お前がいない二度目の冬   作:喜来ミント

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秘密

 

『勘違いしてほしくないから最初に言っておくけれど、この本は誰かに見られてマズいことはあまり書いていない。第一、僕の部屋に残された覚え書きをたどっていけば、この本と同じ内容にまとまるはずだ。おそらく、僕の部屋は僕がいなくなっても1000年くらいは放っておかれると思うから、そちらを読んでも構わないよ』

「嘘つけ。あんなのわざわざ読むやつがいるかよ」

 

 語り掛けるような口調でつづられたその本に、俺は思わず悪態をついた。

 読書狂、知識欲の権化、そして取り入れた分だけ書き散らす悪癖。彼の部屋は、ベッド以外は紙で埋め尽くされたまま、彼の予想通り放置され続けているのだ。

 とはいえ。

 正直なことを言えば、気になる。俺を――それも、ゴーストだけではなく、俺に読まれることも想定してラピスが書き残した本。

 かつての相棒として、読みたくないと言えば嘘になる。

 幸か不幸か、時間は山ほどあった。

 

『次に言っておくけれど、この本の内容は、さして面白い話じゃない。僕の頭の中では常に様々な考え事が錯綜しているから、その覚え書きも多岐にわたるけれど、その中でも一応の結論が付いたものを、なんとなく本にまとめてみようと思っただけだよ』

「知ってる。ペリドットに紙の使い過ぎで怒られてたからな」

『ペリドットに紙の使い過ぎで怒られては困るので、さっそく本題に入ろう』

 

 同じことを考えていた。そのことがわずかなおかしさを生む。

 だが、次に続く文章は、あまり笑えないものだった。

 

『僕ら宝石が、体ではなく心に傷を負ったとき、どのような反応をするのか』

「なに……?」

 

 ルチルとの会話が脳裏をかすめる。

 

『僕ら宝石の生態は知られているようで謎な部分が多い。今までの経験から蓄積した対処法と言う意味ではかなりのものがあるけれど、過去のデータから未知な部分を予測し、解明するという方向においては白紙も同然だ。かつて博物学と言う仕事を務めていた宝石がいたそうだけれど、もしその宝石がいたら、彼の仕事になっていたかもしれないね。これから先、再びその仕事に任じられる宝石がいたら嬉しいね。図書館の本が増えるかもしれない』

「博物学、ねえ……」

 

 一冊も増えなかったな、と愚痴をこぼした。

 

『手短に、と言いつつ話がそれてしまった。僕の悪い癖だ。まだ読んでくれているかい? ではさっそく。僕がこの分野について興味を持ったのは、ほかでもない。今から100年ほど前、クリソベリルが攫われた際、アレキサンドライトが自壊したことに端を発する』

「アレキ……?」

『他の皆はそういうものだと受け入れているけれど、僕は気になった。僕ら宝石は強いショックを受けたとき、どうやら自壊するようになっているらしい。だがどうやって? 僕らが砕けるには、大きな衝撃――もちろん物理的なそれが必要だ。自分より上の硬度の宝石と接触しても、軽く触れるだけなら一気に砕けはしない。それなのに、心理的なショックという物理的なエネルギーを伴わない作用によって自壊に至るのはなぜか?』

 

 頭痛を覚えた。一度本を閉じ、頭を抱えながら悪態をつかざるを得なかった。

 

「どこが、見られてもマズいことは書いてないだ……! アレキに知られたら、月人見なくてもキレるぞ……!」

 

 今更のように周囲を見渡すが、誰もいない。先生も昼寝中だし、吹雪も止まない。誰も邪魔するものはいなかった。

 本を再び開く。

 

『この自壊と言う反応について、イエローやルチルを中心に聞いてみたところ、やはり過去に大きなショックを受けた宝石たちも同様のようだった。つまりこれはアレキちゃんの特異体質とは関係がないと言うことだ。さて、ここで疑問がもう一つ。なぜ、自壊する必要があるのか? 本来不快なはずの、砕けた状態へと自ら移行するのはなぜか?』

