「わたしは神様が嫌い」   作:アビ田

5 / 58
ロード。






 黒の教団本部。

 

 

 クロス・マリアンの弟子であるアレン・ウォーカーは、一悶着あった後、無事にエクソシストとなった。

 

 現在はリナリー・リーというツインテールの少女に、本部の案内を受けている。

 

 到着した場所は食堂。

 そこでは料理長を勤めるジェリーの様々な料理を食べることが出来る。

 

 

 リナリーが驚くほどの量を食べながら、アレンは美味しい美味しいと、目をキラキラさせた。周囲はその食いっぷりに引いていたが。

 

 

「ア、アレンくんって、よく食べるんだね…」

 

「ふぁっふぇおいふぃいんふぇふもん! (だって美味しいんですもん!)」

 

 

 二人が談笑する中、隣にひょろ長いファインダーが現れる。

 持っている皿の量はアレンには負けるが、相当の量だ。

 

 その食事の中に、自身の好きなみたらしがあるのをアレンは目敏く見つけ、声を上げた。

 

 

「貴方も好きなんですか、みたらし!? 美味しいですよね!!」

 

「……!? ごほっ!」

 

 

 唐突に話し掛けられたファインダーは、勢いよく噎せた。

 それにリナリーは苦笑いする。しかしフードから覗いた久しい顔に、目を見開いた。

 

 

「マリアさんじゃない! いつの間に本部に戻ってたの?」

 

「あー……やぁ、リナリーちゃん。えっと、数日前にね」

 

「………」

 

 

 アレンは一人取り残されたまま、黙々と食べる。

 マリアさん。リナリーの知り合いだろうかと、腰掛けているその体躯をマジマジと眺める。

 

 ファインダーは大抵包帯を巻いているが、それにしてもミイラ男レベルにマリアは巻いている。そのせいか、線の細さがよく目立った。

 

 フードを被っているため、体型以外の情報が読みにくい。身長はアレンよりもあるだろう。

 男性にしては声が高いため、中性的な感じが否めない。

 

 

 彼が観察している間に一通り話し終えたのか、リナリーがマリアを紹介した。

 

 

「アレンくん、この人はマリアさんって言うの。私が教団に入る前より長く居て…確か、10年ぐらいだったかな? よく昔はお話してくれたの。結構前にアジア支部に飛ばされちゃったんだけど、また戻って来てくれて嬉しいわ!」

 

「よっろしくね〜」

 

 

 そう言い、マリアの手が伸ばされる。アレンは喜んでその手を握り返した。

 意外にも握った手の感触は、男にしてはスベスベしていて柔らかい。

 

 おっとりというか、少し不思議な感じはするが、良い人なのだろうと少しの時間で知れた。

 

 

 最初の内はリナリーと談笑していたマリアも、すぐにアレンと意気投合した。

 

 

「僕も大食いなんですよ。よく昔はお金を稼ごうとギャンブルして……」

 

「あー、分かる。わたしも結構食べるから。食費を稼ぐために命辛々な毎日を送ってたよ」

 

 

 似た過去を持つ二人はすっかり盛り上がり、ヒートアップする。

 リナリーは二人が仲良くなってよかったと、のんびりジュースを啜った。

 

 

「聞いて下さいよ! 僕の師匠、トンカチで人の頭を殴って逃走したんですよ!? 酷くないですか!!」

 

「そりゃあ酷い…。わたしの恩人も尊敬はしてるんだけど、本当飲兵衛で、女性に目が無くて……」

 

 

 ──実際、二人の師は同じである。

 

 ゆえに盛り上がりも凄いのだが、まさか同じ人物について語っていると思わない二人は、愚痴の応酬が続く。

 

 元々アレンの入団時に引越しでドタバタしていたマリアが気付かなかっただけだが、教団内ではそれなりにクロスの弟子という事で、アレンは話題に上がっている。

 

 マリアも弟子に近いが、クロスの紹介を通じて黒の教団のファインダーになったわけではないため、マリアがクロスと関わりがある事を知る者はいない。

 

 少女の身の安全のため、闇の深い自分と関わりがない方がいいという、クロスの判断でもある。

 

 

 また、マリアは情報に疎い部分が元からあった。

 

 そのため奇妙な会話は続き、二人は最後にお互いの拳を突き合わせた。

 

 

「また一緒に食べよね。アレンくん」

 

「はい! 色々聞いて下さってありがとうございます、マリアさん!」

 

