ゆゆ刃牙~漢達のきらめきッッ~   作:バロックス(駄犬

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色々と連載が落ち着いてきたからね、久しぶりの更新ダァ。
赤嶺友奈の章最高でした。なにが最高って、皆キャラがイインだよ。
冒頭から最後まで最高なんだよ。

神世紀72年組は三人組じゃなくて、トリオだね。たぶんそんな感じだ。
内容が自分好みの題材でラブコメからバトルものまでたくさんの妄想が生まれてきて止まらないんよ~



それはそれとして、俺達の本部の雄姿を見届けてくれ。


第二十五話~本部以蔵(公園)~

―――――夜の公園は不気味だ。暗くて、寒くて、どこか近寄り難い。

 

 

 そんな言葉を誰かが言っていたのを思い出す。灯りの極端に少ない公園は人目につかず、犯罪が起こりやすい傾向にあるからだとか。

 

 

 しかし、郡千景にとって夜の公園はさほど近寄り難い場所でも嫌いな場所ではなかった。

 どちらかというと、好きなほうなのかもしれない。

 

 

 自身を闇と称する千景にとって光もなく、静かな公園は喧噪とは程遠い心安らぐ場所となるからだ。闇の世界とは自分に合っていると言わんばかりに。

 だからだろうか、普段人が寄り付かない夜の公園に戸惑うことなく足を踏み入れることが出来たのである。

 

 

 

 それが間違ったことだと気づかないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 郡千景の精神状態は良好なモノであった。

 足はしっかりと着いていて、視界は澄んでおり変に息づくということがない。

 

 

 コンビニの帰り道に突如として敵と遭遇したことに多少の驚きはあったものの、最低限の鼓動の高鳴り程度で、身体には余計な力が入っていない脱力している状態だ。

 日頃の鍛錬と充実した生活がもたらしたと言えばいいのか、地に足がついていて気力が充実している……ベストコンディションと言っても差し支えないだろう。

 

 

 ならば千景はその澄んだ瞳で今しがた相対した敵を見据える。

 

 

「本部……聞いた事がない名前ね……」

 

「本部流柔術……その元締め、って言えば分かるのかな…お嬢ちゃんみたいな年頃の女の子には」

 

「……柔術なのに、剣術を使うの?……あれ、そういえば」

 

 

 日本刀を構える本部以蔵を名乗る男は不敵な笑みを崩さなかった。

 千景は隙を見せないように思考し、訓練中に高嶋友奈が口にしていた言葉を思い出す。

 

 

 

――――知ってる、ぐんちゃん?剣術って柔術から派生したんだよ!だから私とか結城ちゃんがいつか若葉ちゃんみたいに刀を使ってズバン!ズバババン!って敵をやっつける日が来るかもしれない!

 

 

 

「つまり、柔術家が剣術を使えないという道理はない、という事なのかしら……」

 

「当たってはいる――――半分(・・)はね……」

 

 

 ましてや男は自らを本部流柔術の元締めを名乗る者。ならば、それほどの力量を有していてもなんら疑問を抱くことはない。

 ならば、と千景は戦い方を想像する。剣術相手ならば勇者部の中では若葉、夏凜と戦い慣れている方だ。

 

 

 千景はスマホを手に取り、システムを起動させて勇者服へと変身する。

 眩い光に包まれ、弾けると同時に彼岸花を思わせる赤の勇者服を身に纏った千景が飛び出した。

 

 

「ホゥ……魔法使いかな?」

 

 

 まるで未知の光景を目の当たりにしたという本部、しかし気を惹いたのも一瞬のこと。千景は有無を言わさず大鎌を本部に向けて見舞った。

 

 

「――――ふッ」

 

 

 空気を震わせる一閃が走る。

 

 

 上段。

 中断。

 下段。

 

 

 命を刈り取る処刑人の如く、研ぎ澄まされた鋭利な鎌の刃が本部へと迫る。

 対して本部は日本刀で応じる。

 

 

「シィッ!!」

 