 

 不謹慎極まりない内容は続く。

 

『僕たち宝石は、その成り立ちや生態が他の生き物とはだいぶ違う。蝶やカタツムリ、クラゲとはかけ離れている。それでも生き物である以上、必要があってそういう形になっている、ということは確かだ。蝶の口が花の蜜を吸う管であるように、カタツムリの殻が身を休める家であるように、僕らが自壊するのは、そうする必要があるからだと結論付けた』

 

 とんでもない結論だ。だが、そう言われれば納得するしかない。

 何の理由もなく、自ら粉々になる必要なんてない。

 

『だとすれば、自壊とは何のためにあるのか? これは単純だ。ショックを受けたときにそうなるのなら、そのショックに対する反応としてあるのだろう。もっと言えば、砕けてしまうことで、ショックを受け止めているんだ』

「……そんなこと、考えてたのかよ」

『不謹慎極まりない話が続いて、読んでいる君も気が重くなってきたころだろう。一度休んでもいいんだよ? そうでないなら、次のページへどうぞ』

 

 この辺りに差し掛かると、もう完全に読まれる想定で書き進めると決めたのだろう。誘うように矢印が書いてある。俺は挑発に乗り、ページをめくった。

 

「誰が休むか」

『それじゃあ話を続けよう。自壊とは、精神的なショックを受け止めるための機能だと結論付けた。機能――いや、機構と言った方がいいかな? この「防衛機構」とでもいうべきそれは、実のところ自壊だけじゃないようだった。僕はそれに気づき、過去に心理的なショックに直面した宝石たちの経歴をたどり、彼らがどういう反応をしたか、これからまとめようと思う。そして――』

「……嘘だろ」

『これから先、大きなショックに直面する可能性が高い宝石について、予測を述べたい。君に頼みたいのは、その答え合わせだ』

 

  *

 

『まずはアレキサンドライト。自壊から回復した彼は、誰も手を付けたことがない、月人の研究と言う仕事を作り出した。特異体質についても、そういうものだと受け入れることから、どうにか解明しようという試みへとシフトした。ふさぎ込むよりは良いことだろう。ただ、月人関係の資料を図書館から借りっぱなしなのはいただけないけれどね』

 

 そう言われて振り返ると、ごっそりとその一角が抜け落ちていた。一応今度の春に言っておくが、百年もすれば元通りになるのは目に見えていた。

 本に目を戻す。

 

『僕はこれを「反動の形成」と分類した。相棒のクリソベリルを奪い、自身を悩ませる体質の原因でもある月人について、彼は本来憎しみを抱くはずだ。しかし彼はその憎しみをありのまま受け入れることなく、研究の動機として用いている。それが勢い余ってか、月人を好いているように見えることすらある』

「まあ、な」

『次にイエローダイヤモンド。彼は今までに四人のパートナーを失っている。しかし、表立って衝動的な行動に出る様子はない。悲しまないようにあえて鈍感で楽観的な自分を演じているように見える。そうやって自分の感情が傷つくのを防ぎ、やり過ごしている。これを僕は「隔離」と分類した』

「……おいおい」

『続いて、ルチル。彼はパパラチアを治療するため、毎日のように彼のパズルに挑戦しているが、その成果は段々と得られなくなっている。次に目覚めるのはいつになるかな? 彼には相当なストレスがかかっているはずだけれど、一見何ともない。これは、目標に達しない自分を責める気持ちを封じ込めているからだ。僕はこれを「抑圧」と分類した』

 

 ルチルがパパラチアのパズルを失敗した後に見せる、歯がゆそうな表情。それが行き過ぎれば、自壊にすら達する行動だというのか。

 

『以前は物を壊したりしていたけれど、その場合はいわゆる八つ当たり、そうだな、「代償行為」とでも言おうか。まあ分かりやすいストレス発散法だね。最近それをしなくなったのは、彼自身が年長者になり、医術のエキスパートとしてみんなから頼られる側になったからだろう。人に認められるというのは充足感を生む』

