「わたしは神様が嫌い」   作:アビ田

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後書きでロードちゃんが若干暴走気味なのでご注意。キャラ崩壊とも言う。


知ったかぶりのカカシ

 アポクリフォスに首を掴まれたマリアの体は、壁を突き破って隣の部屋に吹き飛ぶ。

 

「マリア!!」

 

 ロードは無我夢中で駆け寄ろうとして、横から飛んできたティムにアレンごと食われた。

 

 アレンはそれが自分の相棒だと気づいた。

 巨大化しているティムは、今までアレンと同じ部屋で拘束されていたはずだ。

 

 捕まっていたはずのその場所を見ると、マリアのティムが鎖をバリボリと食べている。

 

「ありがとう、ティムキャンピー…!!」

 

 マリアのティムはその言葉に、まるで「先に行きな」と言わんばかりに尻尾を振る。

 アレンはもがくロードの腕をつかみ、ティムに食われたまま外へと脱する。

 

 ティキも同時に場を後にする前、一瞬だけ女の方を見てから飛び立った。

 

 

 

 

 

 マリアは吹き飛ばされる中、アポクリフォスの手首をつかんで体勢を反転させる。直後、アポクリフォスの体が壁に叩きつけられた。

 

 ついで黒衣(ドレス)を纏う。顔にかかった黒いベールの隙間から、瞳孔の開いた目がのぞいた。

 

「お元気ですかぁ、はぁとのイヌ」

 

「相変わらず貴女は狂っているようで、何よりだ」

 

「アッハハハハハ!!!」

 

 黒衣が細長い針の形状になり、アポクリフォスを包囲する。

 放たれたそれはしかし、当たる前に奇妙な方向に曲がった。逆に針は軌道を変え、彼女の体を串刺しにする。

 

「私にイノセンスは利かない。そんなことも忘れたのですか?」

 

「は、はははっ………痛いですね」

 

 マリアは自分に突き刺さった針を引き抜く。

 負傷したはずの傷は不思議なことに、肉を焼くような音ともに再生する。

 

「堕罪」を持ち、その結果呪われた体の特性である。

『聖母』が覚醒した今、その性質が如実に現れていた。

 

 ならば、と彼女は黒衣を引っ込めて影を操る。無数の腕が暗闇から這い寄り、逃げる男の足をつかもうとする。

 

「小癪なマネを…」

 

 速度は伸びる腕の方が早い。ついにアポクリフォスをその一本がとらえた。だが触れた腕は熱湯をかけられた氷のようにたちまち溶けていく。

 

 アポクリフォスは“イノセンスそのもの”。普通のイノセンスとは違う。禍々しいその存在に影が押し負けた。

 

「………」

 

 一瞬の逡巡。マリアは肋から神ノ剣(グングニル)を引き抜いた。

 

「ムダなことを」

 

 アポクリフォスは鼻で笑い、避けることなく待ち受ける。

 大剣は異形の手に触れた瞬間、形を歪ませた。

 

 そのままアポクリフォスは女の腹を貫く。そしてアレンと同じように強制的に彼女のイノセンスと共鳴させる。

 

 唯一違う点があるとすれば、アポクリフォスが行うのは“守る”ためではなく、“壊す”ための行為であるということ。

 

 

「神から祝福を受けし『聖母』。このまま蝋人形と成り果てるがいい」

 

 

 黄金の目はしかし、うっそりと弧を描く。強制的な共鳴の影響で目や口からは血が流れている。

 異形の頭に触れたマリアは、そのまま力を込めて潰した。

 

 

「さぁ、「愛」を感じなさい。愚犬」

 

 

『聖母』と接触している部分から、アポクリフォスの体内にノアの細胞が入り込んでくる。

 

「っう……!!」

 

 アポクリフォスは触れていた右手を手刀で切り落とし、後方に退く。顔にどっと汗が浮かんだ。

 

「忌々しい真似を……」

 

「貴様は「愛」を知るべきです」

 

 二者の距離が近づく。冷や汗をかいていた男にはしかし、どこか余裕がある。

 それにマリアは片眉を上げた。

 

「壊れたわたしでも、あの子らが逃げる時間くらいは稼げます」

 

「さぞ()()()()()は、他のノアよりも愛しいのでしょうねぇ」

 

