「わたしは神様が嫌い」   作:アビ田

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大変遅くなりました。ストック6話分ほど書いた所で納得行かず書き直ししました。故にストックが現在ゼロ状態です。
次回の投稿もいつになるか不明ですが、気長にお待ち頂けると幸いです。


ジャングリラ

 夢の中。

 

 今日もまた、少女が立っている。

 夢を司る、不思議な少女。

 

 

『マリア、なんか悩んでるの?』

 

「愛って何かしら」

 

『愛って言っても色々あるじゃん。恋とかー、あとは家族とか』

 

「ロードちゃんがわたしに抱くのも『愛』?」

 

 

 間を置かず、ロードはうん、と頷いた。

 そのまま少女はマリアの膝の上に座る。

 

 

「それってどんな愛?」

 

『んー…アレンのは愛してるの愛だしー、千年公のは大好きの愛だしー、うーんとね〜』

 

 

 夢の中に次々と人形が現れる。

 ロードが言っていく人物の形が模されており、人物が挙げられる度に増え、空中をふわふわと漂う。

 

 

『……うーん。言っちゃダメなやつだから言わない』

 

「何それ」

 

『でも大好きなのは確かだよ、マリア』

 

 

 最後に現れたのはマリアの形をした人形。

 それを手に取ると、ロードは兎のようにジャンプして起き上がり、駆けて行った。

 

 

『やっべー忘れてた、食事会あるんだった。バイバイマリア、また遊んでね!』

 

「うふふ、バイバイ」

 

『…あ、ちょっと待って』

 

「何?」

 

 

 ロードは一旦戻り、手に持っているマリアの形とは違うもう一つの人形を渡す。

 その人形はドレッドヘアーが特徴的で、目はボタンでできていた。

 

 

『さみしい時はね、これをボクだと思ってぎゅーってして!僕もさみしい時はマリアの人形ぎゅう〜〜ってするから!』

 

「ロードちゃん…ふふ、ありがと」

 

『えへへ〜』

 

 

 マリアは嬉しそうに笑うロードを抱き寄せ、頭を優しく撫でる。そして別れのキスを頰にし、去って行く少女に目を細めた。

 

 

 その姿がなくなると、辺りは暗闇に包まれる。

 そこでふと思った疑問。

 

 自分は一体あの少女に、どんな感情を抱いているのか。

 

 

 愛?あい……?

 

 

 

「……愛しい」

 

 

 

 漠然としたそんな感情。

 しかし確かに、そんな感情があった。

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 電車の激しい揺れで、わたしの安眠は妨害された。

 

 

「………何で誰もいないの?」

 

 

 先程まで…というか乗って直ぐに寝てしまったので覚えていないけれど、ここには三人居た。わたしとアレンくんと、ラビ。

 なのに四人が座れる個室にはわたし以外誰もいない。

 

 ちなみに初めは別にしようと男衆(但し落ち込んでいてそれどころじゃないクローリー以外)は言っていたけど、そんなの寂しいじゃない、ということで強引に割って入った。

 

 大丈夫。手を出したらティムに指ごと噛みちぎられるから。

 そう言ったら何故かラビが顔を青くして、アレンくんが苦笑していた。

 

 

 思い出していれば、ふとシーツの上に置かれている紙に気が付いた。

 

 

【クロちゃん探してくるさ!】

 

 

「え、どこか行くなって言ってた本人たちが行っちゃうワケ…?」

 

 

 まぁ何かあったとしても、アレンくんの能力があるから大丈夫だと思ったんだろう。頼もしいものだ。

 彼の左目はAKUMAエリアーデとの戦いをきっかけに復活している。わたしも感知能力はあるけど、アレンくんほど性格じゃない。

 

 このまま戻って来るまで本を読もうと思いつつ、バックパックを探った。

 

 

「ん、何これ?人形?……あっ」

 

 

 どういう原理で夢で渡されたものがこの場所にあるのか不明だけれど、ロードちゃんからもらった人形が入っていた。

 ただ、今探している目的の物とは違うので一旦戻して、奥の方に埋まっていた本を取り出す。

 

 

 読むのは宗教論。

 神とは実際いるのか、それとも概念的なものなのか。

 

 数ページして段々瞼が重くなってきて────。

 

 

「ぐぅ」

 

 

 そのまま寝落ちしたわたしは、戻って来た三人に揺り起こされた。

 