 

 そして、その次の名前は予想していた通りの物だった。

 

「……やっぱりか」

『次にフォスフォフィライト。新入りの彼は、ルチルのように皆に認められるという逃げ道すらない。戦闘能力、手先の器用さ、頭脳の聡明さ、そのすべてにおいて役に立たないとしか言いようがない彼は、もはやルチルのような「抑圧」では間に合わない。かといって「代償行為」に至れるほど尖った性格でもない。根底にあるのはただ、先生やみんなの役に立ちたいという純粋な思いだ』

「……そうだったな」

『だが、その純粋さは、逃げ道を作るのが下手という意味でもある。防衛機構の種類と言うのは、つまるところストレスを感じた宝石がどういう逃げ道を作るかと言うバリエーションに他ならない。そこでフォスに与えられた逃げ道とは――諦めること。「合理化」だ。弱いから仕方ない。不器用だから仕方ない。馬鹿だから仕方ない。合理という名前に反して、これは良くないパターンだ。つまるところ、自分の欠点を自覚し続けると言うことだからね』

 

 そして、もう一人予想通りの名前が出て来た。

 

『それからもう一人はシンシャ。彼はその体質のせいで他の宝石と距離を取らざるを得ない。それでいて、僕のように何年も一人きりで過ごせるタイプではない。根底では生真面目で、夜の見回りと言う無益な仕事を続けているのは、そういう面を感じさせる。彼についてはまあ、観察不足の面が大きいけれど。大きく間違ってはいないだろう。彼は「合理化」かつ「代償行為」だ。体質が直せないから仕方ない。悩みを共有できる人がいないから仕方ない。せめて夜の見回りをして役に立っているつもりでいる。さて――』

 

 次のページには、驚くべきことが書いてあった。

 

『この中で最も僕の興味を引いているのはフォスフォフィライトとシンシャだ。もしこの二人が関わることになったらどうなるだろうか? 僕の予想では、彼ら二人だけではなく、僕ら全員を巻き込みかねない事態になると思っている』

「なに……?」

 

 そう――ここ最近の一連の出来事。フォスが自分と組み、そして眠ることになった理由。その一連の出来事の最初は――フォスが博物学の仕事を与えられ、シンシャと関わるようになってからだ。

 それを、読んでいたのか?

 

『突飛な予想だと思うかもしれない。でもこれはそう難しい仮定ではないんだ。もしも、同じような悩みを、自身の現状に強いコンプレックスを持った二人が出会えば、とうとう僕ら宝石の中から「変わりたい」と願うものが現れるかもしれない』

「変わる……」

 

 変化。進化。それはまさに。

 

『もちろん、フォスとシンシャ以外の面々も変わりたいと思っているだろう。でも僕ら宝石は、その根本的な性質として、不変であることが強固に運命づけられているらしい。僕らが石だからなのか――それは分からない。アレキでさえ、結局は月人の研究をルーチンとして自分の生活に取り入れ、変わらないものとしてしまった。つまりそれでは足りない。自壊では、結局はショックを受け入れ、停止する反応に過ぎない』

「何が言いたい」

 

 ページをめくる。

 

『ストレスは行動を誘発する。しかしほとんどの宝石は耐え切れないストレスを受けたとき自壊してしまう。では――百年単位で強いストレスにさいなまれ、なおも壊れないフォスやシンシャにこそ、その転換点があるのではないだろうか? そしてその時、変化を求めるに至った彼らの関心が向かう先は、きっと停滞した僕らの周りではない』

「つまり……」

『月人だ』

 

  *

 

 ラピスの推論をまとめれば簡単なことだった。

 ストレスに押しつぶされ、変化を求めた心は狭い世界を抜け出そうとする。

 ならばそれが向かうのは、ありふれた日常ではない。何もない空や海でもない。身近に出くわす脅威にして未知だ。

 

