ゆゆ刃牙~漢達のきらめきッッ~   作:バロックス(駄犬

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リリフレコラボ当日、平成から令和に変わったこともあって初投稿です。
グラップラーと勇者達の戦い、その初戦の始まり始まり。


第十七話~山本稔(バランス)~

白虎(びゃっこ)の方角―――、

今の自分に死角はないッッ!! バランス命ッッ! シュートレスラー山本 稔!!!』

 

 

 

 

『対する青龍の方角―――、

にぼし食っときゃあなんとかなるッッ!!

”自称”完成型勇者、三好夏凛!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと銀!変なナレーション入れるのやめなさい! というか、アンタ今”自称”って言ったわよね!? 後で覚えておきなさいよッッ」

 

「銀とは? 私はこの戦いをお送りするものッ 実況者ァ ミノ・ワーギンでぇす!!」

 

 妙なテンションの銀が黒縁サングラスを掛けてそう言っている。

 

「他のやつらもなんか盛り上がってるし……」

 

 闘いが始まったばかりだというのに、勇者達のテンションが全体的に高かった。

 応援してくれることは有難いとは言え、いささか緊張感に欠けると感じた夏凛である。

 

 

「――三好夏凛、と言ったか」

 

 前方の格闘者、山本稔がそう呟く。

 

「……キミがこれから味わうのは、『プロレス』の全てだ」

 

 ゆっくりと、足を入れ替えて山本が動き出す。

 夏凛を中心に円を描くような動作から変わらず仕掛けることは無い。 その鋭い男の眼光は夏凛の隙を探るためなのか。

 

「先ほど言った通りだ。 俺は例え、敵が少女であっても容赦はしない……どんなに痛がり、泣き叫んだとしても、降伏を宣言したとしても、俺のプロレスはキミを完膚なきまで打ちのめすッッッ」

 

「お~、こわっ。 随分な自信よね、そのプロレスとやらに」

 

 対して夏凛は自身の周囲を動く山本に微動だにしない。

 目で追うことをせず、両の手に持つ双剣を構えもしない。

 一見無防備に見える夏凛の佇まいだが、それは夏凛が仕掛けた一つの罠であった。

 

 

 敢えて隙を作り、迎撃の瞬間を自身で作り出すための(フェイク)

 

  

 視覚に頼らず、音で判断する。

 夏凛は耳を澄ませ、山本のすり足のような地面を擦る音を元に、その立ち位置を予測する。

 

 

 自身の真後ろで、足音が突然聞こえなくなったのを夏凛は見逃さない。

 

 

 仕掛けるならここだ、と夏凛はそう思う。直後、革製のブーツが力強く地面を蹴る音が聞こえた。

 

 

「―――シッッッ!!!」

 

 先制攻撃は山本だった。

 夏凛の死角から迫り、直線的に繰り出される右ストレート。狙いはその後頭部。

 

 

 しかし、夏凛には気配だけで山本の動作が見なくても手に取るように分かる。反撃は自身の双剣で行い、山本の繰り出されたストレートに狙いを定め、

 

 

「フンッ!!」

 

 夏凛が身体を反転させ、右手の剣で弾き返す。

 ガキン、と骨と鉄がぶつかる鈍い音を発し、山本の顔が苦痛に歪む。

 

「―――チィッ!!!」

 

 

 鈍痛に歯軋りで堪えた山本がツーステップで距離を取る。しかし、夏凛の追撃は止まらない。

 一歩大地を蹴って山本の距離を消す程に近づけば、

 

「逃げんなッッッ」

 

 右横腹、左肩を狙って夏凛の双剣が迫る。

 バーテックスや星屑をナマスの如く切り裂いてきた剣、捉えられれば無事では済まない。

 

 それを知ってか知らずか、山本の本能が回避に徹しろと叫ぶ。

 大げさなバックステップ、剣先が山本の皮膚に引っ掻き傷を残しながらも夏凛の攻撃は本命に届かず。 

 

 

 人が4,5人ほどの距離を空いて静寂が訪れる。

 

 

「どうしたのかしら……逃げてばっかじゃない」

 

 夏凛が腰に手を当てて呟く。

 

「あんだけ威勢のイイ事ほざいておきながら、私の双剣、ビビってひたすら回避行動に徹してる様子を見るに……アンタ、武器を持った相手に慣れてないわね?」

 

「そりゃあ真剣だからな。 無暗に近づいて切り落とされるのは御免だ」

 

