メリバコースの結末を考えていたのですが、原作が終わっていないこともあり上手く帰結しなかったので、番外は一応ここまでで終わりにしようかと思います。ネタが何か浮かべば書きたい所存です。
「アレン?」
ネアやティキの視線が集まる中、ジョニーが精神はネアのアレンを見つめている。
彼はリンクの術が解けたことで目覚め、それから声のした方に来たのだ。
少年の瞳に浮かぶのはノアと同じ黄金の色。肌も褐色に染まり、ジョニーを見つめる目は酷く冷たかった。
「アレン…」
もう一度、ジョニーは友の名を呼ぶ。
その時だった。
まるで彼の言葉に応えるかのように、イノセンスを発動していたネアの左手がジョニーに伸ばされる。口から紡がれた言葉はネアか、それとも────。
「ぼく を よん で」
次の瞬間、弛緩した少年の体が倒れる。そしてそのまま建物の屋上から落ちた。
「アレンッ!!」
ジョニーはアレンの手を掴もうと伸ばす。だがあと一歩の所で届かず、勢いを殺しきれなかった彼も落下する。
この時ジョニーは必死すぎるあまり、少年の腕の中にいる少女に気づいていなかった。
「ふふ」
友“愛”を感じた『聖母』は微笑む。素晴らしい──と。消えたはずのアレンが、友の言葉に息を吹き返した。
ならばその“愛”に見合った対価を払うのは当然のことだろう。
影は地面と距離が離れすぎているため生じず、操ることができない。
彼女が取れる方法は一つだ。
「イノセンス、発動」
*****
黒が辺りを覆い尽くす。
蜘蛛の巣のように建物に突き刺さった
まさしく蜘蛛の糸につかまったような姿のジョニーは目を白黒させた。
ゆっくりと降下した繭は、彼らを地面に下ろす。収縮したそれはドレスの形へと変わった。
「マリア……?」
黒いヴェールの下で、紅い口元が弧を描いている。
その一部始終を見ていたティキは、追いかけていた途中で固まった。
少女だったはずの人物が、デカくなっている。
「………成長期?」
そんな的外れな感想を抱くと同時に、彼はメモリーのざわつきを感じた。
*****
────アレン。
ネアではない
仰向けの状態の少年は視線を動かす。見えたのは今にも泣きそうな友の顔だ。
「じょ、ジョニー?」
「〜〜ッ、良かったァ!!」
ジョニーに抱きつかれ、混乱しながらもアレンは体を起こす。その時、視界に黒い布のようなものが入った。
「素晴らしい友愛ですね」
崇高なものでも見るかのように二人を見つめる女。その姿に驚いたアレンは、女が倒れ込んできたことでさらに驚いた。
「ゲホッ!!」
イノセンスが解けたマリアの顔は真っ青で、目や鼻、口……至るところから血が流れている。
呼吸も不規則で、意識を失っていた。服は黒いワンピース一枚で、今の寒さに喧嘩を売るような薄着だ。
「ヤッベ……ロードに殺される…」
「え?何ですか、ロードに殺される、って…………ええ!!?」
「おっ、少年に戻ったっぽいな」
「ティキ・ミック…!どうしてお前がここにいるんだ!!」
アレンは不安定な状態のイノセンスを発動させ、ティキの胸ぐらを掴み、地面に叩き付ける。
不意を突かれた男は抵抗もままならず、背中を強かに打ち付けた。だがアレンのとっさの行動だったため、さほどダメージは入っていない。
どうやらアレン本人は伯爵と出会って以降の記憶がないらしい。
それもそうだろう。先程まで
「つーかさ、そろそろ返してもらうぜ?