 

 手を振りながら、食堂を後にするマリア。

 アレンは溜め込んでいた師匠のストレスを少し発散でき、上機嫌だ。

 

 

「ふふ、マリアさん、優しい()()だったでしょ?」

 

「はい! ………え?」

 

「…ん?」

 

 

 首を傾げ合う二人。

 

 その後、アレンはマリアと再び合った際、土下座の勢いで深々と頭を下げた。

 

 

「ごめんなさい! 僕としたことが男性とばかり……これじゃあ、紳士失格だ…!」

 

「あ、うん……。気にしないで、身長のせいでよく男って間違われるし。その、胸の凹凸も無いからね、わたし…」

 

「本当にすみませんっ…!!」

 

 

 遠い目をしたマリアに、アレンはひたすら謝るのだった。

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 ファインダーになってからおよそ10年。

 

 わたしは20代半ばになった。

 元々自分の年齢は知らないため、正確には分からない。

 

 

 未だイノセンスの発動は出来ない。ただ本部のイノセンスを格納する存在、ヘブラスカには一度お目にかかったことがある。

 

 わたしを見るなり不思議そうに首を傾げていたのでこっそり尋ねたけれど、本人にもよく分からない、と言われた。

 

 あの反応は気付いていたのか、いなかったのか。結局聞けずじまいだった。

 

 

 

 現在のわたしのイノセンスは、体の一部になっているらしい。神父様から聞いた。

 瓦解したイノセンスが、わたしの臓器を修復するのと同時に混ざってしまったそうだ。

 

 ゆえにイノセンスが発動出来ないのか、定かではないけれど。

 

 

 

 黒の教団に入ってから、様々な地に赴き、人々を救ってきた。

 

 しかし守れた数よりも、目の前で死んで行った数の方が多い。それは同職の人間にも言える。

 この職の中で生き残れてきたのは幸運と言えよう。

 

 それが仮に神の思し召しだとしても、知ったことではない。

 

 

 わたしはわたしの決めた道を歩む、そう決めたのだ。

 たといそれが神が敷いたレールの上であろうと、わたしは歩いてやる。

 

 

「あっ」

 

「ア?」

 

 

 次の仕事のため歩いていれば、目の前で光り輝いたのはキューティクルロン毛。

 えっと…彼は、そう、神田だ。

 

 

「大きくなったね、神田くん! ほら、わたしの飴ちゃんを受け取るんだよ!」

 

「死ね…下さい」

 

「遠慮しないでほら、のど飴だよ〜」

 

「ウゼェ、アジア支部に帰れ」

 

 

 彼は昔、リナリーちゃんと食堂で話していた時に出会った。

 何の気に障ったのかは分からないけど、絡まれた。

 

 若かりし頃の何とやら、なのだろう。わたしも結構ヤンチャしてたし。

 

 最近入ったアレンくんと同じで、最初神田はわたしのことを男性と勘違いした。それはまぁ、まだ…許す。

 

 でも女性の胸倉を掴んで、青筋浮かべたら許すわけにはいかない。そんな少年にわたしが取った行動は一つ。

 

 

 ブン殴った。

 

 

 教育だ。男はいいにしても、女性に手を上げるのはいけない。神父様を見習いなさ…いや、あの人を例に挙げちゃダメだ。

 

 ともかく、こっちも危ない世界を歩いてたんだ。

 その時は腕っ節だけなら、ファインダーの男連中にも負けなかった。

 

 数年ぶりに見た彼は自分より背が高くなっている。子どもって成長が早い。

 

 

 そんな事を思っていれば、神田はわたしが先程居た食堂に向かった。

 

 

「絶対、アレンくんと気が合わなさそう。まぁリナリーちゃんいるし、大丈夫か」

 

「ガウ!」

 

「ちょ、しっー! だよ、ティム」

 

「グル…」

 

 

 襟元から出てきたのは、コイン程のサイズしかないティムキャンピー。

 

 相棒としてずっと側に着いてくれている。

 サイズは隠れ易いよう、自身から小さくなった。どういう原理なのかは製作者に聞いてほしい。

 

 しかし誰に似たのか、お転婆だ。わたしに似た? 何を仰る……わたしに似たなら、もっとキュートに育っているはず。

 

 

 冗談はさておき、仕事の用意だ。

 

 女性のファインダーは稀有なため、嬉しいことに一人部屋である。

 アジア支部から越してきた部屋は未だ、ダンボールが積み重なっている。片付ける暇なんて無いんだよ、畜生め。

 

