「わたしは神様が嫌い」   作:アビ田

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(イヴ)です

「女の子にこの扱いはなくない?」

 

 フィードラの強襲後、逃げた先でマリアは札で拘束されて空を仰いでいた。遠い目をする少女の隣には、同じように拘束されて気絶しているジョニーがいる。

 

 そこから少し離れた場所では、リンクとネアが会話していた。

 

 

 リンクはマリアの存在についてルベリエから聞いているらしい。一言二言会話した際、彼女を「聖母」と呼んだ。

 その時、リンクの目的が14番目の新たな協力者として、ネアの護衛に当たることも聞いている。

 

 そんなことを思いつくのは、大体一人だ。

 

 聖戦に勝つためならばエクソシストや己さえも駒として冷徹に扱える男────マルコム・C・ルベリエである。

 

 

 その一方で、ネアはドン引きしていた。ティムキャンピーやアレンの記憶を介し、ハワード・リンクについては知っていた。

 

 だが問題なのは突然現れたその男が、地に片膝をつけて「新しい14番目の協力者です」などと宣ってきたことである。

 

 これがドン引きせずにいられるだろうか。いや、いくら温厚なマナでも顔を引きつらせるに違いない。

 

 というかそもそもこの男は、アポクリフォスの攻撃を受けて死に体だったはずだ。

 

「んー……リンクくんさぁ、なんか体に()()()()ない?」

 

「…ズゥ老師から授かった術式によるものでしょう」

 

「授かった?」

 

「自己の命を吸わせ、それを他者に分け与える力です。ズゥ・メイ・チャンは最後にその力を私に託しました」

 

「あぁ…亡くなったのね、彼」

 

 元々かなりの高齢だった。加えて術の特性を考えれば長生きした方だろう。

 

「………オレを差し置いて他の男と会話か」

 

「え?…………ぎゃっ──!!」

 

 ジリジリと怪しい手つきのネアが拘束された少女に迫る。犯罪臭の漂う絵面に半目になったリンクは、彼女の拘束を解除した。

 すると少女のアッパーが少年の顎に炸裂する。

 

「っけ、ゴミがよ」

 

「………………『聖母』、お初にお目にかかります。我が主君ルベリエの命により、14番目の新しい協力者となりました。リンク・ハワードです」

 

「…おっといけない。淑女の皮、淑女の皮。あなたの長官はわたしが生きている情報は得ているのね」

 

「はい、鴉の情報から。貴女は黒の教団において、死亡扱いとなっております。長官は「マリア」が伯爵側に渡ったことも周知です」

 

「ふぅん……で、どうする気なの?捕まえるなら拘束を解いたのはいただけないと思うけど」

 

「最初から貴女を教団に連れて行く気は御座いません。私の命はあくまで14番目の守護ですので」

 

 リンクの意図が読めず、マリアは首を傾げた。

 

「『聖母』と『破壊』を引き合わせてはならない──と、長官から承っております。14番目は「伯爵を倒す」という点では、黒の教団と目的だけは一致しています。ゆえに貴女は黒の教団側にいてはならず、必然的に伯爵側に置くべき、というのが長官のお考えです」

 

 話を聞いていた彼女は思わずネアを見る。向こうもまた目を丸くして彼女を見ていた。

 

 

「うーん……まぁ、あなたの強さは本物のようだし、ネアのことお願いするね」

 

「勝手に決めんなよ、ババア!!」

 

「だって君を守ってくれる人いないじゃない」

 

 ネアの協力者であるクロスは行方不明で、その他の14番目の関係者はほとんどティキにより殺されている。

 

 いくら35年前に伯爵とロード以外のノアを殺し尽くした14番目であれど、流石に今回は不利だ。

 

 何よりネア自身に、予想外のイレギュラーが起きている。

 それでも伯爵(マナ)破壊(ころ)す目的に変わりはないが。

 

 

「リンクくん」

 

 マリアは立ち上がると、(かしず)くリンクに視線を向ける。

 

「テワクちゃんは元気?」

 

「…重傷でしたが、現在は順長に快方に向かっています」

 

「そっか。それで、あなたはあの子を一人にするのですか?」

 

 その瞬間、空気が張りついた。リンクのこめかみに汗が浮かぶ。下げる頭を上げて、今この重々しい圧を発する少女の顔を見ることができない。ネアもまた眉を寄せている。

 

「わたしはあなたに彼女を任せたつもりでした。一人ぼっちは嫌だと言ったあの子を、一人にするのですね?」

 

「……おい、マリア」

 

「それは冒涜です。“愛”の冒涜です。赦されざる罪です」

 

「ノアの気配がダダ漏れになってるって、あんた…!」

 

「お黙りなさい」

 

 少女の肩をつかもうとしたネアは、下から伸びた影に足をつかまれ転倒した。

 影は少女を中心にして地面や壁に這い寄って行く。リンクの体もまた、中途半端にその中に沈んだ。

 

「……テワクなら、大丈夫です」

 

「なぜ?」

 

「離れていても、私たちが家族であることは変わらないからです」

 

 影が止まる。ズズズ、と戻って行くそれに、リンクは浅い息を吐いた。

 恐れの感情を押し殺しながら見上げた青年と、少女の瞳がかち合う。マリアは優しく微笑んでいた。

 

「愛ね。ふふ……これだからわたしは、人間というものを嫌いになれないのよ」

 

