艦娘ぐらし、始めました-Welcome to Kan-Colle world-   作:嵐山之鬼子(KCA)

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 今回の話は、Another1と本編の中間くらいの時期のお話です。割と際どい描写有りますが、一応、少年誌のHなマンガで許される範疇の描写で納めたつもりです。


Another2.時ナラヌ雨ニフラレテ

-1-

 

 それは、まさに「魔が差した」から、としか言いようがなかった。

 

 中学卒業と同時に適性(どうやって調べたのか不明だが)を認められて、海軍にスカウトされた彼は、北の要衝のひとつである大湊警備府に配属され、そこで“提督”と呼ばれる役職に就くことになる。

 ただし、一般的な“艦隊の司令官”という意味ではない。いや、ある意味それで正しいのだが──彼が指揮するのは、女性(ひと)の姿と心を持ちて深海棲艦(ばけもの)と戦う艦娘(もの)達なのだ。

 艦娘とは、非常に希少な適性を持つ者(その殆どが10~18歳くらいの若い女性だ)が、ある種の“改造手術”を受けることによって“霊的な兵器”である艤装とリンク可能になり、人類の天敵にして“実体化した怨念”ともいうべき深海棲艦と戦う力を得た存在だ。

 いくつかの事情から、その艦娘を指揮する提督にもある種の資質、適性が存在し、それを持つ者は決して多くはない。

 そのため、彼のように義務教育を終えたばかりの若僧と呼ばれても否定できない年代の少年でさえ、海軍では佐官に相当する階級を与えられ、複数の艦娘を指揮する立場に立たされるのである。

 

 そして──深海棲艦と戦える力を得たからと言って、艦娘の戦いは決して楽なものではない。

 艦娘の身体は、現代の最先端科学と古代から連綿と受け継がれてきた陰陽術の粋を結集して作られた施設のサポートにより、たとえ瀕死の状態になっても、生きてさえいれば僅か半日足らずで回復できる。

 しかし、だとしても──いや、だからこそ、相次ぐ戦闘によって心身を消耗し、心が折れてしまう艦娘もそれなりの数いるのだ。

 今日の昼、彼が見送った駆逐艦娘の“時雨”もそんな「戦えなくなった艦娘」のひとりだった。

 なまじ穏やかで思いやり深く忍耐強い性格だったせいか、彼女はストレスからくる異常(ゆがみ)を“壊れる”寸前まで隠しぬき──結果、取り返しのつかないほどの心の傷を背負うことになった。

 「──僕もここまでかな」

 艤装を展開するだけで身体が震え、足腰が立たなくなるほどのPTSDを(周囲から見れば)唐突に発症した彼女は、精密検査の結果、艦娘を退役し、一般人に戻ることになったのだ。

 「提督……さよなら。顔を合わせると辛くなるから、みんなには、キミの口から伝えておいてくれるかな?」

 「ああ、もちろん──そんなになるまで気が付かなくて、ごめん、時雨」

 「あはっ、僕はもう“時雨”じゃないよ。ボクの名前はね……」

 自分の本名を彼の耳元でささやき、憂い帯びた微笑を見せると、そのまま執務室を出て行く時雨“だった”娘。

 そしてそれきり、彼は彼女と再び顔を合わせることはなかった。

 

 そこまでは、ありふれた……とはいかないまでも、艦娘たちが集う鎮守府では、ままある話だ。

 ただ、このケースに限れば、気の毒なことにこの提督は(口にこそ出さなかったが)密かに時雨のことを異性として意識──端的に言うと“惚れて”おり、そしてその想いが叶う可能性は、ほぼ0に近くなったのだ。

 いかに総勢20人以上の艦娘を指揮する提督とは言え、素顔の彼はまだ16歳になったばかりの未熟な少年なのだ。

 時雨とは彼がこの鎮守府に着任した時、最初に秘書艦として選んで以来のつきあいで、その彼女が戦線を離脱したことは、少なからぬショックを彼に与えていた。

 

 だからだろうか。彼が、本来は廃棄処分にするべき時雨の艤装や制服をこっそり隠匿し、執務室に持ち帰ってしまったのは。

 

 

-2-

 

 「時雨……しぐれぇ~」

 時刻は、午後8時。時雨の後任の秘書艦を未だ決めておらず、そのために自分以外は誰もいない執務室。

 その一角に設置された仮眠用ベッドのうえで、彼はきちんと折りたたまれた時雨の制服(セーラー服?)を抱きしめて、その匂いに包まれながら、泣きそうな表情で呻いていた。

 まぁ、ここまでなら──少々フェチが入っているとは言え──同情できない話でもない。

 駆逐艦娘の多くは10歳からせいぜい12、3歳くらいの容姿のものが多いのだが、時雨の属する“白露型”はそれに比べると大人びており、おおよそ15、6歳くらいの年頃に見える。

 彼も提督であると同時にひとりの若き少年であり、(秘書艦として)もっとも身近にいた、愛らしくもけなげで優しい同年代の娘に対して、純粋な慕情に加えて性的な関心をまったく向けなかったとは言い難い。

 密かな想いの対象が(身近から)失われたことで、彼がその想いを“こじらせて”しまうのも、ある意味、無理もない話だろう。

 

 だが、それだけでは満足できなかったのか──提督は、いきなり海軍将校用の士官服を下着ごと脱ぎ捨てると……手元にある時雨の制服を身に着け始めたのだ!

