ゆゆ刃牙~漢達のきらめきッッ~   作:バロックス(駄犬

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「結城友奈は勇者である・・・花結いのきらめきッッ」(CV:小山力也)

 バキシリーズをあまり知らない方達へ、烈海王のボイスはこの人の声で再生すればおもしろ・・・くなる?




第五話~守護(まも)られて~

 カンフーシューズと義足がコンクリートの地面を蹴る音が交互に街道を駆けていく。 烈海王は少女を背負い全速力で疾走していた。

 

 傍から見れば上裸の中国人が少女を背負って走るという犯罪と見間違えられても止む無しな状況、だが烈にとってはそんな事をどうでも良いと考えさせられるほどに走る理由がある。

 

 それは命の恩人でもあるこの少女を、守護ること。

 

(義足の影響・・・なしッッ)

 

 激しいリハビリを乗り越え、尚且つ鍛錬を続けた足腰は衰えることなく、むしろ更に強健なモノとなっていた。

 発達し、走ることに抵抗することも無く馴染んだその筋肉は義足によるハンデを感じさせない程に烈の移動速度を支えている。

 

 特注の義足だ。 鍛錬をしても壊れないような強固で、軽い素材を使用している。

徳川財閥の技術者に感謝をしよう、とその出来栄えに改めて感動した烈だった。

 

 

「・・・・ムッ」

 

 少女が示した方角に向かうには、横断歩道を渡らなければならなかった。 しかし、都合悪く信号は赤。 おまけに、朝一出勤してくる車の多さから、無理に道路を渡ろうとしても危険なだけである。

 

 少し視線を上げれば歩道橋が見える。 烈はそれを利用することにした。

 

 常備している縄錨(じょうびょう)を伸ばすと、歩道橋の欄干目がけて投擲。 縄錨は中国の暗器だ。 ロープの先端には重しが付いていて、それを相手にぶつける打撃武器。 

 真っ直ぐに投擲された縄錨は欄干に巻きつき、綺麗に引っ掛ると烈は腕力と脚力を同時に利用し、跳ぶ。

 

(最速で・・・、最短距離をッッ)

 

 欄干をもとび越え、歩道橋を走りながらまたしても、跳ぶ。 飛び降りる際には外灯の一部に縄錨を投げつけ、勢いを殺して着地して見せた。

 着地の瞬間、周囲からすれば空から急に男が振ってきたという事実にどよめき立つ。

 

「うわぁぁぁあ!!!、 いきなり出てくるなァ! どけどけどけ~~~ッッッ!!!」

 

 着地したその瞬間、烈の約五メートルの距離までに小柄な少女が乗ったマウンテンバイクが迫る。

 かなりの速度を出していたからか、急な烈の登場にブレーキを掛けるも間に合わず、完全に衝突するタイミングである。

 

 判断は一瞬、行動は刹那。 迫りくる危機に烈が繰り出したのは、

 

「―――(フン)ッ」

 

 マウンテンバイクのハンドルバーに向けて掌打。 烈がバイクに触れた瞬間、マウンテンバイクの動きはピタリと止まる。

 

「え?」

 

 バイクの持ち主である少女の後方から破壊音。 振り返れば、自身のマウンテンバイクの後方のタイヤ、部品が粉々に砕け散っている。

 

「う、後ろだけ・・・?」

 

 浸透勁。 力を効率よく相手に与える事に特化した発勁の一種。 烈の掌打の威力をマウンテンバイクの後方部分にのみ伝達させた結果だ。

 

「すまぬッ 讃州中学はあの方角で間違いないかッッ」

 

「え、ああ・・・タマもそこに行く途中だ・・・」

 

 事故を起こしたはずなのに、相手も自分も無事と言う奇怪な状況に判断の追いつかないタマと自称する少女がそう答えたのを聞いた烈は、

 

「有難ウッ 私の名は烈―――、空手道・神心会まで連絡をくれッッ」

 

 丁寧なお辞儀をした後、烈は駆けだした。 残された少女は首を傾げ、

 

「か、空手? か、カンフー? ・・・っていうかなんでアイツの背中に棗が―――、って、あぁぁぁあああああ!?」

 

 タマという少女は気付く。 自身の愛車が粉々になってしまったという事実に。

 

「タマがこっちの世界で買ったアグレッサーコンプがぁぁぁぁあッッ!!!」

 

吹き飛んだ後輪と部品を手に取っては目に涙を溜め、絶望の叫びが讃州市に木霊した。

 

 

 

 

 

 

「見えたッッ」

 