「え?」
「いや、俺の娘って言った方がいいのか?」
「………?」
「言ってる意味がわかんねぇって?俺も同じ気持ちだわ」
会話はそこまでで、我に返ったアレンがジョニーの襟首をつかんで後ろに飛び退く。マリアもまた少年の腕の中にあった。
射抜くような視線。それを正面からティキは見据える。
このまま“家族”持ち逃げされれば、色々と面倒なことになる。それを考えるとひどく億劫な気持ちになる。
「まぁそれ以上に、14番目に渡すわけにはいかねぇんだわ」
伯爵の心を壊す14番目。
────憎イ。
『マリア』から一線を画して愛される
────憎イ。
重なり合う14番目への憎しみが、『
吊り上がる口元をティキは手で覆い隠した。
(こりゃあ少年を連れて行く前に、うっかり殺しちまうかもな…)
ティキの明確な殺気を感じ取り、アレンが息を飲む。
イノセンスが本調子でないアレンを殺すのは、今のティキだったら造作ない。
(────!)
刹那、ティキの背後から迫り来る気配。刀身が一筋の光の軌跡を作り出す。
「生きてたのか、神田ユウ…!」
ティキは武装した黒い拳で刀を受け止める。流れるようにして反対の手で攻撃しようとした瞬間、柄の部分から
彼は驚き後ろに下がろうとしたが、勢いよく巻きつく植物に体をつかまれた。
「──ッチ!」
直後、発光した神田の体が崩れ、動植物に変わる。そこでようやくティキはその正体に気づいた。
「ティエドールかッ!!」
ティエドール元帥のイノセンスである
その能力で植物を操り、神田を創り出していたのだ。
一方、アレンはネアの精神世界にいたせいか、ひどい目眩に襲われていた。
その横でジョニーはマリアを抱えたまま、アレンを心配そうに見つめている。
「アレン、大丈夫?」
「うん。多分……ッ」
アレンが蹲ったところで、ジョニーは彼の背中をさすろうとマリアから手を離してしまった。
支えを失った彼女の体は地面に転がる。
「うっ……」
微かな声が漏れる。未だ焦点の合わない紅い目から、血の涙がこぼれた。彼女の視界の先には植物に拘束されたティキがいる。オールバックにしていた髪は戦闘のせいでひどく乱れていた。
「………あ」
マリアの異変に気付いたアレンは、吐き気を堪えて手を伸ばす。しかし、届かない。
「マリアさん!」
アレンとジョニーの体は地面から出てきた植物に囚われる。植物は馬車に変わると、二人を乗せてこの場を離脱する。
アレンの視界には、ティキに駆け寄る女の後ろ姿が映っていた。
*****
ティエドールのアート・オブ・エデンで作られた神田が爆発しようとした刹那、ティキの腕に黒い布が巻きついた。
「うおわっ!」
ギリギリの所でティキは爆発を回避したが、後ろから迫りくる爆風の余波は避けきれなかった。
彼は横に吹っ飛んだ状態で体の向きを変え、地面と水平の体勢になる。そして足場の空気を“選択”し、踏ん張って風圧に耐えた。
「ヒデェ事してくれやがるぜ……ったく」
爆発の中心となった場所は、派手なクレーターができていた。爆発の音を聞きつけ、黒の教団の人間だけでなく一般人も集まって来るだろう。
撤退の判断を下したティキはふと思い出す。
「あっ」
マリアがどうなったのか、急いで周囲を見渡す。
最悪、爆風のどさくさに紛れて連れて行かれてしまったかと思ったが、すぐ側にいた。
血を吐いている状態で。
先程ティキを引っ張り出した時、腕に巻きついた黒い布のようなもの。とっさの判断でマリアはまたイノセンスを使ってしまった。
無理に無理を重ねた結果の重症である。
「おい、しっかりしろ!」
「……ぁ」
「死ぬな、俺が(ロードに)殺される!!」
「だいじょうぶ?」
「いや、アンタの方がまずいだろ…」