『今のところ、考えられることはこれくらいだ。月人や戦争については僕も少し思うところがあるけれど、まだ本としてまとめるほどではない。頭の片隅(インクルージョン)にでも残しておこう。明日も見回りがある。君に怒られる前に眠っておかないとね。この本を見つけてくれたのはゴースト、君かい? それとも別の名前で呼ばれるようになった君かい? どちらでも構わないけれど――』

 

 ぱらぱらと本のページの上に欠片が落ちる。

 

『もしもフォスフォフィライトが自壊するようなことがあったら、それは他の宝石なら一発で粉みじんになるようなストレスだと言うことだ。それを最後のページに書き足して、この本をもとの場所に戻してくれることを願う。

 

君の親友 ラピス・ラズリ』

「なんだよ……」

 

 顔を抑えると、ヒビが入っていることが分かった。ギリギリ砕けるには至らない。

 だが。

 

「それじゃ、あいつは……」

 

 いつも平気そうな顔で笑っていた。時々諦めたような笑みで誤魔化していた。その奥でこんな――。

 

「これっぽっちで砕けそうになってる俺や他の宝石に比べて、あいつは――!」

 

 どれだけの、刺々しい気持ちを封じ込めて来た?

 本を乱暴に机の上に投げ出す。カツカツとヒールを鳴らし、早歩きで廊下を突き進む。細かい破片が顔からこぼれて小さな音を立てる。でも今は。

 

「フォス!!」

 

 怒鳴り込みながら部屋に顔を突っ込むだけで、頭からぴしりと嫌な音が立った。

 

「フォス! なんでお前は、そんなこと一つも言わないんだよ!」

 

 月人や戦争のことを調べようと書庫に入り浸っていたときも。複雑そうな面持ちで夜中にこっそりと学校を抜け出すときも。ゴーストを失って俺に責められた時も。とうとう耐えかねて自分を砕いた時も。新型を相手にペリドットやスフェンたちと戦った時も。冬の担当をすると決めて寒くなるのを待ったつい先日も。

 ひとつも。

 ひとつも。

 ひとつも!

 

「どうして! 俺やゴーストに言ってくれないんだよ! 相棒だろうが! なのに、どうして、そんなに頼りにならないのかよ……!」

 

 答える声はない。だらしなく合金は垂れ、布の下の体は動かない。

 力なく項垂れ、膝をつき、倒れる。

 もぞもぞと動き、フォスと並ぶように床に転がった。

 このまま砕けてしまおうか。心が辛い。耐え切れない。フォスの心を察しただけで、それをラピスに仄めかされただけで、こんなにも。

 

「いっそ、砕けてしまえば――」

 

 ――ダメ。

 どこからか声が聞こえる。

 ――フォスを守って。そばにいて。

 その声は、心の辛い傷を手で覆い隠していく。

 寒い。光が足りない。眠たい――。

 

  *

 

「カンゴーム」

 

 名前を呼ばれ、はっとして飛び起きようとしたが、目の前に先生の顔が見えたので自制した。もし勢いのまま頭突きをすればこっちが木っ端微塵だ。

 先生が身を引いたのを確認してから体を起こす。医務室だ。

 

「先生。俺……」

「何かあったのか?」

「え?」

「フォスの部屋で倒れていた。それに、怪我もしていたようだったので治療したが――」

 

「俺が、怪我を?」

 

 よく覚えていない。確か――書庫で、本を、読んだ? そのあとフォスの部屋に?

