ゆゆ刃牙~漢達のきらめきッッ~   作:バロックス(駄犬

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サンドバック蹴り過ぎて脚が痛いよ...,
グラップラー達に精霊バリアはありません。ていうかいる?



第十三話〜農業王への試練〜④

 静寂を打ち破るかの如く、歌野が動いた。 

大地を削り取る轟鞭が再び撓り、無限の軌道が生み出される。

 

 渋川が感じ取る、白鳥歌野の変化。

 眉を顰め、繰り出される鞭の打ち筋を見極め、身を捩る。

 鞭が空気を叩く音が響く時、それは鞭の振るわれた速度が音速へと達した証だ。

 

「……ムッッ」

 

 弾けたような音が確かに、渋川の衣服の袖部分を捉えていた。

 

 当てに来ている。

 

 先ほどまでの他者を傷つけることに脅え、鞭を振るう事を戸惑っていた少女とは思えない。

 この袖を穿った一振りも、渋川が回避を行わなければ確実に左腕を叩かれていただろう。

 

 護る物の為に覚悟を決めた、そう言う感じだ。

 

 

――――ならば、終わらせる。

 

 渋川の全身が溶ける。 

 固形から液体へ、

 氷から水へ変化するかの如く脱力し、

 膝を曲げ、身体を落とし、

 その落下による勢いを踵へ伝え、

 爆発的な加速を生み出し、歌野との距離を消していく。

 

 

 渋川が歌野との距離を二間半とした時、

 

 

 真横から鞭が。

 渋川の接近を予測した歌野の鞭が左方向から迫って来ていた。

 その軌道は確実に渋川の脇腹を狙うもの。

 

 次の瞬間、音が弾けた。

 叩きだした乾いた音は遠巻きの三人にも聞こえ、初めて耳にすれば背筋が凍る程の快音。

 

 

「……ワッツッ!?」

 

 違和感に気付いた歌野が叫ぶ。

 歌野の鞭は確実に渋川の脇腹を捉えていた。

 

 

 だが、歌野が打ち込んだのは渋川が直前に脱ぎ捨てた―――、羽織。

 

 

 渋川の側面を扇情に広がる羽織はまるでパラシュートのように展開され、歌野の鞭と激突する。

 ふわり、と広がった羽織は打ち込まれた部分は破けている。だが、渋川の皮膚には届かない。ダメージは発生しない。

 

 羽織の生み出した空気抵抗が歌野の鞭の威力を最大限に達させる事を叶えさせなかった。

 

 

 渋川はその威力を殺され宙に浮いていた羽織と鞭を同時に、

 

 

「……ふんッ」

 

 巻き取る。

 己の羽織を鞭の最大攻撃力が生み出すその小さな先端に絡みつけた。

 

 

 歌野が鞭を振うより早く、渋川が羽織の袖と袖で外れぬように完全に結びつける。

 

 

「――鞭の初動、捉えたり……さてどうするね、白鳥歌野とやら」

 

 

 

 

 眼前に歌野を捉えた渋川がそう呟く。二人との距離はもう目と鼻の先。

 大きく遠心力を利用することでその威力を発揮する鞭。だが、先端に扇状に羽織を巻きつかせられた鞭の振るう初動は今までよりも格段に遅くなる。

 

 

 それは例えば、巨大な旗を振るうのと一緒だ。

 ただの棒ならば人間はいとも簡単に棒を振るう事が出来る。

 だが、先端に布などついた時は力を籠めてもゆっくりとした動きになる程、その動作は遅くなる。

 

 

 空気抵抗というのは運動する方向とは逆にしょうじる。

 上に向かえば下向きに、

 右に向かえば左向きに、

 

 

 そして空気抵抗というのは速さに比例する。速ければ速いほど、それは大きくなり、その運動を阻害する。

 今の歌野が持つ藤蔓はそういう状況になっていた。

 

 

 どんなに歌野が全力で、全速で振るっても半分程度の実力しか出せないだろう。そしてこの距離、鞭として歌野が出せる最大の攻撃範囲よりも近すぎるこの距離が絶望的に敗北の色を濃くする。

 

 

「流石に諦めねェか」

 

「当然よ」

 

 歌野の目には絶望など微塵もない。自身の武器である藤蔓の最大の長所を消され、攻撃の手段が皆無となったこの状況でも白鳥歌野は渋川を迎え撃つ気満々であった。

 

