ゆゆ刃牙~漢達のきらめきッッ~   作:バロックス(駄犬

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また偉く時間が掛かってしまった。
そんなに長くないから、別に前回のと一緒に繋げても良かったんじゃないかな、と今更ながら思う。

山本稔、灼熱の時。


第十八話~三好夏凛(完成)~

――――人と馴れ合っていたら……自分の訓練の時間を他人の為に使うとか、正直甘い、と思う。

 

 

 

 

 

 

――――見ていなさい三好夏凛。 その甘さがある限り、勇者になるのは私よ。

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

―――――

 

 

 

―――

 

 

 

――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……決着だ(フィニッシュ)

 

 山本の声と共に、首からの拘束が弱まった。

 スリーパーホールドが解かれると、夏凛の腕がだらんと力を失い、宙ぶらりんになる。

 

「―――-」

 

 その瞳からは生気が失われ、ただ一点、地面だけを見つめている。

 長座の態勢を維持できているのが不思議なくらいでだが、指で身体を突けば、風に吹かれれば簡単に倒れてしまうだろう。

 

 

「夏凛…ちょっと、ウソでしょ…起きなさいよ、ねぇっ!」

 

 その戦いを見守っていた風から震えるような声が漏れる。

 仲間が言葉を発さず、まったく動かないという光景が幻なのだと、信じて疑わないのだ。

 

 あの夏凛なら、まだ必勝の策がある。

 あの夏凛なら、まだ逆転できるのだと。

 

 

 

 だが、そんな風の願いも虚しく、夏凛はその呼びかけに応えないままだ。

 

 

「オーガよ」

「……」

 

 勝者を自負してやまない山本がその背を勇者達に見せつけ、勇次郎へ宣言する。

 

「俺の勝ちだ」

 

 

 自らの勝利を。

 

 

 山本自身、楽な戦いだったわけではなかった。

 実際、夏凛の二刀をまともに受けてのダメージは未だに回復していない。もし夏凛が油断も隙もない相手であったならば、その攻撃力に屈して地面に倒れていたのは山本の方だった。

 

 だが、プロレスと言うのはこういう展開だからこそ燃える。

 絶対的劣勢からの大逆転劇。それが最終的に会場にいる全ての客を盛り上げるのだ。

 

「フフフ……」

 

 勝利の余韻に浸っている山本を余所に、勇次郎が嗤っていた。

 

「なにが可笑しい……オーガッ」

「いやぁ、こうも二人揃って『甘ちゃん』ってのはァよ、お笑いモンだなぁって思ってなァ コントか何かか?って思っちまうくらいだぜ?」

 

 山本は疑問に思う。オーガのその言葉の意味を。

 自身のファイトに何も隙は無かった筈だ。かりにも、戦いに関しては勇次郎に及ばずとも、こうして勇者を一人仕留め、戦いの勝利したのは自分である。

 

 それを嗤う権利は勇次郎にあったとしても、勝利した事実を否定することは出来ないのだ。

 

「つまるところ、この時代にも根性のある勇者はいたって事だ――なァ」

 

 そう付け加えた勇次郎が見ていたのは山本ではなかった。

 その視線が、自身の遥か後ろに向けられていると山本は全てが遅かったのだと悟る。

 

「三好夏凛よ」

 

 

 山本の背後から、三好夏凛が猫のように飛び上がった。

 

 

「~~~~ッッッ!?」

 

 山本の背に飛び乗った三好夏凛がその片腕を山本の首へと回す。

 全体重を後ろへと掛け、地面へと引き寄せられるような強烈な力に山本の身体が背中から地面に落下する。

 

「がッッ」

 

 背中から地面に打ち付けられ、山本の肺から息が強制的吐き出される。

 だが、それは背中側に張り付いていた夏凛とて例外ではない。100キロクラスの山本の体重が全身にのしかかり、地面へと叩きつけられたのだ。ダメージは相当の物である。

 

 その痛みをものともしない、否、関係ないと言わんばかりに、

 

「私は…勝つぅ! 絶対に、絶対にィィ――――!!」

 

