ゆゆ刃牙~漢達のきらめきッッ~   作:バロックス(駄犬

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第二十二話~烈海王(リベンジ)~

 当たる。

 当たる。

 当たる。

 

 拳が面白いくらいに当たる。

 握力によって作られた(ボックス)がマシンガンの如き速さで打ち込まれる。

 一打一打が岩をも破壊する威力を秘めている拳が確かに、肉を叩く音を奏でる。

 

「だあァッ!!」

 

 赤嶺友奈の拳が眼前の敵、烈海王を容赦なくたたき上げる。

 まるでボクサーが練習でサンドバッグを叩くように、

 怒声を上げるとともに、烈の身体がまるで宙を舞う風船のように浮き上がるが―――、

 

 

 すとん、と。 

 まるで一流の体操選手がフィニッシュで着地を決めるかの如く柔らかな着地を決めて、

 

「どうした赤嶺」

 

 毅然と、そして油断も許さない鋭い眼光で烈が睨み付けてくる。

 先ほどの連打の影響など全くと言っていいほどないというように。

 

 

「イッパツ……既に宣言した回数を超えているが」

 

 

 12発。赤嶺が烈に叩き込んだ拳の数である。

 頬に。

 顎に。

 腹に。

 胸に。

 岩をも砕くとされる威力を持つ勇者の拳を、的確にクリーンヒットさせた。

 手ごたえは確かだった。

 だが、目の前の烈海王がノーダメージで相対してるという事実が残る。

 

 

「はは……どうなってんのこれ」

 

 その事実に思わず、赤嶺から乾いた笑みが漏れた。

 精霊による加護も無ければ、特別肉体が強化されているわけでもない。

 本来なら、立っているのが不思議と言っても過言ではないほどのダメージを与えている筈。

 

 

 何度叩いても立ち上がってくる。

 まるでゾンビ。

 もしくは、怪しげな薬使って痛覚を遮断しているとかしか考えられない。

 そう非現実的な思考を以って対処するほどに赤嶺は動揺していた。

 

「足りないな」

 

 烈海王が嗤う。

 

「まだ隠しているだろう……奥の手を」

「……え?」

 

 きょとんと。

 思わず口にしていた赤嶺に対して、烈は言う。

 酷く、性の悪そうな口ぶりで、

 

「そうでもなければ、永遠に私は倒せないからだ……全力で来るがいいッ」

 

 

 それは間違いなく挑発だった。

 普段口足らずな烈が行った珍しい挑発行為だった。

 

 先ほどから全力で打ち込んできてる赤嶺に対して、

 『お前の力はそんなもんか?そうじゃないだろう?』という意味。

 

 

「~~~~ッッッ!!」

 

 

 屈辱である。

 対人戦特化の勇者である赤嶺にとって、今の烈のセリフは非常に癪に障るものであった。

 

 図に乗るな。

 粋がるな。

 舐めるな。

 こんなもんじゃない。

 次は絶対、ぶっ倒す。

 

 

 明確な殺意という物が沸き上がり、自然と拳に力が籠められてその硬さは鋼鉄と化す。

 怒りのボルテージが赤嶺自身に力を与えていた。

 

 

 アドレナリンが迸る。 

 インパルスが加速する。

 視界に。

 脳内に。

 研ぎ澄まされた烈の姿が映し出され、ジャストにリンクした脳と身体が叫んだ。

 

 

――――”行け”と。

 

 まるで獰猛なイノシシが突き進むように、赤嶺は烈へと肉薄した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――当時の光景を秋原雪花は後にこう語っている。

 

 

 

 

 

 いやぁ、なんでアレで死んでないのか。こっちが疑問に思ってるくらいだよ。今でもさ。

 

 ドスッ、とかじゃなくてドンッ。なんかハンマーとか鈍器が肉撃ったような音出してさ、同時に衝撃はもボッて広がってこっちにまで届いてきたよ。

 勇者の力……、特に結城っちとか、高嶋のパンチってけた違いの威力なんだよね。赤嶺と結城っちがタイマンで拳ぶつけあったらそりゃあもう凄かったよ。

 拳と拳が衝突して衝撃波生まれるとか、まるでマンガじゃん。どこのドラゴンボールだって、どこのスクライドだって。

 