 

 

 

 

「マリアさん、マリアさん」

 

「………ムニャ?」

 

 

 はっとして、クセで口元を拭う。よかった、涎は垂れてない。乙女が醜態を晒すわけには行かないからね。

 

 というか、包帯を巻いているから意味のない行為だった。

 

 あと、何故かテンションが戻っているクロウリー。どうやら好奇心補充を終えたらしい。

 彼は汽車に乗って早々、中の探検に出た。これまでずっと古城にいて、汽車に乗ったのが初めてだったらしいのだ。

 

 ラビやアレンくんに何をしていたのか尋ねれば、クロウリーにトランプでイカサマを仕掛けて金品を奪おうとした輩を、アレンくんがフルボッコにしたという。

 

 今から途中で降りる輩たちに逆に奪った衣服を返しに行くらしい。

 付いていけば寒空のもと、下着一枚の数人の男たちと、こちらは着衣してる病弱そうな子供がいた。

 

 

 ……というか、待って?何故そんな面白そうなことにわたしを誘ってくれなかったのさ!!

 

 他人の目に余るほど悔やんでいれば、負けた男たちが顔を引きつらせる。

 

 

(ヤベェ!!ありゃあ、あの中の大将だぜ。俺たち運が良かったな…)

 

(関わってたら内臓まで賭けられてたんじゃねェか!?)

 

(もういい、さっさとズラかろーぜ)

 

 

 ヒソヒソと喋っているみたいだが、全部聞こえてるぞおっさん共。体内にイノセンスが混じっているせいか、五感はこれでもいい方なのだ。

 

 

「わたしもぉ、やりたかったなぁ〜…」

 

「「「ヒエッ」」」

 

 

 おっさん三人は連れていた子供を掴んで、ダッシュで逃げて行った。

 

 グルグル眼鏡の奴は何か思い出したのか、戻ってアレンくんにトランプを投げ渡していた。

 

 カードゲームをやる際見せてもらったけど、中々好きなセンスのトランプだった。

 

 

 

 

 

 その後、無事にリナリーちゃんたちと合流し、クロス元帥を追って中国に入った。

 

 後から聞いたけど、神父様はクロウリーの城にも訪れていたらしい。クロウリーの祖父と面識があったとか。

 それで、金を借りたんだってさ。その金って、アレンくんが払うことになるのかなぁ……。

 

 

 そして山間部に入り、川を小舟で渡っていた。

 小舟にシートを被せ、その下に寝転んで隠れながら進んでいた時、感じた血の匂い。

 

 引くほどAKUMAいる。陸に着くと、そこから戦闘の連続だった。…エクソシストたちがね。わたしは戦力外である。不甲斐ない。

 

 

 AKUMAをある程度一掃し終えたら、情報収集。

 

 ずっと調べ回ってばっかりだったので、途中屋台に寄り大量に品物を頼んだ。ブックマンに観察されてるけど。

 

 

「イノセンスに何か変化はあったか?」

 

「何もないよ。10年以上変化がなかったんだから、そう簡単に変わるわけないさ。ブックマンも何か頼みます?」

 

「そうか…。いや、儂は結構だ」

 

 

 お年だからな、チャイニーズ料理は美味しいけど、こってり感が強い。

 

 時間がないので、10人前程食べて次のところに向かおうとして、リナリーちゃんから連絡があった。

 

 

『アレンくんが有力な情報を手に入れたわ!』

 

 

 着いた場所は遊郭。THE女好きである。

 

 旅の中で、こうも探しビトの人間性を垣間見れるというのは中々ないよね。

 犯罪者だったら跡を残さないよう努めるけど、神父様は更々隠す気ないよね。わたしもう頭が痛いよ。

 

 

 マホジャさんという門番をしていたスキンヘッドの女性に、わたしが襟首を掴まれるトラブルがありつつ、彼らが教団の関係者だったので難なく通れた。

 

 

「じょ、女性だったのか!も、申し訳ないことをした…」

 

「よく勘違いされるので結構ですよ、お気になさらず」

 

 

 ファインダーの格好だと、98パーセントの確率で初見の人に勘違いされるのでもう気にしてない。

 

 中に入ると、所謂絶世の美人というやつの、アニタさんという店主がいた。こりゃああの女好きがほっときませんわ。

 