 

「勇者は簡単に諦めたりしない……人々の希望ですもの!」

 

「そうかい……それじゃあよォ―――」

 

―――締めるぜ。

 

 そう言い切るより前に、覚悟を完了した歌野が羽織を巻かされている藤蔓を振るう。

 だが藤蔓の動きはやはり遅く、渋川が速い。

 

 

 鞭を振るうために渋川へと向かっていたその剛力を、

 剛力が伝っているその腕を掴み、合気が発動する。

 

 

―――廻ッッ

 

 力の向きが見え、それを利用した渋川による合気。

 歌野の身体が真横に回り、一瞬だが宙に浮く。

 加速がつき、風車の如く回る歌野の頭部が地面に叩きつけられる直前。

 

 

 歌野が頭を振った。

 自身が廻る方向へ、さらなる加速がついた歌野の身体は頭部は地面を通り過ぎ、綺麗に足先から着地する。

 

 着地を決めた歌野が足が、一本の軸となり独楽のように回転する。

 一回転、渋川に投げられた合気の威力をそのまま利用した歌野が繰り出す―――、

 

 

―――裏拳?手刀?突き? でも、これって……たしかァ。

 

 渋川には確かに見覚えのあるモノだと気付く瞬間、右頬を貫く感覚。

 自身の合気を利用された一撃、それが渋川の頬を抉る。

 その威力は絶大で、打たれた頬だけでなく、浸透するような痛みが頭から足先までを駆け抜ける。

 

 しかし、その刹那。

 

―――見事也ッ 白鳥歌野ッッ。

 

 達人が賞賛を送る歌野の技に意識を刈り取られなかった渋川が見せる達人の意地。

 その技を身に受けながらも歌野の腕を顎と肩で挟み、引き寄せ、歌野の態勢を崩し、背に負うようにして――――、

 

 投げる。

 

 小さく浮いた歌野の身体、生じた隙間に潜り込み、歌野の顔に手を添えてその顔を地面へと叩きつける。

 地面を抉り、後頭部が地面にめり込むほどの轟音。

 

「―――」

 

 自身の最後の力を振り絞った攻撃も利用され、返され、その威力を身に受けた歌野は立つことも指を一つ動かすことが出来ない。

 

 

 完全なる沈黙。それは勝負の決着を意味していた。

 

 

 

 

 

「歌野ッ」

 

「うたのん!!」

 

 若葉と水都が地面に倒れた歌野へ駆け寄る。 あの技を食らい、後頭部を地面へと打ち付けた、それだけでも歌野の安否が気になる。果たして無事なのか、ちゃんと生きているのか。

 

「みーちゃん、若葉……」

 

 歌野が確かに発したのを聞いて、二人は安堵の息をつく。水都が歌野の身体を抱き起しては、その身体に付着している土を綺麗にはたいた。

 

「……効いたァ」

 

 そう呟くのは、歌野を下した渋川剛気だった。地面に胡坐をかいている渋川のその姿は肩で息をし、瞳の焦点がぶれていた。その表情は明らかに疲労の色を見せている。

 最後に渋川が見舞われた歌野の必殺の一撃がその威力を物語る。

 

 

「最後の一発……なかなかどうして」

 

―――『マッハ突き』。

 

 渋川のいる世界で、愚地独歩の息子である愚地克己が持つ必殺拳。

 それが、歌野の最後の一撃を見た渋川の思い浮かべるものだった。

 

 

 自身の身体の関節、背骨を含む全身27か所を回転・連結加速させ、瞬間的に音速に達する正拳突き。それが『マッハ突き』だ。

 その威力は絶大であり、打撃が通用しない程の強靭力(タフネス)を誇る極道を一撃のもとに葬った拳。

 

 

 白鳥歌野が最後に繰り出した技は、それに限りなく近いもの。

 

 

 だからこそ不思議に思う。

 歌野は鞭だけを扱っていた。独歩から特別に空手を教えて貰っていたわけでもない。

 そんな少女があの土壇場で必殺の空手技を扱えるものなのかと。

 

 

「もし、完成されたマッハ突きなら……どうなってたよ、渋川センセ」

 

 愚地独歩が座り込んでいる渋川を見おろしていた。

 