 

 

 バックパックを背負い、暇潰し用の本を持って部屋を出る。

 ちなみにダンボールの中の殆どは、趣味で集めてる自分の蔵書。ジャンルは問わない。

 

 持った本を開けば、赤いカーネーションの押し花が挟まれている。

 それはかつて、この世の終焉を目指すバケモノから貰った花だ。

 

 

「どうして、捨てられないんだろうなぁ……」

 

 

 憎いし、嫌いだし。でも、なぜなのか。ゴミ箱にこれをついぞ捨てられないまま、年月ばかりが流れる。

 

 

「ハァ…」

 

 

 徐に本を閉じて、わたしは任務に向かった。

 

 

 

 

 

 ーーーーー

 

 任務後、次の任務として、アレンくんたちを巻き戻しの街まで送り届ける命を仰せつかった。

 

 リナリーと任務で出会うことが多いわたしは、黒の教団室長であり、彼女の兄でもあるシスコンの思想をひしひしと感じている。

 

 

(どんだけリナリーちゃんの側に男を置きたくないんだよ…)

 

 

 電車に揺られながら、ぼんやりと思う。

 隣にはリナリーが眠っている。前にいるアレンくんは、わたしと同じように車窓からの風景を眺めていた。

 

 

「そういえば、アレンくんてギャンブルしてたんだっけ?」

 

「え、はい。そうですけど…」

 

「ふふ、じゃあトランプしようよ。何か賭けるわけじゃないけど」

 

 

 持っていた黒いトランプを取り出す。中身のマークは赤い仕様になっている。

 中々洒落てるだろ? と言えば、アレンくんは微かに笑った。

 

 

「マリアさんは珍しいですよね。ファインダーの人はフレンドリーな人が少ないことが分かったので、尚更思うんです」

 

「わたしみたいな気さく奴、多い方が迷惑でしょ。神田くんなんかめっちゃ、わたしの事嫌いだし」

 

「神田…ハハ……」

 

 

 遠い目をするアレンくん。ついで以前の任務先での神田に対する愚痴を、ノンストップで語り出す。

 やはり、馬が合わなかったのだろうか。

 

 

「でも…一応、良い奴ですよ」

 

「そっか、そりゃあ良かったね」

 

 

 友達とは言い難いが、お互いを認めはしたんだろう。

 わたしも釣られて微笑んだ。

 

 

 そのままわたしは、アレンくんとポーカーをした。

 途中ムキになりイカサマを仕掛けた彼の手をひっぱ叩きながらも、楽しく遊ぶ。

 

 

「つ、強い……!」

 

「ふふふ…そう簡単に勝たせないよ」

 

 

 長閑に過ぎて行った移動時間だった。

 

 

 

 

 

 列車移動をし、馬車に揺られて街の前に着き、わたしは二人を見送った。

 

 一般人は入れないらしいが、イノセンスを持つ二人が街の中に入って行くのを見た。

 戻って来ないし、きちんと侵入できたんだろう。

 

 ということは、イノセンスを所有する者は中に入れるということ。

 街全体からイノセンスの気配を感じるし、間違いない。

 

 

 つなり、わたしも入れる。しかし自分の身の方が大事だ。万が一にでも入らない。

 

 バレたら人体実験でしょ? 知ってるんだからな、昔、咎落ちの実験とやらを行ってたの。

 絶対なりたくないよ。そんな危ない被験体に。

 

 

 今はコムイ室長になってから教団の闇は薄れたが、念のためだ。今後もイノセンスが復活しない限りは、ファインダーとして活動させてもらう。

 

 そうして10年やって来たんだ。

 

 

 

 送り届けた後は二人が戻って来るまで、近くの町で待機。何かあったら連絡で応援を呼ぶ予定だ。

 まぁ、あの二人なら大丈夫でしょう。

 

 その後近くの町へ戻ろうと、乗ってきた馬車に乗った。

 

 舗装もろくにされていない道のため、えげつなく揺られる。

 気持ち悪さに唸っていたら、急に馬車が止まった。衝撃で頭から窓枠にぶち当たった。痛い。

 

 

「急に、何!?」

 

「そ、それが道路の前に、子どもが蹲っておりまして…」

 

「子どもぉ?」

 

 

 馬車から降りて、外を眺める。

 確かに御者(ぎょしゃ)の男の言う通り、数メートル先に子ども…少女が蹲っていた。

 