 

 上段を刃先で弾いて気道を逸らし、

 中段を引き下がると同時に刃を叩き、

 下段をふわりと飛んで躱して見せた。

 

 

 重力を感じさせない、羽のような動き。

 

 

「な――――ッ!?」

 

「粗い太刀筋だが……悪くねェ」

 

 

 とても小太りの体形とは思えない跳躍。

 空を切った鎌の太刀筋を選別し、千景を評価する本部は後方へ着地する。その表情には余裕があった。

 

 

「鎌ってのは昔はただの農具……戦争で使われ始めたのも最初は敵を斬るためではなく、どちらかといえば敵を打ん殴って倒す鈍器の役割が近かった……、

鉄の重みで身体が逆に振られるッてくらいの安定性に欠ける武器――――」

 

「……何が言いたいの?」

 

「気を悪くしないで欲しいんだぜお嬢ちゃん、こんな扱うのが難しい武器を素早く振り回して、正確に相手を狙ってくる……並みの人間じゃ使いこなせねぇ」

 

 

 お嬢ちゃん、

 

 

「相当努力したんだなァ」

 

「!?……そうよ!!」

 

 

 本部が与える賞賛の言葉に対して、千景は肯定してみせた。

 勇者として認められることが、千景にとっての全てであった。

 

 

 この世界に来る前から抱いていた自身に起きた不条理に反逆の意思を胸にして、必死で勇者としての戦果を挙げる為に千景なりの手を尽くしたのだ。

 

 

 朝から晩まで鍛錬を重ねて、その合間にある休み時間を使って鎌を振い、手の皮が剝けて血を流すまで。

 千景は努力を惜しまなかった。

 

 

 一戦一戦が勇者としての評価へと繋がり、自身への存在を肯定する。

 しかし、それは負けてしまえば、死んでしまえばこれまでの努力は水泡と化し、無価値な自分へと戻ることを意味していた。

 

 

 故に千景には慢心は無くとも、心には余裕は無い。

 全ては勝利し、勝ち取ることだけという事だけが頭にあった。

 

 

 千景がたん、と跳ぶ。

 本部が構える。

 

 

 互いの刃が肉薄する。

 大鎌の一撃を本部が耐える形で剣戟が鳴り響く。

 

 

 

(へし折ってやるわ……その刀ッ)

 

 

 鎌を振う力が一層強く籠められる。

 千景の狙いは本部の日本刀へと定められた。大鎌の重量は斬ることを前提に考えられた日本刀を遥かに上回る。加えて日本刀は長く、薄い。

 何度も打ち据えられては日本刀が折れることは目に見えている。

 

 

 だから本部も、正面から刀で鎌を受けようとはしなかった。

 最初から刀で鎌を小さく弾いては軌道を逸らして、最小限の回避を行っていたのがその証拠だ。

 戦う武器が無くなってしまえば、圧倒的有利な状況になる。千景はそれを狙っていた。

 

 

 

 一撃、二撃、三撃と鉄が鉄を叩く音が響き、その度に本部の日本刀が軋む。

 

 そして五、六、七と斬撃を叩き込んでいくと遂に……、

 

 

「ッッッ!!?」

 

「折れたッ 勝機ッッ」

 

 

 バキン、と日本刀の刀身が真ん中から折れたのを機に千景が更に踏み込んだ。

 狙うは頭部。鈍器とも呼ばれいた大鎌の鉄の重量に任せた一撃を与え、本部を気絶させることで千景が勝利を手にする――――筈だった。

 

 

「ちィとマズったねェ……」

 

 え?と、意図せずして千景の身体が浮く。

 振り下ろした鎌をくぐるように踏み込んでいた本部が千景の伸びきった腕を掴んだのは一瞬の出来事。

 

 

「セィイイッッッ」

 

 

 そこから一本背負いの要領で千景が地面へと叩きつけられるのも一瞬の事だった。

 

 

「がッ……ぐ、あッ…!」

 

 