「空手の形は本来、波の原理――。鞭の原理で動くものだ・・・」

 

―――脱力の極地。

  

 腕、脚に余計な力を与えないこと、それは一見力の籠らない一撃となるのか、それは否である。

 

 相手の突きの軌道を相手の威力で逸らし、受けた手で即座に相手の腕を滑らせて反撃が出来るように、

 脚を一本で蹴り込むのではなく、ぷらん、と撓らせて蹴り込むことで遠心力を利用したキレのある蹴りへと変わるように。

 

 それこそ、鞭のように。

 

 

「鞭を使っていた歌野ちゃんだからこそ、出来たのかもしれねェ……偶然の産物故、威力は克己よりも遥かに劣るが」

 

 

「面白いぜ……やっぱ若いってのはいいなァ。 奇しくもオイラとアンタが地下で闘り合った時と同じ場面だ……」 

 

 地下最大トーナメント。

 独歩と渋川、武神と達人の一騎打ち、その最終局面が彼らの脳裏に蘇る。

 武の極地に辿り着いた二人が繰り広げた死闘の光景が思い出される毎に、独歩の鼓動は高まっていた。

 

 

「そうじゃなオロチよ…… でも本当にこの世界は良いのぅ、とてもとても――――」

 

 面白い。そう言おうとした時だ。渋川の前に立つ一人の少女が居る。乃木若葉だ。

 

「――渋川剛気、次の相手はこの私、乃木が合い仕る……異論はないな」

 

 スマホを翳して、そういう若葉は臨戦態勢へと入っている。

 

「歌野の仇だ。 四国勇者筆頭が必ず貴様を----」

 

その手がスマホに触れられる直前、渋川が唸る。

 

「それもいいがな、ここは学び舎ぞ?」

 

「何を言っている――――ッッ!?」

 

 直後、耳に響く聞きなれた音。それは讃州中学の鐘の音。

 

「昼休み……終わっとろうが。 さっさと戻らんと、授業に遅刻するぜ。―――それに、怪我した仲間を放っておくのもどうかと思うがね」

 

 歌野に一瞬だけ視線を送った渋川が言い放つ。 仲間の勇者や学校の生徒に心配されるのは若葉にとって不都合だった。この戦いは樹海化が発生しない。だからこそ、通常通り時間は流れていく。

 

「行けよ、センセ」

 

 独歩が言う。

 

「俺も今は空手部の顧問だ。 下手に動けねェし、次に会うまではこいつ等をセンセ並みに強くしといてやるよ」

 

「そいつァ楽しみだ……」

 

 立ち上がった渋川が笑みを浮かべ、独歩たちへ踵を向けた。先ほどまでのダメージを感じさせないような凛とした歩きで渋川はその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 白鳥歌野は保健室にいた。 頭には包帯が巻かれ、顔の擦りむいた個所には消毒をして絆創膏を張るなど簡単な処置は済んでいる。

 

「うたのん、大丈夫?」

 

 保健室のベッド、横たわる歌野が顔の角度を変えればそこには藤森水都の姿があった。若葉はいない、彼女たちの教師に事情を説明に向かっている。歌野が畑の作業中に転んで倒れた、伝えるらしいが大丈夫だろうか。

 

「平気よ、みーちゃん……。うん、へいきへいき」

 

「・・・・・」

 

 明らかにその声に力が無いのを水都は分かっていた。いつもなら得意の英語交じりのハイテンションで、戦いが終わった後でも疲れた体に鞭を打ってでも四国通信や畑仕事をしていた歌野。だが、その姿は今は見られない。表情には曇りが見える。

 

「私ね、みーちゃん……負けちゃった」

 

 ぽつりと歌野が呟いた。

 

「長野の……諏訪のこと考えて、みーちゃんとか若葉のために、全力で戦ったけど駄目だった。 強いのね、達人って」

 

「そうだよ、相手が強すぎたんだよ……しょうがないって」

 

 水都は精一杯励ます。今回の戦いは異常だったと。それでももっと他にかけてやりたい言葉はある。だが、それを言い出せないのは、いつも太陽のように明るい歌野の姿に水都自身も戸惑っていたからだ。

 

「でも私が負けたら……諏訪が!」

 