 そんな彼女から出た言葉は、周囲を驚愕させる。

 

 

「クロス様が8日前旅立たれた船は、海上にて撃沈されました」

 

 

 海は大量のAKUMAの骸から滲み出た毒で犯されていたそうだ。

 

 

 アレンくんは絶対師匠は死んでない、と言い、アニタさんはその言葉に泣いていた。

 彼女、ガチで神父様に惚れてるな。そして神父様は例の如く、女性に貢がせてたのかな…。

 

 その時不意に、袖を引っ張られた。

 

 

「どしたの、リナリーちゃん?」

 

「ま、マリアさんは…大丈夫?」

 

 

 あぁ、わたしを心配してくれてるのか。神父様が死ぬわけないさ。

 強いし、あの千年伯爵から重傷のわたしを連れて逃げた神父様だよ?バカなこと言わないでよ。

 

 それにアニタさんみたいな美女を残して死ぬわけがない。

 

 

 

「生きてるよ、絶対」

 

 

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 海に漂う血の匂い。

 

 マリアは鼻をつまんで唸る。ただ、思ったよりも匂いは少なかった。

 気分を害するほど濃いかと予想していたが、検討は外れた。

 

 甲板に立つ彼女の側では、ティムキャンピーがフランスパンを食べている。

 その様子を横目で見つつ、マリアは暗い空を眺めた。

 

 

「なんか、嫌な感じするな……」

 

「ガウ(もぐもぐ)、ガガウ」

 

「お前は食べながら喋るんじゃないの」

 

「グルゥ?」

 

 

 ティムキャンピーが突然マリアの後ろをじっと見つめる。

 つられてマリアも振り向けば、そこにはアニタとマホジャがいた。

 

 煌びやかな衣装を着ていたアニタの格好は、今は動きやすいラフなものになっている。

 美人は何を着ても美人である。そんなことを思いながら、マリアは差し出された二人の手を順番に握った。

 

 

「初めまして、わたしはファインダーのマリアと申します。この度のご尽力深く感謝いたします」

 

「いいのよ。宜しくね、マリア。あぁ…あとマホジャが無礼をしたようで、申し訳ありませんでした」

 

「本当にすまなかった…」

 

 

 深々と頭を下げる二人に、マリアはオロオロと取り乱す。

 丁寧な扱いは慣れていない。

 

 一先ず協力者(サポーター)二人の協力があって江戸に向かう算段ができた。

 そんな尽力を尽くしてくれた二人に彼女の頭が上がるはずもない。

 

 

「ふふ」

 

「んにゃ?」

 

 

 突然微笑んだアニタにマリアの頭の上で「?」のマークが浮かぶ。

 

 

「あの方がおしゃっていたよりもずっと、愛らしい方ね」

 

「……ふぇ!?」

 

 

 瞬時にクロスが自分のことをアニタに言っていたのだと、察したマリア。

 絶対クソガキ云々──と言われていたに違いない。

 

 

「ティムキャンピーは随分あなたに懐いているのね」

 

「そりゃあ…わたしの相棒ですから」

 

 

 双方はいくばくか会話した後、アニタは船長としての職務に戻った。

 マリアはまたぼんやりと海を眺める。

 

 

「…ん?」

 

 

 不意に遠くで黒い物体が見えた。夏に小虫が球体状になって空中を飛んでいるような、そんな姿。

 次第にそれは形を変えて船の方へと近付いてくる。

 

 ────血の匂いだ。

 

 望遠鏡を持った船員が叫ぶ。

 

 

「AKUMAだ!大量のAKUMAがこちらに向かって飛んで来てるぞ!!」

 

「AKUMAが飛ぶ前方に白い巨大な物体もいます!!!」

 

 

 ティムは異常を察知し己の主人を引っ張った。しかし銅像のように女の肢体は動かない。

 黒い瞳が食い入るように見つめるのはAKUMAではない、白いバケモノの方だ。

 

 荒れる船内。エクソシストたちは急いで臨戦態勢に入る。

 

 

「ガアアア!!」

 

「……」

 

「ガウ!!」

 

「…ティムねぇ、見て」

 

 

 白いバケモノを指して、眉を下げたマリアは笑う。

 

 

「咎落ちだ」

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 咎落ち。

 

 

 それは神を裏切った、もしくは無理やり神域に入ろうとした神に選ばれざるものが迎える末路だと、マリアは考えている。

 

