ゆゆ刃牙~漢達のきらめきッッ~   作:バロックス(駄犬

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中々執筆する時間出来なくて投稿が遅れていく・・・。まことに申し訳ない・・・。


第十二話~農業王への試練~③

「な、なんだ・・・一体何が起きたんだッ」

 

 状況把握に自身の脳内での処理が追いつかない。 若葉は最初から自身が見てきた光景を脳内でリプレイさせる。

 水都と共に歌野が居る畑へ足を運んだのは良かったものの、歌野と一緒にいる老人が突如歌野に向かい、手首を掴んだ瞬間に体格では勝っている歌野が地面へと叩きつけられていた。

 

「うたのんがあんな風に投げられるなんて・・・」

 

「ま、まさか敵なのか・・・? しかし、今の技は一体・・・」

 

 

 大きな声をトリガーに巨大な力を使った訳でもなく、

 腕を掴み、一呼吸の内に捻るという最小の動作、

 瞬時にして歌野が宙を舞う、傍から見て思い浮かべるのは柔道でいう、投げ。

 

 

「―――合気だ」

 

「・・・ッッ!? 愚地さんッッ」

 

 混乱する若葉の背後からの声の正体は道着姿の愚地独歩がいた。

 

「あ、合気って・・・もしかしてあの『合気道』・・・ですか?」

 

 格闘技に詳しくない水都でも合気道という単語くらいは耳にしたことがあった。曰く、相手の力を最大に、自身の力を最小にして敵を制圧するというもの。

 

「なんか良くわからないけど、『氣』とか使って相手を吹っ飛ばしたりする・・・てっきりアレってテレビとか動画の中の話だけだと・・・」

 

 

 水都が諏訪にいた頃、動画サイトで合気道の試合の動画が見たのを思い出す。

 パフォーマンスっぽさ全開で老人が4,5人の男を押し返したり、ばったんばったんと投げ飛ばす場面。正直胡散臭かった。動画のコメント欄にも『やらせだろ』と、信じられない、といったものばかり。

 

 

「合気道は”護身術”・・・自身を守護る為に女子供が力で劣る相手と戦う際のもの。 しかも、相手の関節や人体の構造を利用した戦い方のハズ。

 しかし、あれは・・・人間が宙を舞う程の威力を持つ技を・・・”合気”と呼べるのかッッ!?」

 

 信じられない光景を見た。そして、見た光景が未だに信じられないという若葉の表情。

 人間の関節や、骨の構造を逆手に取った投げ技を特色とするもの。 武に精通した若葉も、それは理解している。

 

 

 だからこそ信じられない。 人が豪快に宙を舞い、あまつさえ地面を抉る程に叩きつけられるなど。

 

「―――いい機会だ。 二人とも、学びなさい」

 

 これは仕方ないことだ、と独歩は思う。

 水都は素人、そして若葉も武器を刀に持つという事もあり、勇者部の中では武に対して研鑽を積んでいる彼女も独歩からすればまだまだ”若い”。

 

「少なくとも、この時代はどうか分からねェが俺たちが居た世界ですら、合気道という武道は実戦で活用されることは稀―――、

柔よく剛を制す、なんて銘を打っちゃいるがよォ、結局技のタイミングやら相手の間合いやら測り兼ねて打ん殴られて終わる・・・それほどに合気ってのは難しい」

「しかし、一人だけ例外が存在する――――」

 

 独歩が見据えるのは彼よりも小さく、華奢な体つきの老人。畑の地面を足袋の先で突いている人物こそが、

 

「初めて実戦で合気道を持ち込んだ・・・渋川剛気という男を除いて、な」

 

 達人の中の達人、武の体現者。 それが独歩の世界で呼ばれていたその男の渾名。

 

「だからこそ惜しい―――、どうして造反神の側についたよ、渋川先生?」

 

「そりゃァのぅ人食いオロチや」

 

 土いじりを止めた渋川が顔だけを独歩たちに向けて微笑んでいた。

 

「一宿一飯の恩義ってヤツ?」

 