 

 烈さん?ああ、あの人ね。もちろんピンピンしてたよ。

 赤嶺の猛ラッシュをまた食らっちゃうワケ。腕とか、腹と顔にさ。

 でもあれ、多分ワザとじゃないかなぁ、って思ったわけよ。

 ”完全に受け切れる自信があった”、そんな感じかな。

 

 

「ダァオッッ!!」

 

 赤嶺も叫んでたね。これでもか!って感じで、宙に浮いた烈さんの腹目掛けて蹴り入れてたんだ。

 綺麗に入ったね。前に高嶋が練習してた格闘技でいうミドルキックってやつ?

 多分普通の人間が食らったらアレは死ねるね、確かに。

 

 

「……!!?」

 

 

 でも不思議とね、ダメージなんて入ってなかったって、私は思ったんだ。多分、赤嶺もそう思ったんだよね。

 また烈さんが平然と構えてくるんだ。

 

 

「まだやるか?」

 

 

 って、セリフを吐いてね。

 後から調べたんだけど、中国拳法には相手の攻撃を受けた時にその力を吸収する”消力(シャオリー)”ってのがあるらしいんだよ。

 

 人間ってパンチとか食らったり、何か衝撃が身体に来た時に思わず身を固めちゃうでしょ?

 力んだりしたりさ。あれは人体の反射なんだって。

 ”消力(シャオリー)”はその逆で、あえて力を抜くことで打撃の威力を吸収して無力化しちゃう技っていうワケ。

 笑っちゃうよね、そんな技使えたら車に撥ねられたって死なないじゃん。

 

 

「くそ……っ!」

 

 流石に赤嶺も苛ついてたね。そりゃ自慢のパンチを何発も当てても効果なしってなれば、頭にも来るでしょ。

 立て続けに攻め込んでたから息が上がってたね。

 

「――――では、幕を下ろそう」

「なッッ!?」

 

 

 その疲労した瞬間を狙ってたのかな。烈さんが動いたんだ。

 義足じゃない生身の足で地面を蹴って、そのひと蹴りで一気に間合いを詰めたんだ。

 4,5メートルくらいかな。それくらいはあったと思う。人間の脚力じゃないって。

 

 だけど、赤嶺もちゃんと反応してた。

 

 

 

 腕を出してたんだよ。

 間合いを詰めてくる烈さんに対して、拳と顔面を合わせる様にさ。

 直線的に向かってくるならその勢いを利用して、カウンターノックアウトを狙ったんだろうね。

 多分、それで合ってると思う。”消力(シャオリー)”を打ち破るには状況的に威力を殺せない態勢を作るしかないんだ。

 赤嶺は間違ったことをしていない。

 

 

 でもそれさえ、烈さんは読んでいたんだ。

 

 

「は、はや…っ」

「中国四千年の歴史……背負うのは容易ではなかった。 その重責故に、海王を名乗るものとしてッ 中国武術を背負う者としてッ 二度の敗北は許されないッ」

 

 ぴたっ、てさ。

 こう壁に手を添えるみたいに拳を赤嶺の腹の部分に置いたんだ。殴ってないよ、ほんと。

 蚊も殺せないんじゃないかってくらいスロウな動きだったんだ。

 一体なにさ?って思うじゃん?でも不思議だよね、

 

 

「墳ッッッ!!!」

 

 次の瞬間には、赤嶺が吹っ飛ばされてたんだから。

 目の前で大砲でも打ったんじゃないのってくらいの音が聞こえてさ、気づいたら赤嶺が5メートルくらい飛ばされてた。

 なんとか受け身をとって起き上がった赤嶺だったけどね、

 

 

「!!??」

 

 もう何がなんだか分かんないって顔してた。あと口から涎みたいなのが垂れてたけど、あれ多分胃液吐いてたんだわ。

 胃の中を直接シェイクされて、胃液を吐き出しちゃうくらいのイッパツ、貰っちゃったんだね。

 

 