 これは完全にOUTだろう。

 いや、世間的な良識や常識を脇に置くとしても、パッと見、ただの女学生の制服のように見えたとしても、艦娘達がまとうその衣装は特別な“処置”が施してあり、艦娘以外の者が纏うことは禁じられているのだ。

 この鎮守府の責任者である提督として、その事は彼もよく知っているはずだが、この時の彼はいささか正気を失っていた。

 あるいは、失われた自身の愛する時雨という艦娘の衣装を身に着けることで、彼女と同一化したかったのかもしれない。

 黒に近い濃紺を基調に白いセーラーカラーと袖口の折り返しがついた半袖の上着を頭からかぶり、袖を通してから左脇のファスナーを下げる。

 同じく左脇開きのプリーツスカートを履き、ホックとファスナーを閉める。

 ほんの僅かにためらった後、制服とともに残されていた白い飾り気のないショーツにも足を通して引き上げ、スカートの中でモソモソとナニの位置を調整する。

 ベッドに腰かけて黒のスクールソックスめいた靴下と茶色い革のローファ履き、どこぞの水先案内人のごとく右手にだけ指無し手袋をはめ、最後に胸元に深紅のスカーフを結ぶと、彼は立ち上がった。

 

 ためらいと緊張が半々にミックスされた心持ちで、秘書艦のために執務室の隅に設置された鏡の前まで歩み寄ると、意を決して覗き込む。

 そこには──“時雨に似たナニカ”の姿が映し出されていた。

 顔だちはやはり彼本来のものだし、髪も男にしてはやや長い方だが、後ろ髪をまとめて三つ編みにしていた時雨ほどではない。

 しかし、雰囲気や気配とでもいうのだろうか、全体のたたずまいは不思議と時雨と酷似しており、想いの行く先を失った彼の心を大いに慰めてくれた。

 さらに奇妙なことに、彼が着ている時雨の衣装は初めてそれを着た(当たり前だが)とは思えぬほど彼の身体に馴染んでいた。

 確かに、この提督は同世代の少年たちと比べて背が高いほうではない。時雨との身長差はせいぜい3、4センチといったところだろうが、それでも男と女の間では、骨格その他に明確に違いがあるはずなのだが……。

 あるいは、“特別製”である艦娘の衣装の方が、着用者の体のラインに沿うような構造(しくみ)になっているのかもしれない。

 もっとも、その時の彼の脳裏にはそんな冷静な考察など浮かばず、ひたすら鏡に映る自分の姿──を通して、在りし日の時雨のことに思いを馳せていた。

 

 「ボクは白露型駆逐艦、「時雨」。これからよろしくね、提督♪」

 その挙句、鏡の前でひとり芝居を始めてしまう。

 

 「ボクに興味があるの? いいよ、なんでも聞いてよ♪」

 「この勝利、ボクの力なんて些細なものさ。この雨と…そう、提督のおかげだよ♪」

 かつて本物の時雨がこの執務室で口にした言葉を、寸分違わず(しかし、いささか“提督”への情愛を込めて)再現する“時雨”だったが……。

 

 ──バタンッ!

 

 「夕立ったら、結構頑張ったっぽい! 提督さん、褒めて褒めて~」

 いきなり執務室のドアが開いたかと思うと、第二艦隊の旗艦として遠征に行っていたはずの夕立──時雨と同じく白露型の駆逐艦娘で、時雨のもっとも親しい友人かつ寮のルームメイトでもあった少女が飛び込んできたのだ!

 

 「! こ、これは、その……」

 自己憐憫と自己陶酔(?)に浸っていた彼も、さすがに我に返ってしどろもどろになったのだが……。

 

 「あ~、時雨ってば、元気になったっぽい? 良かった~!」

 夕立は、満面の笑顔になって彼──いや、“時雨”に飛びついてきたのだ。

 

 「へっ!?」

 「いきなり倒れたって聞いてたから、心配してたのよ。大丈夫? 痛いところとかない?」

 「あ、うん、特には……」

 曖昧に頷きつつ、どうやら夕立は、自分のことを本物の時雨と勘違いしているらしいと悟る“時雨”。

 (親友でいつも寝起きしていた同居人の顔を見間違えるなんて……うっかりとかドジっ子ってレベルじゃないよ、夕立!)