 この男が口にするならば、武の体現者・渋川剛気が口にしたことならば真実なのだろう。

 

 だが本心は違う事を、独歩は知っている。

 

 

 渋川と戦い、投げられ、死闘を演じた独歩だからこそ分かる。彼の本質。

 誰よりも戦うことが好き、

 誰よりも危険を承知で戦場へ赴き、

 誰よりも相手をブッ倒す事を考えている。

 

 渋川剛気とはそう言う男だ。

 

 

「だったら渋川先生、その恩義とやらしっかりと果たせるように努力しなァ」

 

 肩を竦める独歩に違和感を感じた渋川が小さく首を傾げる。独歩は一瞬不敵に笑い、

 

「―――後ろで農業王がご立腹だぜ?」

 

「・・・・ッッ!?」

 

 渋川が気付く時、自身の胴部分に緊迫感。 右腕も巻き込むように渋川の動きを封じたモノ、それは鞭。

 

 

 

「畑を荒らすのは許さないわよ・・・・ゴウ・アウェイッッ!」

 

 変身した白鳥歌野が手にする藤蔓を振るうと縛られていた渋川の身体が持ち上がる。

 勇者服に身を包んだ歌野の能力は引き上げられ、藤蔓はその腕力に耐えうる武器だ。

 

 歌野が振るった勇者の力が鞭を撓りながら伝い、持ち上がった渋川の身体が空中で力場を失い、歌野の頭上で止まる直前。

 

「――セイッッ」

 

 全身を撓らせた歌野が藤蔓を前方へ振り抜く。 空中で鞭の拘束を解いた結果、渋川は数十メートルの距離を投げ飛ばされることになった。

 

 

 体感速度60キロ。 投げ飛ばされた先、転圧を施された地面に叩きつけられれば齢70を越える老体の身体は無事では済まされない。そんな危機の中で渋川剛気が笑う。

 そうだ、これを待っていたのだ、と。

 

 

 

「―――よっと」

 

 

 畑の敷地から投げ出された渋川の身体が宙を舞う。

 確実にと迫る地面に脅えることなく、冷静な顔で渋川は空中で受け身を取り、軸を整え、まるで羽の如き柔らかさでふわり、と地面へと降り立った。 

 

 

「な、なんだあの動きは・・・、あの老体が空中で受け身を取り、しかもダメージも感じさせないようなしなやかな着地ッ」

 

 まるで奇術を見せられている・・・もはや魔法の域かと若葉が息を呑んでいると歌野が同じく畑の敷地から飛び出てきた。

 

「ふむ、なるほど」

 

 投げられた直後、身体の埃を払うように着物をぱんぱんと叩いた渋川が唸る。

 

「お嬢ちゃんの畑を荒らす気は無かったんじゃが・・・すまんね」

 

 声色だけは申し訳なさそうに言い、頭を下げないのは今が戦闘態勢が故。それでも渋川が歌野を投げた場所には地面の土が抉れ、他の野菜に降りかかってしまっている。被害としては極小的なものだが、荒らしたと言われても間違いはない。

 

 渋川の謝罪に対し歌野は、

 

「本当だったら野菜の事もベリーアングリーな所だけど・・・・一番許せないのは、私の大切な友達を狙ったことよ」

 

 藤蔓を振るって地面に叩きつける。歌野の表情は確かに怒りを持っていた。

 つい先日、赤嶺友奈が部室の戦闘能力のない巫女にバーテックスをけしかけるという外道技を見舞ってきたのだ。一度ならず二度までも、歌野の大切な友人を危機に晒されて黙っている訳にはいかなかった。

 

「悪気は無かったんじゃが・・・別に襲うつもりも無かったし――――」

 

 渋川が困り顔で頭を掻く。

 

「カワイイ娘がいたらそりゃあ声かけるじゃろ」

 

 渋川があっけらかんに言い放つ。歌野も数秒程腕を組んで、

 

「・・・・たしかに、『みーちゃんは』かわいい。 ソウキュート・・・そこは同意見だわ」

 

「ちょ、ちょっとうたのん!」

 