 ノーインチパンチ、またの名を無寸勁(むすんけい)ともいうのかな。一般人からしたら、後者の方が聞きなれてるかもね。発勁、寸頸とか。

 ゼロ距離で相手に頸を作用させる打突技。

 僅かな身体の動きで高い威力を出すトンデモな技らしいんだけど。達人クラスだと、空手の寸勁ですら、瓦30枚とか割れちゃうらしいよ。

 それを仮に敵であっても女の子の腹にぶち込むとか、鬼畜かって思ったね。

 

 

 そこで烈さんも判断したんだろうね。拳を開いて、構えを解いたんだよ。

 

 

「充分だな……」

 

 

 多分烈さん的にも、察しはついてたんじゃないかな。

 これが決着なんだって。

 ちょっと残念そうな顔してたけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「充分って、なにさ!!」

 

 ごほっ、と胃の中と喉への不快感から赤嶺の口から空気が漏れる。

 実質、イッパツだけの、宣言通りの一撃をもらっただけ。

 それだけの筈なのに、赤嶺の身体は悲鳴を上げていた。

 

「一撃だけを与える……私が宣言した通り、それは実行された、ただそれだけの事。 それに……もう貴様の身体は立っているのがやっとだろう」

「な、なめないでよ、ね……ッ」

 

 

 胃の中にある腸壁、臓器のいくつかがダメージを負っている。

 臓器とは人体で痛みが効果的に出やすい箇所だ。ボクサーがボディブローの応酬で倒れるのはこの臓器であるレバーを攻撃されているためである。

 赤嶺の身体に走る鈍い痛みが全身に冷や汗を流させることで証明した、烈海王の戦闘力。

 

(見誤ったか……)

 

 樹海の時とは偉く違った烈の力に差を感じる。

 後悔と同時に、自身の未熟さを思い知る。

 

 何が造反神の勇者だ。

 何が対人戦特化だ。

 何が勇者に試練を与えるだ。

 

 不意打ちでもぎ取った勝利など、なんの価値もないというのに。

 それを誇らしげにしていた自分自身に、赤嶺は思わず唇を噛みしめる。

 知らずうちに口の端から赤い液体を胃液と共に流していた。

 

 

(一応逃げられるほどの余力は残しているけれど、ここで自陣に戻ったらあのオッサンになんていわれるか……)

 

 赤嶺の脳内で葛藤が生まれる。 

 いつもなら、ここで風のように退散するのが彼女の逃亡のパターンだ。彼女にとっての特殊技なのだが、

 それを行って拠点に帰った時、最近住み着いたあの黒服の男に言われる言葉を想像してしまう。

 

 

 

『ハハハハハハ!! おまっ、逃げろって言われて素直に逃してもらって…ハッハッハ!

 尻尾捲いて帰ってきたッテのかよォッッ ハハッハハ!!ダッセェなァ!……エフッ エフッ エフッ』

 

 

(うわー、簡単に想像出来ちゃった……私もう末期かな)

 

 

 遠くの拠点で居座っている鬼が嗤う光景に赤嶺の眉が潜まる。

 ならば、逃げるわけにはいかない、と珍しく戦闘続行しようとする赤嶺だったが、

 

 

「―――え、ちょっ! なにっ!?」

 

 赤嶺の身体を数匹の星屑が。 

 その触手を伸ばして拘束して、烈達との距離を急速に離していく。

 指揮官である赤嶺を強引に帰還させるように、それは仕組まれたものなのか定かではないが、

 ダメージによって、星屑の拘束も今の赤嶺では解くことも出来ない。

 

 

「は、はなせー!くそー!覚えてないさいよ、そこのアンタ―――!!」

「烈海王だ」

 

 

 子悪党が最後に放つような捨て台詞を口にする赤嶺は遠ざかっていく烈の姿が小さくなっていくのを眺めることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのさ……流石に恥ずかしいんだけど」

「ん?」

 

 雪花の呟きに烈は一言だけ顔をこちらに向ける。

 赤嶺という敵を追い払った後、雪花の身体は思うように動かなかった。

 気づかなかったが、拘束している間に星屑の触手に仕込まれた毒をもらっていたらしい。

 