 かつて一度だけ、彼女はその姿を見たことがある。

 薄暗い夜、彼女はまだファインダーになりたての新米だった。

 

 

 

『あーあ、任務疲れちゃったよ。ホントに人使い荒いんだから』

 

 

 まだ広い教団内を把握しきれていなかったマリアは、間違えて立ち入り禁止の場所に入った。

 そこでは、人間の道徳を無視した研究が日々行われていた。

 

 聞こえたのは子供の呻き声と、研究員らしき人物たちの叫び声。

 

 

『あ、ァァ』

 

『実験の失敗だ!!何故だッ!この少年はエクソシストの血縁者なのに!!』

 

 

 マリアは部屋の前で隙間からその様子を見ていた少女_____リナリーの肩を優しく掴み、頭を撫でた。

 当時リナリーはイノセンスの適合者だとコムイの元から離され、一人寂しく教団に縛られていた。

 

 一瞬震えた少女は、自分よりも大きく温かな手を握り返し、涙を流す。

 

 

『あの子、死んじゃう…!!』

 

『そうだね。でも、しょうがないよ。聖戦のためだから』

 

『私に「バイバイ」って、手を、ふってたのに…』

 

『………』

 

 

 少女を慰めるマリアの瞳は、まっすぐに実験の惨状へと向かっている。

 少年は遂に醜く白いバケモノへと成り果てた。

 

 マリアの顔は能面のように動かず、瞳の奥はどこまでも冷めたものに変わっていた。

 

 

『人間は救いようがない生き物だね』

 

 

 その後、マリアは立ち入り禁止の場所にいたことが露呈し、厳重注意と数ヶ月の謹慎となった。

 ひとえに軽く済んだのは、新米ということを考慮されたからだ。

 

 それとちょうどコムイが室長として着任したことも幸運だったと言えるだろう。

 

 

 

 

 

 そして_____久しぶりに見た白いバケモノ。

 

 彼女の内に潜むイノセンスが疼く。

 まるで目の前の神に仇なした存在を、殺せ、と言っているかのようだ。

 

 

「発動させないクセに」

 

 

 AKUMAは咎落ちしたエクソシストのイノセンスを追いかけ、船の頭上を通り過ぎていく。

 一部は船上にエクソシストがいると気付き、攻撃を仕掛ける。

 

 エクソシストは交戦し、サポーターも結界装置(タリズマン)を使いAKUMAの攻撃を防いだ。

 しかし死人は増えていくばかり。

 

 

 血が舞う船の上をマリアはふらふらと歩いた。

 頭が割れるように痛む。神は彼女に囁く。殺せ、と。

 

 詩を読むようにマリアは歌う。頭の中に浮かぶ言葉を、そのままに。

 

 

『愚かな神は囁くのだ。殺せ殺せと囁くのだ。

 

 人間は同族を殺すのだ。聖戦の供物だと人を殺すのだ。

 

 果たしてどちらが愚かなのか、わたしには分からない。

 

 でもこれだけは確かだ。

 

 

 ────どちらも、滑稽なのだと』

 

 

 無性に笑いたくなる。多くの人間が死んでいく中で、彼女は何もできない。誰も助けられない。

 愚かな人間をマリア自身、本当は嫌いなのだ。

 

 けど、守りたい。

 けど、救えない。

 

 

 矛盾だらけの中、一人彼女は踊らされている。踊る場所は神に用意された舞台である。

 だから皮肉を込めて、彼女は歌う。

 

 

「……してよ。発動………してよ!!発動してよッッ!!!!!」

 

 

 しかしやはり、イノセンスはうんともすんとも言わない。

 マリアは後方から吹っ飛んで来たラビに巻き込まれ、角材に思い切り頭を打ち付けた。

 

 ラビはクッションがあってよかったと思った瞬間、踏んづけてしまっているマリアに驚き瞠目する。

 

 

「うおぉぉぉ!!ご、ごご、ごめんさ、マリア!!!」

 

「きゅう」

 

 

 頭から血を流し目を回す女にラビはあたふたとし、怒ったティムに頭を齧られた。

 

 

「ガウガウ!!!」

 

「いっで、ご、ごめんってば!!」

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 曲がりくねった道の上。

 道は地平線の果てまで続いている。

 

 不意に後ろを向こうとして、誰かから待ったが掛けられた。

 