「ね、あ」
ティキはそこで固まる。
その名前が誰を指すのか、彼は暫しの間を使って理解する。舌ったらずなその声がその名前を呼ぶたびに、心臓が煩くなる。
「ねあ」
「…俺は「ネア」じゃない」
らしからず、ティキの声が震える。
“名前”とは人や物に付けられた名に過ぎない。全ての事象には名があり、名付けた概念を明確化して区別する。
そして同時に人を自由にもし、縛りもする。
「ねあさま、かてりーなさまが、よんでいらっしゃいましたよ」
「……ハァ」
今回はとんだ貧乏クジを引かされたものだと、ティキは憂鬱な気分になった。
まぁ、もうどうにでもなれと、持ち前の能天気さを発揮した男は新しい煙草を取り出す。
「ねあ?」
「………」
ティキはじっと見つめてくる瞳を見返し、無造作に女の頭に手を置く。
そして親が子にするようにポンポンと叩くと、腕を引っ張り立ち上がらせた。
「ほら、帰るぞ」
崩れていた髪を乱雑にかき上げ、ティキは歩き出そうとする。しかし女の方は全く動かない。少し苛立たし気に振り返ると、女の視線はティキの顔に固定されていた。
「…マリア?」
眉間に皺を寄せた彼がそう言った瞬間、女の瞳に確かな生気が宿る。
「………ジョイド?」
「見ればわかるだろ」
ティキが歩き出すと、ようやくマリアも歩き出した。
ただ帰るにしても方舟を操作できる伯爵は、現在進行でお布団コースになっているだろう。ゆえに迎えに来るのはロードだ。だが例外がこの場にいる。
「なぁ、あんた確か方舟使え……」
その時ティキの視線に映ったのは、血だらけの女の後ろに現れたゴシック調の扉だった。
「マリア!!」
かくして、ティキ・ミックの死亡フラグが立った。
【ポーカー】&裏表紙ネタ
「そういやアンタも、俺が列車の中で少年とポーカーしていた時いたんだよな?」
「……ん?」
千年公の影響でお菓子作りにハマっているマリアは、新郎新婦が入刀するサイズのケーキを作っていた。相変わらず胃袋はブラックホールである。
鼻歌が聞こえるそのキッチンにふらりと立ち寄ったのがティキだ。
「そうだけど……何で急にそんなこと聞いてきたの?」
「あぁいや…少し気になってよ」
ティキにとって目前の、一応「娘」な少女は、不確定要素の多い人間だ。同族意識はあるが、やはり敵対関係だった事実に引っかかりが残っている。
彼女に対し友好的なノアが多いが、シェリルや
嫌悪感を丸出しにしているのはデビッドぐらいだ。というかアレはどちらか言えば、反抗期の子供のような印象を受ける。
かく言うティキは、恐らく中立の立場である。ノアは基本的に伯爵にイエスマンなので、その決定に否定する者は滅多にいない。それがなくとも、みな一様にメモリーの本能に従って、『マリア』という存在を認めている。
謎の多い少女に探りを入れようとする者はいない。ワイズリーやロードがそれとなく圧をかけているからだ。
だが彼としては少々味気ないので、ギリギリのラインを見定めたくなった。
絶壁に挟まれた場所で命綱なしの綱渡りをするように、スリリングな展開を楽しみたくなるのはこの男の悪い癖でもある。
「純粋にお前について知りたいのさ」
「それはわたしの趣味とか、過去について?それとも、
「前者の方だ」
「……まぁいいよ。聞きたいことがあるなら、答えられる範囲で言ってあげる、
「………」
最後の明らかにからかいの混じった言葉に、ティキの顔が引き攣る。
その表情が面白くて仕方ない少女は手元の作業を続けながら、満面の笑みをみせた。
「少年といいアンタといい、クロスの弟子って何でそんなに腹黒くなるワケ?」