「………何が言いたい」

 

「たかが空の器でしかない『聖母』に、私が負けるはずがないということだよ」

 

 その瞬間、アポクリフォスは女の足を払う。

 マリアは体勢を崩したものの、ギリギリ制御の利く黒衣で体を支える。そして地面に落ちていた神ノ剣を引き寄せた。

 

「どんな芸を見せてくれるのですか、犬の貴様は」

 

「フン、痴れ者が」

 

 正面を突っきり接近するアポクリフォスに、彼女は大剣を横一直線にふりかざす。

 

 相手にイノセンスが利かないのは重々承知。ゆえに敵の意表を突く材料として使う。

 だが想定と異なる動きが起きた。アポクリフォスは神ノ剣の攻撃を避けない。

 

 小さな違和感を彼女が感じたその時、足に何かが巻きついた。

 

「!?」

 

 ノア細胞に犯され、アポクリフォスが切り落とした腕。

 それが黒く変色しながらも、尋常ではない力で彼女の右足を地に縫い止めている。

 

 意識を下に取られたその隙に、頭に衝撃が走る。

 

 男の一撃が脳天に当たった。衝撃は凄まじく、頭蓋骨の中身があたりに散乱する。

 

 跳んだ女の肢体をアポクリフォスは追う。

 転がっていた黄金の瞳がその拍子に踏み潰された。

 

「ガアア!!」

 

 ティムは二人の間に入ったが、「邪魔だ!」と殴られ、壁にめり込んだ。

 

 アポクリフォスは血が付くことも厭わず、再生する脳味噌に直接触れる。

 

「不死のバケモノ。貴女は滅多に聖戦の表に出て来ない。ですが蓋を開けてみれば、すでに『聖母』は「創生」さえ失った神の傀儡ではありませんか」

 

「………」

 

「それが神の「愛」と言うのなら、これ程滑稽なことはありませんねぇ」

 

 アポクリフォスは再生する脳味噌を潰しながら続ける。

 

「それにバケモノの貴女が()()の真似事など……愚かしい」

 

 女の左手が、かすかに動く。

 アポクリフォスがまた頭を潰せば、左手は途端に動きを止める。

 

「それでも貴女が生き続けるのは、何のためか。「創生と破壊」────「生と死」を司るからこそ、この世に存在しておられるのか。不思議ですねェ、『聖母』」

 

 脳が再生しきっていない中、マリアの左手が動き、アポクリフォスの手をつかんだ。

 その間に高速で彼女を構成するパーツが再生していき、黄金の瞳が覗く。

 

「愚問です…ね、アポクリフォス。わたしは愛しいと思う者たちのために生きています。生きることに意味があるから、進むのです」

 

()()()()()()()()者たちのために、かね?」

 

「っ……!」

 

 細い喉から、ひゅっ、と息が漏れた。

 

「本当の貴女を愛する人間などいない。或いはバケモノを、或いは人間の姿をした『聖母』を見て愛するだけ」

 

「黙れ」

 

 アポクリフォスは顔を近づけ、女の耳元で囁く。

 

 

「お前の琴線はそこにあるのだよ、イヴ」

 

 

 アポクリフォスが再度イノセンスと共鳴を図ったと同時に、マリアの内側に映像が流れた。

 

 それは銃を持ったアポクリフォスの視点で、目の前には照準を向けられている男の姿がある。

 

 

「────!!?神父さ、ぁ」

 

 

 イノセンスとアポクリフォスの共鳴が始まった。

 メモリーが破壊される中、彼女はただ手を伸ばす。

 

 死んだはずのクロスの姿と、『聖母』の記憶の中で見たある人物の幻影が重なる。

 

 

 ()()()が、『聖母』ではない──────マリアを、イヴを見ていた。

 

 

 

 

 

「さい、ら…」

 

 

 

 

 

 壊され続けた『聖母』のメモリーが消え去ると同時に、女の額から聖痕が消える。

 

 肌は元の死人のような色に戻り、瞳には淀んだ色が浮かんでいた。

 

 

 女の肢体を見下ろし、アポクリフォスは立ち上がる。

 人間たちが来る前に姿を枢機卿に戻し、アレンの元へ向かう。

 

