無事に文化祭雪花さん当てることが出来ました。推し回を執筆するごとにSSRが当たる現象が起きてくれれば……
「くッ…うぅ……」
微睡の中、秋原雪花が目を覚ます。
中途半端な熱を持ったような寝苦しさから、額から流れる汗を気持ち悪いと感じながらも彼女は周囲を見回して状況を把握する。
「お目覚めー?」
目の前には、赤嶺友奈が砕けた笑みをこちらに向けながら手を振っている。
加えて雪花の身体には自身を拘束するバーテックスの触手だ。
雪花は確信する。
自分は赤嶺が差し向けた自身の疑似精霊との対話を制してきたのだと。
「いやー、早かったねぇ。 急造の疑似精霊だからきっと中途半端な対話で終わっちゃうのかと思ったけど――――」
「あんた……ほんと最悪」
「ふふ……その様子を見ると、
ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべて見せた赤嶺に対して、雪花は苦虫を噛み潰したような顔をした。
たしかに、雪花は赤嶺の疑似精霊との対話に勝利した。
雪花の疑似精霊は当然、彼女自身が心に思っていることをストレートに聞いてきたのである。
自身の変に疑り深く、計算に走りがちな性格の事を、
北の大地に相応しく冷えに冷え切った人間関係の事も、
そんな心も冷え切る故郷に帰りたくない自身の心境も、
この世界から帰りたくないと思っている事も。
しかし、雪花はその問いに対して正直に答えて見せた。
自分の性格がたまに嫌になる時があるというのは分かっていたし、
今まで感じたことのない心の温かさを失いたくないと思ったし、
この異世界での生活で出会った仲間たちとはまだ離れたくないし、
正直、この御役目がずっと終わらなければいいと思っている事も明かした。
こうして疑似精霊にの対話に勝利した仲間の話を参考に雪花は対話に臨んだこともあってか、言い負かされることもなく、現実の世界に戻ってこれた。
仲間と一緒に居たいとか、心の温かさとか、まだ帰りたくないとか。
そんな心中を声を大にして曝け出すのはたとえ相手が自分の姿をした偽物であっても顔から火が吹く思いであったが。
対話を終えた瞬間、疑似精霊が光となって消えていく。
形成された偽の空間が崩れ雪花の意識が現実へと帰っていくその最中、雪花の疑似精霊は不敵に笑うのである。
―――――もしこの世界に帰らなくてもいい方法があったとしたら、どうする?
そんな言葉を、今一番雪花がぶち当たっている問題を疑似精霊が口にしたと同時に意識は光のなかへと吸い込まれていった。
そして今に至るのである。
「まさかとは思うけど……私が易々と対話を終わらしてくるって考えて、あの仕掛けを?」
「さぁ? なんのことかなー?」
白々しいほどの笑みを向けてくる赤嶺に思わず槍をぶつけたくなる思いである。
もっとも、槍も持っていないし身体は触手で縛られてるからどうしようもないのだが。
「……赤嶺、知ってるんでしょ。 この世界から帰った私たちがどうなるのか……」
「さぁ、どうだか……でも、自分自身でも察しはついてるんじゃないかな? 聡明な秋原雪花さんなら、ね」
石のような沈黙を押し通すかと思いきや、意味深に問いを投げかける赤嶺に雪花は息を呑む。
この世界から消える時、それは造反神を沈めて御役目が終わる時だ。
聞けば、神樹が作り出した世界での出来事は一時的なもので、元の世界に戻ればそれまでの記憶は失われるという。
記憶だけではない。
