「わたしは神様が嫌い」   作:アビ田

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長かったですが今話を含めいよいよ最終回までラスト5話になります。若干詰め過ぎたかな…?と思いつつもなるべく順序立てながら進めました。伏線も回収出来たはず…(震え)
最後までお付き合い頂ければ幸いです。


My mean

 ノアの方舟。

 

 明かりのない暗い部屋。その中央にはベッドがあり、千年伯爵が眠っている。異形の皮が剥がれた人の姿の寝顔。その目尻からつうと、涙が伝う。

 

 ベッドの隅にはロードが腰かけていた。精神的に疲れきった伯爵を先ほどまであやしていたのだ。

 そこにふと、明るい光が差した。開いた扉には黒シャツにジーパン姿の男が立っている。

 

「千年公、大丈夫そう?」

 

「ようやく寝たとこぉ」

 

「…そうか」

 

 ポリポリとティキは頭をかく。

 14番目に会う恐怖とマリアの件でダブルパンチを受けた伯爵は、任務を失敗したワイズリーに怒りもせず、速攻でベッドに沈んだ。

 またワイズリーの方もティキのお気に入りのソファーで落ち込んでいる。

 

 その時ティキは伯爵の目元が赤く腫れていることに気付いた。眉を顰め見つめていれば、ロードが小さく笑う。

 

「……なぁロード、お前って「マリア」が何者なのか知ってるのか? 千年公のあの取り乱し具合、普通じゃなかったろ?」

 

 シェリルも彼と同様の疑問を抱きつつ、ブックマン二人の尋問に向かった。

 

「今思い返せば、お前とワイズリーの反応も妙だった。それにアイツを担いでいた時、ヤロウが言ったんだ。「母上」ってよ。その“ハハウエ”が意味するのって、もしかして──」

 

「ティッキー」

 

「……お、おう?」

 

「ティッキーは()()()()()()()こと、知りたい?」

 

 

 シンと、静まる。

 ティキは唾を飲み込み、少女を見た。ロードは千年公の髪を撫でている。まるで子供をあやすような優しい手つきで。

 小さな寝息が、広いはずの部屋の中でよく聞こえた。

 

「……わぁーったよ。探るなってワケね」

 

「うん。まぁ、事態は結構めんどくさくなってるだろうね」

 

 今回の件で、教団ではマリアを「ノアと関係がある」、もしくは「ノアの可能性がある」という疑惑が出ているだろう。

 ティキもそう考えたが、ロードは首を横に振る。

 

「それよりももっとめんどくさいこと。“厄介な奴”が出てくるかもしれない。だから、なるべく早く迎えに行きたいんだけどぉ……千年公が今、この状態だからさ」

 

「その厄介な奴って、ハート関連か?」

 

「そう。ティッキーはお迎え係だから頑張ってね。ボクも行くけど」

 

「……俺、あの女に嫌われてんだけどなぁ」

 

 ため息を吐いた男に、ロードは愉快そうに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 黒の教団本部。

 

 ある一室で、ルベリエやコムイ、その他数人のトップを集めた話し合いが行われていた。

 部屋の隅にはズゥ老師やバク、レニーにアレン・ウォーカーの監査官であるリンクが控えている。

 

 本来はテワク監査官も出席する予定だったが、リンク監査官に保護された彼女は現在意識不明のため、参加を見送られている。

 

「それで、だ」

 

 中央に座る男がリンクにアレンの尋問状況について尋ねる。

 

「アレン・ウォーカーにつきましては、神田ユウとアルマ=カルマの居場所を完全黙秘しております」

 

「…フン、狡猾なサタンめが」

 

 アレンは今投獄されている。

 術により体は完全に拘束され、もし14番目が目覚めても逃げることはできない。

 

 また神田については、北米支部に残されていた彼のイノセンスが錆び、“適合者なし”の状態になったいたため、死んだのではないかと推測されている。

 

 

 話し合いが進む中、北米支部にいたバクやレニーの面々は、確かな違和感を感じていた。

 

 北米支部にて14番目が目覚めかけた時、一人の女が現れた。

 その後ろに背負われていたノアの存在にも驚いたが、そもそも彼女は黄山(ホワンシャン)にいたはずだった。

 

 それが突如、北米支部に現れた。

 

 しかし彼女が方舟の使用許可を求めた記録はなく、ゲート付近でも彼女を目撃したという情報はなかった。

 