 背中から地面に叩きつけられた衝撃で息が詰まり、千景は苦悶の表情を浮かべる。

 土の地面でありながらそのダメージはかなりのモノだった。まるで自身の繰り出した攻撃をそのまま利用されたように倍の力で投げられたように全身に激痛が走る。

 

 

 いつの間にか折れた刀を地面へと捨てて、投げへの動作へと切り替えていた。

 ただの投げではない。何年、何十年と繰り返されたかのような無駄のない精錬された背負い投げだ。

 その素早さたるや勇者として二年程鍛錬を積んでいた千景では見切ることは難しい。

 

 

 千景は痛みを身体に得ながら、次第に湧き上がってくる感覚に恐怖を覚えた。

 自分は何か、得体の知れない、とんでもない相手と戦っているのではないかと、と。

 

 

 そして千景はその予想が間違っていなかったことを後に思い知らされることになる。

 

 

 

「……やるねェお嬢ちゃん」

 

「~~~~ッッッ」

 

 

 自然と目を見開いた視線の先、本部が見下ろしていた。

 

 

 

 

「あとほんの、ちょおぉっと……お嬢ちゃんの一振りが早かったんなら俺の方が打ん殴られてた」

 

「くッ…こ、のォッッ!!」

 

 

 意味ありげに人差し指と親指を使って表現してくる本部に、千景は地面に仰向いたまま投げられても決して離すことがなかった大鎌を振う。

 

 

 狙うは機動力を担う足。

 

 

 しかし、踏み込みも予備動作もなっていない大鎌を振うなど、いかに勇者として専用武器を自在に扱えるという補正があったとしても、武闘家の本部からすればその動きは余りにも緩慢。

 

 

 まるでステップを踏むかのように軽く飛んだだけで千景の鎌は空を切る。

 しかし、攻撃が当たらなかったことは問題にはならない。

 千景は地面から起き上がると即座に追撃に入ろうとする。

 

 

 しかし―――、またしても千景の動きは本部の奇怪な行動によって停止せざるを得なくなった。

 

 

「俺もそんなに余裕がないもんでね……そろそろ行かせてもらうとするかなァ」

 

 

 本気、でね。

 

 

 両の手には先ほど折られた刀の刀身と、半分となったもう片方の刀。

 腕をくん、と反るようにしてから前へと振うと同時に半分の刀身が手から離れ、風車の如く投げられる。

 

 

 まるで忍者が投げる手裏剣だ。

 

 

 ひゅん、と高速で回転する刃が千景の顔面目がけて飛来する。

 初めて目にする攻撃に戸惑いながらも、千景は大鎌でその刀身を弾いて見せた。

 

 

 

「――――ぐぅッ!!」

 

 

 攻撃を弾いて防いだはずの千景の表情が苦痛に歪む。

 否、攻撃は防げてはいなかった。痛みがする足元へ視線を向ければ、千景の白い肌に赤い線が走りそこからつー、と液体が流れている。

 

 

 本部が投げた刀身は一本だけではなかった。

 一投目、千景が顔面へ迫る刀身に注意が向いた後、すぐさま二投目を放ったのだ。それが千景の大腿部を切り裂いたのである。

 

 

「え……なんで、足から血が出て――――」

 

 

 しかし、2投目の刀身が投げられたことに気付けていない千景は自身の脚が負傷している理由が分からない。

 さほど深くないにしろ、自分の身体から血が流れている事実に驚愕し、動きを止めた。

 

 

 その視線誘導から生まれた一秒にも満たない時間は本部が開いた距離を消すには充分なモノだった。

 

 

「ほらよ」

 

 

 本部が迫り、いつの間にか手に握られていた鎖を千景の顔へと投げつける。

 蜘蛛の巣のように広がった鎖が千景の顔を覆うように巻き付くと視界を奪った。

 両の手で握っていた鎌の片手で鎖を取ろうとする動作を見逃さない本部は鎌をもつ片腕を掴むと、人間が手首を返すことのできる限界、その可動域まで捩じる。

 

 