 山本の台詞とは裏腹に、頬を伝う汗は焦りを表していた。

 素手で主体となるプロレスでも実際に刃物を用いた試合は山本のキャリアにもプロレスの歴史にも無い。単純に恐怖心がある。

 

 

 山本の焦りを感じ取ったか、夏凛が、

 

 

「所詮はプロレス……技の見せ合い、演出は客を盛り上げるただの”見世物(ショー)”よ。いざ戦闘になったら何の役にも立たない」

 

 そう言いながら夏凛は思う。そんな紛い物の格闘技に、勇者で血にまみれるような訓練をした自分が負けるはずはない、と。

 

「ま、真剣でぶった斬る事はしないから安心しなさい。 アンタの身体全箇所、峰打ちでぶっ叩いてやるから……骨は折らせてもらうけど」

 

 笑みを隠さない夏凛が双剣を構え、山本に狙いを定めて駆け出した。 

 だが、夏凛は気付いていない。

 

「―――フッ」

 

 山本もまた、薄気味悪い笑みを浮かべていたのを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おおっとぉ! 激しい攻防ッ 夏凛選手の双剣が山本選手に迫りますッッ 戦況は、夏凛選手が優勢かぁーーー!?』

 

「三ノ輪さん、とても楽しそうね……」

 

 仲間が優勢なこともあってか、マイク片手に実況者じみた事を行っている三ノ輪銀を郡千景が微笑ましく思う。

 事実、勇者部というギャラリーも応援を欠かさず、その声援を夏凛に惜しむことなく届けている。

 

 だがその一方で、

 

「これは、あまり良くない……」

「え?」

 

 郡千景の隣で高嶋友奈が怪訝な表情とともに、そう呟く。

 

「高嶋さん、三好さんの今の戦いに、何か不安があるの?」

 

 千景の疑問はもっともで、現在の勝負は夏凛が山本を追撃し、山本は防御に徹するので精いっぱいである。

 誰がどう見ても、夏凛の優勢だと捉えるだろうに何を不安に思うのだろうか。

 

「不安な点はね、ぐんちゃん、夏凛ちゃんがプロレスをナメてるってことだよ」

 

 彼女からは珍しく夏凛に対しての発言だ。しかも辛口の。

 

「そう言えば、高嶋さんは色々な格闘技を見るのが好きだったわね」

 

 彼女の魅力の一つだと、千景は思う。

 未来の勇者、結城友奈と違い、様々な格闘技を見たりして、楽しげに千景に語っている友奈を見るのがとても好きだった。

 

 だから夏凛が優勢でも関わらず、不安要素を感じるのだろうか。それは拳を握って、自身の胸に置いているほど。

 その無類の格闘技好きな高嶋が言っている、”夏凛はプロレスをナメている”と。

 

 

「その……高嶋さん、私もプロレスっていうのはテレビだけのイメージだと過剰な演出? どことなくやりすぎてて、どうしてもショーみたいな感じがするのだけど」

 

「確かに、プロレスってお互いにガンガン技を繰り出したり、悪役(ヒール)のレスラーがバンバンパイプ椅子で叩いたり、鉄柵のロープにバリバリ電流走らせて、ビシャビシャと血が出るまで戦ったりするか、皆がプロレスを見世物(ショー)なんて言っちゃうのも分かる気がするんだけど……」

 

 相変わらず擬音が多いな、と千景は思う。が、それも高嶋の魅力の一つだと気にも留めない。

 その上で高嶋は言う。

 

「私は思うよ、”こと格闘技に関してはプロレスの右に出る競技はないって”」

 

 過去の世界、自分たちにとっての現在である西暦の時代で高嶋は今の千景と同じ疑問にぶち当たった。

 

 

―――『プロレスってただの見世物で格闘技ではないのでは?』。

 

 

 そう思い、様々な試合を見た。実際に会場に行ったし、世界で名を馳せたレスラーの試合を動画で見たこともある。

 その中で高嶋が感じたのはレスリングに熱き情熱を掛けるレスラーたちの身体が普通の競技者とは違うということだった。

 

 

 

 プロレスはその競技の内容上、エゲツナイ光景が見られるのが日常風景だ。

 

 相手を脳天からマットに叩きつけるブレーンバスター、

 自身の腕と相手の胸が真っ赤になる水平、逆水平チョップの応酬、

 セコンドポールから高く飛び立ち、観客の度肝を抜く空中技、

 骨や腱を痛めるほどに強力で、禁止もされているものもある関節技(サブミッション)の数々。

 

 