その時に得た強さも、雪花が救われ、ずっと居たいと思えたこの世界の出来事は、泡となって消えていく。
泡沫の夢のように。
記憶を失い、元の世界に戻ること、それは雪花にとってどういうことなのか。
またあの寒い大地で戦いが始まる。
人々を敵から守らなければならない日々が、
人と人同士が醜さを隠しながらも平然を装う集会が、
文字通り、心をすり減らしていく日々が始まるのだ。
あの寒く、凍えるような大地でたった一人の戦いが。
かつて得たような強さに縋ることも出来ず、
仲間たちとの出会いも無かったことにされ、
一人で戦うことを強制されていく。
孤軍奮闘、気前のいい言葉を言えばそうなるかもしれない。
だが、雪花を取り巻く状況は真実を言うと四面楚歌である。
次第に増えていき、学習して強化されていく敵。
限りある物資の中での長期戦。
敵が敵を呼び、助けに来る仲間が誰一人としていない。
終いには人間同士がお互いに利益と欲を優先しての足の引っ張り合い。
そんな中で雪花が戦いを続けていたとしても見えてくるのは破滅である。
その破滅を確証付けるのはやはり、同じ西暦勇者の反応を見れば一目瞭然だ。
諏訪の勇者、白鳥歌野。沖縄の勇者、古波蔵 棗。
長野県と沖縄の勇者も雪花と同じ一人で地域を守っていた。
たった一人で人々を守護する彼女達の強さは戦闘面でも、逆境に晒された時の精神面を見れば納得することが出来る。
だが、どんなに心と身体が強い歌野と棗であってもバーテックスの圧倒的物量にはいずれ押しつぶされるのは目に見えている。
特に諏訪の後方に構えていた乃木若葉の四国で戦いが始まったということは、最前線で戦っていた諏訪は崩壊したということではないか。
仲間の対応も不自然ではあった。例えば、四国の勇者。
若葉にも事の次第を聞こうとしたときは何故かはぐらかされた。
つまりは、そういうことなのだろう。
諏訪は既に滅んでしまっている可能性が高い。
掘り返せば、まだまだ疑問に思うことが出てくるのが勇者部だ。
自分たちの時代より300年後の、神世紀の勇者たち。
もちろん、三ノ輪 銀という一人の少女についてだ。
この世界には東郷美森と鷲尾須美、乃木園子(中)と乃木園子(小)は同一人物だ。
同じ年齢の彼女たちのは同じ時間を歩み、この世界にやってきている。なのに、
三ノ輪銀という少女は小学生の姿しか見当たらない。中学生の三ノ輪 銀がいないという疑問には雪花は当然気が付いた。
活発で、元気に動き回る銀の姿はまるで火の玉である。
そんな小学生の銀を見守る中学生の乃木園子と東郷美森。
彼女たちの銀に接する際の態度は、どこかよそよそしかった。
まるで腫物を扱うかのような、
だけど、銀と過ごして満面の笑みを浮かべる二人は、もう二度と会うことなんて出来なかった人と再会できたかのような、充足に満ちた幸せの中にいた。
その理由は、恐らく勇者部部員の全ては知らないだろう。
知っているのは東郷美森と乃木園子のみ。
彼女たちの関係を一概に表せないが、傍観者であった雪花は感じ取ったのだ。
雪花はそこから不安だけが募っていった。
愛媛の地域を奪い取った時だったくらいか、
誰かがふと言ったのだ。『この戦いも終わりが見えてきたみたいですね』と。
雪花はその言葉に半笑いで言った。『まだまだ焦んなくてもいい、ゆっくりいこう』と。
雪花の言葉に誰も反発するものはいなかった。
みんながまだその話は早いと言わんばかりに、話を切り上げていった。