 ついでと、監査官一名と()()()()()()()()を負傷させ、ノア二名と共にアレン・ウォーカーが逃げたことを連絡する。

 

 これによりアレンはエクソシストとの権限を凍結され、現時刻よりノアと識別されることになった。

 

 警報が教団内に鳴り響き、アレン・ウォーカーの捕獲命令が出される。

 

 

「逃しはしないよ、アレン」

 

 

 死神は眼鏡をかけ直した。

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 一方、逃げていたアレンたち。

 森に入った頃、突如ティキとロードが教団の方を向いた。それを疑問に思ったアレンは声をかける。

 

「…どうしたんですか?」

 

 固まったロードの代わりにティキが口を開く。

 

「女の気配がなくなった」

 

「それは…どういう意味ですか?」

 

「『マリア』の気配がなくなった。これで分かるか?」

 

「……!ッ、まさかアポクリフォスに……戻らなきゃ!!」

 

 ティムの口から這い出ようとしたアレンに、ティキは冷ややかな目で見る。

 

「さすがの俺でもあのバケモノには勝てる気がしねェ。イノセンスを持ってるお前なら尚更だ、少年」

 

「じゃあ、どうしたら……そ、そもそも!僕はお前たちと逃げる気はない!!」

 

 アレンは回ってきた頭で、ようやく現状を理解することができてきた。

 

「ッ……!?」

 

 しかし突如少年のイノセンスが動き出す。同時にアポクリフォスの気配を強く感じた。

 アレンのイノセンスがアポクリフォスに彼の居場所を知らせているのだ。

 

 冷や汗をかくティキは、判断を仰ごうと少女に視線を移す。──が、先程までティムの口の中にいたその姿がない。

 

「ハァ!?おいおい…ロードの奴勝手にどこ行きやがった……」

 

 現状の判断はこの男に委ねられた。

 

 頭をガシガシかいて、最終的に切り落とそうと、ティキはアレンのイノセンスに手を伸ばす。

 

「…ッ、やめろ!!」

 

 ティキは叩かれた手を見る。ッハ、と笑う声がした。

 垂れ目がちの男の瞳にはアレンがよく見た楽観的や好戦的なものとは違う、呆れや、軽蔑の色さえ浮かんでいる。

 

 

「何で笑うんですか…」

 

「だってそうだろ。どこまでも中途半端で、俺が慈善でその厄介な腕を切り落とそうとすれば拒む」

 

「当たり前だ!だって僕は…」

 

 

「エクソシスト、か?タチの悪いメモリーを持って、あのバケモノ野郎に狙われるイノセンスも持って、それでも尚「自分はエクソシスト」だなんて甘いことを言うのか?今一番タチが悪いのは14番目でも、アポクリ野郎でもねェ────、

 

 周囲を振り回し、混乱を招くお前じゃないのか?アレン・ウォーカー」

 

 

 アレンは反論の一つもできず、ただ拳を握りしめて震えることしかできなかった。

 

 重い沈黙が流れる中、ロードの扉が出現する。

 

 少女が引きずってきたのは、虚な目をした女だ。体中が血塗れで、服はボロボロになっている。その側では離れないと言わんばかりに、薄汚れたティムキャンピーがしがみついていた。

 

「マリアさん!!」

 

 少年は女の呼吸をみた。

 息はしている。しかし見覚えのある状態に、背筋が凍る。

 

 

 それはまるで、スーマン・ダークのような状態。

 

 体はある。しかしすでに、心がない。

 

 

 ロードはマリアに触れていたアレンの手をやんわりと退かした。

 泣くこともせず、ただじっと黙っている。しかしふいに口を開く。

 

「ティッキー……ボクじゃ持てないから、持って」

 

「俺がか?コイツはもうノアの気配がない…」

 

「もって」

 

「…わかったよ」

 

 ティキに背負われた女の四肢が力なくぶら下がる。

 

「ロードは…彼女をどうする気なんですか?」

 

「どうもしない。ただ……ただ一緒に、帰るだけ」

 

「マリア、さんは……」

 

 心が、死んでいる。

 けれど少女の顔を見たアレンは、それ以上言葉を続けることができない。

 

 ロードはまるで、迷子になった子どものようだ。

 