 派手な演出に目が行きがちだが、その技の多くは精巧で、実践的である。 

 

 

 苦痛とは切っても切れない関係、一番その苦痛(いたみ)に耐えなければならないのは他でもない、レスラーたちだ。

 故にタフガイ、レスラーとは強靭な肉体を持った男達の集まりなのだ。

 

 

 互いに技を繰り出し、ダメージを与え、血を流し、骨を折り、靭帯を裂き、関節を極め、怪我無しではいられないこの世界。時には死亡事故もあるレスリングの世界。

 

 

 

 だからこそ、映える。

 試合中の全ての技の掛け合い、弾け飛ぶ汗と血。

 

 それは見ている観客の胸を熱くする。

 

 試合が終わった後のマイクパフォーマンス、気付けば観客、自分を含めてレスリングの虜だった。

 

 高まった会場の熱気は勝利者による掛け声を待つ。

 

 

 3・2・1、(サン・ニー・イチ)ダァ―――――ッッッ、その瞬間、会場が割れんばかりの歓声に包まれる。

 

 苦痛(いたみ)に耐えて、耐えて、耐えて……そうして生み出された爆発的な歓声を高嶋は演出から生まれたものではないと断言できるのである。それは本物の感動なのだと。 

 

 

「つまり、三好さんはそのレスリングの怖さを知らないまま戦っている、と?」

「うん」

 

 千景の言葉に高嶋が頷いた。

 

「いつも勝気な夏凛ちゃんだからこそ、その恐怖を知らないっていうのはあまりにも危険。 もしかしたら、足元掬われちゃうかも……」 

 

 

 次の瞬間、勇者達がどよめいたのを聞いて、高嶋と千景は視線をその方へ向ける。

 

 

 どよめきの正体は、夏凛の双剣の一振りが山本へ直撃したのを知らせる歓声だった。

 

 

 

 

 

 

 山本が回避を行っていても、攻める夏凛の前では時間と共に逃げ場を失い、次第には追い込まれていった。

 ましてや、機動力は夏凛よりは下だ。いずれ追いつかれることは目に見えている。

 

「――っそこぉッ!!」

 

 夏凛の剣の一振りが足を止めた山本目がけて振り出される。剣の腹を山本の正面に合わせたその一振りが山本の脳天を捉える。

 

 ゴン、と鈍い音。いかに真剣で斬らないとはいえ、素材は鋼鉄である。鈍器で殴られることに変わりはない。

 

「ぐぉっ……!」

 

 バランスを取り柄としている山本の身体が大きく揺れる。同時に、外野の勇者達がどよめきを放つ。

 山本は未だに足をふらつかせていた。

 

 今が好機、そう踏んだ夏凛が一気に踏み込む。今度は両の剣で狙いを定め、

 

 

「せいッ!!!」

 

 右腰に、

 両膝へ、

 右上腕部へ、

 左肩へ、

 右側頭部へ、

 

「ぐおおおおおおおおッッ」

 

 その鈍器による打ん殴り、左右合わせて、夏凛の全霊を込めた六連撃がほぼほぼ無防備な山本へ直撃する。

 肉を叩き、骨まで響く鈍い音とともに痛みが知らせるのは、それが折れた音なのか、ひびが入った音なのか。

 

 

「……これまでね」

 

 激痛によろめき、膝をついた山本を見おろした夏凛がそう呟いた。視線を山本からこの試合を見ている範馬勇次郎へと向け、

 

「おっさんッ! もう勝負は着いたわよ! 私の勝ちでいいわよね!?」

 

 勝利宣言を行う夏凛に勇次郎は、

 

「あ?」

 

 さも侮蔑するような視線を送るとともに、その一言を返す。勇次郎は続けて、

 

「何言ってんだオメェ……」

「なにって……これ以上戦わせる必要なんてないでしょ!? 今のでこの人はもう――――」

「戦い続ける事はできねェ……そういいてェのかい?」

 

 そんなことか、と勇次郎は吐き捨てる。

 

甘ェ(アメ)んだよ」

 

 最初に言った通りだ。

 

「試合が始まった以上、相手の心を屈服させるまで叩け……俺はそう言ったな」

 

 口の端を上げ、勇次郎は言う。

 

「たかだか六発程度のナマクラ鈍器で叩かれたくらいで、レスラーが屈服するってのかい?」

 

「アンタ、何を言って―――」

 

 その言葉の意味を、夏凛は身を持って知る事となる。

 夏凛は許してしまっていた。そして、与えてしまったのだ。

 