 

 そんな雪花を烈が背負い、仲間の元へ移動しているというのが今の現状だった。

 最初は仲間を呼んでくると、その場を離れようとした烈だったが、

 

 

「”動けない、変身できない一般人を気にかけてくれないんですか”と言ってきたのはさて、誰だったか」

「まあそうなんですケドー、身体痺れてあんま感覚ないんから私の身体……触ったりしてないですか?」

「私をあの赤嶺と同類と捉えるのは止めてもらおう、地面に降ろすぞ?」

「ああっすいません! 冗談です冗談です! 今置いていくのは勘弁して!変身も出来ないし、身体も動かないから星屑相手に襲われたらシャレにならないんだってば!」

 

 

 そんなことを言われて、なんやかんやで助けてアピールする雪花を放っておくことが出来なかった。

 というよりは、自身の性格故か。

 生真面目な自身の性格を烈は恨んだ。

 

 

「にしても、男の人の背中ってこんなになってるんだ。へぇ……」

 

 僅かながらに手の感覚が戻ってきた雪花はぎこちない動きで烈の肩の部分に触れる。

 チャイナ服越しでも確かに分かる鍛えられた僧帽筋の太さに驚いた。

 首回りも、相当鍛錬を積んだのだろうか、太い。

 これならいかなる打撃が顔に直撃してもこらえきることが出来るだろう。そんなことを思いながら。

 

 

「お、オイこら! 私の髪の毛を勝手に引っ張るなッッ」

「いいじゃないですか、減るもんじゃあるまいし。それにちゃんと大義名分を掲げて女子中学生を背負うっていうラッキーな目に遭ってんですから、お相子ですよ」

「屁理屈を……」

「烈さん」

 

 不意に、雪花の間落ちしたトーンが背後から聞こえてきた。

 

「私と赤嶺の間に何があったか、聞かないんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 雪花の脳内で一抹の不安がよぎる。

 果たしてこの男に打ち明けてしまってもいいのだろうか、と。

 敵と内通することを持ち掛けられ、それに応じようとしてしまったなど、簡単に言えば裏切り行為だ。

 もしかしたら、この場で制裁されるという可能性だってある。

 

 

「私……勇者部を裏切れって提案に、応じようとしてたんです……」

「……」

 

 意を決して話すことを決めた雪花は烈は少しだけ気を張り詰めたように聞いてくる。

 ここまできたらもうどうにでもなれと、雪花はその思いで口を開いた。

 

「私、怖くなっちゃって……この御役目が終わって、元の世界に戻ったらまた一人になるんじゃないかって思って」

 

 あの北海道の大地で、寒い人間関係の中で生きる辛さ。

 この異世界で出会えた仲間たちのお陰で、思い出すことが出来た人の温かさを雪花は忘れたくないと思ったのだ。

 

「だから赤嶺にこの世界から帰らなくていい方法があるって言われた時に、すごく、揺れちゃった。へへ……勇者失格だにゃ」

 

 言ってしまった。

 正直、精霊との対話以上に緊張している。敵と内通することは今までの信頼関係を全て破壊する行為だ。

 敵の罠であったとしても、雪花は一時は揺らいだのだ。目の前にいる烈から厳しい言葉を浴びせられても仕方がないだろう。

 

 

 最悪この場で粛清されても、

 

「雪花よ、私にも怖いものはあるのだ」

「え?」

 

 辞さない。と覚悟した雪花の意とは裏腹に烈の言葉に思わずそんな声を出していた。

 雪花は驚きを隠せない。

 今しがた赤嶺を余裕でぶちのめした、圧倒的強者である烈海王に怖いものがあるという事が。

 

 

「この右脚……ある強者との一戦で負った名誉の負傷だ」

 

 そう言って雪花は烈の、樹海の地面をいとも容易く踏破する義足の足を見た。

 

 彼の右足、アキレス腱より少し上の脛辺りの部分は義足だ。

 聞いたところによると、とある白亜紀最強の古代人との戦いで食いちぎられたとか。

 