 心の中で呆れつつも、ひとまずバレなかったことに安堵する。

 

 「あ、そうだ! 時雨、提督さん、どこにいるか知らない? 夕立、旗艦だから報告しないと」

 そうだった。ちょっと(?)抜けてるところがあるとは言え、この子もこの鎮守府では比較的古株に属する艦娘で、任務に対するモチベーションと責任感は結構高いのだ。

 

 「え、あ、いや、その……て、提督は、今ちょっと外部に出かけてるんだ。遅くなるかもしれないって言ってたから、報告は秘書艦のボクが聞いておくよ」

 時雨の口調を思い出しつつ、それらしいことを言って、このまま無難にやり過ごそうとしたのだが……。

 

 「第三艦隊戻ったわ。作戦終了みたいよ~?」

 「第四艦隊帰投、なのねー」

 

 運が悪いことは重なるもので、他の遠征組の旗艦である龍田と伊19までもが帰投の報告のために執務室に入って来た。

 万事休すかと、覚悟を決める“時雨”。しかし……。

 

 「あら~、時雨ちゃん。もうお身体のほうはいいの?」

 「思ったより元気そうなの」

 このふたりも、“時雨”のことを本物と疑っていないようだ。

 (夕立以上におポンチなイクはともかく、龍田はしっかり者だと思ってたのになぁ……)

 心の中で溜息をつきつつも、好都合なのでその誤解を利用する。

 

 「う、うん。精神的な消耗からくる衰弱が主な原因なんだって。しばらく出撃を控えれば、すぐに元に戻れるらしいよ」

 

 “時雨”の言葉を聞いて喜ぶ3人の姿に、二重の意味で騙している“時雨”は後ろめたくなったが、もう遅い。

 とりあえず、「不在の提督に代わって書類などの処理をする」という口実で、執務室に残ろうとしたのだが……。

 「時雨は病み上がりなんだから、無理したらいけないっぽい!」

 という夕立の意見には逆らえず、そのまま皆と少し遅めの夕食を摂ることになってしまった。

 3人と共に赴いた食堂でも、会う艦娘たちがことごとく時雨のことを気遣ってくれる。

 秘書艦として顔が広いのは知っていたが、時雨がこの鎮守府の艦娘たちにここまでの交友を築いているとは“時雨”は目からウロコが落ちる思いだった。

 と同時に、なおさら本物の時雨がいなくなったことを言い出しにくくなる──そう、ここに至るまで、“彼女”が本物の時雨ではないと見抜いた艦娘はひとりもいないのだ。

 

 「あ、時雨さん、昨日倒れたと聞いて心配していたんですよ。食欲の方はどうですか?」

 給糧艦娘として食堂を切り盛りしている間宮にも、完全に時雨として対応される。

 「う、うん、もう平気だよ」

 「そうですか……それじゃあ、“いつもの”ご用意しますね♪」

 そうして渡された夕飯用のトレーには、市井の大衆食堂の定食の2倍近いボリュームの食事が並んでいる。

 (こ、これをいつもの時雨は食べてたのか……食べきれるかなぁ)

 顔には出さないよう努めたものの、内心ではそんな呟きを漏らしている。

 ところが、夕立や執務室から一緒だった龍田やイクたちと歓談しながら食事を摂っていると、不思議と満腹にならず、コメのひと粒も残さキレイに平らげてしまった。

 

 「それじゃあ、時雨、部屋に戻ろ」

 そうなると、龍田たちと別れたあと、同室の夕立がそう言いだすのは、至極当然な流れなわけで、“時雨”としてはどうやって断ろうかと必死に頭を回転させていたのだが……。

 「あ、そういえば、時雨、艤装を提督さんのトコに置いてきたっぽい?」

 「! そ、そうなんだよ。だから、取って来ないと……」

 「ふーん。じゃあ、夕立もいっしょに行くっぽい」

 (ですよねー)

 心の中で溜息をつきつつ、もうどうにでもなれとばかりに執務室へ向かう。

 執務室の入り口の脇、“本物”の時雨が秘書業務の妨げにならぬよう外した艤装を置いていた場所に、「いつもの如く」時雨用の艤装は置かれていた。

 それだけ見ると、まるで今も時雨が鎮守府に、この執務室にいるような錯覚を覚える。

 「あったあった。さ、時雨、着けて着けて」

 “彼女”の感慨など知らぬ夕立が、あっさりと艤装を持ちあげて、“時雨”に装着させようとする。

 「い、いや、それは……」

 さすがにあの重い艤装一式を装備すれば、ただの(しかも同世代の平均よりやや小柄な)少年でしかない彼は、ロクに動けなくなるだろう。

 昼間隠匿した艤装を運ぶ際も、こっそりカートに積み込んで何とか持ってこられたくらいなのだ。

 体調不良を理由に断ろうと思いついたときには、“時雨”は偽装の中でも一番大きく、ガンキ●ノンなどと呼ぶ者もいる背部装甲&砲塔を、夕立の手で背負わされていた。

 「!」

 ズシリと肩に食い込む重みを覚悟していた“時雨”の予想に反して、意外なほどその鋼鉄の艤装は軽かった。体感的には、小学生時代に背負っていたランドセルと大差ない。

 (え!? な、なんで……)