 どうしたのだろうか、近付いて声を掛けようとすれば、ティムが急に飛び出てきた。しかも人前でバカでかくなりよった。

 

 

「グルルルル」

 

「こら、急に出ちゃダメでしょ! 今は関係者がいないからよかったけど…」

 

 

 ティムはわたしと少女の前に立ちはだかるようにして、唸る。ゴーレムというよりはイヌだ。

 

 何とか押し退けて、少女に近付いた。そこで見たことのある奴が目に入る。

 

 

「あ、傘ちゃん」

 

 

 キミは伯爵の持っていた傘じゃないか。

 わたしがあの時の少女だと気付いていないのか、レロレロ言ってた可愛い傘は喋らない。

 

 

「んー…まぁいいか。キミ一人?」

 

「……」

 

 

 少女は伏せていた顔を上げた。地面には蟻の死骸が無数にある。

 どうやら蹲っていたのは、蟻を見ていたかららしい。

 

 にしても服が良い。どこかの裕福な子どもか。しかし尚更なぜこんな場所に……取り敢えず、送り届けるべきだろう。

 

 その前に明らかに風貌が怪しい奴だから、先に包帯を解いておくか。

 

 帽子を取り、顔が分かりやすいよう包帯を解いた。これで目鼻立ちは分かりやすい。

 

 

 

 その間少女は傘の先で、蟻を踏み潰し始めた。先程もやっていたのだろう。

 

 殺すか殺さないかの瀬戸際で潰す。

 

 

 そうして離せば死に切れない蟻の肢体がピクリと動き、数十秒もがき苦しんで、ついに動かなくなる。

 

 その様子をつまらなさそうに少女は見て、わたしの方を向く。表情は先程と違い楽しそうだ。

 

 

「お前はこれ見てどう思った? 助けたいと思った?」

 

「別に、何とも思わないけど」

 

「人間は助けたいと思うのに?」

 

 

 目線が合わないので、わたしもしゃがんだ。

 

 

「命は平等だけど…虫は嫌いなのよね。だからどうでもいいし、人間とは別」

 

「ふーん、変なの」

 

「キミ、名前は?」

 

「ロードだよ、()()()

 

「そう………ん?」

 

 

 ん? やっぱり伯爵とお知り合いの方かな? 逃げなくちゃいけないアレかな? 

 

 しかし、その考えを阻むように裾を引っ張られた。

 

 ちょ、そんな寂しそうな顔されたら逃げたくなくなるじゃない…。これでも子ども好きなのよ、わたし。

 

 

「大丈夫だよ。千年公、今はお前のこと殺そうとしてないから。寧ろちょっと拗ねてる感じするもん、お前の話すると」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 

 訳が分からないが、取り敢えず大丈夫ならいいか。

 一先ず伯爵の仲間ということは、この子どもも普通じゃないということだろう。

 

 

「千年公に許さないって怒ったでしょ、前に。きっとそれで拗ねちゃったんだ」

 

「…いいの? そんなことペラペラ喋って」

 

「いいのいいの」

 

 

 明らかにさっきから傘がロードちゃんのことを止めようと動いている。しかし口を塞がれている。

 

「ムー! ム──!!」

 

「もしかしてロードちゃんは、イノセンスを狙ってるの? あの街のやつ」

 

「へぇー、やっぱ分かるんだ、アレが何なのか」

 

 

 どうしてか、ロードちゃんにぎゅっと抱き締められた。

 そんでとうとう傘がキレた。

 

 

「ロードたま!! 得体が知れないから、あんま関わっちゃ駄目レロ、その人間と!! 伯爵たまが言ってたレロ!!」

 

「うるさい傘〜。うーん…やっぱ千年公と違って、ボクは変な感じしないな。イノセンスの感じもしないし。でもそれだけじゃない、人間とはちょっと違う感じがする」

 

 

 眼下で、殺す殺さないの応酬が続く。怖ェよ。

 取り敢えずと、ロードちゃんはわたしの目を見た。

 

 

「ちょっと寝てて」

 

「え、何_____」

 

 

 

 その瞬間、わたしの意識は途絶えた。

 

 


 

【コムリン】

 

列車内でコムリン事件の話をするアレン。

 

 

「僕の部屋が……」

 

「どんまいどんまい」

 

 

そう言って、ロイヤルストレートフラッシュを出すマリア。

 

アレンはかなり凹んだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。