「わたしは神様が嫌い」   作:アビ田

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閲覧いつもありがとうございます。方舟編をどう消化しようか悩み中です。。


ティムティムキャンピーキャンピー

 

 目覚めれば手に錠がされていた……という実験落ちではなく、普通にベッドの上で治療を受けていた。

 

 

「……生きてる」

 

 

 掌を動かしてみたが、問題なく動く。

 

 土壇場でイノセンスが復活しないか希望的観測もあったけれど、やはりそういうありがちの主人公要素は、わたしにはないようだ。

 

 ただ、非情な現実が目の前にあるだけ。生きてるだけでラッキーと思わなきゃ。

 

 

 AKUMAに腹パンされた箇所を触る。

 

 昔、千年伯爵に腹を切られた時と同じような状態だ。

 イノセンスが肌の上からでも分かるほどに脈打っている。

 

 ケガした部分をイノセンスの組織がカバーしているのだ。

 

 数ヶ月すれば自然と消えたので、今回もその内消えるだろう。

 流石に「女に傷は駄目だろ」って神父様が言ってたし、治ってもらわなきゃわたしとしても困る。

 

「うげっ」

 

 動こうと思ったら凄まじい目眩がした。

 そういえば、点滴受けてるじゃん。

 

 あー…気持ち悪い。唸っていたら、頰に何かが擦り寄る気配がした。

 その正体は────、

 

 

「ティムー!!!」

 

「ガウ!!ガウガウガウ!!!」

 

 

 わたしの天使ちゃん。

 

 どういう原理かは知らないけど、ティムをメチャクチャ泣かせてしまったみたいだ。枕の横が水溜りになっている。中に水を溜められる機能でも付いてるのかな?

 

 

「ごめんね、ティム」

 

「ガウゥ……」

 

 

 感動の再会を果たしていれば、扉が開いた。

 訪問者は室長とブックマン。それと、眼帯をした少年の三人。赤毛のキミは初めましてだな。

 

 

「起きたかい、マリアさん」

 

「……えぇ、まぁ」

 

「そうかい。思ったより元気そうでよかったよ」

 

 

 そう言うと、室長は安堵の表情を浮かべる。

 彼は一見冷酷そうに見えて、実は誰よりも甘い人だ。

 

 上に立つものとして室長は常に己の心を律し、感情を押し殺している。

 

 例えば、以前とあるファインダーが同朋の死に対して、室長に「貴方に心はないのか」と言ったことがある。

 ファインダーの男を室長が冷静に対処した後、ふと彼の横顔が見えた。

 

 その顔には、誰よりも死を悼む眼差しがあったのだ。

 

 

 後日談ではあるが、騒いでいたファインダーの男は、わたしが顔面を殴り喝を入れておいた。

 

 甘い考えに浸っているヒマがあるなら、死んだ同胞の分まで進むべきだ。

 それが残された仲間の役目って、ヤツなんだ。甘いだけの人間は、教団には不必要。

 

 

「考えているところ悪いが、話をさせてもらいたい」

 

 

 考え込んでいたわたしを見かねて、ブックマンが口を開いた。

 

 

「お話し頂けますかな、貴女のイノセンスについて」

 

「しっ、室長……わ、わたしはアレですか?話した後に実験送りになっちゃうんですか…?」

 

「ハハ…その点は大丈夫だよ。処遇は上ではなく、私が持っているからね」

 

「よかった…!」

 

 

 咎落ちの実験やらイノセンスの媒体実験やら、考えるだけで恐ろしい被験体にはされなさそうだ。

 

 というか神父様ごめんなさい。苦節10年、とうとうバレました。

 

 

 

 

 その後、自分の生い立ちは大まかに。イノセンスの部分については仔細に話した。

 勿論ノアと関係があるなど、都合の悪いことは話さない。

 

 神父様と関わりがあるのは、もうティムが出てしまったせいで隠せない。

 そこはもう諦めるしかないだろう。

 

 

「ふむ、つまり今回イノセンスが助けたのは二度目ということか……」

 