 視界を塞がれた千景は突如として起こった激痛に抗うことも出来ずに思わず鎌を手放した。

 

 

「し、しまった―――――」

 

 

 からん、と音を立てて落ちた鎌を探る千景だったが鎖が急に動き出し、急激に後方へと引っ張られた。

 強引に、首に巻き付いた鎖を引く本部が千景を引き摺りながら移動する。

 

 

「あ゛…ぐぅ……ッッ」

 

 

 気道が狭まり、息苦しさから身を捩って抜け出そうとするが既に首を一周するように巻かれ、締め上げる鎖が千景の動きを阻害し、更に呼吸を辛くさせる。

 本部に背中を合わせて、やがて背負われながら千景は人の背の肉のような柔らかさから無機質な硬さを持つ何かに変わったのを感じた

 

 

 動きが止まった千景はやたらと眩しく感じる上へと目を向ける。

 光を放つ電球が見えた。

 

 

(で、電柱……なんで)

 

 

「ッッ!? ぐぅ、ああぁ……ッッ」

 

 

 自分が電柱を背にしていることに気付いた千景だが、首の鎖が強烈に締め上げてくるのを感じ、思考を止めた。

 

 

 

「柔術家は剣術だけじゃない、武器全般に長けるんだぜお嬢ちゃん……俺は使えるモノはなんだって使うからよォ」

 

 

 嘘ではない。

 彼は本部以蔵、本部流柔術の開祖である彼は闘いにおいて、あらゆる武器を使用する。

 

 

 剣だけではなく、それを納めている鞘で殴るし、折れた刀身を手裏剣のように投げたりもする。

 

 

 鎖だって、

 煙幕だって、

 石ころだって、

 電柱だって、

 

 

 あらゆるものを武器として扱う、環境利用闘法。

 

 

 その気になればこの場所に存在する遊具さえも利用する。

 ジャングルジムやその辺に生えている木も彼にとっては立派な武器だ。

 

 

 

 武器の出所は無限にして扱いは変幻自在、それが本部以蔵である。

 

 

「ぐッ、ぐる゛しぃ…っ!!」

 

「……安心しな、次第に楽になる」

 

 

 千景の首を締め上げる鎖は緩むことがない。

 まるで万力の如き力で気道を狭めるそれは千景の意識を徐々に奪っていく。酸欠による失神が近いことを表わしていた。

 

  

(どうする!?三好さんみたいにギリギリまで耐えて不意打ちッ!?でも本当に堕ちちゃったらッ!? 負けッ!?救援、誰かに助けをッッ

 スマホッッ 手が届かないッッ 鎖を引きちぎるッッ!? 敗北ッ 無価値な自分に戻るッ ダメッ 手が動かないッ  ―――――みんなに見捨てられるッッ)

 

 

 残された時間が少ない中で千景はあらゆる反撃の手段を脳内で模索する。

 敗北がもたらす自身への不安と恐怖の合間に挟まれながら、あれこれと方法を導き出そうとして、敗北した自分を見捨てていく仲間の姿が脳裏を過った。

 

 

(……いやっ、それはいやッ)

 

 

 千景の不安と恐怖が臨界に達し、爆発する。もう無価値な自分には戻らないと、勇者として戦果をあげるのだと誓ったのに。

 自身を肯定させることが生き甲斐だったのに、それだけではないと教えてくれた他の時代の勇者たちと一緒に戦うと誓ったのに。

 

 

 一度の敗北で誰かを蔑むような輩が勇者部にはいないことを千景は知っている。

 しかし、幼少のころに何度も植え付けられた恐怖心が意識の底で残り続けて、その光景が幻想だと錯覚させる。

 

 

 全身をこれまで以上に動かして、足で肘で本部の背を蹴りつけて脱出の機会を作り出そうと試みる。

 しかし、全ては無駄であった。

 

 

 人間の背にはもっとも筋肉が集中している。本部のような並ではない武闘家の鍛え抜かれた背筋に態勢の整っていない打撃は意味をなさなかった。

 