 歌野が負けること、それは諏訪が堕ちる事と同義だ。

 歌野はいつもそうだった。誰かの為に戦っていた。 それは崇高な使命だったかもしれない。しかしそれは、確実に、歌野の知らない所で重荷となり、次第に重圧へと変わっていった。

 

 その重圧が限界を超えて現れたのが、あの夢だ。

 

 圧倒的物量に蹂躙される諏訪、その牙に捉えられ命を落とす住民たちとその友の光景が歌野の脳裏に焼き付いている。

 たとえ夢だったとしても、そうならないように心を強く持って、歌野は強くあろうと、前を向いて戦ってきた。

 

「私は、みーちゃんや諏訪の人たちが傷つく……そんなのイヤよ。 でも、今の私じゃ皆を護れない……そんな私が勇者をやる意味―――」

 

「違うよ、うたのん!」

 

 歌野の肩を掴んだ水都が身体を引き寄せると、その勢いで抱きしめた。力いっぱい、絶対に離さないように。

 

「うたのんが今まで頑張って戦ってくれたから、諏訪があって、ここに私がいるんだよ? 今日だってそうだよ、うたのんは最後まで逃げずに戦ってた。精一杯頑張ってたその姿はね、相手の人にも負けてなかったッ」

 

 だからこそ言う、歌野は悪くないと。

 

「私はね、そうやってぐいぐい引っ張ってくれるうたのんが大好きなんだよ。 諏訪の人たちも、農業やるってなった時、一緒に手伝ってくれるまで時間が掛かったけど、皆付いてきてくれたでしょ?……うたのんの情熱が、みんなを動かしたんだ」

 

 その行動が人々の心に勇気を与えてくれていた。 だから何度襲撃で畑を壊されても、生存圏を縮小させても畑を作り、自活を続けてきた。全ては、歌野が見せてくれていたからだ。人は、何度でも立ち上がれると。

 

「みーちゃん……」

 

「だからね、うたのん。 勇者をやる意味がないとか、そんなこと言わないで……一緒にみんなでがんばろ? また最初から……イチからッ」

 

 お互いに涙を目尻に浮かべる。歌野はこらえようとしていたが、水都が微笑んできたのが効いたのか我慢できずに涙を流した。

 

「ありがとう、みーちゃん。 わたし、強くなりたい、強くなりたいよ……っ!」

 

「今は、しっかり休もう?……帰ったらお蕎麦茹でてあげるからね」

 

 泣きじゃくる歌野の背をぽんぽん、と叩く。歌野が泣き止むまで、水都は暫く彼女を抱きしめ続けていたのだった。

 

 

 

 

 

 

「……邪魔しちゃァ悪いよな」

 

 保健室前、独歩は小さく笑ってそのドアを開けようとするのを止めた。今自分がこの空間に入る事は、野暮であると判断してその場を去ろうとする。その間に、横を通り過ぎる若葉が居た。

 

「むっ、愚地さんか」

 

「若坊、どこ行く気だよオイ」

 

「ああ、歌野の様子を見に来た。 今日は早退しても良いとのことだ……風さんにも喋ってるし、荷物もこうして持ってきた」

 

 見ればわかる、と独歩はため息をつく。若葉が手にしているのが歌野の鞄や、その他の道具は早退させるために持ってきた物だと誰もが見れば考えが付く。

 

 ただ、それにしてもだ。

 

「で? お前さんはどうするんだ……歌野ちゃんは今ミトちゃんと――――」

 

「なんだ、水都もいるなら三人で用意しようか。 そうだ、愚地さんも手伝ってくれ! 歌野の早退準備を――――」

 

「お前さァ――」

 

 若葉が保健室の扉に手を掛けようとした直前。がしっ、と独歩が若葉の襟を掴んでは吊るすようにして持ち上げる。

 

「な、なにをするんだ愚地さんッ!」

 

「いや、なにをするんだじゃなくてだな―――」

 

 やれやれと言った表情で独歩は言う。

 

「そういうところだぞ若坊様ッ」

 

「ど、どういうことだ・・・、まるで意味が分からんぞ!」

 

 もういいや、勝手に連れてこ。

 そう胸で呟きつつ歩き出す。独歩の言葉の意味を解さないまま、若葉は自分の教室に戻されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

―――その一方で。

 

「なんじゃぁ、これはよォッッ」

 

