「わたしは神様が嫌い」   作:アビ田

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第三(サード)エクソシス」────人体生成により半AKUMA化した四名が、教皇の御下命により役務に就くことになった。

 これは破壊された“卵”のカケラを入手し、ルベリエが内密に進めていた計画である。

 

 実験については北米支部のレニー・エプスタインの指揮のもと行われた。

 

 

 これを知ったテワクの動揺といったら凄まじく、ぼんやりと考え込むことが多くなった。

 

 卵のカケラの件をテワクは知らなかった。ルベリエ直属に動く彼女が、だ。卵の入手に動いたのはリンクのはずで、それがまわりに回って第三エクソシストの計画に至る。リンクもただ命令に従ったに過ぎない。彼とて複雑な心境だろう。だがどうも以前のように「リンク兄さま」と言えなくなった。

 

 マリアもマリアでアレンに対しアレルギーを発症し、出くわすと速攻で逃げるようになった。

 

 対し孤児院の件でアレンはマリアを怖がらせたのだと思い、謝ろうと躍起している。逃げる者と追う者。それを見たリナリー・リーは少年に白い目を向けた。

 

「………」

 

「まっ、マリアさん! お願いです話だけでも!!」

 

「そちらの監視対象の奇行を止めてくださりませんか、ハワード・リンク監査官」

 

「……わかっています」

 

 こんな冷たい光景がたびたび教団内で見られるようになった。

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚫︎⚫︎

 

 

 最近ストレスが尋常じゃない。

 

 アレンくんが悪くないのは知っているけど、彼の有するメモリーのせいで少し接近されるだけで蕁麻疹が出るようになった。晴れてバク支部長の仲間入りだ。

 

 テワクちゃんもあんなに「リンク兄さま、リンク兄さま」と騒がしかったのに、「リンク監査官」とビジネスの付き合いしかしなくなった。そのせいか、リンクくんも調子が悪そうに見える。

 

 

 

「問題です。ストレスが溜まったらどうすればいいでしょうか」

 

「……お前な〜…」

 

 場所はアジア支部。荷物運びを手伝う名目で訪れた私は、フォーの元へ来た。

 

 酒も大量に持って来た。持ちきれない分を渡したマイ監査官には白けた表情をされたけど、止めはされなかった。ちょっとだけ中央庁に反抗的になったよね、テワクちゃん。

 

「まぁちょうど私も飲みたい気分だった。今日はいくらでも付き合ってやる」

 

「イエ〜イ!!」

 

「……思ったけどよ、お前のその酒癖ってクロs」

 

 おしゃべりな口には度数の一番高い酒瓶を突っ込み、パーティーが始まる。呆れ顔のテワクちゃんは、長くなることを見越して持ち込んだ書類仕事をしている。

 

 途中からなぜかバク支部長も乱入し飲み始めた。あなた一応ここのトップだよね? 

 

「おのれェェ……あのルベリエ(ヘビ男)め!!」

 

「バク支部長、そのヘビ男直属の部下がここにいるってこと、忘れてないですか?」

 

「人体のAKUMA化などと腐ったマネをッ!! しかもレニーに………」

 

 酔ったバク支部長は聞き覚えのない「第二(セカンド)」という言葉を漏らす。アジア支部でファインダーをやっていた当時でも聞いたことのないワード。もしかして機密要項だろうか。

 

 さすがにフォーが止めに入る。

 

「おい。酔うのはいいが、喋り過ぎは看過できねぇぞ」

 

「私がイノセンス持ってることを大声で話したフォーがソレを言っちゃうんだ」

 

「……あ、(あたし)はいいんだよ、私は」

 

 ふーん。…っま、どこにしたってその「第二(セカンド)計画」然り、咎落ち然り、倫理を無視した実験が行われた過去があるってわけだ。バク支部長に薄暗い過去があったのは意外だけど。

 

 

「力には、代償が必要ですものね」

 

 監査官のその一言で、場が静まった。

 

 

「テワク、ゴウシ、トクサ……そしてマダラオ兄様。彼らは「第三エクソシスト」の役務を尊い使命だと考えておりましたわ」

 

「テワクちゃんいつの間に会ってたの?」

 

「……偶々廊下で会ったのです。あなたがアレン・ウォーカーから逃げている最中に」

 

「え、何でお前ウォーカーから逃げてんだ?」

 

「へへ、白髪アレルギーになっちゃって」

 

 フォーにダル絡みされていた時、バク支部長はふと何かに気づいたようにテワクちゃんをじっと見る。

 惚れたのか? 歳下の少女(リナリー)に目がないのは知ってるけど。

 

「テワク、君の名はテワクと言うのか?」

 

「……えぇ、それが何か?」

 

「………」

 

 やけに真剣な表情だ。見慣れた情けない支部長の顔じゃない。

 

「オレ様には北米支部にも伝がある。元部下の繋がりだが……そこでレニーが以前、今回のものとは異なる人体実験を行っていた、と聞いたことがある」

 

 エプスタイン家は()()()()()に精通する家系らしい。

 ゆえに、中央庁から薄暗い命を任されやすい。

 

 テワクちゃんの体の多くは機械だ。

 

 

「『非エクソシストの人間をAKUMAに通ずる人体兵器として運用する方法』………だったか。選ばれたのは今際の少女。その実験がどうなったかは分からなかったが…」

 

 

 バク支部長の瞳が再び彼女をとらえる前に、その間に割って入る。

 

「ッ………マ、リア?」

 

「この子が怯えているじゃありませんか」

 

「…何でお前、殺気出してんだ?」

 

「大丈夫です。私が守ってあげますからね」

 

 震えを押さえ込む可哀想な少女を抱きしめて、その頭を撫でた。

 しかしなくなるどころか、その震えは目に見えて現れ、あまつさえ悪化して行く。

 

 あぁ、あなたを怖がらせるものがいるのですね。

 

 ならこの()が、殺してさしあげ────、

 

 

 

「私は大丈夫です」

 

 

 痛むほど腕をつかまれる。同時にティムキャンピーにも頭をかじられた。

 

 ……えっ? 何で私自分の監査官と相棒にいじめられてんの? 

 

「痛い痛い!! なに、何事!!?」

 

「…どうやら酔っぱらってしまったようですね。そろそろ本部に戻りますよ」

 

「待って! まだ全然飲んでないッ!!」

 

 そのまま私は俵持ちされて二人の顔を見ることになった。

 支部長は冷や汗をかいていて、フォーは難しそうに私を見ている。

 

 小声でテワクちゃんに話しかけた。

 

「……もしかして何かやばいことしそうだった、私?」

 

「さぁ。貴女はいつもの貴女でしたけれど」

 

 はぐらかすような答え。でもどこか彼女には安堵というか、嬉しそうな色があった。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚫︎⚫︎⚫︎

 

 

 夢の中。

 

 

 マリアは地面に伏していた。

 夢の内容は以前見たものと同じで、『(ロード)』のメモリーを持つ少女が彼女の顔を覗き込んでいる。

 

 少女が呟く内容も同じ。マリアは血を吐きながら目を瞑る。

 

「終わる」感覚に身を委ねて、意識が遠のいていく。

 

 

『ぼくを置いて行かないで、マリア』

 

 

 少女の言葉が、膿のように体に残るような気がした。

 目を開けようとすれども、瞼すら動かすことがままらない。

 

 そうしてアヴェ・マリアは、深い眠りに就いた。

 

 

「愛してる」さえ、呟けずに。

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