 思考をまとめる前に、両足の太腿にも魚雷発射管のベルトが巻かれる。こちらも大きさからして相当な重さのはずなのに、それほど負担に感じなかった。

 「これで全部っぽい? じゃあ、お部屋に戻ろ」

 「う、うん……」

 思いがけない事態に「なぜ?」と気を取られて上の空の“時雨”は、夕立に手を引かれるまま、執務室を出ると駆逐艦寮の方へと歩き出す。

 寮の一室に着いた際は、無意識に艤装を外して床に置く。戦艦寮や空母寮と異なり、駆逐艦寮の部屋はあまり広くないので、駆逐艦娘たちは自室では艤装を外すのが暗黙の了解となっているからだ。

 白い作務衣のような寝間着に着替えた夕立が、二段ベッドの上の寝台に上がって「おやすみ~」と言ってくるのに、反射的に「お休み、よい夢を……」と返した後、ようやく“時雨”は我に返った。

 「あ、ここは……」

 無論、言うまでもなく駆逐艦寮の時雨と夕立の部屋だ。

 本来であれば、夕立が眠ったのを見計らって部屋を出て、そのまま執務室に戻り、時雨の制服を脱ぐべきだったろう。

 しかし、目の前に“本物”が昨日まで寝ていたベッドがあり、今ならそこにダイブしても誰にも責められず、そのまま眠りにつくことができる──という誘惑は、あまりに魅力的だった。

 ほんの僅かな躊躇の後、“時雨”はローファーを脱いでからベッドに入り、薄い綿布団の上下の間に潜り込む。

 想い焦がれていた少女の匂いに包まれながら、不思議とリラックスした気分になった“時雨”は、そのまま抗うことなく睡魔の手に身を委ねるのだった。

 

 

-3-

 

 夢を見た。

 その夢の中で、自分は一隻の軍艦だった。

 数多の軍人達を載せ、さまざまな海の戦場を航行(かけ)る。

 そのほとんどが激戦であり、“同僚”の(ふね)の多くが傷つき、沈んでいく。

 そんな過酷な状況の中でも、“彼女”は10年間にもわたって生き残り、幸運艦と呼ばれるようになっていく。

 けれど、それは裏を返せば、10年間仲間の死を見つめ続けたということ。

 比叡、萩風、嵐、雲龍、西村艦隊での扶桑、山城、最上、満潮、山雲、朝雲、そして姉妹艦である江風や春雨、白露、五月雨の最期の場にも、“彼女”は居合わせているのだ。

 最後の、そして最期となった任務の際、敵の雷撃を受けて沈む際に“彼女”の胸に浮かんだのは、悔しさと同時に、「これでやっとみんなのところに逝ける」という奇妙な安堵でもあったのだ。

 

 だからこそ、艦娘という形でこの世に再臨した時、“彼女”は、今度こそ仲間のすべてを、自分の力の及ぶ限り守りたいという強い決意を抱いていた。

 その願いが“素体”となった娘にいささか負担を強いていたという面も、否定はできない。

 時雨とはそういう艦であり、時雨の名を関する艦娘になるというのは、その想いを背負って戦うということなのだということが、本能的に理解できた。

 

 『──君に、その覚悟があるかな?』

 

 何処からか聞こえてくる“声”に対して、コクンと首を縦に振って肯定の意を示す。

 

 『──ならば受け継いでほしい。僕の力と想いを……』

 

 まばゆい光に包まれ、自分の存在が変貌していくのがわかるが、あえてそれに逆らわず、彼はそれを受け入れた。

 

 

-4-

 

 翌朝午前6時、目を覚ました“時雨”は、「いつものように」まだ寝ている夕立を起こさないよう気をつけながら、「手慣れた仕草で」艤装をフル装備してから「恒例の朝練」へと出かけていった。

 鎮守府の周囲を軽く3周ほどジョギングした後、龍田の姉妹艦である軽巡娘・天龍が中心になって主催している、駆逐艦向けの海上自主訓練に参加する。

 「──行くよ!」

 レースゲームのパイロンの如く一定間隔で浮かべられたブイの間を、高速で蛇行してすり抜けながら的を撃っていく。

 自分が当たり前のように水の上に浮いていることについても、背中から下ろして両手に持った主砲を自在に扱えることにも、もはや“時雨”は驚かなかった。

 

 7時過ぎになって自主練が終わると、今度は寮の部屋にとって返し、まだベッドの中で惰眠をむさぼっている夕立を起こす。

 夕立が寝間着から着替えるのと背中合わせに、自らも海水で濡れた制服の上下を脱ぎ、タンスから出した替えの制服へと着替える。

 連れ立って食堂に行き、伊良湖から「いつもの朝メニュー」を受け取ると、夕立や周囲にいる「顔なじみの艦娘たち」と雑談しつつ、お行儀よく──けれども健啖な食欲を見せて平らげる。