「う、歌野! 私は!?私はその対象に入っていないのかッ!?」

 

 赤面する水都があたふたするその隣で若葉が叫んでいた。

 

「――ったく、緊張感ねェなオイ」

 

 髪のない独歩が頭を掻きながら、その光景を見てため息をつく。若葉は若葉で、歌野からまったく返答がないことに地面に四つん這いになっていた。ただ単に戦いに集中して聞こえていないだけなのだろうが。

 

「わ、私は可愛くないのか・・・」

 

「さて若坊、いつまでもしょげてんじゃねぇや」

 

「ぐすっ―――な、なんだ愚地さん・・・」

 

 

 

 

「―――歌野が動くぜ」

 

 

 

 

 

 

 白鳥歌野が仕掛ける。

 直接渋川に近づくことなく、藤蔓を振るう。波のような軌道で撓る鞭が渋川の足元の地面を穿ち、弾けるような甲高い音が響く。

 

「・・・・ッッ」

 

 渋川の足元、まるで小規模の火薬が爆発した後のように抉られた土がある。藤蔓の威力を物語るソレは一瞬だが渋川を怯ませる。

 

 一振りすれば一つ大地を穿ち、

 二振りすれば二つ大地を削り、

 重なった連撃は砂嵐を起させるほど。

 

 

 渋川動かない、否、動けない。

 大地を抉る程の威力を持つ無数の鞭の軌道が砂嵐に紛れ、見極めるのを阻む。

 下手に飛び込めば、刃の嵐の中を無防備に進むかのように、危険であると判断する。

 

 

 

「考えたな、歌野ちゃん」

 

 独歩が言う。

 

「どんな拳法家だろうが、武道家だろうが、それらが繰り出す一流の技は殆どが相手に『触れる』事を前提としている。 だが逆に、触れさせさえしなければ合気を仕掛けるもクソもあったもんじゃねェ」

 

「む、鞭の動きが見えない・・・これじゃあの人も近づけない、凄いよ、うたのん!」 

 

 藤蔓と言う長いリーチを持った歌野だからこそ出来る『合気封じ』。それは独歩を含めたグラップラー達にとっては天敵とも言える。今この時だけは渋川剛気という達人に対して、歌野は確実に優勢を保っていた。

 

「だが、相手はあの渋川剛気・・・・そう簡単に上手くいくとは思えない」

 

「不安な要素があるのか、愚地氏」

 

 若葉の問いに独歩は目を細めた。

 

「もし、こうなったら・・・お前らはどうすんだろうな、ってずっと俺や烈は考えてたワケだ―――、今にそれが分かる」

 

 

 

 

 

 

 

 渋川が動きだす。

 ゆっくりと、一歩を踏み出し、一定の速度で近づいては歌野との距離を縮めていく。

 

 不用意に、不気味に近づく渋川に歌野が鞭を振るい、近づく者を拒む鞭の嵐を形成する。この鞭の嵐に飛び込むものは、たとえ舞い込んできた草、花びらも容赦なしに巻き込んで打ち刻むもの。

 

「――行くぜ、お嬢ちゃん」

 

 だが、渋川はニヤリと笑みを浮かべた直後、たんっ、と跳ねては一気に歌野との距離を消していく。

 鞭が抉っていく大地に物怖じすることなく、

 直線的に、ただ真っ直ぐに。

 

 

「・・・ちょッ、ウソッ!? リアリィ!?」

 

 歌野の表情に焦りが見える。

 一発でも当たれば皮膚が腫れあがる程度では済まされない鞭の嵐の中を突っ切ってくる渋川の行動はどこからどう見ても無謀であった。

 渋川を近づけさせまいと歌野の鞭を振るうスピードが上がる。手先だけに振るうのではなく、何千何回と練習していく中で歌野の脳内ではどうすればこの場所に鞭が届くかが瞬時にイメージできている。隙などが出来る筈がない。

 

 

 一瞬の刹那、渋川剛気が歌野の目の前に姿を現した。

 