「腹黒いんじゃなくて逞しいんだよぉ、パパ。どこぞで男の身ぐるみを剥いだ挙句に、当時15歳の少年にボロ負けにされた誰かさんに言われたくないなぁ。それも、多勢で挑んで負けてるんだもの。本当にどこにそんなお馬鹿さんがいるんだろ〜〜」
ピキッ、と男のこめかみに青筋が浮かんだ。
ノアからいじられキャラとして特にロードからからかわれ、いじられ慣れているティキ・ミックでも、我慢の限界がある。それで言うと、家族になったばかりのこの少女は、彼のストレスゲージを高速で溜めている。「パパ」呼びもそうだし、やたらと煽ってくる。
マリアとしては、単純にティキの反応がネアを揶揄っているようで面白いからやっているだけだったりする。
「ホォー……?」
つまるところ、ティキはかなりキレていた。
「そこまで言うんだったら、勿論俺よりポーカーが強いんだろうな?」
「まぁ、そこそこには?」
マリアはベラをさっと動かしクリームの生地を整えると、乗っていた台から降りた。
それからエプロンを取って手を洗い、ててて、とトランプを持つ男の側に駆け寄る。
ここで履修しておきたいのは、彼女がアレンよりも勝負事に強いという点である。そしてその事実をティキは知らない。
以前に列車から降りてアレンたちと別れた際、ファインダーだったマリアとエンカウントはした。そして勝負に参加できず悔しんでいた女に、「こいつヤベェ」とは思った。
しかし悲しきかな。アレンの印象が強く、すでにその部分は忘れてしまっていた。
テーブル越しに向かい合う二人。
「シャッフルする前に、仕掛けがないか見せて」
「あ?何もねぇって」
「ん!」
「…分かったよ、ほれ」
マリアはトランプを確認し、イカサマの類がないことを確認する。
その手つきが妙に小慣れているので、ティキは「あれ………?」と思った。
「あのさぁ、もしかしてとは思うんだが………おたくって少年とご同類?」
「パパもさっき言ってたじゃん」
「?」
「「クロスの弟子って何でそんなに腹黒くなるワケ?」って」
ここに来てようやく冷や汗を流すティキ・ミック。しかし時すでに遅し。ここはもう虎が牙を剥く檻の中である。
「さぁ、何を賭けるジョイド?
そう言う少女は黒いワンピースのみ。一回負ければそれで終いであるし、男ならともかく「女」と「子供」がかすってツーアウトだ。
「俺の命が奪われない方向にしよう?」
「んー?じゃあ、前にアジア支部のポーカー大会やった
「待ってアレって何」
「負けた人が科学班見習いの服を着るの。最終的に勝ち負け関係なくみんなノリで着たり、着せられたりして……アレンは顔が死んでたな」
「少年が?」
「うん。だって“女子用”だからね。よし、そろそろ始めようかジョイド」
「………」
少女が見分していたカードはシャッフルされ、すでに分けられようとしている。思わずその手を止めさせたティキは悪くない。
「そんな血も涙もない争いより、平和的にする方が絶対楽しいと思うぜ?」
「アハハ!何言ってんの、危険であればある程ジョイドは燃えるでしょ?」
「俺の娘なら父親の言うことを聞け…!!」
「やだぁー。反抗期だからわたし」
カードを奪い合うことしばし。最終的に途中から部屋に来た伯爵(人間姿)やワイズリーが混ざり、脱衣ポーカーが始まった。もちろんマリアは免除である。
「イカサマは無しですヨ♡」
「何……だと……!?」
元々マリアは賭け事に関してだけは強運を持つ。しかしクセでイカサマを仕掛けたその手を、千年公がつかまえた。上には上がいるということだ。
ちなみにワイズリーとティキはパンツ一丁で部屋の隅に転がっていた。
一番の被害者は、ここに来ただけで巻き込まれたワイズリーだった。
「あんまりだのう…」
なお学校から帰ってきたロードがその光景を見て、爆笑するのはそれから30分後のことである。