 

 「じゃあ、僕は秘書艦の仕事があるから。夕立は?」

 「夕立は、今日はお休みっぽい。時雨、お昼はどうするの?」

 「仕事の進み具合次第だね。僕のことは気にせず、食べてよ」

 そんな会話を交わした後、提督の執務室へと向かい、笑顔でドアを開ける“時雨”。

 「おはようございます、提督♪」

 

 けれど、誰もいない提督の執務机を見た瞬間、“彼女”は思い出す──自分が本当は何者なのかを。

 「ぅ、ぁ……な、なんで……どうして……」

 頭を押さえてうずまる“時雨”に落ち着いた声がかけられた。

 「──苦しそうですね、時雨さん」

 俯いていた姿勢から顔を上げると、そこには大淀と明石、ふたりの司令部付艦娘が立っていた。

 「……しぐ、れ……ち、ちがう、ぼくは……」

 「いいえ、アナタは時雨──白露型駆逐艦娘の次女の時雨さんです。ほら」

 明石が差し出した手鏡に映る顔は、確かに長年見慣れた自分の顔……のはずだが、何かが違った。

 「……目が……碧い?」

 南の海を思わせる鮮やかなコバルトブルーの瞳が、鏡の中から自分を見つめ返している。

 「ほら、“艦娘と言えども女の子”なんですから、身だしなみには気を使いませんと」

 背後から歩み寄った大淀が、優しい手つきで「背中まで伸びた後ろ髪」を緩い三つ編みにして、先端付近を紅いリボンで結わえてくれる。

 碧眼と三つ編み、その特徴を持った艦娘を“彼女”はよく知っていた。

 「──しぐれ」

 その名前を口にした瞬間、朦朧としていた意識がたちまちクリアーになる。

 「そう、僕の名前は時雨」

 そうだ、自分は「白露型駆逐艦2番艦の艦娘・時雨」だ!

 

 「ちゃんと“思い出し”ましたか、時雨さん?」

 「うん、ありがとう、明石、大淀。どうやら、まだちょっと寝ぼけてたみたいだ。疲れがたまっているのかな」

 「ここのところ激戦が続きましたから無理もないですよ。特に時雨さんは、秘書艦との兼任ですし」

 「艤装とかの修理なら私がばっちり直してあげるけど、時雨本人はそうもいかないんだから、気を付けてね」

 「心配かけてごめんね。もう大丈夫だから」

 先ほどまでの苦悶が嘘のようにスッキリした顔つきで、時雨はふたりの艦娘と笑顔で会話する。

 「あ、そういえば、提督は今日から半月間、海軍本部の方へ出張なさっているそうですよ」

 「え……そう、なんだ……」

 あからさまに落胆した表情になる時雨を、ニヤリと笑って明石がからかう。

 「おやおや、愛しの提督さんと離れ離れになるのが、そんなに寂しのかな?」

 「! も、もぅ、からかわないでよ」

 顔を真っ赤にして身をひるがえすと、秘書艦の定位置である執務机横のサブデスクにつく時雨。

 「ほら、ふたりとも、提督が不在でも仕事はたくさんあるんだからね!」

 「はいはい、仰せのままに秘書艦殿」

 「あはは、初々しいですね~」

 

-5-

 

 「明石、これで良かったんでしょうか?」

 「最善とは言えないだろうけど──でも、あのままじゃあ、ウチの鎮守府は有能な秘書艦にして第一艦隊の旗艦と前途ある提督の両方を失っていた公算が強いわ」

 深夜、執務室の隣にこしらえられた明石の工作室兼備品購入店で、部屋の主である明石とその同僚の大淀が密談している。

 「深海棲艦の攻撃が激化している今、できればそれは避けたい……というのが本部の意向よ」

 「! もしかして、退役した時雨さんの装備類を提督が簡単に手に入れられたのも……」

 「ええ、賭けだったけどね。提督がアレに手を出すか、出したうえでソレが適合するか──本部の分析では、彼が“そう”なる確率は決して低くなかったらしいけど」

 今のあの時雨は、“以前”の時雨の艦娘としての能力と記憶をそのまま引き継いでいるのだから、海軍本部の“賭け”は成功したと言えるだろう。

 指令系統に関しては、もうすぐこの鎮守府に新たな提督が送り込まれてくる予定となっている。

 「それにしても、あの“時雨”さん、髪型や目の色はともかく、身体そのものは元の提督のままなんですよね? どうして、夕立さんを始め、誰も気づかないんでしょう」

 「ああ、それね。そもそも艦娘は同じ艦娘を、容姿じゃなくその身に宿った“軍艦としての魂”で識別している割合が大きいのよ。そして、“あの”時雨の装備は間違いなく“以前”のものと同じだからね」

