第十五話~鬼(オーガ)~
―――讃州中学部室。
静かな部室内、上里ひなたが椅子に腰を掛けている。
「♪~♪」
部活動が始まるまでの間、部員たちがすぐにお茶を飲めるようにポットのスイッチを入れたのが数分前。鼻歌交じりにポット内の水分が沸騰するのを待つ。
沸騰した際はそれを知らせるアラームが鳴ってくれる代物なのだが。
「え……?」
代わりになったのは携帯からの警報音。樹海化警報にも似たそれは日常気分であったひなたの度肝を抜く。スマホの画面を即座に確認すると強制的に開かれたのはこの世界のマップだ。
造反神によって奪われた領土と、勇者部が取り返した領土が赤と青で色分けされている。何事かとその画面を凝視した時だ。
ふっと、ランプが消えるように、敵側である造反神側として赤く色分けされている地域が色を失ったのだ。まるで墨汁を垂らされたように、黒く塗りつぶされている。
勇者が出撃し、敵を倒したことでしか今のように未解放地域は解放されない。
しかし樹海化が起きているわけでも無く、勇者が出撃していないこの状況で地域が解放されるということはありえないのだ。
赤色の未解放地域が色を失う現象は連続して起こる。
まるで現在進行形でその行動が行われているように、しかも絶大なスピードで、圧倒的力で駆けるそれはまるで旧世紀のゲームでいうパックマンのように敵側の赤色の陣地を虫食い状態にしていく。
「―――ッッ!? こ、これは……」
上里ひなたが気付く。 その虫食い状態に解放された造反神側の領地を全体的に眺めた時だ。それらすべてが、なにかしらの一つの形になっていた事に気付く。
湾曲状に駆け抜けた黒い線はまるで顔の輪郭のようで、
虫食いにされた中央の部分は奇しくも上に二つと下に一つと、眼と口の位置で、
残りの虫食いは怒気を孕んだ皺へと姿を変え、
敵陣地に映し出された黒の陣地はまさしく『鬼の貌』であった。
○
――――愛媛、未解放地域。
「会いたかったぜ……友奈ァ」
大赦の暗部組織を生きてきた赤嶺だからこそ、その突如として目の前に現れた男にフツウではない日常を思わせた。
獰猛……、
凶悪……、
高圧的……、
その男を表現するならば、そんな言葉ばかりが赤嶺の脳内で羅列される。
獣の如き眼光は例えサングラスをかけていたとしても、見る者すべてを射すくめるだろう。
漆黒のシャツからはみ出ている腕は毛細血管のエッジが立ち、尋常ならざる男の新陳代謝を窺わせる。
190センチを超えるであろう身長は、体重が100キロを超えていることを外見の筋肉量と骨格で判断してもなお、ネコ科の動物のように滑らかで、軽い足取り。
瞬時に分かる、只者ではないというソレ。
「……フム」
男が赤嶺を見据え、呟く。
「高嶋、ではないな。 貴様……何者だ」
赤嶺は息を呑む。意識を強く持っていないと気を持って行かれそうだ。それほどまでに、男の威圧感は常軌を逸している。
吐き気すらも催すその圧倒的威圧感に負けないようにした赤嶺がそれに応えて見せる。
「私は……赤嶺友奈」
「赤嶺友奈だァ? ……高嶋友奈じゃねェのか」
超大型バーテックスから飛び降りた男がポケットに手を突っ込んだまま、地へと降り立つ。10メートルはあろう高さから飛び降りても、男はそれこそ猫のように、最小限の音で着地を決めていた。
その軽やかさはまるで背に羽があるかのようで、見る者すべてを魅了するかのようである。
それは赤嶺も例外ではなかった。
「さっきからッ」
それでも、頭を振って我を呼び戻した赤嶺が叫んだ。
「なんなのッ アナタッ! 」
怒る理由も確かなものだ。赤嶺はそう思う。
いきなり現れた男は突如として友奈であっても、自分ではないほうの友奈、高嶋友奈の名を口にしている。
容姿、名は似ていてもそれぞれ人格があり、個人が存在している以上、別人に何度も勘違いされるのは気分がいいものではない。
「――喚くなッッッ」
男は赤嶺の怒気を切り裂くように、言葉を発する。
ぴしゃりと、その空間の生物が動きを制止するような強制力に赤嶺の動きが止まる。
「ってことは、やはり……神樹め、余計な事をしてれくれたようだな……ッッ」
高嶋友奈を知っている。それが思い浮かべるものとすれば、
「西暦時代の……人?」
「チゲェな。 半分は当たりだが……まぁいい」
ニヤリと笑うと、男の纏う雰囲気が一変した。 ポケットから手を出し、その流れで五指を広げ、両の腕を広げるように構える男の姿はヒトと言うよりも、獣と言った方がしっくりくる。
「赤嶺とやら―――」
その獣の眼光が赤嶺を見据えている。
まるで餌を見つけたチーターのように、はては空腹時の狼のように歯茎をむき出しにするほどに口の角度を開かせる。
「――――ちょいと、試させてもらうぜッッ」
「―――ッッ!!?」
対人特化の赤嶺友奈の脳内に刻まれた信号、それは”危機”という二文字。
確実に来る、構える隙も与えず、堂々と、真正面から。
男が動く。その初動は片足で大地を蹴る、それだけの動作が男と赤嶺の距離を瞬時に消し飛ばす。
男の腕が鉤状に形を変え、初動の一蹴りで生み出した加速と共に、その腕を振り上げる。次の瞬間、
―――邪ッッ!!