「ふざけんなよ、マリア…」

 

「………“愛”がふざけてると言いたいのですか?」

 

「ちげーよ、あんたの気配のせいで──」

 

 しかし、ネアの言葉は続けなかった。

 リンクと少女の間を縫うように、頭上から一人の男が現れる。

 

 

「マリア見つけたぶ──ー!!」

 

 

 フィードラは寄生蟲(ボワズ)という、特殊な舌を伸ばしてリンクに殴りかかる。これを第三者の体内に仕込ませると、彼の意のままに操ることもできる。また通信用にも役立つ。

 

 リンクはとっさに札を飛ばし、攻撃を防いだ。

 

「それと千年公をかいほうするぶぅ!」

 

「…言われなくとも、今の一撃で解いてしまいましたよ」

 

 フィードラの攻撃でリンクの集中力が散漫になったことで、伯爵を拘束していた術が解けた。

 

 

 状況が動く。ネアは伯爵の元に他のノアが近づいていることを察知した。

 そのまま彼は少女の腕をつかんで駆ける。

 

「離してぇぇ──!!」

 

「ババアは黙ってろ!!」

 

「どっからどう見ても少女じゃん!!」

 

「だぁー!次喋ったら物理的に黙らすからな」

 

「熱いちゅーで?」

 

「投げ落とすぞこのヤロウ!!!」

 

 ネアは文句を言う少女を抱え直し、伯爵(マナ)の元へ向かった。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 ネアが明かした「マナ」について。そして(イヴ)を求める狂気に染まった本能。

 

 伯爵は大きく精神を削られ、憔悴仕切っている。静かに涙を流す伯爵に、ようやく居場所を突き止めたワイズリーが抱きつく。

 

「もう大丈夫だ、千年公。ワタシたちと帰ろう」

 

「ネ、ア…わ、我が輩は…我が輩ハ「マナ」じゃなイ……」

 

「千年公…」

 

 その間、方舟が二人の真下に出現する。ワイズリーが二度と伯爵と14番目を会わせまい──と心に誓った直後、今一番憎むべき者が現れる。

 

 

「マナッ!!」

 

 

 現れたネアは、建物の上から伯爵を見つめる。

 ワイズリーは伯爵を抱きしめながら見上げると、ネアに抱えられている少女に気づいた。

 

「ははう………マリア!!」

 

「あ、やっと来たんだワイズリ〜。それとパパも」

 

「………おい、今どの顔を見て「パパ」つったんだ、あんた」

 

「あの、わたしが生理的に無理なイケメンの長身男だよ」

 

 ワイズリーとネアの頭が痛くなる。方や呑気な母に、方や自分の顔そっくりな男を「パパ」呼びしてる事実に。

 この中でノーダメージなのはティキだけで、タバコを咥える彼はワイズリーの前に出た。

 

「こっちは俺に任せろ。千年公のことは任せた。今の千年公を宥められるのは、お前かロードしかいなさそうだし」

 

「……ダメだ。おぬしと14番目が揃うのは」

 

 

 伯爵と14番目、そして1()4()()()()()()()()()姿()を持つティキ。

 

 

 ここまで「アダム」の要素が揃ってしまった今、マリアを置いて去るのは危険だ。ティキならば14番目からマリアを奪取するのも、容易ではなくとも可能だろう。しかし状況が悪い。

 

(母上も千年公もこれ以上壊れるのは御免だ。……だが、ワタシは、ワタシが優先して守らなければならないのは…)

 

 苦渋の決断の末、ワイズリーはティキにこの場を任せることにした。

 

「マリアに一つでも傷がついたら、ロードに言うからのう」

 

「……結構洒落になんねぇな、それ」

 

 ロードのマリアへのラブっぷりを思い出した男は、苦笑いする。

 

 

 

 とりあえず、マリアの奪取+無傷は最低条件だ。

 

(しかしアイツを人質にされたら面倒だな…)

 

 実際はネアがまだ信用ならないリンクの側に置いておくより、自分の側に置いた方が安全だと判断したため持っている。

 

 それを知る由もないティキは、煙草を吹かしながらネアに接近する。

 

 辺りには『快楽』のノアの選択・拒絶により、空気を踏みしめる音が響く。

 

「お前が「14番目」か」

 

「……」

 

 ネアは男の顔を見て、鼻で笑う。

 

「何、どうしたのネ────あっ」

 

 遅ればせながら、マリアも気づいた。ネアと、その()()が揃った。

 

 14番目に壊された記憶がフラッシュバックする。こうして軽口を叩いてはいるが、殺してくれなかった恨みはメモリーに刻まれている。その上、痛みも。

「堕罪」を持つ『聖母』を殺すには、おぞましいまでの“破壊”が必要だった。それに痛みはもちろん付きまとう。

 

 だからこそその延長線でティキの顔が苦手だし、ネアのことも恨んでいる。

 

 

「うぅぅ〜〜……」

 

「………」

 

 ぎゅうぅぅ、と抱きついてくる少女に、ネアの顔に影ができた。

 その不穏な空気をティキが察知する。

 

「お前、まさか…………ロリ…」

 

「違ェよ、頭湧いてんのかテメェ」

 

「ハァ…ほんと少年の顔でその感じ、調子狂うわ」

 

 二人の距離が縮まる。

 ネアは暴れるメモリーに静かに耐える少女を、強く抱きしめた。

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