「マリアはボクらの家族。ハートにも神にも渡さない。もう誰にも、手出しさせない」

 

 扉を出現し、彼女はティキに先に行くよう促す。

 

 そうして二人の背を見送った少女は深く息を吸う。

 少年に振り返ったその顔は今にも泣きそうで、それでも限界まで注がれた水面のようにギリギリのところで堪えている。

 出されたロードの声は震えていた。それにアレンまで釣られて泣きそうになる。

 

「アレン」

 

「……何ですか」

 

 少女はアレンに抱きつく。戸惑う少年の声が上がった。

 

「ろ、ロード!?」

 

「────『立ち止まるな、歩き続けろ』」

 

「えっ?」

 

「ネアが、マナに残した言葉だよ」

 

「……ネアが、マナに?」

 

「うん。……内緒だからね」

 

 名残惜しげに少女は一歩一歩と下がり、最後に小さく手を振って扉の中に入った。すると扉は消え、アレンと相棒のティムだけが残される。

 

 教団にアレンの居場所はない。ノアにだって、迎えに来たはずの男がキレて冷たい言葉を浴びせられた。

 

 今のアレン・ウォーカーは中途半端だ。無知で、愚かしい。

 

 それでも彼の中によぎるのは、マナとの約束。ロードはきっとアレンが迷子にならないように“その言葉”を教えてくれたのだ。

 

 

「僕は止まらない。進み続けるよ」

 

 

 月を見上げた少年の銀褐色の瞳が、一際輝いた。

 

 


 

 

【俺の家族が】いっぱいしゅき【怖ェ】(主人公ノア側)

 

 

快楽(ジョイド)』のノアことティキ・ミックは悩んでいた。

 

 

 自分の顔が母に生理的に無理、などと宣われるのは流石に慣れたが(いや、やっぱり慣れてないかもしれない)、ロードのマリアに対するラブがエグいのだ。

 

 千年公に対してもラブがヤバいのは知っている。それ以上のラブが視覚に働きかけて見えるのだから、堪ったものではない。

 

 

「マリア大好き大好き大好き大好き大好きぃ……」

 

「………」

 

 ティキがロードの宿題を渋々手伝っている中、お隣では机に頬をくっ付けた少女が項垂れている。

 というのも、どうやら母が所用で不在らしいのだ。

 

 今の少女は目に見えて死にそうである。下手に発言すると地雷を踏むので、彼は黙々と問題を解く。

 

(……アレ?そもそも何で俺がロードの宿題を解いてんだ…?)

 

「マリアマリアマリア……」

 

「…なぁ、別にそこまで落ち込むことないだろ?二度と帰って来ないわけじゃあるまいし」

 

『聖母』にはうっかりしたら自殺に走る厄介な性質があるのはティキも知っている。だが彼女がノアを「愛」しているからこそ、自分たちをそう簡単に捨て置くとも思えない。

 

「うっさい!ティッキー死ね!!」

 

 少女のグーパンがティキの腹に炸裂した。結構イイところに入り込んだ。

 

「うっ……」

 

「どうしよう……マリアがまた死んじゃったらボク、ボク…!!」

 

「…悪かったって。頼むから泣くな、シェリルに見られたら殺される」

 

 その時、扉の開く音がした。

 

「ただいマンゴー!!」

 

 クッソ寒い帰宅の挨拶にが終わった直後、「ぐえっ」と呻き声がした。

 

 ロードに飛びつかれたマリアは床に座り込む。

 対しロードは千年公に甘えるルル=ベルのように、胸に顔を埋めている。ロードやワイズリー以外は簡単に出来ない甘え方だ。たまに双子も無理やり抱きしめられているが。

 

「お帰り〜〜〜」

 

「うん、ただいまロードちゃん」

 

 ロードは母に対し、やはりラブい。

 

 だがティキからしてみれば、そのロードの愛情を受け入れ、逆にそれ以上の愛をもって『夢』の子を歪ます母の方が、少し恐ろしく思えるのだ。

 

 

(母親ねぇ…)

 

 

 彼が子供だったらもっと純粋に甘えられるのだろうか。

 聖母が持つ「愛しい」という感情は、成人済みの男からすれば気恥ずかしいものがある。

 

 ゆえに少々、子供のロードが羨ましくもあった。

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