勢いをそのまま殺さず、100%力へと加えた大ぶりの一撃が黒の烈風となり赤嶺を捉える。
手甲を前に、腕をクロスするように構えた赤嶺の防御の布陣に男の剛腕が食い込む。
食い込むどころではない、力任せに、赤嶺の身体を防御している両腕の上からブッ叩く。
空気が弾け、
振動が腕を伝い、
衝撃に耐えられなかった赤嶺の身体がくの字に曲がる。
赤嶺の身体が吹き飛ばされる。
後方への運動エネルギーは失われず、直線的に宙を駆ける身体がそこらの樹木を何本も圧し折り、一際大きい樹木にぶち当たって漸く赤嶺は地面へずるり、と落下した。
「くっ、か・・・がッ」
防御はしていた。それでも尚、真上から突き抜け、全身を破壊せんと赤嶺の身体から激痛の信号発している。もしまともに食らっていたらと考えると、赤嶺は背筋が凍る。
「ほぅ、まだ立てるか」
息も絶え絶えな赤嶺に対し、邪悪な笑みを浮かべる男。それは自身の力に耐えきった事に対しての笑みなのか、男は意外と言った表情であった。
「……くそッ」
だが赤嶺の身体は限界だ。さっきの一撃で、たったの一撃で全身が激痛を発し、足元が地についていない感覚と、目の前の視界が歪む光景がずっと続いている。
次同じモノを食らえば、間違いなく自分は死ぬ。 赤嶺は悔しくともそれがハッキリと分かっていた。
「さて――――」
男が口を開く。それが再度の攻撃の合図なのか定かではない、それを判断する意識もあやふやな赤嶺が苦し紛れに構える。
防御ではなく、迎撃の構え。 防御をしてもダメならば、いっそのこと余分な分をそぎ落とし、命を賭す覚悟で攻めに転じる。その意識の表れだった。
だが、次なる一手に備えた赤嶺に反して、男が構えを解いた。
全身の筋肉を緩めたかのようにその手を再度ポケットの中に戻しす。そこに攻撃の意志は感じられない。
「次は
来いよ、と言わんばかりに顔面を前に差し出す。それは身長が低い赤嶺の打点に合わせているのだと気付いた。
この男は、次の赤嶺の一撃を無防備に、躱すことなく受け切るつもりである。
「殺す気で来いッッ 命を獲りに来いッッ」
それは攻撃を受ける側の人間が醸し出す攻めの圧力のもので、攻め手の赤嶺すらも腕を振るわせるほどに畏怖させる。
赤嶺は悟った。この一撃で男を葬らなければ、次は確実に自分が殺されると。
「―――勇者ァッッ」
混濁する意識を無理やり覚醒させる赤嶺の叫び。
右腕に力を籠め、自分が乗せられる思いっきりを拳に宿し、決意を固める。
この男は危険だ。だからこそ、ここで絶対に仕留めて見せる。
全力で大地を蹴り、地面が抉れ、爆発的な加速。
赤の軌道は一直線に男へ向かい、明確な殺意は赤嶺の慎重に合わせた顔面へと注がれる。
大地の勢いを利用し、腰を使い力を腕まで伝え、全身のバネを利用した赤嶺の必殺拳―――、
「パァァァンチッッッ!!!」
岩をも砕く拳が男の顔面にぶち当たる。
衝撃はが男の顔面からその後方まで駆け抜け、空気と大地を震動させては激しく揺らす。
赤嶺の全力と、決意、全てを乗せてブチ当てた拳が男にもたらした
「……ニィ」
「―――ッッッ!!?」
邪悪で強烈な笑みが返って来るのみだった。
並みの人間ならば、即死であっただろう。勇者であっても戦闘不能までに追い込むことが出来る、それを自負していた程の全力のパンチ。
それがまさか、男の鼻から一筋の赤い液を小さく垂らす程度の
勝てない、
差し違えれない、
自分はこの男に対して、あまりにも無力。
それは、挑むにしても雲がかかった頂上の見えない絶壁を見上げるが如く、高い。
男が鼻から垂れていた血滴を親指で拭う。
「この俺に血を流させるとは……進化したな、勇者システム」
放心する赤嶺を余所に、男が口を開いた。
「
足りん。 そう付け加えて、男が首を起す。
「何十、何百年経ったかは知らんが、進化し改善されたシステムだとしても俺が喰らうに足る強さとは程遠い……」
ギラリと瞳が輝き、その腕が振り上げられる。五指を平らに、そして密着させたその形は手刀と呼ばれる形。
赤嶺には黒のカンフー服から飛び出た褐色の腕が、研ぎ澄まされた日本刀に見え、恐怖する。バターの如く肉が両断されるイメージが頭の中で出来上がる。
「貴様も”友奈”と名を持つ者ならば、その力……引き出して――――」