 激走を続けること10分。 烈の両目は讃州中学を捉えていた。 遠く見積もっても、その距離は凡そ3キロくらいか。

 いずれにせよ、このスピードを維持できれば、すぐたどり着ける距離である。

 

「――-ッッ!? あれはッッッ」

 

 だがその烈の前に立ちはだかるものがある。 川だ。

 

 一心不乱に走り続けた烈。 目測を誤ったか、渡るべき橋より最も遠い川辺へと出てしまっていた。 己の目測の甘さを烈は悔やむ。

 

(ここを越えれば目的地・・・)

 

 走りながら、烈は状況を整理する。 河を越えれば目的地。 だが、渡るための橋までは1キロ以上、遠回りする時間は無い。

 

 

(やむを得まい。距離――20メートル・・・歩数にして、800~900歩踏みッッ。 ――問題は無いッ)

 

 問題はない、だがそれは以前の烈ならばの話だ。 この世界に来る前の右足を失う以前の烈ならば、少女一人抱えても、河を渡る事が出来ただろう。

 

 だが、今の烈の義足では川の水を高速で踏むことは出来ない。 二人ならば、確実に沈む。

 

(やれるかッッ この義足でッッ ―――-否ッッ)

 

―――やれる。 

 

 不思議と自身に帰ってくる答えがあった。 同時に列は奮起する。

 こんな所で沈むようならば、伊達に中国4000年など背負ってはいない。

 

(最善を尽くせッッ 烈海王ッッ)

 

 このまま無策で河を渡ろうものなら、確実に沈む。 それを考えた烈がズボンから取り出したのは、何本もの筒にロープを通したものだ。

 それを引き延ばすと、筒は一本の棒となる。 烈が常備している折りたたみ式の棍だ。

 

 

「―――(トウ)ッ!!」

 

 一瞬の気合の元、棍を川へ槍投げの選手が如く、投擲。

 投擲された棍は勢いよく河の底へ投げ込まれると、棍の先端部分だけが水面から現れているのが分かる。 即席の足場の完成だ。

 水面から見られる足場、僅か数センチ。 少しでも目測を誤れば、落下は免れない。

 

 だが烈は全く動揺せず、

 

「よしッッ」

 

 数センチしかその姿を見せていない直径5センチも無い足場目がけて跳躍する。 

 義足ではない方の脚で確実に足裏を棍の足場に乗せると、身体の重心と棍が一直線になったのを感じ、そのバランスを維持したまま烈は再度跳躍。

 

 向こう岸まで体操選手の如く見事に着地して見せ、辺りにいた釣り人達に一礼。

 

「お騒がせしたッッ」

 

 言うが早いが三度猛ダッシュする烈に、釣り人達は呆然としていた。

 

 その一方で、

 

「あれは・・・・棗?」

 

「どうしたんですか? 若葉ちゃん」

 

「ひなた・・・棗が河を、渡っていた」

 

「もう若葉ちゃんったら、棗さんが自由自在に動けるのは海だけですよ?」

 

 橋から一連の流れを見ていた少女達も居た。

 

 

 

 

 河を渡り切った烈が、再度疾走を繰り返すこと10分。 烈は讃州中学に辿り着いていた。

 

「―――誰かッッ  誰かおらんかァッッ!!」

 

 

 

 

 

 

「・・・ん、んぅ」

 

 意識を取り戻した棗が見たのは、白い天井だった。 ゆっくりと起き上がると、独特な漂う香りからそこが讃州中学の保健室だという事が分かる。

 いつの間にかジャージに着替えさせられていて、額には冷えピタをされているところを見ると、自分は看病されているらしい。

 

「あら、起きたのね棗」

 

「風・・・」

 

 ベッドから起き上がった棗が見たのは犬吠崎風だ。 その両手にはトレイに乗せられた料理がある。

 

「もうお昼だし、熱も下がったみたいだから昼食持ってきたの。 朝ごはんも食べてないでしょ?」

 

「お、おお・・・・」

 

 トレイに乗せられていたのはなんと鍋だった。 小さい土鍋だったが、その中には葱、キャベツ、ニンジンと様々な野菜が入っている。

 

「歌野の野菜で作ったわ。 栄養満点よ」

 

「これを・・・風が?」

 

「モチのロンよ。 給食はカレーだったから、風邪ひいた人に食べさせるにはキツイと思って先生に相談したの。 そしたら家庭科室使わせてもらったから、作っちゃった」

 

 満天の笑顔で頷く彼女に、棗は鍋の野菜を口へと運んでいく。 茹でられても尚、残る甘味は流石は歌野の野菜と言った所だろう。

 そして風のオカン力、もとい女子力が合わさればさらに美味さ倍増。棗にとって、至福の一時だ。

 