 

「…ここはどこ?」

 

 

 わたしの問いに、夢の中だよ、と声が帰って来る。

 

 

「あなたはロードちゃん?どうして後ろを向いちゃダメなの?」

 

 ────ちがうよ。うしろをむいちゃダメ。

 

「何で?」

 

 ────まえにすすむってきめたんでしょ?だったら、うしろをむくひまなんてない。

 

「そう、だけど…」

 

 

 握り拳を作る。ファインダーになった所で、わたしは一歩も進めていないんじゃないだろうか。

 

 何の役にも立てない。戦うための力が無い。

 それでも守るために戦いたい。

 

 

「結局わたしは、進めていないんだ。イジワルな神様のせいで、イノセンスさえ使えない。どうしてこんなイジワルするんだろ…」

 

 ────いのらないからだよ。

 

「神に忠誠を誓うんだったら、死んだ方がマシだから」

 

 ────クスクス、しねないのにね。

 

 

 その言葉にカチンと来た。

 

 さっきからわたしを煽ってくる奴の顔を見ようとして体を動かそうとしたけど、身体に黒いものが巻き付いていて動けない。

 

 これは……蛇だ。

 

 

「あなたは何なの?まさか神様?」

 

 ────あなたがさす神は、ほんとうに神なのかな?

 

「……どういうこと?」

 

 _____神はしょせん、ニンゲンが、ききんやせんそうといったくるしみのなかで、すがるものをもとめてつくっただけにすぎない。むいしきてきに、いぞんばしょをもとめただけ。ただのがいねんの、たいけいかだよ。

 

「…それを認めたとして、じゃあ一体何故イノセンスがあるの?何故千年伯爵がいるの?それがある事自体、あなたの考えは真っ向から否定される事になるでしょ」

 

 ────クスクス、クスクス

 

 

 何かは笑う。楽しそうに、狂おしそうに。

 一瞬寒気がした。余りにも抽象的だけど怖い。姿の無い恐怖のようだ。

 

 

「結局あなたは誰なのよ」

 

 ────いずれ、わかるよ。

 

「…いずれいずれって、いつまで待てばいいの?わたしは……わたしは、戦いたいのに」

 

 ────そのかんじょうは、ほんとうにあなたのかんじょう?

 

「ウソでできた、わたしの感情だよ」

 

 ────クスクス、ヘンなの。

 

 

 誰が変人だ。それだったらそっちの方が変な人でしょ。

 

 

 ────おろかなうえで、たたかいたいというなら、あなたはまだ、たりてない。

 

「何が?」

 

 ────『愛』がたりない。アイをしりなさい。あい。アイ。愛。

 

「『愛』?それを知った時、わたしはイノセンスを発動出来るの?」

 

 ────クスクス、クスクス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクスクス────。

 

 

 

 

 

 一斉に耳元から大音量を伴って聞こえたのは、そんな笑い声。

 老若男女問わない、誰かが、何かがただ狂ったように笑っている。

 

 怖いのと、まるでわたし自身が侮辱されているようで腹正しい。

 

 わたしだって、懸命に生きているのに。

 

 

「もういい。付き合ってられない」

 

 

 返事はない。

 現実に戻れないかと念じていた時、不意に耳元で声が聞こえた。

 

 

 

 

 

「あなたがしんだとき、わかるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

 起きて早々ティムが高速で飛んで来て、頭を再度打った。

 どうやらわたしたちが乗っていた船は中継地点の港に着いたらしい。

 

 マホジャさんに肩を持ってもらいながら外に出れば、船の外観が幽霊船のようになっていた。

 

 

「んー…なんか夢を見てたんだよな。愛を知れ、とかなんとか……」

 

「だ、大丈夫か…?」

 

 

 そんなに心配されなくても大丈夫です。

 戦っていたエクソシストの方がどうなったのか、辺りを探った。…あれ、アレンくんがいない。

 

 周囲はまるで通夜ムード。

 見た顔があると思えば、アジア支部でお世話になったウォンさんがいる。

 

 一際落ち込んでいたリナリーちゃんが目に付いて歩み寄れば、嗚咽を漏らしながら泣いている。

 ラビはその背中をさすっていた。

 

 

「…何があったんですか、ブックマンJr」

 

 

 ラビは神妙な面持ちで言葉を返す。

 

 

「アレンが咎落ちしたスーマン・ダークを追いかけて、その後ノアと遭遇。……死亡、したさ」

 

「え……?」

 

 

 _____スーマン・ダーク。

 

 その人物が死を恐れ、ノア側にエクソシストやファインダーの情報を売った犯人だった。

 

 飛んでいたアレンくんのティムキャンピーを見れば、わたしのティムが慰めるようにすり寄っている。

 

 アレンくんのティムが記録した映像を見せてもらえば、長身のノアの男にアレンくんが殺される映像が映っていた。

 

 途中で膝が笑い出して、すぐさま視線を逸らした。何だ…コレ?