 

 こすん、こすんと地味な肉を叩く音だけが虚しく響くだけであった。

 

 

(ごめん、なさい……みんな…高嶋、さん……)

 

 

 ずるり、と千景の手が鎖から離れる。力なく腕が揺れては脱力したかのように全身が重くなったのを本部は感じた。意識を失ったのだろう。

 

 

「悪かったなお嬢ちゃん、大人気ねぇことしちまってよォ……勝負あり―――――」

 

 

 その宣言をしようとした本部は青ざめた。文字通りだ。

 本部の目の前に、千景がいたのだ。

 

 

「……」

 

「~~~~~ッッッ!!??」

 

 

 思わず自身の目を疑った本部は背に居る千景を見て、それが現実なのだと思い知らされることになる。

 

 

 それは一人ではなかった。

 大鎌を持った千景は六人いる。今自分の背にいる千景を含めれば七人だ。

 

 

 七人の千景がその場に存在し、六人の千景が本部を取り囲むように大鎌を構えていた。

 

 

「なッ、なんじゃこりゃァッッ!?」

 

 

 思わず叫び、本部は困惑する。自分は平常のはずだと。

 ドリアンのように幻覚を見せられているわけではない。かといって、この少女が六人に増えたと考えるのはどうなのか。

 あり得るとするなら――――、

 

 

「勇者……そうかィ、そいつが精霊の力ってやつかッ」

 

 

 仕入れいてた情報から、勇者は全員に戦いをサポートする精霊がいることは知っていた。

 恐らく、その精霊の力を使って自身を分身、もしくは増殖させたのだろう。

 

 

「まずい……」

 

 

 もし自分を囲んでいる千景が本物で、その大鎌の攻撃が通るものならば、

 勇者のように跳ぶ手段も持っていない本部にそれを避ける術はない。

 

 

 

「…負けない負けない負けない負けない、絶対、戻らない、負けない負けない負けない」

 

 

 背後で呪詛のように言葉を吐く千景に本部は寒気を覚える。

 

 

 同時に六人の千景が動き出すと同時――――。

 

 

 

 チャキ、と六つの刃先がぎらついて本部目掛けて振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッッッ」

 

 

 無念。

 と、本部が心の中で覚悟を決めた時。

 

 

 千景の武器、大葉刈が本部に届くことは無かった。

 刃が本部に刺さろうとした瞬間、鎌の刃は光となって霧散していったのだ。

 

 

 そして気づけば囲むようにいた六人の千景も、いつのまにか姿を消していたのである。

 その場には勇者としての装束から普通の制服姿へと戻っていた千景だけが残っていた。

 

 

「いったい、何が起きたってんだ……」

 

 

「――――」

 

 

 鎖を外して電柱を背に崩れ落ちた千景の意識は完全に断たれていた。気絶してるだけである。

 そして本部は知らない。知らないはずなのである。

 郡千景のもつ、精霊のその能力を。

 

 

 

 七人御先。

 郡千景の持つ精霊、その能力は本物の自分を七人へと増やす。

 そしてこの精霊の力を使用しているものは一人倒されてもすぐに増え、必ず七人に戻る。

 

 

 倒し方は七人の千景を同時に倒すことだ。そうしない限り、七人の千景は永遠にその場に存在し続ける。

 

 

 

 本来ならば同時に倒さなければ消えない七人御先が消失したのは何故か。

 

 

 使用者である千景の勇者の力は神樹のもつデータベースとリンクしている。

 しかし、本体である千景が気絶したことによって神樹とのリンクが切れてしまい、勇者システムは解除。同時に展開していた七人御先の力も自動的に消滅したのである。

 

 

 本部以蔵の生来の「運」が勝利をもたらしたと言っても過言ではないだろう。

 だがこの戦いは「運」によって左右されただけの戦いだった。

 

 

 もし千景が最後まで意識を保っていたならば、

 もし七人御先の大鎌が本部を切り裂いていたならば、

 

 