「後悔はない。中国四千年を余すことなく発揮し、古代人に本気を出させることが出来たのだから…その上での敗北ならば、是非も無いッ」

 

 

 だが、

 

 

「試合が終わり、義足を以って鍛錬を可能となったとしても医者から告げられた……”キミはもうファイターとして終わっている”と。

 

 出口のない暗いトンネルをただ走るかのような毎日だった。そのせいで、一時は酒に逃げたこともある」

 

 

 とてもそういう風には見えない。

 

 あんなに力が強いのに、

 あんなに意志があるのに、

 あんなに技が使えるのに、

 心技体を鍛え上げた超人とも呼べるこの男が酒に溺れ、堕落したことがあるなど。

 意外、というのが雪花が抱いた印象だった。

 

 

 こほん、と烈は咳払いをして、

 

「誰にでも怖いモノがある……私にだって、独歩にだって。まぁ、一人くらい例外はいるのだがな」

 

 それは恐らく、彼らの世界にいる地上最強の男・範馬勇次郎なのだと雪花は察することが出来た。

 

「怖い、と思うことは悪いことではない。人間ならば、それが当たり前なのだ。

 私だって、もしこの脚が元に戻る方法があるなんて言われたら思わず応じてしまうかもしれない。

 誰だって失ったものが取り戻せたり出来るのであれば、その方法を必死になって模索するだろう」

 

 

 けれども、

 

 

「この世界に来て、キミたち勇者と出会った。

 年端もいかない少女たちが、本来ならば楽しく学校生活や友人、家族と楽しいひと時を送っていてもおかしくない者たちが、

 世界を滅ぼそうとしているバーテックスから人類を守っている、命を賭して……私はそれを見て思ったのだよ、”負けてられない”、と」

 

 

「でもさ……! 元の世界に戻ったら、ここで得た強さとか、記憶とか全部無くなっちゃうんだよ?」

 

 少しだけ口調を強めたのは、まるで反論するかのようだった。

 どんなに体の良い言葉を並べても、結局は覆せないものがある。

 綺麗ごとだけ語るのも、不貞腐れて何もしないのも嫌だ。

 

 

 それに対して、烈は言うのだ。

 

 

「勇者部五箇条一つ―――”なるべく諦めない”……勇者部が掲げる五箇条でイチバン気に入っている言葉だ」

 

 なぜだろうか、

 

「どんなに絶望的でも、この言葉を口にしているだけで何度でもたちが上がることが出来る……そんな気がするのだ。

 私も武術家だ……武を極める為に”挑み”、”戦う者”……挑戦者として、この苦境を乗り切って見せる」

 

 

 強く言い切った烈の表情はその意志を表わしていた。

 この男なら、どんな事があってもやり遂げてしまうかもしれない、そう思わせる鉄の意志のようなものを感じた。

 自分とは違う。

 圧倒的に気持ちの部分で差があった。それは雪花にとって、とても悔しいもので現状覆せないことであった。

 

 

 

「すごいよ、烈さん……私はそんな風に強くないから――――」

「ならば雪花よ、共に中国拳法をやってみないか?」

「……なんでここで勧誘する流れになってるんですか」

 

 抑揚のある声で烈は言う。

 話の方向性というか、論点というか、色々と無視して突拍子もない烈からの中国拳法への勧誘に雪花は困惑するばかりだ。

 

 

「もしかしたらバイクを片手で止めることが出来るかもしれない、

 もしかしたら生身で水の上10メートルほど走れるようになるかもしれない、

 もしかしたら刀で斬られても薄皮一枚で済む……かもしれない」

 

「いやいやっ! そこは自信持ってくださいよ、一応勧誘してるんですから!」

 

 そんなに『かもしれない』と連呼されては、信じるもの信じられなくなるというか。

 

「いや、でも……ぷぷっ」

 

 困惑する雪花は何故か笑っていた。

 おかしくて、真剣に水の上を走れるとか、片手でバイクを止めるとか、刀で切られても無事とか。

 そんな荒唐無稽なことを真面目に語っている烈がおかしくて、面白くて。

 