あの手刀にかかったら、絶対に命を落とす。そんな気がした。
確実に迫る死の恐怖に赤嶺は、
「……い、いやだ」
震えるような声で呟く。 咄嗟にガードの構えをしているように見えるが、赤嶺の視線は目を瞑り、両腕は小さく小刻みに震え、ガードの形になっていない。
「来ないで……死にたく、ない」
戦意喪失。
圧倒的な暴力を、死の恐怖を前に、赤嶺の心が折れた。その瞬間、
「貴様ァ……」
男の額のみならず、首、両の腕、拳に至るところまで毛細血管が浮き出るほどの力みが入る。
眼光が妖しく光り、怒りを露わにしたように肩がわなわなと震え、
「”友奈”と名を持つ者がッ 敵を前に命乞いなど……」
手刀が解かれた掌で赤嶺の頭部を鷲掴みした。頭が握られる瞬間、犬のような震え方をする赤嶺に苛立ちを覚えながらその双眸で見据え、
「恥を知れィイッッッッ!!!」
怒号とともに、掴んでいた赤嶺の頭ごとその地面に叩きつける。
時速100キロにも及ぶ落下速度が人力によって引き起こされ、その威力で顔面が地面へと衝突し、轟音とともに身体全体が沈み込む。
不思議と、痛みというものは感じなかった。
落下から地面に叩きつけられてから痛みの信号が脳へと届く前に赤嶺は既に意識を手放していた。
「――――」
それは1秒にも満たない、コンマ0.5秒を遥かに凌駕する神速の世界。痛みを知らず、気絶できたことが赤嶺にとっての不幸中の幸いだったに違いない。
「さて、と……そこにいるんだろう。 出てきな、造反神とやら」
一仕事を終えたかのように口を開く男の頭上、空に変化が起きる。
突如として、暗雲が立ち込めたその中心、光の柱が顕現し男を照らしている。男はその光の正体が目的の存在だと理解したのか、口の端を上げてその光の柱を見据える。
「自分から名乗るのは好きじゃねェが……俺の名は、範馬勇次郎」
元いた世界では
「イイ話があンだけどよォ……ちょっと乗ってみねぇか――――その前に、だ」
本題へと移る前、勇次郎の腕が地面へと延びた。 無造作に地面で気を失っていた赤嶺のからだを一挙の動作で引き上げる。
地面から引き抜かれる衝撃に晒されても赤嶺は未だに意識を戻さない。ダメージを与えすぎたようだ。
勇次郎はやれやれ、と言った表情でため息をつく。
「どうして”友奈”って名前を持つ奴は、こう……世話の掛かる奴らばっかなんだか……あン?」
脳内に響いてくる聞きなれない声に戸惑うことなく、勇次郎が小さく苦笑する。
「へっ……お前さんも……そう思うのかい、造反神さんよ」
借りにも神という存在が自身と同じ思考に至っていたことに、勇次郎は邪悪な貌から一瞬だけ砕けたような笑みを浮かばせたのだった。
たぶん勇次郎だったら天の神とか素手で殴れるよね。苦戦はしても負ける姿が思い浮かばないのはなぜ?
いつもの(キャラ紹介
グラップラーNo.6
範馬勇次郎
登場作品(グラップラー刃牙、バキ、範馬刃牙、刃牙道、拳刃)
年齢:36~38歳
身長/体重:190/120強
範馬刃牙の父にして、「地上最強の生物」、「オーガ」の異名を持つ男。
『刃牙』という作品を象徴とする人物であり、その存在感は主人公を凌駕する。
自分の息子を将来の対戦相手とするために母親に教育させ、教育途中で『つまみ食い』の過程で刃牙の母を殺害し、刃牙をも半殺しに追いやっちゃうヤバいパパ。
劇中では謎のパワーアップを遂げ続けている人物であり、主人公がパワーアップするごとに勇次郎もパワーアップを遂げ、そのインフレはとどまることをしらない。
作品の序盤は「酒、金、食事、SEXよりも戦いだ!」とか戦闘狂のやべー奴と思われたが、次第にその野生が抑えられ、落ち着いた。というか、逆に主人公が酷くなった。
好物は『めふん』(鮭の腸・腎臓の塩漬け)
戦場格闘技。
様々な武術を極め、相手の奥義も瞬時に模倣できる技量を持つが、この人に関してはとにかく『力』。その一言に尽きる。
武術家の持つ些細な技術は弱者の小細工だと一蹴し、普段の戦いでは技をまったく使わず、自身の筋力と才能だけに任せて戦う。
〜ゆゆゆい世界にて〜
高嶋とか勇者システムを知っていて、何かと謎を持っている。西暦組勇者に、友奈に特に並ならぬ思いを寄せているらしい。今回は造反神様とある取引をしに来た。