 「だから、事情を知っている私たちでも、意識しないと気が付かないんですね」

 「それに、今はまだ外見は元の男性のままだけど、この先、艤装との適合が進めば……いえ、なんでもないわ」

 「なるほど。聞かなかったことにします」

 

 

-6-

 

 北の要衝のひとつである大湊警備府。そこに所属する雨宮提督旗下の部隊は、その旗頭たる雨宮少佐が年若い──未だ16歳と“幼い”と言っても過言ではない年齢にも関わらず、堅実かつ確実な戦績を上げる期待される注目株(ホープ)だ。

 所属する艦娘の数は20数人とあまり多くはないが、新入りを除くといずれも軒並みレベルは高く、それでいて艦娘に無理をさせずに健全にして効率的な運用を心がける提督の手腕は、軍の上層部からの評価も高い。

 

 もっとも……。

 

 「提督、お茶が入ったから、少し休憩したらどうかな? もう、2時間も書類にかかりきりだよ」

 「──ん、そんなになるのか。そうだね。そうさせてもらおう」

 書類の束から顔を上げ、秘書艦が淹れたお茶の湯呑を手に取ってズズッと無造作にすする提督の様子からは、“若きエリート”とか“大湊の青狼”と呼ばれるような威厳や迫力はまるで感じられないのだが。

 提督御用達の白い海軍士官礼装を着用しているが、同年代の少年たちと比べてもいくぶん小柄で華奢な体躯もあってか、未だ“高校入学したての新一年生の制服姿”的な、とってつけた感が漂っている。

 

 「うん、相変わらず時雨が淹れてくるお茶は美味しいな」

 ニコッと微笑みかけられて、秘書艦を務める時雨の頬が僅かに紅潮する。

 「──それ、以前、金剛にも言ってたよね?」

 頬の熱さを隠すように口早に反論する時雨の姿に、苦笑する提督。

 「うん、まぁ、紅茶に関しては金剛に一日の長があるからね。でも、私の知る限り、いちばん美味しく日本茶を入れてくれるのは時雨だよ」

 手の中の湯呑を机に置くと、提督はクルリと椅子を回した、トレイを手に傍らに控えていた時雨の方へと向き直る。

 「え? な、なにかな、提督?」

 「いや、いつも遅くまでつきあわせてすまないと思ってね。夕飯もまだなんだろ?」

 時刻は夜8時を回り、まもなくフタヒトマルマルの時報が聞こえてくるであろう頃合いだ。

 「気にしなくていいよ。艦娘は、普通の人間に比べて睡眠や空腹などに関する生理的欲求がある程度セーブされているから」

 時雨の言葉にほんの少しだけ悲しげな表情を浮かべる提督だったが、すぐにそれを隠し、わざとニヤリと意地の悪い笑みを唇に浮かべて立ち上がる。

 「へぇ、「生理的欲求がセーブ」ねぇ……」

 僅かに身をかがめて、時雨の耳元でささやく提督。

 「──その割に、食欲・睡眠欲とならぶ三大欲求の残りひとつには、随分と貪欲みたいだけど?」

 「……いぢわる」

 顔を先ほどの比でないほどに真っ赤にしてプイッと顔をそむけ、身を翻す時雨の腕を、素早く掴む。

 「──あと15分くらいで今日の作業は終わらせるから、“(ウチ)”で待っていてくれないかな?」

 「! う、うん、わかったよ♪」

 一生懸命に普段の落ち着いた表情を装おうしているものの、「主人が散歩させてくれるのを待ちきれないワンコ」のように期待感を隠せていない時雨が、軽快な足取りで執務室から出て行く。

 それを優しい顔つきで見守りつつ、再び提督は書類処理の仕事に戻った。

 

 

-7-

 

 大湊警備府に所属する士官以上の階級の軍人には、警備府の敷地内に家が与えられている。

 “家”とは言っても、軽量鉄骨プレハブ建ての5軒並びで作られた長屋のように簡易な代物だが、それでも各戸の玄関は別で、バス・トイレ付き1LDKの独立した構造になっており、下士官以下や艦娘たちが住む“寮”とは大違いだ。

 

 「お帰りなさい、提督」

 ようやく今日の分の仕事を終え、自宅へと戻ってきた提督(かれ)を、時雨は優しい笑顔で玄関で出迎えた。

 「……ただいま」

 玄関に入った提督は、挨拶だけ返すと、あとは無言のまま時雨を抱きしめ、彼女の唇を奪う。

 重ねられた唇を時雨がそっと開くと、提督の熱い舌が潜り込んできて、彼女の舌を優しく舐め回す。

 それだけで背筋がゾクゾクするほど感じてしまい、時雨も夢中になって彼の舌を吸い返そうとしたのだが、そのタイミングを捉えて、息が詰まるほどど熱烈に抱きしめられる。

 「あっ……んんっ……」

 息苦しさに思わず彼の服をぎゅっと掴みながら、そのまま身をゆだねる。

 くちゅくちゅという音が育がするほど激しく舌が絡まり合うなか、時雨はそれだけで頭がボーッとなるほど気持ちよくなってしまう。

 