「やはり・・・私が風を娶りたいという考えは間違っていなかったワケだ」

 

「ま、またそんなこと言って・・・・そんな事より、ちゃんとここまで運んでくれた人に、お礼を言いなさいよね」

 

 若干満更でもなさそうな風の言葉に、棗は首を傾げる。 誰かにあの後、運ばれてきたということは理解できたが、風でなければ一体誰が運んだのか分からなかった。

 

「その人は今どこに」

 

「今は部室よ。 独歩ちゃんの話だと、あの人の世界の仲間なんだって」

 

 

 

 

―――勇者部部室。

 

 部室内、上里ひなたと烈海王が向かい合っていた。

 

「実はかくかくしかじか・・・・」

 

「なるほど・・・造反神、勇者。 分かった・・・協力しよう」

 

「今の説明で分かったのかよッ!?」

 

 二人のやりとりに疑問を持った土井球子が猛然と突っ込んで見せる。いつもその言葉で済ませるのはいかがなものかと球子ですら気になっていた所だ。

 

「問題ない。 愚地氏が手を貸しているのであれば、私も喜んで勇者部の力になろう」

 

「これは頼もしい限りですね。 勇者部の皆も喜びますよ」

 

 ひなたは両手を合わせて笑みを浮かべながら烈を迎え入れてくれた。 だが、その声に待ったをかける声がある。 烈よりも遥かに背の低い少女、球子だ。

 

「協力するのはいい・・・だが、タマのマウンテンバイクはどうしてくれるッッ」

 

「だからそれは・・・神心会へ連絡をッッ」

 

「神心会なんてこの世界にはナァい! タマのマウンテンバイクも既にナァい!」

 

「む、むぅ・・・」

 

 弁償しろよ、と暗に突きつける球子に烈が唸る。 烈もこの世界に来る際は突然だったので、お金と言うものは持ってはいない。

 しかも烈が破壊したマウンテンバイクはかなり高価なものだったらしく、値段は30万を超えるんだとか超えないだとか。

 

「へっへっへ・・・タマちゃんよぉ、ちいせぇコトばっか言ってると大きくなれねぇゼェ?」

 

 不意に球子の身体が浮き上がる。 それは愚地独歩が球子のジャージの襟を片手で掴んで持ち上げたからだった。

 

「チャリ一つでグダグダ言ってんじゃねぇぜ。 新しいの買えばいいじゃねェか、ママチャリでも移動するには充分だろう」

 

「うるせー眼帯ハゲドッポ! タマにとってアウトドア用品は杏と命の次に大事なんだッ 壊されて黙ってられルカァ!」

 

 宙に浮いた状態で手足をブンブンと振り回すが、全てが烈にも独歩にも届かず空を切る。 戦いにおいて、身長というハンデはここまで影響するのだ。 独歩も”ハゲ”と呼ばれて思う所があったのか、髪の無い頭部に筋を浮かばせては渋い顔になり、

 

 

「黙らせるか・・・、ひなたちゃんよぉ、俺ァコイツと鍛錬してくるわ。 タマァッ」

 

「へ?」

 

「組手、やろうゼェ?」

 

 口角が吊り上る程の笑みを浮かべた独歩に対して瞬間、球子の顔が青ざめる。

 

「え、い、イヤだぞ! お前の言う組手って、ただタマの旋刃盤をブン殴るだけだろ!?」

 

「防御力上げたいから特訓付き合えって言ったのはお前さんだぜェ?」

 

 盾を扱う球子と独歩の特訓風景は、独歩が繰り出す正拳突きに対して球子が旋刃盤でガードするというものだったのだが、

独歩の正拳突きは威力が桁違いで、特訓時には威力に耐えられなかった球子が数十メートルぶっ飛ばされる光景が最早名物となっている。

 

「うわー! もう空を飛ぶのはイヤだァァァァ!!」

 

「悔しかったら一発でも耐えられるようになってみやがれってんだ」

 

 些か騒々しい二人のやり取りはどこか大人げない父と娘を思わせるもので、ひなたと烈も自然に笑みがこぼれる。 ちなみに、独歩の正拳突きをガードした後だと一日中腕の痺れが取れなくなるらしい。 その都度、お昼休みは伊予島杏によってお弁当を食べさせてもらうという光景が(以下略)

 

 じたばたと暴れる球子を撮んだまま部室の扉を開ける。独歩がふと、部室を出ずに立ち止まった。

 

「この世界は病みも怪我もすれど、歳はとらねェらしいぜ烈」

 

「・・・どういう意味だ」

 