「くく…っ! あはは…!ちょ、くふっ…待ってって、烈さんったらやめてよ…おかしいって、ぷははっ!!」

 

 気づけば堪え切れなくなった雪花が大爆笑を起こしていた。

 

 

 

「笑われるようなことを言った覚えはないのだが……」

「ふふ…はは、でもツボに入っちゃって……くくっ!!」

 

 この世界で勇者部に所属していこう笑うことが増えた雪花だったが、今日の爆笑具合は彼女のトップスリーに入るレベルであろう。

 今まで悩んでいた事すら馬鹿馬鹿しいと思うくらいに、忘れてしまうくらいに笑ったのだ。

 

 

 

 最後に二人は語り合う。

 勇者たちが最後に向かい合わなければならない現実について。

 

「いずれ話す時が来るだろう……その時は雪花、キミの想いをちゃんと勇者たちにぶつけるんだ」

「でもさ、もし……勇者部で言い争いになったりしたら?」

「言い争いか……それもいいだろう。 むしろキミたち勇者は熱意を持った者たちが多い……

 漫画のように、川辺で殴りあったほうが案外丸く収まるかもしれんぞ?」

「何だろう……すごーくそんな展開になりそうな気がする……納得いかないけど。

 ちなみに烈さんは元の世界には戻りたい派?残りたい派?」

「私は戻る派だ」

「ですよね……なんとなくそんな気がしましたにゃ」

 

 

 

 

――――後日、勇者部の鍛錬場には烈海王とともに站椿を行う秋原雪花の姿が見られるようになった。

しかし、始めて30分くらいでへばってしまうのは言うまでもなく。

 

 

 

 

 

 

 

――――そして、自身の拠点に逃げかえった赤嶺友奈はというと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~未開放地域~

 

「ハハハハハハ!! おまっ、逃げろって言われて素直に逃してもらって…ハッハッハ!

 尻尾捲いて、帰ってきたッテのかよォッッ ハハッハハ!!ダッセェなァ!……エフッ エフッ エフッ」

 

「~~~~~ッッ!!! うーるーさーいー!!」

 

 

 星屑の触手に雁字搦めで身動きの出来ないまま帰還した赤嶺は予想通り、星屑をソファにしてふんぞり返る範馬勇次郎にド派手に爆笑され、馬鹿にされたのだった。

 

 

 

 

 

 敵味方問わず、それぞれの勇者達の苦難はまだまだ続きそうである。

 

 

 

 

 

 

 




腰が痛くて仕方がないバロックス。でも執筆は止まらないんだ。
赤嶺ちゃんがゆゆゆいで登場回数が少ないので赤嶺ちゃんメインでイチャラブもの作ろうという欲が生まれて仕方がないんですが……助けて。
次回、主人公その2登場。



~秋原雪花~
バキ風傍観者と化す。赤嶺レズ奈さんのせいで一瞬闇落ちしかけるも、烈さんの真面目ボケ発言で笑いのツボを押されてとりあえず回避。ついでに押しかけまがいの中国拳法の勧誘に引っかかってしまう。站椿から始めたけど慣れない姿勢の連続で30分でバテた。
雪花さんのような自由さと烈さんの生真面目さが見事な凸凹コンビに見えるんよ。


~烈海王~
リベンジをようやく果たす。ほんとはクナイを投げたり、青龍刀で斬ったり、火を噴いたり、昆でひたすら打ん殴りたかった。けど一撃と決めてたから、残念。またの機会にしよう。寂海王ばりの勧誘ぶりで一人中国拳法に引きずり込んだ。この世界に来て出来た弟子第一号に内心、喜んでいる。


~赤嶺友奈~
謀反を誘発するも失敗して、中国人にぶっ飛ばされて、帰ったら鬼がワイン飲みながら爆笑して馬鹿にしてくる。ストレスが順調に蓄積されていく。


~範馬勇次郎~
そこら辺の星屑を手懐けて簡易なベッドにしてる。
やっぱり友奈って名前が付くのは時代が変わっても面白いなぁ。
とりあえず、嗤って煽っておく。

感想がありましたら、いつでもどうぞ。

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