解決策を模索しようにも、全員が一丸とならなければどうしようもない。
問題を先送りにすること、それは悪いことだと雪花は思わない。本当に答えが見つからないのなら、致し方ないことだろう。
だが、もし……お役目が完了する時まで何も解決策も見つからなかった場合、
その切迫した中で仲間と遂に異世界から現実へと戻るとなった時に素直に受け入れられるものはいるのだろうか。
きっと、受け入れるものと受け入れられないもので大きく分かれるだろう。
そうなれば、言い争いは免れられない。
いつも和気あいあいとした勇者たちが険悪になる光景を想像して、雪花の胸が酷く痛んだ。
だから、疑似精霊が最後に残したように元の世界に戻らなくてもいい方法があるのならば。
危険な罠だと分かっていたとしても雪花にとっては藁にも縋る想いだ。
なぜなら雪花は絶対に生き残りたいから。
援軍の来ない雪に埋もれながら無残に死にたくはない。
起きて半畳、寝て一畳、飯を食っても二合半。 そんな質素な生き方でもいい。
せめて死ぬならば畳の上で、
願わくば誰かに見守られ、
贅沢を言うなら人の温もり感じて死んでいきたい。
それが人生の終幕にて秋原雪花が望むものだ。
故に雪花は生きるために問うのである。
「あんたが何を見ているかは分からないよ……でもあんたは神世紀序盤の人間。
世界が火の海になった当初の世界情勢を少なからずとも知っているはずだよね?」
「モチのロン♪」
「教えなよ、赤嶺。この世界から戻らなくていい、そんな都合のいい方法をさ……」
赤嶺を睨み付ける様に、されど悲痛な表情で雪花は言う。
誰もが求めている、優しくて居心地のいい世界を続ける方法を問うのだ。
そんな雪花に対して赤嶺はにっこりと、彼女の知る『友奈』のような笑みで、
「本当だったらぁ、勇者部が強くなって私を打ち負かしたときに話そうと思ってたんだけど、雪花さんには特別かな? その代わり……」
意味ありげに手をこちらに差し出してきて赤嶺は言う。
「勇者部をさ、裏切ってよ」
「……ッッ!!!」
驚愕、困惑とそれらを織り交ぜたような表情の雪花に赤嶺は提示した条件は『仲間を裏切れ』というものだった。
「簡単に言えば情報の提供かな? 私たちが攻め込む際はそっちの陣地と勇者の配置とか巫女の場所とかを教えてほしいんだよね。
神託で常に万全な状態で守られるからさー、裏をかいてやりたいんだよ」
執拗なまでの巫女潰しはこれからも継続するらしい。
確かに巫女の神託の裏を突けるなら、勇者たちは困惑するし脆弱な防衛網を一点に攻め込むことで一気に形勢を逆転させることが出来るだろう。
「あ、縛られた状態じゃ握手できないよね。 なんだったら言葉にしてほしいかな、『仲間になります』。 それだけでいいから」
「ば、馬鹿ッ そんなことッ 出来る訳ッッ」
「でもさでもさ! 死にたくないんだよね!」
嬉々とした表情で赤嶺は言う。
まるで雪花の心の隙間に入り込むように、内に秘めていた激情を掻き立てる様に。
生に報着する雪花の本能を引きずり出すように。
「寒かったから握ってもらったあの子の手……暖かかったんだよね? あれがもう二度と感じ取れない寒い大地になんて戻りたくないよね?」
いつぞや、海岸で自身の手を寒くないように握ってくれた友奈との一部始終を口にされる。
隠れて見ていたとは、悪趣味な勇者も居たものだ。
(ちくしょう……こんなの、絶対罠だって分かってるのに!なんで……なんで!!)