 烈の問いに対して、独歩は片方の空いた手で耳をほじくる。

 

「さぁね・・・ただ色々思う事があるってンなら、この時間(とき)を利用してみるのもアリじゃねェかって」

 

「――ッッッ」

 

 独歩は察していたのだろう。 ピクルとの闘いの後、自身が武術家を続けるのか続けないのか思い悩んでいたことを。

 独歩曰く、戦いが終わらない限り、この世界での時間は無限。 

 

「ま、お前さんの人生だからな。 指導者、武術家どっちに転ぼうが知ったこっちゃねぇが―――、それと」

 

 独歩はニヒルな笑みを浮かべて顔だけ振り返った。

 

「勇者部のメンツはかわいい子揃いだ。 それを見て癒されるのもアリっちゃアリだぜ?」

 

「なに!? ってことはタマを見てるだけでも癒されるんだな! そうなんだな独歩!!」

 

「ああ、ちゃんと癒し感があるぞタマ。 見事な動物枠だ」

 

「おおそうか! 初めて独歩に褒められた気がする! 5タマポイント進呈するぞ!」

 

(多分、それは褒められていないぞ) 

 

 と、烈は宙吊りになりながらも瞳を輝かせている球子に対し、言葉にせずだが突っ込んでいた。

 

 独歩は片手でこちらに手を振り、

 

「ま、リラァ~ックス♡ リラァ~ックス♡」

 

 今度こそ、勇者部部室を後にしたのだった。 真面目な時とふざけている時のギャップを見ていると、時々この男が分からなくなる。 そう思った烈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 愛媛のどこかの地。 一人の少女が佇んでいる。

 

「んー、こんなところかなぁ」

 

 造反神の勇者、赤嶺友奈は人差し指をその艶のある唇に当てては何かを納得したような笑みを浮かべていた。 

 赤嶺友奈の眼前にはこの世界で彼女が使役することが出来る擬似バーテックスが大群で蠢いている。 小さい個体から大型の個体まで生み出し、バランスよくこの群れを編成するのは赤嶺自身も骨が折れた。

 

 だが、全ては次の作戦のため。

 

「そろそろ、私達が本気だってこと・・・教えてあげないとね」

 

 自身の軍単位を陽動に用いる事で空になった拠点を襲撃し、制圧する勇者部襲撃作戦。 勇者個人の能力と連携を組み合されれば、数を用いているだけのこちらに勝ちの目はない。

 なにせ、大抵のことは根性で何とかしてくる連中が勇者部だ。 火事場の馬鹿力というか、背水の陣なのか、危機的な状況程に勇者はその力を増す。

 

 

「ふふ、でもねェ・・・」

 

 勇者部の中にも弱点はある。 それは戦う”勇者”ではなく、神樹の神託を聞き、勇者へと伝えている”巫女”だ。

 巫女は勇者のように戦う力を持っていない非戦闘員。 赤嶺が勇者の力を行使しなくても、擬似バーテックスに襲わせるだけで充分に脅威になる。 

 

(大事な巫女が人質に取られた皆の顔が楽しみだよ~)

 

 赤嶺友奈は知っている。 人間は人質を取られるだけで、簡単に動けなくなるということを。 犯罪者一人が政府の要人一人を人質にするだけで国が、数百人の警官たちが数時間も身動きできなくなるということを。

 神世紀の序盤の闇に蠢いていた赤嶺家にとって、その汚い部分を知らない綺麗なだけで纏まっている彼女達の甘さを狙うのは何も心は痛まない。

 

 

 彼女たちは思っているだろう。 友奈と名を持つ者ならば、正々堂々なのだと。 非道な事はしないと。

 同じ友奈と付く者と同じような笑顔を浮かべる。 その笑みには確かに非道と残忍さを併せ持った邪悪さを孕んでいた。

 

「これも全て”御役目のため”・・・だから、ね」

 

 だが数日後、勇者部の全てを蹂躙出来ると勝ち誇っていた笑みが崩れ去る事を、この時の赤嶺友奈は知る由も無かった。 

 

 

 

 

 




 多分今回のお話で一番の被害者はタマッち先輩。
マウンテンバイクを壊され、独歩に組手と言う名の一方的なド突きを食らわされる。

 この作品だと赤嶺さん、本気で勇者部潰す気満々な描かれ方してて自分でも草。
わたしは多分、次の話でよくわからない欲望が爆発、するかもしれない。私が描く赤嶺ちゃんはドSとレズっ気が高めなので。

 そこに加わるムキムキのオッサンたちってどうなのよ。

 


 感想はコツカケで金的を完全に防御してからお願いします。
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