 「しぐれ……」

 「んっ……あっ……ていとく……」

 キスの合間に囁きながら、提督の手が時雨の背中を優しく撫で始めた。

 優しい手で撫でられると、触れられた所が全部痺れたように感じて、勝手に身体がビクンと反応してしまう。

 そうこうしているうちに、衣服越しでは我慢できなくなったのか、時雨とキスを続けながら、提督の手がもどかしげに時雨の制服の中へと忍び込んできた。

 「あっ……ん……」

 すっかり熱くなっている時雨の肌を提督の手がそっと撫でる。

 最初は背中を。そのうちにウエストやおへその辺りを、まるで壊れ物を触るような手つきで、触れていく。

 そんな風に提督に体中を愛撫されていると、時雨もどんどん気持ちよくなってしまい、身体が自然と弓なりにのけぞってしまう。

 「………ベッドへ行こうか?」

 「……うん」

 耳元の囁きに、こくりと頷くと、提督は時雨を両腕で抱きあげて、奥にある寝室へと連れて行く。

 

 「ちょっと待ってね」

 時折軽くついばむようなキスの雨を降らせながら、提督はベッドに横たえられた時雨のセーラー服を脱がしにかかる。

 「はい、両手を上げて」

 「う、うん……」

 少し照れくさいながら時雨も協力して下着姿になると、提督は改めてというように時雨の全身を見つめた。

 「時雨はどこも可愛いね。肌も白くて柔らかくて……ものすごくキレイだ」

 「そんな、買い被り過ぎだよ」

 もう何度も見られているのだが、そんなふうにじっくり見られて感想を言われると、時雨としては、すごく恥ずかしい。

 

 駆逐艦娘としてはそれなりに成熟した体つきだとは自分でも思うが、空母娘や戦艦娘のプロポーション抜群な面々に比べると流石に見劣りする。

 それだけなら艦種の違いと納得できるだろうが、同じ白露型でも、長女にあたる白露にはまだしも、すぐ下の妹たる村雨や夕立にも胸の大きさで負けているのが、時雨の密かなコンプレックスでもあった。

 (さすがに春雨や五月雨、涼風たちよりは大きいはずだけど……大きいよね?)

 そのコンプレックス故か、無意識に身を縮めて身体を隠そうとすると、それを察した提督が覆いかぶさって時雨の動きを制止する。

 「こーら、隠しちゃだめだろ」

 「んんっ……だってぇ……」

 提督に僕の貧相な身体を見られるの恥ずかしいから──小声でつぶやく時雨の頬に、提督は優しくキスをする。

 「なに? 拗ねてるの?」

 「ち、違うよ。客観的に見て僕は……んんッ!」

 時雨の唇を自らのそれでふさぎながら、提督は時雨をを包み込むように抱きしめる。

 「大丈夫。時雨はとても綺麗だし、こうやって抱いてるととても気持ちいいから」

 「…………うん」

 その熱い身体の重みを感じると、ホッとすると同時にドキドキと動悸も激しくなる。時雨は提督の胸にしがみつくようにぎゅっと抱きついた。

 

 「時雨……」

 提督は時雨を確かめるように身体を撫でながら、その華奢な首筋に頭を埋める。

 「あぁっ……跡つけちゃ、だめ、だよ……ひぅっ!」

 「ああ、見える所にはつけないよ」

 その言葉通り、提督は時雨の普段は制服で隠されている場所──胸の谷間の間やわき腹、背中などに強く吸いついてキスマークを残している。まるで、「この娘は自分のものだ」とマーキングするかのように。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

-8-

 

 「時雨……」

 あまりに連続した快楽に翻弄され気を失ってしまった秘書艦(パートナー)の髪を優しくひと撫ですると、提督はベッドから降りた。

 そのまま風呂場まで足を運び、軍服の上着も脱いで脱衣籠に入れると、裸になって浴室へと入る。

 シャワーを浴びながら浴室の鏡に映る自分の姿を眺める。

 そこに映っていたのは、少し骨太かつ筋肉質で、いささか貧乳ではあるものの、まぎれもなく女性の裸体だった。

 それも当然だろう。なにせ、この提督──雨宮時緒中佐は、以前ここの鎮守府で艦娘、それも第一艦隊の旗艦として活躍していたのだから。

 

 そう、言うまでもなくこの雨宮中佐こそが、かつて時雨と呼ばれていた存在だ。

 艦娘としての任を解かれ、一介の少女に戻ったあとも、彼女は何とか自分がかつていた鎮守府、そしてその提督の助けになれないものかと手だてを捜していた。

 駄目元で受けた検査に見事合格し、提督として必要な促成教育を受けた後、彼女は自らの志願通り大湊警備府に配属されて、そこで鎮守府(この場合は“提督が率いる部隊”を意味する)を持つことになった。

 (これからは同僚として“あの人”を支えられる!)