雪花は気づいている。
赤嶺の提示するこの条件が罠だということを。
実際は真実を教える気などさらさらない、使えるだけ使って、そしてここぞというときに赤嶺と雪花が内通しているということを勇者部にリークして不和を起こさせるのが狙いなのだ。
単調な作戦、それを受けてしまうリスクは余りにもデカい。
しかし、その罠に雪花は敢えて飛び込もうとしている。
余りにも甘美な響きに、頷こうとしてしまっている自分がいる。
生きたい。
死にたくない。
この世界から戻りたくない。
ずっとここにいたい。
でも皆を裏切りたくない。
様々な思考が交錯する中、赤嶺が迫る。
「そろそろ……答えを聞いちゃおうかなぁ……どうするの?」
「わ、わたしは……」
どろりとした黒い感情が見え隠れする笑みを向けて首を傾げる彼女に雪花は目尻に涙を溜めながら、引き絞るような声で言葉を作り始める。
「あな、た、の……な、か…まに―――――」
その先の言葉を遮るように、雪花の眼前を風が舞った。
黒の物体が赤嶺と雪花の丁度間へと高速で落ちてきたのである。
「―――ちィッッ!!」
それを危険と察知した赤嶺がひと蹴りでその場から飛び退くと、次の瞬間。
どうッ、と。
赤嶺が先ほどまで居た場所を何かが突き刺さる音がする。
小さく地面を沈ませ、砂煙を起こした正体は
「単身で捜索し続けた甲斐があったというものだ―――」
空から降り立ったのは男だった。
赤嶺と同じく褐色の肌を持ち、目を引くチャイナ服でゴツイ肉体となればそれは雪花の知る中で一人しかいない。
「烈さん―――!!」
「待たせたな雪花よ。 そして赤嶺、私は貴様を探していた」
中国武術の達人、烈海王が矢のような鋭い視線を前方の赤嶺へと向ける。
「誰かと思ったら、忘れてたよ……私にイッパツもらって負けた、弱い人じゃん」
赤嶺は警戒しながらも、余裕を宿したような小さな笑みで呟いた。
樹海で出会って自身の一撃に沈んだ男の顔をあろうことか忘れかけていたらしい。
そして自然と発せられる挑発の言葉に烈の激情を誘う、抜け目のないことである。
しかし烈は一瞬足りとも表情を変えることなく、毅然としたままだった。
「わざわざ貴様を名指しした理由……ある程度分かっているだろう?」
「リベンジ、したいんだ~……できるのかな?」
一段と妖美な笑みを浮かべる赤嶺に烈は小さく笑って見せる。
「試してみよう」
一切挑発を受け付けない烈の姿勢に赤嶺は違和感を覚える。
あの時の樹海で出会った男と同じものとは思えない闘気。
片足義足という身体的ハンデをものともしないその佇まい。
下手に手を出したら一瞬にしてその剛拳の連打を食らうという
気づけば赤嶺は烈に対してファイティングポーズをとっていた。
しかもそれは、少しだけ距離をとるような防御よりの構え。
「このまま逃げるもよし。仲間を呼んで私を数で圧倒する、それもいいだろう。
だが、一対一で戦うことを望むなら……貴様は我が魔拳、身を以って味わうこととなる」
鍛錬に鍛錬を重ねた褐色の拳の厚みから察するに、その威力は絶大だろうと赤嶺は予想する。
「いいじゃん、やってみなよ。 またイッパツで終わらせてあげるからさ」
だが、樹海での不意打ちにてこの男からもぎ取った勝利という事実が赤嶺から烈への恐怖心をなくさせていた。
構えから力を抜き、普段通りの戦闘スタイルへと移行する。
「……なら、私も同じように”イッパツ”だ」
「……?」
すっ、と烈は数字にして”1”を表わすように人差し指を赤嶺へ見せつける。
それが何の意味を持つのか、と脳内で思考する赤嶺より先に烈は宣言するのである。
「私が貴様に与える打撃は一撃のみ……その一撃を以って貴様を倒す」
余裕綽綽の赤嶺友奈に、中国の”魔拳”が牙を剥く。
次回、赤嶺友奈は二度死ぬ。今週頑張れれば赤嶺さんのスクールライフのほうも更新できるかもしれませぬ。
烈海王
・顔は静かだけど内心めっちゃくちゃキレてる。宣言通りに一撃だけ入れるつもり。
秋原雪花
・レズ奈さんに仲間になってよと迫られ、揺さぶられて思い悩む。
自分の事も大事、でもこの世界で出会った仲間も大事。その苦悩して涙する姿はまさにヒロイン。
赤嶺友奈
・コマンド―でいうところの終盤ベネット状態。要約すると、「テメェなんかこわくねェ!!」
質問や意見はいつでもお待ちしております。