 達人・渋川の眼前に広がっているのは唸りを上げ、全てを飲み込まんとする大海があった。

 昼だったはずなのに、辺りは曇り、荒波が立ち、一歩でも踏み込めば一瞬で飲み込まれてしまいそうなもの。

 

 

 これは現実なのか、答えはノー。 全て、渋川が己に見せているイメージ。

 

 

 護身を極める上で身についてしまった極意。 その身に護身を宿したならば、そもそも護身術と言う技術は不要であり、自ら危険な場所に向かうことが無くなるのである。

 

 渋川の行く手を阻んでいるこの荒波は、それから逃れようとする渋川の防衛本能が見せている幻覚にすぎないのだ。

 

 ある時は鋼鉄の巨大な門が目の前に、

 ある時は全てを焼き尽くす溶岩が広がり、

 ある時は底なしの谷を渡るための橋が掛かっていない光景が広がる。

 

 

 

 

「これほどまでの脅威が……あの場所にあるというのかッッッ」

 

 来た道、赤嶺友奈がいる見解放地域へと戻る最中に現れたその幻覚は確実に渋川の脚を止めていた。

 

「し、しかもこれ……って」

 

 自身は、この幻覚に、危険度に対していつか遭遇したことがある気がした。

 見てもいないのに、そう察知できるほどの脅威の正体に渋川は心当たりがある。

 

 

「―――まさかッッッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――未解放地域。

 

 辺りが薄暗く、人の気配のない愛媛の地を駆け抜ける少女が居る。赤嶺友奈だ。

 勇者装束に身を包み、与えられた勇者の力で大地を蹴れば地面が抉れ、莫大な跳躍力を生み出しては宙を飛ぶようにして進む。

 

 その大雑把な力の籠った移動は焦っているようにも見えた。 

 

『なんかヤベー奴がいるんだけど』

 

 赤嶺の主である造反神が唐突に彼女の脳内へ言語化させたメッセージを飛ばしたのが数分前。

 

 神樹側の巫女に与えられる神託というやつなのか、赤嶺は分からなかったが造反神が示すその地域を見て目の色を変えた。

 

「あの場所って……超大型バーテックスを建造してる場所じゃ」

 

 この愛媛の地を奪還してくるであろう勇者達を迎え撃つバーテックス。

 通常の個体とは一線を画した圧倒的サイズを持つこのバーテックスは赤嶺が愛媛での戦いに備えた作戦の重要な要だった。

 

 

・・・・まさか勇者達が攻めてきた!?

 

 基本的にはこちらの襲撃を防衛、神樹の神託によってでしか攻撃をしてこないはずの勇者達が攻めてくる。本当に攻める神託が出たのかさておき、準備が整っていない状態でこちらが攻められる展開は赤嶺も造反神もまったくもって予想外だった。

 

 超大型が破壊されるという事態になればこの土地で勇者達を迎え撃つのは困難になる。ただでさえ建造には莫大な数の星屑を合体させている超大型だ。必然と他のバーテックスを建造するのは遅れが出るし、全体的な護りも手薄になっている状態。

 

 それを破壊されたとあってはこれまでの赤嶺の苦労が水の泡となる。彼女にとってその場所は絶対に護らなければならない場所なのである。

 

 

「でも、なに……この感じ」

 

 目的地に近づけば近づくほど、赤嶺の肌を突き刺すような殺気が増しているのが分かる。

 

 鼓動が鳴り、

 全身の筋肉が硬直し、前へ進む事を拒否している。

 赤嶺の持つ生存本能なのか、それが脳内へ告げていた。

 

――――これ以上、近づいてはいけない、と。

 

 

「それでも……」

 

 それでも自分は、この世界で造反神に召喚された勇者だ。

 過去と未来を繋ぐ、これからの戦いの行く末を決めかねない大事な御役目を持った赤嶺は逃げる事を善しとしなかった。

 

 覚悟は決めている。たとえ敵が得体の知れないナニかであっても、全霊を持って打ち砕くのみだ。そう自分に言い聞かせるようにして造反神によって告げられた目的の地域に辿り着いた。

 

 

―――現状は凄惨なものだった。

 

 

「―――」

 

 絶句。

 口を開けない程に目の当たりにしたその凄惨さは赤嶺の脳内で浮かんでいた感情すらも消し飛ばす。

 

 最低限の守備はあった。

 星屑300、

 サジタリウス、

 キャンサー、

 スコーピオン。 

 