 ロードちゃんと違って、あのノアはどこか怖かった。本能的に身震いがする。

 

 

「マリアさん」

 

「……リナリーちゃん」

 

 

 年下の彼女に服をぎゅうと掴まれる。リナリーちゃん、優しいもんね。アレンくんが死んで、辛いんだ。

 

 わたしも、辛いよ。

 聖戦で戦う存在が一人欠けてしまった。

 

 それはすごく、悲しいことだ。

 

 

 リナリーちゃんを慰めていれば、ウォンさんから私宛の電話があるらしいと、声を掛けられた。

 電話の相手は室長。皆から少し離れた場所で電話を取った。

 

 

『やぁ、無事かいマリアさん』

 

「はいシスちょ……室長」

 

 

『ん?シス……何?』のシスコン室長の発言は無視して、先を促す。

 室長曰く、アレンくんは生きてるらしい。

 

 …どゆこと?

 

 

『彼も君と同じ、イノセンスが適合者の傷を治した。それもアレンくんの場合は彼の心臓を、だ。これで異例は二件目。それに伴い君のハートの可能性は無いわけじゃないが、薄まったと言っていい』

 

「……それで?」

 

『元々はここで君には本部に戻ってもらう予定だった。ブックマンから相当危なくなっている話を聞いたからね。だがハートの可能性が薄れた今、マリアさん、貴女には選択肢が増えた』

 

 

 一つ、このまま本部に戻る。

 

 二つ、アジア支部に留まり、アレンくんと共にイノセンスを発動させる練習をする。

 

 

 アレンくんはノアにイノセンスを破壊されても、イノセンスの粒子が彼の側に残っていたようで、怪我が回復次第取り戻す訓練をするらしい。

 

 似たような性質を持つ者が近くにいれば、わたしのイノセンスが復活する見込みもあるということだ。

 

 

「わたしは……」

 

 

 これ以上、一人だけ足踏みをしているのは耐えられない。

 救えない、ただのお荷物。

 

 わたしは神の手のひらで踊っている人形だとしても、矛盾を内包した愚か者だとしても、これ以上立ち止まっているのはそれこそ本当の愚者だ。

 

 

「…このままリナリーちゃんたちと進みたいと言っても、ダメですよね」

 

『うん、残念だが』

 

 

 辺りを見回す。仲間を失い悲嘆に暮れる者や、前を進もうと歯をくいしばるもの。

 それぞれが懸命に己の道を進んでいる。

 

 

「………わたしは」

 

 

 戦いたい。戦って、愚かだと思う人間をそれでも救いたい。

 それがきっと、わたしの運命だから。

 

 

「わたし、絶対にイノセンスを取り戻してみせます」

 

『…そうかい、わかったよ。僕の方からバク支部長には連絡しておく」

 

「…はい!」

 

 

 きっと、戦場に戻って来る。今度はファインダーとしてじゃなくて、エクソシストとして。

 神様に祈らない滑稽なエクソシストだ。神め、いくらでも笑うがいいさ。

 

 

 わたしは進む。今度は神によって決められた道じゃない、己の道を歩んでみせる。

 

 

 

 ──────戦いなさい、マリア。

 

 

 

 

「言われなくても、戦ってやるわ」

 

 

 

 この手で、自分で守りたいと思ったものを守るために。

 

 守るため、だけに。

 

 


 

【アジア支部】

 

仲の良いフォーとマリア。その近くに座るバク。

 

 

「オラオラ食えマリアー!!」

 

「(ごっくん)じゃあ後20皿餃子を…」

 

「よく食うな…」

 

「ウルセーチビ!!だからマリアより小せェんだよ!」

 

「何だとフォォォオ!!!」

 

「(煩い…)」

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