一話
2018年 4月8日
これで、俺の人生に一区切りがついた。これからは、彼女たちの物語が始まるのだ。
これから先は、いったいどうなるかは分からない。アイドルへの道のりは、長く厳しいものになるだろう。
だが俺は、プロデューサーとして、ネクロマンサーとして……さくらに恋した男として、出来る限りのサポートを行うつもりだ。
彼女たちを幸せにする為に、サガを救うために、俺はその踏み台となろう。
彼女たちを、徒花にさせたりはしない。
俺の戦いは、いまから始まる。
―――
今ごろさくらは、地下にあるミーティングルームへ待機しているだろう。そこには、他のゾンビィ(気に入った)たちも同席しているはずだ。
さくらには今後のことを、そして仲間について知ってもらわないといけない。
――階段を降りながら、やるべきことを思い返す。
ミーティングルームは、とにもかくにも暗い。そんな場所で大真面目に進行しようものなら、士気も何も上がらないままで活動が始まってしまうだろう。
だから、バラエティ番組の司会者らしく立ち回るのだ。明るく元気よく、時にはボケてみせて、それでいて指示はしっかりとこなす。この場所においては、これくらいオーバーなのが
丁度良いはずだ。
階段を降りながら、懸念すべきことを思考する。
さくらの記憶は、確かに改ざんはした。けれども根の性格は、特に不運体質は、生前のままであるはずだ。
もしもさくらが、「頑張り始めたら」――その時は、何としてでも止めてみせよう。
色々やるべきことはあるだろうが、まずはミーティングを終わらせよう。
鉄製の扉の前に立ち、思いきり深呼吸する。
この先には、ようやくさくらが待ってくれている。そう思うだけで、やっていけるという自信が湧いてきた。
うし。
幸太郎は、軋む扉を開けて、
「おはよーございまーす」
ミーティングルームに、幸太郎の挨拶が反響する。
ルームにはいつものメンバーとロメロが、それに紛れてさくらの姿もあった。
互いに、目と目が合う。
見た感じ、何をどうしていいのかが分からないのだろう。さくらは無言のままで、ただただ幸太郎のことを眺めている。
仕方がないよな、と思う。
だから幸太郎は、さくらめがけ近寄っていく。
「な、なにか?」
息を吸い、
「おはよーございますッ!!」
思いきり、さくらの前で叫んでみせた。
――呆気に取られたのだろう。さくらは、かなり困ったような顔色を示しながらも、
「あ、えと……お、おはよう、ございます」
さくらは、挨拶を返してくれた。
この瞬間から、さくらは本当の意味で生まれ変わったのだと思う。
十年ぶりに、源さくらと再会できたのだと想う。
「……さくら」
「は、はい」
俺はもう、乾太郎ではない。
さくらの魂を弄んだ以上、さくらへ想いを寄せることは許されない。ただのゾンビィプロデューサーとして、これからを生き続けなければならない。
――けれど、でも、
「これだけは、覚えてくれ」
最後に一つだけ、お礼を言わせて欲しい。
僕の人生を変えてくれた、この言葉を。
「挨拶は基本だ」
挨拶は基本だよ。
「できないやつは、認めてもらえんからな」
できないと、みんなに認めてもらえないよ。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
これで、このSSはおしまいです。
ゾンビランドサガSSを書こうと思ったのは、乾太郎の愛があまりにも輝かしかったから、名前を何度も何度も呼びかけるシーンを書きたかったから、という動機がありました。
今まで書いてきたSSの中では、いちばん年月が経っている物語ではないでしょうか。
それだけ、乾太郎は長きにわたって戦ってきました。その戦いを、自分なりに書けて本当に良かったです。
次は何を書くかは未定ですが、三題噺をしてみようかなあとか思っていたり。
このあたりは、まとまった時間ができ次第、でしょうか。
ゾンビランドサガは最高によかです。