 また黄山ではブックマンやラビが行方不明で、ノアに拉致された可能性が高い。

 彼らと同班のチャオジーも意識不明で、唯一現場で何があったか知るであろうテワク監査官も話を聞ける状態ではない。

 

 

 そしてマリアの身柄は、現在アレン同様に中央庁の監視下にある。

 

 違和感を拭えないバクは、間を見計らって恐々と挙手した。

 

「バク・チャン。お前には話す権限が与えていないはずだが」

 

「……重々承知しております。しかし、その上で進言致したいことがございます」

 

 ピリつく空気の中、指揮を務める男は発言の許可を出した。

 

「御心に感謝致します。エクソシストのマリアの件ですが、彼女の容態は現在どうなっているのでしょうか。また、中央庁はなぜ彼女を監視下に──」

 

「一つだけだ」

 

「っ……申し訳ございません」

 

 バクは押し黙り、一歩下がる。中心の男は冷たい視線を戻すと、淡々と語る。

 

「彼女についてはノアからの接触があった。ハートの可能性が高いことを鑑みても、これ以上エクソシストとして役務に就かせるのは危険だと我々は判断した。ゆえにエクソシストの権限を一時凍結し、こちらで()()することになりました」

 

 管理────管理? 

 

 この発言に、バクやコムイは引っかかった。

 

 仮にもハートの可能性が高いというのならば、「管理」というのはおかしい。そこは普通「保護」とするべきだろう。

 

 いくら中央庁の人間がルベリエのようにエクソシストを道具のようにとらえているからといって、バクらが抱く違和感を“確信”に近づかせるには十分なものになった。

 

 

(マリア、貴様はまさか本当に、千年伯爵(向こう)側の人間なのか……!?)

 

 

 バクの視線の先では、ポツポツと雨が降り始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 レンガ造りの室内。

 壁や床、天井には夥しい量の術札が貼られている。

 

 独房を想起させる部屋の中央には、黒い球が一つ鎮座していた。

 その部屋に訪れたのは、話し合いを終えたばかりのマルコム=C=ルベリエである。後ろには数名の鴉もいる。

 

 ルベリエは感触を確かめるように球体に触れ、ノックするように叩く。すると軽い木材を叩いたような「コンコン」という音が室内に反響した。

 

「いったいどうなっているのだ…」

 

 北米支部で『聖母(マリア)』がノアと接触したのはすでに確認された。

 

 マリアは覚醒状態にあったアレンに近づき、倒れた。その後はアルマの自爆から宿主を守るようにイノセンスが発動した。

 

 それから彼女は目覚めていない。球体の中におさまったままだ。

 

 ルベリエはふと、以前クロスが話していた内容を思い出した。

 

 

「14番目と『聖母』の関係か…」

 

 

 クロス・マリアンはアレンがもし『14番目』になった場合、双方を引き合わせてはならないと言っていた。「面倒クセェことになる」と。

 

 しかし千年伯爵の思惑どおりに、イノセンスで負傷したアレンのノア化は進行してしまった。

 魔眼のノアらしき人物を背負っていたマリアもまた、覚醒している可能性が高い。

 

「恐らく伯爵側はまだ『聖母』の認識が「新しいノア」のままとみていい。しかし、ならばなぜ『智』のノアは『聖母』の正体を仲間内にまで隠しているのか……」

 

 思考を巡らすルベリエだが、答えは出そうになかった。

 彼は鴉を引き連れ、部屋を後にした。

 

 

 

 

 

「グルル…?」

 

 そして静寂を取り戻した部屋の中で、球体の後ろに隠れていたティムが姿を現した。

 テワクと死体のマダラオを運び終えた後、このゴーレムは極小サイズになり、人の出入りに紛れてちゃっかりと相棒のいる部屋に侵入していた。

 

「ガウガウ!」

 

 おもむろに小さな手が球体を叩く。しかし球は微動だにしない。

 

 それでも何度も叩き続け、目覚めることのない女に痺れを切らしたのか、一際大きくなって頭突きをかます。

 

「グルルゥ〜〜」

 

 衝撃で跳ね返ったティムは壁にぶつかり、目を回しながら地面に転がった。

 

 そこで彼、あるいは彼女は気づく。球体にヒビが入っている。

 

