艦娘ぐらし、始めました-Welcome to Kan-Colle world- 作:嵐山之鬼子(KCA)
日が暮れる少し前、午後5時前まで砲撃訓練に励んだ後、本日の私(&付き添いの計4人)のお仕事は終了となった。
「つ、疲れた……」
「中腰に近い一定の姿勢で水上スキーしながら両手で抱えた主砲(模擬弾だけど)を合計100発以上もブッ放す」というのは、やる前に想像してたのより数段ハードな作業だった。
「もしかしてコレ、明日の朝になった腕が上がらなくなってるんじゃあ……」
これまでの人生経験上、このテの肉体疲労が行き着く先を想像して、今からちょっと憂鬱になる。
「はいはーい、心配無用だよ。このあと、みんなで入渠するからね!」
私が懸念していることがわかったのか、白露が苦笑しながらポンポンと肩を叩いてきた。
「入、渠……? いえ、訓練ですから負傷もとい損傷は特にないんですけど」
「白露が言ってる入渠っていうのは、この場合、お風呂のことよ」
雷が訳知り顔で解説してくれる。
「シャワーでもいいけど、折角なんだからみんなでお風呂に入るにゃしぃ!」
睦月がこちらの右腕をカッチリホールドするような形で抱きついてきている。
(いや、そりゃ、いつかは入らないといけないとは思ってたけどさぁ……こ、心の準備が)
心の中でヘタレな言い訳を呟くものの、無論“浦風”としてはソレを口に出すわけにもいかない。
え? 「何あわててんの、ご褒美だろう」って?
そんなワケあるかいッ!
重巡クラス以上の
一番年長っぽい外見の白露でもせいぜい16歳くらい。睦月は13、4歳、雷に至っては十歳児くらいにしか見えない。
(そもそも今の
そうは思ったものの、巧い断り文句も考えつかず、結局そのままなし崩しに入渠施設(と言う名のお風呂場)へと連れて来られてしまった。
* * *
「……昭和末期の銭湯?」
「当たり! この鎮守府に着任した初代提督の趣味で、わざわざこういう
思わず呟いた言葉を睦月が肯定してくれた。
木製の壁に、昭和感あふれる広告の数々が貼られているのに加え、チープな扇風機が設置され、首振り運転で脱衣場の空気を掻き回している。
床は籐むしろのカーペットで、壁際に体重計やドライヤー(これもレトロなデザインだ)なども設置されている。
脱衣かごを置くスペースも木製の棚で、とくに鍵などが設けられていないのは、軍規を信用してのことかな?
番台そのものはないけど、代りに入り口付近にあねさん被りに割烹着姿の妖精さん(可愛い♪)がいて、脱いだ服一式の洗濯&乾燥を請け負ってくれるみたい。
「洗濯って……さすがに1時間以上入浴するつもりはありませんよ?」
中破以上で本来の“入渠”したなら、確かにそれくらいはかかるだろうけど……。
「問題ないわ。ここの洗濯妖精さんは優秀だから」
雷によると、両方合わせて30分もかからないらしい。それなのに普通に洗濯機+乾燥機使った時と違って、衣類に傷みもなく、染みや汚れもしっかり落ちているらしい。妖精さんの謎技術パネェな!
これまたレトロなガラス扉をガラガラッと開けて中に入ると、私達が一番風呂だったらしく、先客は特にいなかった。
(扶桑さんや祥鳳さん、足柄さんたちと鉢合わせしなくて良かった)
いや、元・男としては、いてくれたら目の保養になっただろうとは思うけど、同時に絶対挙動不審になっただろうし。
多摩や那珂ちゃんあたりは白露と大差ない。衣笠は……微妙? 改二改装後だと結構大人びてるからヤバいけど、此処の衣笠さんは、まだ未改装みたいだからそれほど“女”を意識しなくて済むかも。
そんなことを考えながら、ゆったりと広い浴槽に浸かって身体を伸ばす。
「むぅ……さすがは陽炎型。いい身体してるなぁ」
胸元を覗き込まれながら白露にそんなことを言われて、思わず胸を両腕で隠して後ずさり、視線を左右に向けて助けを求めてしまう。
「白露ちゃん、さすがにソレはおじさん臭いにゃしぃ」
「そうね。暁じゃないけど“
呆れたような視線と口調で他のふたりが援護してくれた。
「ちょ、違うってば! ただ、あたしは浦風って胸が駆逐艦にしては大きいなぁって思っただけだよッ!」
「胸の件では姉妹の中で一番になるのはあきらめてるし」と、珍しく凹んだ表情を見せる白露に、私も睦月も雷もかける言葉がない。
「(三番艦の村雨が魔乳級だからなぁ)そ、それを言うなら、私も妹の磯風とか浜風とかの方が胸が大きいらしいですから」
何とか慰めらしきものを捻り出すと、他のふたりも追従してくれた。
「
「貴方たちはまだいいわよ。暁型なんて、退役するまでツルペタロリっ子のままなことが確定してるんだからね!」
艦娘になったのは自分の意思だけど、さすがにこんな風に若返るとは思ってなかったわよ──と、なにやら雷はご不満のようだ。
(見かけ通りの年齢じゃないと思ってたけど、やっぱりかー)
これからは“雷さん”って呼んだ方がいいのかね。
ともあれ、そんな風に4人でワイワイ騒いでいたおかげか、気が付いたら
そのあとはごく普通に髪や身体を洗い、再度お湯に浸かってほっこりした気分になってから風呂から上がった。
浴槽のお湯には、ごくわずかな量だけど入渠用の高速修復材を薄めたものが混ざっているから、肉体疲労も短時間で抜けるんだとか。
バスタオルを身体に巻いた状態で脱衣場に出ると、洗濯妖精さんが綺麗に畳まれた服一式を渡してくれる。
広げてみれば、確かに洗いたての微かな洗剤の匂いがして、訓練で着いた埃や汚れもキチンと落ちていた。
「うわぁ、ホントに綺麗になってる……ありがとうね」
お礼を言うと妖精さんはドヤ顔になってフンスと胸を張ってる(可愛い♪)。
「着替えたら一応解散だけど、念のため談話室に行って反省会しとこうか?」
あら、白露サン、意外と真面目な発言……ってフザケてる場合じゃないな。私の訓練につきあってもらってるわけだし。
「では、ぜひ。お時間を使わせるようで申し訳ありませんけど」
「気にしなくてもいーのよ。
「まぁ、その上で早く一人前になって、戦場で背中を預けられるくらいになってくれると、睦月たちもうれしいかなぁ」
そんなことを言ってくれるこの三人はホントいい子だなぁ。
「頑張って一刻も早く一人前の艦娘になろう」と決意した私だったけど──思えば、この時からかもしれない。