「負けて、ただろうなァ……」

 

 

 恐ろしい事である。

 これほどまでの力を持つ切り札を有していたことに本部は戦慄した。

 一人の少女が持つには危険すぎる。あまりにも。

 

 

 

「神様も人が悪いぜェ……ガキにこんな事やらせやがって――――って、人でもねぇか」

 

 

 幼き少女たちが命を懸けて戦わなければならないという非現実な状況に何も思わないほど、本部は馬鹿ではない。

 だが神が人を頼らざるを得ない彼女たち、勇者の存在する世界を本部はとやかく言う道理はない。

 

 

 あらゆる不条理が蔓延る彼女たちの世界には、選択肢などなく、戦うことを強いられる。

 

 

 そうしなければ世界が滅んでしまうから。

 そうしなければ大切なモノが守れないから。

 

 

 彼女たち勇者の存在を、本部は「勇ましい」と思った。しかし同時に「悲しい」とも思った。

 

 

 

 自分が彼女たちの親だとしたら、神々の為に、人類の為に戦う御役目を担った彼女たちを送り出せるだろうか。

 愛する者もいない、独り身の本部には考えを巡らすもその答えを出すことは出来なかった。

 

 

「フム……脈はある」

 

 

 少女、郡千景は単純に気絶しているだけである。

 腕の手首に手を当てて小さく鼓動を感じたのは彼女が死なず、生きている証拠だ。

 自身が与えた太ももの傷を清潔なガーゼと布で巻いて止血を施す。

 

 

 少しばかり血が滲んだが、止血は完全になされている。大事に至ることは無いだろう。

 ふぅ、と千景の容態が落ち着いたことに安堵の息を吐いた本部はその場から去ろうとして―――――、

 

 

 

 

 

「よォ……」

 

「~~~~~ッッッ!!!??」

 

 

 背後からの「聞きなれた」声に、条件反射で足を止めてしまった。

 その声は耳にしただけで、本部の全身の筋肉を硬直させるほどに強張らせる。

 

 

「弱い物イジメはイケねぇなァ……」

 

 

 優しく紡がれる言葉は、ねっとりとだが、はち切れんばかりの「圧力」を宿したものであった。

 まるで大蛇の舌が背後から本部の背中を舐め上げているかのような、そんな圧力を感じる。

 

 

 

 

 

(アレ!?ちょっとォ、これってもしかして――――デジャヴッッッ!!??)

 

 

 

 深夜、公園で、そして背後から。

 奇しくも本部は過去に同じシチュエーションで同じ人物と遭遇するという経験をしていた。

 意を決した本部はぐるん、と振り返るとともに男の「見慣れた顔」をその目に映した。

 

 

 見慣れた顔、それはまさしく鬼であり、地上最強の生物――――。

 

 

 

「なぁ、本部ェ……?」

 

 

「ゆ、勇次郎ォオォォオオオオオッッッ!!!!」

 

 

 

 悪魔のような笑みをギラつかせて現れた悪魔、範馬勇次郎へ本部は過去と同じ怒号を放っていた。

 薄暗く、闇が濃くなる公園の男を外灯の光が照らしだし、野獣の如き白い歯を光らせながら勇次郎は告げる。

 

 

 

 本部以蔵が想像もしえなかった言葉を。

 

 

 

「はァ――――俺の女(・・・)なんだぜ?」

 

 




公園だから仕方ない。千景に勝ち目は無かった。
ほんとは日本刀投げて足にぶっさすつもりだったけど可哀そうだったからやめた。


・ぐんちゃん
公園最強の生物には勝てなかったよ……ゆゆゆい世界の精霊はたぶんノーリスクで使えるヤバい奴だと思う。


・本部以蔵
俺達の本部だから公園では最強。勝ったと思ったら後ろからヤベー奴来た。どうしよう、とりあえず叫んでおこ。


・範馬勇次郎
登場したと同時にぐんちゃんは俺の女宣言。その真意はいかに。

オーガロリコン疑惑浮上か。

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