「寄生型ならばAKUMAのウイルスは勿論、イノセンスが寄生している部分のキズを自己修正した事例はあるにはある。しかし寄生している部分ではなく、宿主の別の部位の負傷を癒すなど………あり得ん」

 

「…ふむ……」

 

 

 わたしの身体のことについて話しているのに、当人が置いてかれてるんだけど。

 

 そういえばブックマンの隣にいるもう一人の青年は、話に介入せず傍観している。

 目がハートなのは気のせいかな。

 

 

 

「イノセンスがエクソシスト当人の傷を治すなど、今までに無い例だ。彼女自身のイノセンスの性質も初例だ。もしやハートの可能性もあるのかもしれぬ…」

 

「……」

 

 

 ハートはあり得ないな。

 だったらヘブラスカが絶対に指摘しているはずだもの。

 

 

「──以前ヘブラスカが言っていたんだ。不思議なイノセンスに会ったと」

 

「え?…あっ、バレてたんですね」

 

「うん、ただ貴女だとは知らなかったよ。ヘブラスカはこう言っていたんだ

 

 

 

 _____その人間は神に愛されている、とね」

 

 

 

 ……………。

 

 

 ………ッハ!

 あらいけない、わたしったら死んだ目になっていましたわ。

 

 神に愛されるなら悪魔に愛された方がよっぽどマシである。

 死後の魂は地獄でいいから、即刻神を滅ぼして来てちょうだい、サタン。

 

 

「そんな顔しないでくれ。ヘブラスカも悪気があって言ったわけじゃないんだ。彼女自身もその感覚が不思議だと言っていたんだ。愛され方が尋常じゃなかったらしい」

 

「……ヘェー」

 

 

 もう嫌だ。このままどこか遠くへ行きたい。癒しっ子のロードちゃんに会いたい。

 

 というか、わたしはこれからどうなるんだろう。

 傷の件はこれでいいとしても、今後の処遇を判断するのは室長だよね…?

 

 

「し、室長……わたしケガ以降イノセンスが使えなくて……」

 

「それについては問題ないよ。今後もファインダーを続けながら、少しずつ治していこう。イノセンス自体はあるんだ、必ず元に戻るよ」

 

「し、室長……」

 

 

 何て優しいんだ。前提がイノセンスとして働く未来というのがあるけど、それ抜きに優しい。

 シスコンな所が無ければ、きっとこの人はモテただろうに。天は二物を与えないのだ。

 

 

「取り敢えず今は、怪我の治療に専念して欲しい。もし治れば頼みたいことがあるからね」

 

「分かりました!不肖マリア、室長の命とあれば、たとえ火の中水の中──」

 

「ソレ、本当かい?」

 

「えぇ、本当の本気ですとも!」

 

「いやぁー、助かるよ!じゃあアレンくんたちと一緒に、クロス元帥の捜索お願いするね」

 

「はい!………ん?」

 

 

 

 

 

 _____えっ?

 

 

 

 

 

 *****

 

 そんなわけでケガが快癒した後……というか傷自体はもう大丈夫なのだけれど、大人しく出来ないわたしは逃げ出そうとして婦長に捕まった。

 

 よくお世話になっていた婦長。常連のわたしに素敵な笑顔を浮かべてらっしゃる。

 

 

「あぁもう……また貴女ですか、Ms.マリア」

 

「えへへ、今回は腹をやられちゃいました」

 

「…………」

 

 

 地獄のような空気はさておき。今はそのまま一緒に来た眼帯の青年___名を「ラビ」と言う人物と共にいる。

 彼は別名『ブックマンJr』とも呼ばれている。

 

 Jr.と言っても、ブックマンの本当の息子ではなく、ただの後継者らしい。

 

 

「改めて宜しくさァ。マリア……さん?」

 

「言い難いなら呼び捨てで大丈夫だよ。キミ、さん付け苦手なタイプそうだし」

 

「助かったさァ。じゃあ俺のことも普通に呼び捨てでいいさ」

 

「了解。宜しくね、ラビ」

 