 鞭の嵐を物ともせず、

 その身に傷一つすら見当たらない、

 着物を着崩すことなく、にんまりと笑みを浮かべた渋川の手が歌野に迫り、

 

 

「―――ッッ」

 

 歌野が鞭で応戦しようとして、動きが止まったのを達人は見逃さない。

 

 

 

 無防備な右腕を掴まれた瞬間、

 身体が宙を舞うという浮遊感が蘇る。

 廻される視界の中で歌野の頭部が地面と垂直になった時、

 

「まだまだァッッ」

 

 まるで風車を素手で廻す如く、

 歌野の頭に手を添え、自身の力を加えて加速させる。

 更なる一回転に加速を加えられた歌野が地面へと側頭部から落ちるのに合わせ、上から押し込むように叩き落とす。

 どごっ、と地面にめり込む轟音が鳴り響く。 

 

 

「がはっ・・・!!」

 

 地面への衝突の際、歌野の脳が激しく揺らされる。

 脳が頭蓋内部に何度も衝突する回数は数百回か、または数千回か。

 

 渋川が少しだけ崩れた着物を着直して、

 

「お嬢ちゃん、ウソばっかり(・・・・・・)だねェ・・・」

「舐めてんのかい?」

 

 凍りつくような目つきに当てられて身動きできない歌野に、

 次の瞬間ぐりっと、右足による容赦ない喉蹴りが炸裂した。

 

 

 

 

 

 

「うたのん!」

 

 渋川の喉蹴りを見舞われ、地面をのたうち回る歌野を目の当たりにした水都が叫ぶ。

 

「愚地さん、今の攻防・・・貴方が言っていた不安と関係があるんですか!? 今までの歌野には油断もなく、こうして一撃を貰う結果になったが、そこに歌野の慢心はなかった筈だッ」

 

 若葉が問う。

 これまでの歌野は確かに一時的なものであったが達人・渋川の動きを確実に封じ込めていた物だった。それが一瞬のうちに形勢が逆転され、歌野に危機が迫っている。それが独歩の言うが、若葉が見てもこれまでの歌野の戦いの中で歌野の戦いに不安要素は見当たらない。

 全ては達人が持って為せる技故の展開なのではないかと信じて疑わない。

 

 

「違うな若坊・・・奴も、渋川も気づいてらァ」

 

 独歩の言葉はいとも簡単に若葉の思考を否定の言葉で両断した。

 

「普段バーテックスに戦う事を前提にしているお前ら勇者だからこそ、むしろ・・・・人外から人間を護ってきたお前らだからこそ、この展開は避けられない・・・・

お前たちは――――、勇者は対人を想定していない」

 

「ッッッ!?」

 

「たとえば、若坊は西暦の時代では無頼の力を持って生太刀で何千という星屑を、バーテックスを滅ぼしただろう。 だが、その刃をお前は仲間や、同じ同種の人間に対して向けた事があるかい?」

 

「そんなこと、あるわけが・・・まさかッ」

 

「そうだ。 人々を護ってきた勇者だからこそ、本来護るべき人間だからこそ、武器を持って、力を振るう事は出来ない。 人間を相手取ることに対して勇者は抵抗を感じる・・・

 

 生身の人間が歌野の鞭に打たれ、若葉の刀で斬られれば命に係わる・・・

 十回くらいは若坊に斬られれば、オイラや烈だって死ぬだろうよ」

 

「じゅ、十回くらいは耐えるのか・・・」

 

 これまで若葉たちが想定していなかった対バーテックスではなく、対人間の戦い。

 バーテックスは勇者達と戦う事でその驚異的な成長速度で新たな力を持っては四国を襲ってきていた。若葉もそれは経験している。対して勇者もその強大な力に対抗するように若葉の後世、300年の間もその力を継承し、育てていった。結城友奈たちの時代のシステムを見れば一目瞭然である。

 

 全ては人類を護る為。

 その力の結晶、勇者システムがこの造反神を沈める御役目でこのような弊害を引き起こすとは思ってもいなかった。

 