 秘書艦としていちばん身近にいられなくなったことは残念だったが、それでも彼の助けとなれることを喜んでいた雨宮少佐だったが、その喜びはかつていた鎮守府の現状を知ることでたちまちかき消されてしまう。

 「えっ、嘘でしょ……あの提督が艦娘──それも“時雨”に!?」

 

 顔なじみの明石と大淀いわく、提督は自分の鎮守府の要ともいえる時雨を戦線離脱させてしまったことに責任を感じ、また戦力の低下を憂いた結果、かつての時雨が残した艤装を身にまとい、“時雨”として戦っていくことを受け入れたのだという。

 無論、この説明はまるっきりの嘘というわけではないが、真実とは大きく隔たりがある。

 しかし、艦娘を(不可抗力とは言え)辞めたことに大きな引け目を感じていた(そうでなければわざわざ提督になったりしないだろう)雨宮少佐は、この説明を信じ──そして“上”の思惑通りの選択をする。

 

 「それならボクが……いえ、私が、この鎮守府に着任して、作戦の指揮を執ります!」

 雨宮提督の着任は、公的には“長期出張からの帰任”という形で処理され、彼女は“彼”の経歴を引き継ぐことになった。

 艦娘達も多少の混乱はありつつも、かつて同じ釜の飯を食った仲の彼女のことを受け入れたのだが、ただひとり時雨──元提督から艦娘になった少女だけは別だった。

 と言っても、雨宮少佐が提督となることを拒絶したワケではない。

 時雨(新)は、雨宮を「以前からの自分の提督」だと認識し、接してきたのだ。

 それは意に染まぬ変貌を強いられた“彼女”の“心の防衛機構”の発露だったのかもしれないし、それでいて本能的に雨宮こそがかつての自分の元を去った最愛の少女あることを無意識下で悟っていたのかもしれない。

 いずれにせよ、この鎮守府には(演じる役割こそ入れ替わったものの)“やさしく頼もしい提督と落ち着いた有能な秘書艦”がとりしきる以前とほぼ変わらぬ光景が戻ってきたのだ。

 

 「──コレの扱いにも、完全に慣れてしまったな」

 微苦笑を浮かべながら、自らに下半身に視線を落とす雨宮提督。

 そこには、本来は男性のみが持つはずの雄の象徴(シンボル)が存在していた。

 作り物などではないことは、先ほどのふたりの情事からも理解できるだろう。

 明石から、“今の”時雨が、たとえ艤装との適合を解いて退役しても、身体は女性のままで男には戻らないことを教えられた時、雨宮は「ならば自分が彼女を娶るための男になろう」と決意したのだ。

 明石に相談すると、極秘でそのための処理──手術ではなく“霊的な処理を施したナノマシンによる肉体改造”を紹介してくれた。

 

 トンデモない技術のように思うかもしれないが、そもそも艦娘自体が、科学と陰陽術のハイブリッドと言うべき存在なのだ。

 「人間の女性を同じ人間の男性に変えるくらいはお茶の子さいさいですよ」と笑う明石の言葉に、「そういうものか」と納得するしかない。

 実際、処置を受けてから2ヵ月あまり経つが、現在、雨宮中佐の陰核は成人男性の陰茎とほぼ変わらぬ大きさにまで成長し、ひと月ほど前からはその先端に排尿するための鈴口もできているのだから。

 それと同時に陰唇部の亀裂がふさがり、当然月経も訪れなくなった。

 代わりに陰嚢らしき肉袋も生じ、一週間ほど前に夢精の形で精通も経験した。

 生物的には既に雨宮提督は“男性(オス)”と言っても良いだろう──時雨となった元提督がまぎれもなく“女性(メス)”であるのと同様に。

 今後は体格も緩やかに変化して、より男らしくなっていくだろうとのこと。現にこのふた月で身長も10センチ近く伸び、数センチながら時雨よりも背が高くなっているのだ。

 

 かつて思い描いたのとは異なる形ではあるが、それでも最愛の人のすぐそばにいて、共に支えあいながら戦えるという今の立場に、雨宮提督はそれなりに満足していた。

 

 「さて、ようやく本部の許可が下りたワケだが、どういうタイミングで渡すべきかな?」

 風呂から出て、リビングで髪が乾くのを待ちながら、ケッコンカッコカリ用の指輪が入ったケースを掌の中で弄びつつ、コレを見た時の時雨の反応を想像して、ひとりほくそ笑む提督。

 

 ──その後まもなく、この鎮守府に於ける優秀な秘書艦にして駆逐艦娘のエースとして活躍する“少女”が、提督からケッコンカッコカリを申し込まれて、うれし涙を流すことになるのは語るまでもないだろう。

 

 -おしまい-

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