 

 お互い握手を交わした。

 ビジネスパートナーになるのだから、しっかり挨拶しておかないとね。

 

 あくまであちらはこの聖戦を記録する立場なんだから、そこに私情を挟んじゃいけない。

 

 というか、さっきからやたらとこの子そわそわしているんだけど、どしたんだろ。

 

 

「マ、マリアは歳いくつなわけ?スゲェ気になってたんだけど…」

 

「あぁ…データベースには詳細に載ってなかったか。多分20後半位よ」

 

「っし、年上!」

 

 

 どうしてキミはガッツポーズをしているんだい…?

 ラビはわたしの胡乱な視線に気づき、咳払いを一つ溢してから急に真面目に話し出す。

 

 

「あんた、結構面倒そうなイノセンスを持ってるよな」

 

「そんはこと、もう耳にタコが出来るほど自分で言ってきたよ…心の内でね」

 

「ジジイも目ェ光らせてたさァ…まぁ、あんま悪目立しないよう気を付けろよ。今は千年伯爵も教団潰しにガチになって来てるし」

 

「気を付けるよ」

 

 

 それから幾らか話をして、ラビくんは帰った。

 ちなみに彼は18らしい。わ、わわ……若…。

 

 

 その後入れ替わるように扉のノブが回って、アレンくんとリナリーちゃんが来た。

 二人共元気そうで良かった。

 

 この三人はクロス捜索部隊のメンバーでもある。みんなで頑張ろう(遠い目)!

 

 

「にしても何故アレンくんが……んん?」

 

 

 ティムキャンピーが飛んでる?

 いやでも最初に会った時とか、列車に一緒に乗ってる時居なかったような…。

 

 

「ティムキャンピーはマリアさんが居る時、何故か警戒して出て来なかったんですよ」

 

「えっ、わたしのこと嫌い…?」

 

 

 あっちのティムは尻尾がオレンジ。対してわたしのティムは紫。

 

 違うティムキャンピーだとしても、嫌われたとしたらかなりショックだ…。

 

 項垂れていたら、自分のシャツの下でゴソゴソ動く存在がいる。

 ソイツが外にぺっと出た瞬間、金属音が鳴った。向こうのティムと衝突したようだ。

 

 

「グルルルル!!」

 

「ガウガウガウウ!!!」

 

 

 散歩中によそのワンコと喧嘩し始めた犬かな?

 ここはわたしが仲裁を………イテッ、わたしの手を噛むな!

 

 

「え!?ティムが二匹……!?!」

 

「──ッハ!もしかしてアレンくんが言ってた師匠って………」

 

 

 この瞬間、二人の中で神父様___アレンくん曰く、「バカ師の被害同盟」が結成された。

 そりゃあ似てるわけだよ、同じ師匠だもん。

 

 いやはや……情報にはもっと機微にならないとダメみたい。

 

 アレンくんがクロス・マリアンの弟子だって事で教団内じゃ結構な騒ぎになってたらしいよ?まったく気づかなかったわたし、逆にすごい。

 

 

 取り敢えずまだ喧嘩している二匹を離し、お互いの懐にしまった。

 

 相性が悪いようである、この二匹は。

 製作者(おや)は同じなんだから、仲良くして欲しいものだね。

 

 

「ハァ…まぁ何だろ。わたしも参加することになったから改めて宜しく、リナリーちゃん、アレンくん」

 

「はい!宜しくお願いします、マリアさん」

 

「宜しくね、マリアさん」

 

 

 それから雑談やら愚痴を多少言い合って、二人は席を立った。

 

 

 

「ガウ!」

 

「ん?向こうのティムはもう行ったよ。全くお前は……もっと仲良くしなさいよ、同じティムキャンピーなんだから」

 

「ガウ!!」

 

 

 怒ったのか尻尾で頰をペチンと叩かれて、ティムはそっぽを向いた。

 

 どうしようもない頑固者だ。全く誰に似たんだか…。少なくともわたしじゃないはずだ。

 

 

 