 超大型を建造する上でも赤嶺が念を置いて配置した守備。

 星屑300は今の勇者達にとって問題にはならないだろうが、特筆すべきは三体のバーテックス。

 

 

 遠距離特化、防御・反射特化、攻撃特化したこの三体が生み出す連携は西暦、神世紀の時代でも勇者を苦戦させた強者たちである。

 神世紀では勇者を一人でも屠っているこの三体がそう簡単にやられるはずはないのである。

 

 

 そのはずなのに。

 

 

「―――ッッ!?」

 

 赤嶺に向かって飛来する何かがある。 紫色のその物体は袋のようなもので、赤嶺の手前に落下すると勢いよく弾け、中に蓄えていたであろう液体を激しくぶちまける。

 

 スコーピオンの毒袋だ。

 

 毒袋にある液体は紛れもなく猛毒。それが弾け、赤嶺の顔面に色濃く付着する。咄嗟に口を覆い、服毒を免れた赤嶺は顔の液を拭って飛来してきた方角を見る。

 

 

「……うそ」

 

 赤嶺が目を見開く。

 星屑300という兵は既に存在すらなく、

 辺りにはキャンサーの盾とサジタリウスの顔面、スコーピオンの尻尾が虚しく転がり、光となる最中で。

 

 

 赤嶺の見据えるその先で、超大型バーテックスだったであろう生物の塊が地面に伏している。

 

 強固であった装甲は完全に破壊され、

 全身から伸びていた鋭利な触手は根元から折られ、

 それでも息があるのか、その生物は地面で残った触手で蠢いている。

 

 バーテックスとしての浮遊能力を使用できないまでに生命能力は弱りきり、触手も折られていては地面を移動することも出来ない。

 

「―――ッッ!!」

 

 目を背けたくなるほどの光景に赤嶺の舌唇から血が垂れる。

自身の育て上げた我が子が手に懸けられた気分だろうか。今の目の前のバーテックスは人で言えば腕と足を全て切断された状態に等しい。

 

 

「―――誰だッッ!!」

 

 赤嶺が叫ぶ。

 視線の先は丁度大型バーテックスの御霊があるであろう場所にぽつんと、小さな人影が見えた。

 

 

――――そこに居たのは一人の男。

 

 

 まるで獅子の鬣の如く荒ぶる髪が風も無いのに靡く。

 妖しく赤い光を放つ双眸が赤嶺を捉え、見下ろす。

 

「クックック……」

 

 男が嗤った。

 それだけで、赤嶺の全身に悪寒が走る。この男が、赤嶺が感じ取っていた殺気の正体。

 人を嗤うだけで殺せるのではないかレベルの気を放つ男は尚、赤嶺を見つめてその口を開く。口角が上がると同時に見える男の犬歯はまるで獰猛な猛獣を連想させる。

 

「……会いたかったぜ―――――友奈」

 

 赤嶺は見た気がした。

 赤黒く焼けた肌、猛獣のような犬歯、逆立つ頭髪から、御伽噺や空想の世界でしか知りえない『鬼』という存在を。

 

 

 

 数刻後、赤嶺は後悔し、後に思い知らされることになる。

 その場所にいたのは紛れもなく、『(オーガ)』と呼ばれる男だったという事を。

  

 

 




やること多くて困っちゃうぜ。来月はみもすみと弥勒さんの誕生日月だし、刃牙キャラは早く全員出したいし。時間が、ない....

次回より始まる、赤嶺さん家のストレス祭り。








用語解説コーナー(簡単に)

『マッハ突き』
背骨を含む全身27箇所の関節を同時連結・加速することによって瞬間的に音速へと達する正拳突き。愚地独歩の息子、愚地克巳の必殺拳。 絶対的タフネスに自信を持つ花山薫を沈める威力を持つ。
古代の戦士ピクルとの戦いでは更に進化した『真・マッハ突き』が存在する。


『鬼』(オーガ)
一人の男に与えられた称号。この名を聞くだけで世界各国のお偉いさんは冷や汗をダラダラ流しながら友好条約を結ぼうと躍起になる。
日本の総理大臣、自衛隊、果てはアメリカ合衆国を腕力のみで屈服させ、地球上のあらゆる生物を叩き伏せたそれは、まさしく地上最強の証。

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