 

「すいません。記憶があいまいで」

「そうか。……具合はどうだ?」

「平気そうですけど」

 

 試しに手を組んでぐっと伸びをしてみる。左腕も相変わらずの馴染みの悪さだ。昨日より良くも悪くもなっていない。

 

「何があったんですか?」

「それはこっちが聞きたい」

「あー……フォスの部屋で? 苛立って壁を蹴ったとかですかね?」

「………………かもしれない」

「はあ」

「とにかく、今日は部屋でゆっくり休みなさい。先ほど様子を見てきたが、流氷は明日でも間に合いそうだった」

「そうですか」

 

 一瞬、間が空く。

 

「カンゴーム。現状に不満はないか」

「不満? そりゃあいつがいつになったら目を覚ますのか――」

「そうか。……ならば、きちんとフォスの代わりに仕事をしてその日を待ちなさい」

 

 先生が頭を撫でてくる。

 

「そのために、今日はしっかりと休み、明日からに備えるといい」

「そうします」

 

 俺は先生に頭を下げると、自分の部屋に向かって歩き出した。

 一抹の引っ掛かりを残しながら。

 

  *

 

 金剛はカンゴームが立ち去った後、懐から表紙に何も書かれていない本を取り出した。

 倒れているカンゴームから落ちた破片をたどった先、書庫にあったものだ。

 おそらくカンゴームはこれを読み、フォスの内面を察したのだろう。そのせいでショックを受けた。

 だというのに、今朝の様子――。

 

「必要以上の干渉はすべきではない、か」

 

 気にはなるが、いつもの通りにしよう。

 ただ、この本は宝石たちに余計な波乱を起こしかねない。

 今はしまっておくことに決めた。

 

  *

 

 お前のいない二度目の冬が終わった。

 すでに議長たちは起きている。遅起きの連中まで全員が準備を終えて、朝礼が始まるまでの間にフォスの部屋へと向かい、いつもの挨拶をした。

 

「よう。春が来たぞ。……まだ、眼が覚めないか」

 

 一度目の春もそうだった。一冬越せば、と思ったが、ダメだったことを覚えている。

 そして今は、一年過ぎれば、だ。

 

「まだそういう気分になれないならそれでもいい。俺はちゃんとやっている。案外お前がいなくても平気かもな。あー、だから……」

 

 言葉が見つからない。杖代わりにしている鋸の鞘でコツコツと床を叩き、どうにか言うことを見つけようとする。

 

「……いつでもいいぞ。焦らなくてもいい。お前が起きたいと思ったときで、いい」

 

 言いたいことは言えた気がする。その時ちょうど、スフェンが顔を出した。

 

「おーい、カンゴーム。もうボルツも着替え始めたから、そろそろ戻って来なよ」

「あ、はい。……それじゃ、またな」

 

 軽く、スフェンに見えないように小さく手を振って部屋を出る。

 歩調に合わせ、担いだ鋸で肩を軽く叩きながら朝礼に向かう。

 

「今年はボルツ早起きっすね」

「そうだね。ああ、噂をすれば」

 

 ちょうど廊下の先。夏服に着替えたボルツが部屋から出てきてこっちを見た。その眼光の鋭さに、思わず身を守るように鋸を持ち変えてしまった。

 

「……カンゴーム」

「な、なんだ」

「……少しは慣れたみたいだな」

 

 そういうと、ふいっと振り返って朝礼に行ってしまう。

 

「何なんすかね、あいつ」

「さあ? ああ、それとレッドベリルが――」

「あー、いたー! カーンゴームぅ――!」

「噂をすれば」

「げ」

「ごめんね――! 僕ったらまた忘れてた! カンゴームは冬の担当終わったら夏の間寝るに決まってるじゃん! 去年もやらかしたの忘れてたよ――! 僕のバカバカバカ! とびっきりのパジャマ作っとくべきだったのに――!!」

「いや、いいって」

「よくない! おしゃれは気合と根性! 僕の生きがいなんだからあ――! 採寸するよ――!」

 

 レッドベリルの声を聞きつけたのか、他の連中も顔を出す。

 

「カンゴーム! 聞いたよ月人の新型出たんだって!? さっさと朝礼終わらせて、あたしの部屋で報告会だからね!」

「あ、カンゴーム。冬の間に左腕の接着がどれくらい進んだのか見たいので、アレキが終わったら医務室に来てください」

「それより採寸――!」

 

 変わらない日常が帰って来た。

 だからお前も、いつ帰ってきてもいい。

 そう思いながら、二度目の春へと歩き出した。

 

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