甘党の千年公は角砂糖を飽和するまで紅茶に投入する。ロードでさえ、「うわ…」と引く光景だ。
伯爵を主体として会話の中心に挙げられたのは、ハートや「14番目の協力者」についてであった。
「「ハート」は確実に目覚めています。教団側にハートを見張らせるため多少の痛手は必要でしたが、ギブアンドテイクを考慮すれば寧ろ儲けものでしょう」
「千年公も策士だね。エクソシストは誰が「ハート」なのかと仲間内で疑い合う。躍起になればなるほど、
カップを優雅に持つシェリルはその所作とは対照的に、口元が怪しく弧を描いている。
「千年公、暗いけど大丈夫ぅ?」
内側を見透かすような少女の瞳が千年伯爵に向けられる。揺れる水面をぼんやりと見つめていた伯爵は、目を丸くした。その表情は愛嬌が滲み出て、ずいぶんと幼く見える。
ロードはシェリルの膝から降りると、伯爵の顔をのぞきこんだ。
「心配なんでしょ、家族のこと」
「…えぇ」
「ボクには千年公の考えてること、なーんでもお見通しなんだからねぇ」
ちなみに任務に失敗したルル=ベルは、いま現在かなり落ち込んでいる。
「その…新しい家族っていうか、新しいノアってよ、14番目みたいに黒の可能性ってないわけ? あの女もエクソシストだし、イノセンスと手を組んでる可能性もあるんじゃねぇの?」
「それもそうかもね。さすが僕の弟♡」
「ちょっと近付かないでくれる兄サン? いや、ほんと、マジで」
腕を絡めてきたシェリルを蹴り、ティキは物理的な距離を置いた。
「家族と一緒にいたいと思うのは、変ですか?」
伯爵は穏やかな笑みを浮かべる。
黒か白か、それすら関係なく「家族」なのだと、そう思っているように感じられる微笑だ。
「……千年公〜」
ロードは喉の溜飲が下がると同時に、伯爵に思い切り抱きついた。
「おやおや。甘えたですか、ロード?」
「ふふ、いっぱい甘やかしてよぉ」
微笑ましげな空気の中、時が流れる。
そして茶会が終わった。大臣としての役目があるシェリルも居なくなり、花が咲き誇る庭にはティキとロードしかいない。
伯爵は腰掛けたまま、完全にお昼寝モードだ。
ティキは何もすることがなかったため、花を眺めながら庭園を歩くロードの後に続いた。
「千年公はあぁ言ってたけどさ、ロードはどう思ってるだ? あの女のこと」
「あの女じゃないよ、「マリア」だよ」
ジロッ…と睨む少女に、両手を上げた男は了承する。
「お前はいつから違和感を持ってたんだよ。結構前から…マリアのこと気にしてたっぽいし」
「…ずっと前からモヤモヤはしてたよ」
「俺はあんまどうとも思わなかったけどな」
「ティッキーはアレンを倒すことばっかり考えてたもんね」
「うっ、ソレはあんま言うなよ…」
伯爵から頼まれ、14番目の関係者を殺し回っていたティキ。
アレンの生存は予想外であったし、尻拭いのためにかなり力を弄した。
最悪伯爵のプッツンが予想できたので尚更だった。彼が「快楽」の力に覚醒したので、最終的にチャラな雰囲気にはなったが。
「神が新たに…気まぐれに生み出したノア。ボクの「夢」やティッキーの「快楽」みたいにどんなメモリーを持っているかはまだ分からない。それにもしかしたら、ボクらの害悪に足り得る存在になるかもしれない」
「…それ全部踏まえて、伯爵は受け入れるっていうんだろ? 多分、お前もさ」
「うん、当ったり前〜。マリアは絶対に神に渡さない。そもそもあそこまで神に愛されながら踊らされているのも、変だったんだ」
ロードは棘を気にせずバラを掴み、手のひらで握りつぶした。
切れた部分からは血と、バラの破片が落ちる。
「“ノア”だからこそ、神に愛されていた」
「普通イノセンスだから、じゃねぇの?」
「違うよティッキー。真に神に選ばれた者はボクたち“ノア”なんだ。エクソシストじゃない」
バラの残骸がじりじりと、ローファーの靴底に踏みにじられる。
「ボクさ、言ったんだよマリアに。『Ave Maria』って」
方舟の際、神田との戦いに敗れて死んだ「怒」を司るノア、スキン・ボリック。
「怒」のメモリーはどのノアよりも激しく、メモリーに自我が侵されやすい。
そのため、ノアの中でもスキン・ボリックは顕著にイノセンスへ憎しみを抱いていた。
そんな彼が死んだ時、ノアのメモリーを持つ者はみな揃って涙を流した。
強い「怒」のメモリーに反応し、各々のメモリーが泣いていたのだ。
その時ロードは、マリアに渡していた人形越しに彼女が泣いているのを見た。
前触れもなく自分たちと同じように涙を流したマリア。決定的な決め手はそこだった。
自分の感情を揺るがすマリアという存在。その存在に、理由が付いた。
「ノアだからこそ、ボクや伯爵、ジャスデビやルルも感情を揺さぶられたんだ。まぁジャスデビは、特にデビットの方が反応してたみたいだね」
だからこそロードは『Ave Maria』と口にした。
新しく目覚めた家族に、祝福の言葉を。
「『Ave Maria』────おめでとう、マリア。ボクから新しい家族に贈った、お祝いの言葉さ」
踏み潰したバラから視線を移したロードの微笑みに、ティキは喉を鳴らす。
口は笑っているのに、少女の瞳は今にも泣きそうだ。
「…どうしたんだよ、そんな泣きそうなツラして」
「へへ、何でかなぁ…分かんないや。分かんないことばかりだ」
新しい家族。そうであるはずなのに、ロードは沸き起こる嬉しさの反面、胸の内に沈む悲哀に、自分でさえ首を傾げたい。
それにまだ、マリアに対し疑問に思うことがある。
死にかけていたマリアに、少女が言った言葉。
『ボクを置いて行かないで!!』
新しいノアならば、そんな言葉を投げかけるのはおかしい。
何故自分がそう言ったのか、ロードにも分からない。
ただ脳内に一瞬過ぎった「置いて行かれる」。その感情は確かに、紛れもなくあった。
「マージで、分っかんないなぁ…」
答えは出たはずだ。だがさらに深まる疑念に、ロードは一人頭を悩ます。
「マリア…会いたいよ」
切ない声が、羽ばたく白い鳩と共に空へと吸い込まれた。