 

 片腕で山本の首を締め上げるが、勇者としての力を持ってしても、プロレスラーの強靭な首を締め上げるには力が足りない。

 夏凛の片腕は機能していない。このままでは腕力の差で技から抜け出された山本にトドメを貰うのは目に見えている。

 

 

 だから夏凛は右腕の勇者服の袖を噛んだ。

 強引に顎と首の力で締めている腕を引っ張り、さながら一本の輪のようになった夏凛の腕はこれまで以上に山本の首を絞めつける。

 

 即席のチョークスリーパーが山本に炸裂した。

 

「…ぐッ、がァ……」

「ふぅうううう!!」

 

 三好夏凛は思う。自分は負けられないのだと。

 

 

 

 かつて勇者になることを競い合った者たちが居た。

 勇者になれるのはたった一人、その中で夏凛は同じ訓練を受けていた少女達とその座を争っていた。

 

 ある者は傷つき、自分の無力さを知り、勇者になることを諦めた。

 消えゆく仲間たちを見ながらも、夏凛は走り続けた。もう無価値な自分には戻らないと決めていたから。

 結果的に、夏凛が勇者に選ばれたが、ある一人の少女は勇者になれない事に納得できず、暴走したのだという。

 

 

 

 夏凛は気付いた。

 自分が今手にしている力は同じ想いを胸に集った者達の上に成り立っている力なのだと。

 

 

 

 時間にして数十秒、夏凛のスリーパーホールドは山本の首を絞め続けた。

 山本の腕が次第に力を失い、地面へと垂れても夏凛は油断せず、抵抗がないことを確認して拘束を外して立ち上がる。

 

「―――-」

 

 

 十秒か、一分に満たないくらいか山本は起き上がって来ない。

 山本は完全に意識を手放し、『堕ちて』いた。

 

「勝負アリッッッ!!!」

 

 ニィ、と笑みを浮かべた後で勇次郎の樹海に響いた声が戦いの終幕を表していた。

 その瞬間、夏凛の片腕が伸びると同時、勇者たちから割れんばかりの歓声が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと風! 私片腕でもちゃんと食べられるからぁ~!!」

「いいじゃないの、こういう時は遠慮せずに甘えるもんでしょ! 部長の気遣いを受け取りなさい!」

 

 ここは大赦系列の病院。

 右腕にギプスを巻いた夏凛がベッドの上で風と格闘していた。

 

 

 闘いは勇者部の勝利に終わった。

 直後、夏凛は大赦系列の病院に搬送されて検査の後、暫く入院が決定したのである。

 

「た、大赦の医者も大げさなのよ! なんでもかんでもベッドに寝せてればいいってもんじゃないんだし――」

「隙ありッ」

「ふむっ!?」

 

 口の空いたのを見逃さなかった夏凛の口に切り分けられたリンゴが放り込まれた。

 くそう、と恥ずかしそうにそう呟く夏凛はリンゴの味だけでなく、ある意味では敗北を味わうこととなった。

 

 

「でも、向こうの人たちって負けたら消えちゃうのは驚いたわ」

「そうね。 まぁ、役目を終えて元の時代に帰るだけってあの鬼のオッサンは言ってたけど」

 

 グラップラー達は闘いに負けると自動的に元の時代に帰されるらしい。

 夏凛との戦いの後、山本の身体は徐々に透けていったのだ。

 

 

 ちなみに、そんな山本の最後の言葉だが、

 

 

『三好夏凛、キミのあふれ出るガッツに俺は敗北した……どうだ、キミにはセンスがある。 一緒にレスリングをやらないか!?』

 

 

 消える間際に山本にヘッドハンティングをされた夏凛だった。もちろん、丁重にお断りした。

 

 

 

 勇次郎はと言うと、

 

 

『山本程度に苦戦するとはまだまだアメェな……今日はこれで終いだ』

 

 

 勇次郎は樹海化が解ける間際、何故か不敵に笑みを作っては高嶋と千景へと視線を送りつつ、

 

 

『次の戦いを待つ。 また来るがいい、勇者達よ』

 