 シュートレスラー、山本稔に反撃の機会を。

 

「夏凛ちゃんッッ まだ終わっていないッッッ!!!」

 

「ッッッ!!!」

 

 高嶋の渾身の叫びも束の間、それに気付いた時には夏凛の無防備な側面に山本の姿があった。山本は夏凛よりも低い姿勢のまま、

 

 

 夏凛の脇下へ血を流している頭を通しては組みつき、

 片腕を首の付け根へ、もう片方で腰を抱える。

 

 幾度となく練習し、精錬されたその動作は夏凛に防御も、脱出させる隙も与えない。

 

「まず―――」

 

 言い切る前に、夏凛の全身が山本によって持ち上げられる。

 大地から完全に足が着かなくなれば、その後に山本がどうするかなんて考えなくても分かる。

 

 夏凛のその小さな身体が山本の腕にガッチリとホールドされたまま、二人諸共、真後ろへ倒れ込むようにと―――、

 

 

 叩きつける。

 

 

「―――がはッッ」

 

 夏凛の後頭部から、背面にかけて凄まじい衝撃が駆け、呼吸が一瞬だけ止まる。

 地面にめり込むほどに抉ったその一撃が夏凛へ与えたダメージの深刻さを物語る。

 

 

 炸裂したのは柔道で使われる投げ技の一つ。『裏投げ』だ。

 

 

「俺達レスラーは技を掛けられても、耐えられる肉体を作らなければならない」

 

 昏倒する意識の中で夏凛の耳に山本の声が響く。

 

「時には1トンの衝撃に、パイプ椅子の殴打に、たとえ傷ついて、血を流したとしても俺たちレスラーは」

 

 痛みをこらえ、それすらも演出へと変え、戦わなければならない。

 

「三好夏凛、キミは警戒すべきだったんだ。 プロレスラーのタフさに、その演技力に」

 

 全ては山本の台本通りだった。

 夏凛の攻撃を目の当たりにしては焦り、逃げ回り、渾身の連撃が炸裂するまでが。

 

「キミの頸椎と肩、には甚大なダメージだ。といっても、今の君にはこの声も届いていないかもしれないが」

 

 不敵な笑みを山本が浮かべた。

 

「シュートレスリングってのは、投げ技だけじゃあない」

 

 倒れている夏凛に対し、山本が素早く手に取ったのは右腕。

 夏凛の上腕部を山本の両足へと挟み込み、固定。

 

 同時に山本の両足は夏凛の顔へと下し、起き上がりを阻止。

 膝を絞り、寝そべる山本の方へと伸ばされた夏凛の右腕。

 

「―――絞め技(ホールド)関節技(サブミッション)こそが、シュートの真骨頂だッッ」

 

 この体制はマズイ、そう夏凛が気付いた時には完全に山本の技は逃げられない程に決まっていた。

 そして次の瞬間、

 

「ぐああああああああッッ!!」

 

 樹海に響くのは夏凛の絶叫。

 山本の背筋力に任せて右肘が引き延ばされたことによる激痛が、夏凛を襲った。 

 

 肘が逆方向へと展開されては、更にその腕を引き絞るように山本が力を込める。

 極まった関節がミシミシと音を立て、逃げようと身を捩ろうとも、顔まで伸びた山本の両足が夏凛が逃げられないようにロックしてきている。

 

 

 それはあまりにも有名、そして格闘技で多く使用される関節技―――、

 

 

 柔道で使われる関節技、『腕拉十字固め』。関節技九本の一つ。

 

「パンクラス時代からの俺の得意技でね。 一度極まってしまえば、脱出は不可能だ……」

 

 容赦なく、夏凛の右腕が引き延ばされる。

 可動域の限界を超え、圧倒的な体格差と背筋力は夏凛の上腕の靭帯をメリメリと引き剥がしていく。

 

「ぐ、ぐうぅうぅぅうううッッ」

 

 激痛から涙目を浮かべても夏凛は叫ばない。それは動けない故の些細な抵抗なのか。

 

「そろそろ、幕を下ろそう」

 

 不意に夏凛の腕から拘束力が無くなる。山本が関節技を自ら解いたのだ。

 自由になったの夏凛が手放していた双剣を拾おうと手に取るも、

 

「つぅ……ッ」

 

 鈍く、電気が走るような痛みに剣を掴むことも、拾い上げる事も出来ない。

 腕が折れている訳ではない、靭帯が伸ばされてしまっているだけなのか、少しだけ手は動かせる。

 