「歌野ちゃんも一人で諏訪を護っていたんだ・・・犠牲も一度も出さなかったって言ってたし、誰よりも人を護る心が強い、優しい娘だぜ。

それで相手が同じ人間となりゃあ、そりゃあ戸惑うよな」

 

「ということは、歌野が繰り出していた全ての攻撃に当てる意思が無かったのを、老人は見抜いていたと?」

 

「歌野ちゃんに手抜きはねェ・・・だが、護身を信条とする渋川にとっちゃあ、どれが自分に危害が加わる攻撃かどうかを見抜くなんて、造作もない事だろうぜ」

 

 渋川が歌野の攻撃を『ウソ』と生じたのはその為だろう。

 普段人間を護る事を日常とした者達にとって、人を傷つけるという行為は無縁のもの。だからこそ、そこに隙が生じる。不利と有利が逆転する。

 

「じゃ、じゃあ・・・うたのんに勝ち目はないって、こと?」

 

「・・・そんなッ」

 

 若葉の拳に握られる力が強くなる。

 人間が相手になる。 赤嶺友奈が相手の時は気にも留めていなかったことだ。同じ人を攻撃する、生身の人間を攻撃することに躊躇いのある人間が勇者部にはほとんどだ。若葉だってそうである。

 これから先、渋川剛気のように達人が相手になるようになり、バーテックスよりも人間を相手にすることが多くなれば、今の勇者部たちに勝ち目はあるのか。

 

 

 現に歌野が苦戦しているのだ。いや、苦戦など生ぬるい、圧倒的技量の差で追い詰められている状況は絶望的に敗北の色を濃くしていた。

 

 

 

 

 

「ドント・ウォーリーよ・・・みーちゃん、若葉ッ」

 

 不意に声が聞こえる。

 若葉と水都の視線の先、立ちあがった歌野の姿があった。

 

 

「ほぅ・・・アレ食らって立てるなんてよォ、根性あるじゃねェかお嬢ちゃん」

 

 渋川剛気が笑みを浮かべる。

 それは確かに、自身の合気の技を受けた歌野に対する感心と敬意を含めた笑みだった。

 

「じゃが、その状態で続けるのは・・・無理は言わん、やめとけ。

―――ドロドロじゃろう?」

 

「・・・・ええ」

 

 渋川の示す言葉が意味するもの。

 歌野の視界は酷く、歪んでいた。

 

 

 目に映る全ての光景があやふやで、

 大地が常に歌野に近づくように隆起するような変動を続け、

 人は歪みながら捻じれ、現実とかけ離れた空間。

 

 

 脳震盪を引き起こした歌野の平衡感覚は失われ、今にも倒れそうになる身体を寸前で踏ん張って見せ、必死に耐える。

 

 

「そこまでして、戦う理由はあるかい? 勇者、だからか」

 

 ふむ、と渋川が唸る。

 女子中学生が人類を護る御役目を担うには、少しばかり酷だと、武人としてではなく、人間としての心がそう思わせる。

 

 

 

「タマネギ・・・・」

 

「ん?」

 

 突拍子もない野菜の単語に、渋川が困惑の反応を見せる。それは若葉たちも同様の物だ。

 

「アスパラガス・・・パセリ、ネギ、きのこ、高菜、フキ―――」

 

 連ねる名の野菜は、全て歌野が育ててきた野菜たちだ。

 

「この世界に来る前、そう言えば諏訪でそろそろ収穫に入る野菜があったなーって」

 

 元気に成長を遂げた野菜たちの姿を歌野は脳裏に浮かべる。

 

「私が負けたら・・・そういう収穫時期にあった野菜とか畑とかも全部、バーテックスに荒らされちゃうんじゃないかなって・・・向こうの世界で実際にそうなったらね」 

 

「歌野・・・」

 

 若葉が呟く。

 現実世界で通信をしていた時、彼女はいつも農業のことを話していた。バーテックスとの闘いで縮小していく長野の地域で自活を余儀なくされたことなど、その切羽詰った苦しい状況も。

 

「だから、私がダメになったら、何もかも終わっちゃうんじゃないかなって・・・ずっとそう思ってた―――若葉」

 