 ティムはそれが自分が割ったものではなく、中から破られたのだと分かると、一歩後退する。

 ヒビはさらに広がり、天辺の部分から白い手が飛び出た。

 

 腕、肩──と出て、その次に後頭部がのぞく。そこから一気に球体が割れる。

 

 落ちたカケラは溶けて渦を巻き、女の体内に戻った。

 

「ガルル…?」

 

 マリアは眠っているかのように瞳を閉じたままだ。褐色の肌ではなく、聖痕も額に浮かんでいない。

 

 ティムは尻尾で相棒の体を突いた。それをしばらく繰り返していると、女の口が開く。

 

 

「Ave, Maris stella

 Déi mater alma

 Atque semper Virgo

 Félix caeli porta────」

 

 

 聖母マリアを讃える賛歌(イムヌス)、「アヴェ・マリス・ステラ」。

 

 人々はこの曲を歌い、(キリスト)を生みし『聖母』に信仰を捧げると同時に、歌に隠された存在────人類の母『Eve(イヴ)』に敬愛を示す。

 

 

 歌が終わると、マリアの目がゆっくりと開いた。

 その色は黄金ではない。噴き出るような血の色だ。

 

「ティム」

 

 女の呼びかけに、ティムは少し首を傾ける。

 

「グルガァ?」

 

「おいで。お前を取って食ったりはしないよ」

 

「グルルル」

 

「ふふ……そのでかい体で擦り寄られると困っちゃうなぁ」

 

「ガウガウ!」

 

「んん? …そう、わたしが寝ていた間のお話しをいっぱいしたいのね。でも後ででいい? 今ちょっと、外が立て込んでるみたいだから」

 

「ガァ?」

 

「と〜〜っても嫌な気配がするの。この部屋、中からも外からも一切干渉できないような仕組みになっているけど、それを超えてまで感じる気配だ」

 

 禍々しいまでのイノセンスの気配。それを彼女は感じ取っていた。

 

「ここから出なきゃね。お手柄だぞティム、よく起こしてくれた」

 

「ガウガウ!」

 

 とは言っても、恐らく外に警備は配置されているはずだ。

 

 ただ外からも中からも完全に干渉できないようになっているため、音や気配は全く掴めない。

 逆にそれはその方法を取らなければならないほど、『聖母』の秘匿性が高いことを意味している。

 

 ティムがマリアの居場所の目星がついたのは、ここが異常なまでに感知を阻害されることに気づいたからだった。元々このゴーレムはクロス探索でも役立った、特定の人間の感知機能がある。

 

 

 マリアはどうしよう、と中を歩き回る。

 

 壁は札が貼ってるある上に、一定以上の強度もある。常人ならまず破壊など不可能だが、イノセンスやティムの力を借りれば脱出は不可能ではない。だが問題は位置だ。

 

「場所は教団本部だろう。わたしをハートのお膝元で見張っていたいはずだしね」

 

 この独房と思わしき場所にいたことから、彼女は下手に動けない状況にあるのだろう。

 もしかしたらエクソシストの身分を凍結されているかもしれない。

 

「壊したらすぐバレるだろうし、かといって、逃げても千年公に速攻で見つかっちゃうだろうなぁ…」

 

「ガウウ……」

 

「………もういっそのこと、ブチ壊そうか!」

 

「ガウ!?」

 

「どうせ教団はわたしを保管しておきたいと思っているし、ここにいてもしょうがないでしょ」

 

「グルル」

 

「ハッハッハ! 大丈夫だって、わたしが何千年隠れてたと思ってるの? そう簡単に見つからない……いや、うんまぁ、家族(ノア)は難しいけど……」

 

 考えたところでもう、どうしようもないのだ。何せ今の彼女は「創世」の力すら失った、ただの壊れた女だ。

 

 だからマリアは、後先考えないことにした。それに今は14番目に近づく魔の手をどうにかしなければならない。

 

 彼女は黄金の大剣を握る。触れた瞬間に鋭い痛みが走ったが、()()()()の痛み──と、無視する。

 

 

「さぁ、行きましょう。()のところへ」

 

 

 一瞬の風を切り裂くような音の後、轟音が響いた。壁だったものは瓦礫と成り果てる。

 

 降り続く雨の中、マリアはティムに乗って移動した。

 

 

隠されし者(アポクリフォス)。ハートの忠実な、番犬。聖戦が────動く」

 

 

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