 兎に角今は安静にすることと、師匠探しだね。頑張らないと。

 

 それにしても話の途中で気付いたけど、リナリーちゃんやアレンくんはわたしのイノセンスのこと気付いてなかったな…。

 

 まぁ室長も完全にイノセンスが発動できるまで、他の人には黙っていると言っていたし、今はファインダーとして頑張りながら、いつか………いつか必ず、イノセンスを取り戻してみせる。

 

 

「わたしは、戦うんだ」

 

 

 

 

 

 ___人々の為に、この身を捧げるのだ。

 

 

 

 

 

 たとえそれが神に作為された道でも、わたしは止まらない。止まれない。

 

 進み続ける。それが、わたしに残された選択肢。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

「…ブックマン、本当に彼女の処遇はこれでよかったのでしょうか」

 

「中央庁に知れれば即実験室行きじゃ。それに千年伯爵が動き出した今、ヘタに知る者が多ければ多いほど、情報は漏れやすくなる。ハートの可能性があるならば尚更だ。今はその存在を最小限秘匿することに徹するべきじゃろう」

 

「………」

 

 

 室長室にて話し合うコムイとブックマン。

 真剣な様はまるで戦場にいるかのような面持ちだ。

 

 

「クロス元帥の考えを知りたい所だが…おらんからのぅ、どうしようもない」

 

「………」

 

 

 若干胃を抑え思考を巡らすコムイ。

 彼とて女好きのクロスが万が一にでも発見した時逃走しないよう、リナリーを付けたのだ。

 

 マリアの場合は効果は発揮されないらしい、本人曰く。彼女が腕を組んで大仰に頷きながら言っていたくらいだ。

 

 シスコンのコムイからしてみれば捨て身である。

 しかし今は聖戦の最中、四の五も言っていられなかった。

 

 

「では、今は様子見ということで。願わくば彼女のイノセンスが戻ってくれればいいのですが…」

 

「あれは…そう簡単にはいかんだろう」

 

 

 彼女のイノセンスがその身体を修復する際、ブックマンが感じたイノセンスの悍しいほどの執着。

 

 

 神に愛されているという言葉は確かに当てはまっている。

 しかし背筋が凍る程の執着を、果たして本当に愛というのか。甚だ疑問である。

 

 しかしあの執着さがマリアを生かそうと身体を再生させたのも、また事実なのだ。

 

 

 調べなくてはならないことは多い。

 

 発動しなければAKUMAにイノセンスの存在を察知されないことや、アレン・ウォーカーほどではないが、血の匂いからAKUMAを大まかに探知できる能力。

 

 後者に関してだけ言えばアレンと同じ元々のものだろう。

 

 

 最も早いのはクロス元帥に事情を聞くことだが生憎居ない。

 

 踏んだり蹴ったりな状況の中で下したコムイの決断は、元帥の護衛任務の同行だ。

 

 

 人とは窮地の中で爆発的な成長を起こす。室長の男はそれに賭けてみることにした。

 それにマリアは動かないと死ぬ回遊魚染みた性質なのだ。

 

 ならば任務に同行させた方が早い。

 

 

 どう転ぶかは運次第。

 しかし命の危機に瀕する可能性があった場合は、早急にブックマンの判断で戻す。

 

 それが今回の任務の前提である。マリアには知らせていないが。

 

 

「全く、面倒ごとが増えたもんじゃ」

 

「ハハハ…お気を付けて下さい、ブックマン」

 

 

 

 

 

 聖戦は止まることを知らない。

 歯車は回り、いずれマリアに踊る番が来るだろう。

 

 

 神は尚、その手の上で動く存在を笑って見ているのだ。

 

 

 

 

 

 _____戦いなさい、マリア。

 

 

 

 

 

 呪いの言葉は、今日も彼女の耳元で囁かれるのだろうか。

 

 


 

【恋】

 

 

「アレェーンおれ恋しちゃったかもさ〜」

 

「…ラビ………」

 

「すげぇタイプさぁ……年上………」

 

 

 

 アレンは静かに黙祷した。

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