 

 

 そんな魔王みたいな捨て台詞とともに去っていったのだった。

 

 

 

「まぁ、そんなこんなで私が甲斐甲斐しく病院に運ばれた夏凛を看病してやってるんだから感謝しなさいよね?」

「……………あ、ありがとう」

 

 風のリンゴを持っていた手が止まる。

 あの夏凛が、珍しく素直に礼を言った事に。

 

「か、夏凛がお礼を言いおった! あの夏凛が!!」

「…ッ!! ど、どういう意味よそれ!」

 

 羞恥で顔を染めた夏凛は思う。この場に園子達が居なくて心底良かったと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は既に夕刻である。

 夏凛の無事を見届けた勇者部一同はそれぞれが帰路に付いていた。

 ある者は真っ直ぐ家へと帰り、

 ある者は今日の夕ご飯の食材を買いに商店街へ、

 

 

 高嶋友奈も、その帰路についていた一人である。

 

 

 いつもなら、その隣には同じ西暦の勇者である郡千景がいるのだが、今はいない。一緒に帰ろうと千景から誘われたが、高嶋が用事があるから、と断ったのだ。

 

 

 

 それには理由がある。

 

 

「♪~♪」

 

 鼻歌を混じらせながら、高嶋は思考を巡らせた。

 そして思うのである、誰かに見られている、と。

 

 

 背中を刺すような感覚。まるで刃を突きつけられているような、弓を持って射殺してくるかのような、それはまるで殺気。

 

 

 5メートル、いや、10メートルくらいだろうか。

 それくらいの距離を保ちながら、高嶋の背後を付けてくる者がいる。 

 

 後ろを見れば、すぐにでもその正体を視認できるだろうが、高嶋はそれをしない。

 明らかに気づいていない風に装っておくことを決めた高嶋は歩調を早めることなく、一定のスピードで角を曲がった。

 

 

 暫くその道を進むと辺りがビルの壁に囲まれて狭まり、周囲は薄暗くなってきてさえいた。

 その路地は真っ直ぐ進んだ先は行き止まりである。高嶋の足は自然と止まった。

 

 

「行き止まりだぜ? お嬢ちゃんよ」

 

 脚を止めた高嶋の背後から聞こえるのは男の声。高嶋がその声を聞いて踵を返す。

  

 

 身長は180くらいだろうか。

 オールバックの髪型、ラフにジャージを着こなした青年がそこにはいたのである。

  

「逃げても無駄だってことを悟った感じか……それとも、もともとこの場所に来る予定だったのかイ?」

 

 サバンナに生息する豹のような眼光が高嶋を見つめる。

 男の身体は一般男性の体つきではなかった。

 

 

 ジャージの上からでは分かりにくいかも知れないが、

 袖口から見える拳の皮膚の厚み、

 首回りの太さ、

 腕と脚周りの筋肉の大きさは格闘術を嗜んでいることを窺わせる。

 

 

 男が纏う異質な雰囲気はまさしく『グラップラー』のそれだと、高嶋は本能的に察した。

 そして理解する。この男は敵なのだと。

 

 

「お兄さん……グラップラーなんだね?」

「おうよ……空手道神心会所属―――」

 

 

 

 高嶋の問いに男は余裕綽々の笑みを浮かべて軽快に答えて見せた。

 

 

 

 

 

「――加藤清澄(かとうきよすみ)ってンだ」

 

 

 

 勇者、高嶋友奈に空手界のデンジャラスライオンが迫る。

 

 

 

 




山本稔、灼熱の時終了のお知らせ。
やっぱ刃牙って難しいわ。原作者の表現のバリエーションが真似できない……。

私が描く作品の高嶋さんってなんか強キャラ臭を漂わせたヤベー奴として描かれてしまう、何故だ。
そんな高嶋さんもこの作品では誰よりもグラップラー寄りの存在になりつつあります。
さて、デンジャラスライオンこと加藤清澄の命やいかに。


そしてゆゆゆい2周年記念イベの友奈ズの熱い絡みを見た私は無事に憤死したようです。

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