「奴は――」

 

 山本の姿を探すも、夏凛の視界には映らない。それもその筈だ。

 全くの死角、夏凛のその真後ろに、山本は立っていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 山本を見失った夏凛の無防備な肉体に、太い男の腕がまるで蛇のように絡みつく。

 肘が夏凛の喉前に、首を挟むようにし、確実に固定(ロック)

 

 

 夏凛の身体が沈み込む。

 100キロの全体重が夏凛の小柄な体躯、その真下に向けて掛けられ、膝から崩れ落ちる。

 

 山本は唯一まともに動く夏凛の左手をその丸太の如き左足で、右足で胴を抱え込むようにして固定(ロック)

 

 

 強引な長座の姿勢で、100キロの体重を掛けられ、(ヘッド)(アーム)を抑えられた夏凛は逃げる術を持たない。

 

 

 それはプロレスで使用される技。

 過度な締め付けは相手の命を奪う危険もあるとされている必殺技(フィニッシュホールド)

 

 

 それは俗に、『スリーパーホールド』と言われる。

 

 万力の如き締め付けが、夏凛の首、頸動脈部分を圧迫する。

 

 

「ぐっ…!かっ……あぁ…っ!」

 

 徐々に狭まる気管の苦痛に夏凛は言葉を発することが出来ない。

 必死に脱出するべく抵抗を試みるが山本の足が腕と胴をしっかり締め上げている為に、全く持って身動きが出来ないのだ。

 

 

 夏凛の視界が酩酊したかのように薄暗くなっていく。

 スリーパーホールドは相手を窒息させる技ではない。

 

 頸動脈部分を締め付ける事で脳に充分に血液が送られなくなることによって起きる気絶である。」

 

 首の血管には適切な血圧で血を送るセンサーがある。そこを圧迫することでセンサーが大量の血が脳へ送られてしまうと誤認してしまう。

 そのため、急速に血圧を落とし、気絶するほどの低血圧に陥るのだ。

 

 

 良く聞かれる『落ちる』という言葉はこの現象を意味している。

 スリーパーホールドとは人体の防衛システムを逆手にとった技と言えよう。

 

「…あ、……あぁ」

 

 一言を発する力が失われていくのを夏凛は感じた。

 視界が靄がかかったようにぼやけ始め、抵抗する力も次第に弱くなっていく。

 

 

 薄れゆく意識の中、夏凛は思う。自分は負けるのか、と。

 

 

 先陣を切り、勝利し、勇者部を勢いづける為に自ら進んで望んだこの一戦、負けるわけにはいかなかった。

 

 

 プロレスを舐めていた故に生じた油断、勇者として鍛錬してきたという自負が夏凛に隙を生じさせたのだ。

 

 

 完全に自分のミス。気付いた時にはもう遅かった。

 夏凛の視線の先、仲間の勇者達がこちらを見ている。

 

 

 意気揚々と実況していた銀は口に紐でもくくられたかのように、一言も発さず、静まり返っていた。同じように、他の勇者達も。

 

 

 

 山本の戦いはこれまで対人戦に耐性が付き始めていたであろう勇者達の表情に影を落とすものだった。

 対人戦、これがリアルの戦い。その恐怖を、勇者達は目の当たりにする。

 

 

 

 結城友奈が泣いている。口を開いて、何か喋っているが、恐らく自分の名前なのだろう。

 また、自分は友奈を泣かせてしまった、と夏凛は後悔の念を強める。このままではまた、美森に叱られてしまうだろう。

 

 

「ご……め、――――」

 

 意識を手放す前、謝罪の言葉を口にしようとした瞬間。

 

 

 

 

――――ほら、やっぱり三好さんは甘いじゃない。

 

 

 それは、過去に夏凛が聞いたことがある少女の声だった。

 




Q:なぜ山本稔にこれほどの出番を?
A:プロレス技を掛けられて苦痛に歪む夏凛ちゃんを書きたかったけどレスラーキャラで強烈な印象に残ってるキャラが彼しかいなかったからです。
Q:なぜ夏凛に絞め技を?
A:私が職場の先輩から急に掛けられて痛かったからだ。(先輩の金玉蹴ろうかと思った)
Q:結局アナタの趣味なのでは?
A:なんだァ……テメェ(そうだよ)

刃牙って漫画で流血シーン見てるとすげェ痛そうって気持ちが伝わってくる。
あれをこの作品でも表現できるようにしたいのよね(願望)。


ちなみにメブはまだでない。
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