 小さく笑って、歌野は言った。

 

「球子さんが言ってたわ。 ”若葉が後ろにいるのは心強い”って・・・。

自分たちがこれまで戦ってこれたのも、厳しい戦いのときに前を向いて全力で戦えるのは、後ろで若葉が控えてくれているからだって・・・今なら、その心強さが分かる気がする」

 

「おい、まて歌野」

 

 若葉は悟った。

 死ぬ気なのだ、歌野は。 どこか、遠くを見るようにそれでも生気を失っていた歌野は何か差し違えるつもりか、その覚悟で戦うつもりだ。

 

「後を頼んだわ・・・・、でもただでやられたりしないから、この御役目が終わってもし現実の世界に戻ってもあなた達の為に、後から続く人たちの為に何か残してみせるから。

そうすれば、私じゃなくても・・・別の誰かがいずれゴールを切って――――」

 

 

「――-ふざけるなッッ!!」

 

 歌野が言い切る前、若葉が叫んだ。

 

 

「この世界に来て、私はお前の力になってやりたいと思っていたッ! だが、今のお前のそんな頼みを、素直に聞こうとは思わんッ」

 

「ちょっ、ホワイ!? どうしてよ若葉!?」

 

「どうしてだとッ!? ならば教えてやるッ」

 

 すぅ、と息を吸い込み、叫ぶ。

 

「生きる事を諦めるなッ」

 

「―――ッッ」

 

「私の知る勇者・白鳥歌野は―――、そんな弱音を吐くような勇者ではなかったぞ!! 自分を切り捨てるなんて考えを私は許さんッ 人を護る役目、それはお前自身とて例外じゃないんだッ」 

 

 泣くこともせず、怒気を込めて言い放つ若葉の言葉が耳に響く。

 諦めてはいけないと、

 自分を擦り減らすなと、

 生き残れと、

 

 若葉は確かにそう言っていた。

 

「やっぱ若葉って、武士みたいな人ね・・・将軍みたい」

 

 心を震わせる友の熱い声。

 諦観していた歌野の心が軽くなるのを感じ、呟く。四国の勇者達が、若葉がリーダーになった理由が分かった気がした。

 

「戦って、勝て! そして生還しろッ―――行けッ農業王!!」

 

 

 一喝に対して、歌野が両の頬を叩く。 瞳に力が戻った歌野が渋川と相対した。

 

「覚悟・・・決めちまったか」

 

 渋川がため息をつく。 彼は歌野に対してやるせなさを感じていた。

 

 

 勇者であるが為に、本人が望んだわけでもないのに、

 地球、土地、人類、家族、友・・・・。

 中学生女子がその肩に背負い込むには、余りにも重く、余りにも酷。

 

 渋川は思う、神様ってのは酷いコトをする、と。

 

そうなっちまった(・・・・・・・・)んならコッチも手加減できねェ・・・来な、お嬢ちゃん――――イヤ」

 

 瞳を細め、静かに構えを取った渋川が纏う雰囲気は、それまでの彼とは見間違えるほど。

 鞘に納めていた刀のように、精神を研ぎ澄ませる。

 

「―――白鳥歌野」

 

 見据えた渋川の瞳に映る歌野は、達人が全力を出すに足る存在へと変貌を遂げていた。

 

 

 

 

 




独歩「十回でも斬られれば俺だって死ぬだろうよ」
烈「首を切断されぬ限り、反撃は充分可能ッッ」

武蔵「ほぅ」

 いや、実際無理だよ。一回でもというか半分斬られても死ねる自信があるよ。

 勇気のバトンを全否定してくる若葉様が出来てしまう。でも、生きることを重要に思っている若葉にとって目の前で「人類の為に潔く犠牲になるぜ」、っていう歌野の言葉は多分若葉からすれば許さないと思う。
 そういう言葉を伝えられたのも、この『ゆゆゆい』という世界だからこそ。やっぱ神樹様は素晴らしいですね(大赦犬)

歌野編は次で終了予定。
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