艦娘ぐらし、始めました-Welcome to Kan-Colle world-   作:嵐山之鬼子(KCA)

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主人公は「下宿してひとり暮らし中のグータラ大学生」というありがちなフォーマット! その分、失踪しても騒ぎになるのが遅れそうですね。


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 「ふーむ。つまり君は、元は単なる一般人の大学生だったが、『艦隊これくしょん』というゲームをプレイしようとしたら、そのゲームの世界に吸い込まれ、気が付いたら艦娘になってしまった、ということなんだね」

 「はい、簡潔にまとめると」

 我が事ながら、そうやって理路整然と並べられると嘘くさいにもほどがある。

 「荒唐無稽だが……君に嘘をついてる様子はないな。明石、バイタルチェックの方は?」

 提督さん(20代半ばくらいのスラッとしたイケメン)は、傍らで何かの機械を弄っていた明石さんに話しかける。

 「こちらもグリーンです。多少の怖れや不安は見られますけど、少なくともポリグラフ的な観点からして、彼女が意図的に嘘をついている可能性はかなり低いかと」

 あ、この手首と額に巻かれたコード付きのバンドってそういう意図だったんですね。

 もう外してよいそうなので、計測用のバンドを外す。多少は信用してもらえたのかと、少し気が楽になった。

 「提督、大本営発の資料によると、通常の浦風の言葉づかいはかなり明確な広島弁だとされています。無論、彼女があえて標準語で話している可能性もありますが……」

 大淀さんが何かの冊子を見ながら補足する。

 えーと、語尾が「じゃ」とか「じゃけん」になるんだっけ?

 「そこまでして自分を不審人物だと主張するメリットはない、か」

 確かにスパイとかなら自分が疑われないよう、むしろ「普通の艦娘」であることを装おうとするだろうからね。

 「わかった。ひとまず君の言うことが事実だと仮定しよう。その上で問うが──君は、これからどうする、いや、「どうしたい」と思っているのかな?」

 そこなんだよねぇ。

 正直、元の世界に戻るアテや手がかりなんて今のところ欠片もないし、とりあえずしばらくはこの世界で暮らさないといけないことは確実だ。

 そうなると先立つもの(=お金)は勿論、身分保障だとか住む場所だとか色々必要になるだろうし……。

 ここは背に腹は代えられない、か。

 「あのぅ、もし差し支えなければ、「この鎮守府に所属する艦娘」として扱っていただけないでしょうか?」

 こちらの提案が意外だったのか、提督は少し目を見張った。

 「ほぅ、鎮守府(こちら)を頼ってくることは予想していたけど、いいのかね? てっきり艦娘ではなく軍属として雇ってくれと言うかと思っていたんだが」

 艦娘になるということは、すなわち戦場に出るということだぞ、と提督が念を押してくる。

 「正直、恐いと思う気持ちがないとは言えませんけど……。でも、この体は艦娘(うらかぜ)のもので深海棲艦と戦う力がある。そして、深海棲艦(あいつら)から日本を守りたいという気持ちも確かにあるんです」

 少々カッコつけてる部分もあるけど、嘘じゃない。

 あえて付け加えるなら、そういう正義感に加えて、ゲームでは見守ることしかできなかった(そして度々歯がゆい思いをした)艦娘に自分がなった以上、この“力”を目いっぱい有効活用して活躍したい──という子供っぽい自尊心も同程度あったってことかな。

 「成程。そういうことなら、此方としても有り難い。三浦君、いや“浦風”には、当初の予定通り私の指揮下に入ってもらおう」

 ちなみに、本名は三浦湊(みうら・みなと)だったりする……んだけど、たぶんこの名前は(少なくともこの世界では)殆ど使うことはないんだろうなぁ。

 「はい。では……陽炎型11番艦“浦風”、着任しました。よろしくお願い致します!」

 うろ覚えの海軍式の敬礼をしつつ、たぶん本物の浦風とは(主に広島弁じゃない点で)異なるだろう着任の口上(あいさつ)を口にしてみる。

 「よろしい。着任を許可する」

 提督さんがそう応えると同時に、何か不可視の“(ライン)”みたいな代物(モノ)が、自分と相手の間に繋がれたのを感じる。

 「よかった。艦娘としてはとびきりイレギュラーですけど、ちゃんと着任(けいやく)はできたみたいですね」

 明石さんがホッとしたような顔で、そんな言葉を漏らす。

 なるほど。これが提督と艦娘の間にある絆(物理)なのか。

 テレパシーとかニュ〇タイプとかみたく互いに心が筒抜けってわけじゃないけど、目を閉じても「ココに自分がいて、ソコに提督(かれ)がいる」ってことが、何となく感覚として理解できる。

 (外見(なり)だけじゃなく、本当に艦娘になっちゃったんだなぁ)

 軽い喪失感3割に対して、未知なる体験に対するワクワク感が7割くらいを占めてる自分の好奇心の強さに、ちょっと苦笑する。

 (まぁ、今更悩んでも仕方ないよな!)

 

  * * *  

 

 それから、当面の実務的な話し合いに入る。

 まず、自分の“正体”については、今この執務室にいる4人の間でのみ共有することになった。

 鎮守府の他の艦娘たちや職員、そして大本営に対しても、ここにいるのはただの「浦風」で、たまたま適合率とやらが低かったため、他の普通(?)の浦風とは少し言動が異なる──そういう形で押し切るのだという。

 「“適合率”って?」

 「そこからですか」

 ここで簡単に、艦娘についての説明を明石さんから聞くこととなった。

 この世界における艦娘とは、艦娘としての適性を持つと認められた若い女性(ローティーンから20代半ばくらい)が軍に打診され、本人が志願したうえで、特殊な“手術”(適合処置)を受けてなる「対霊的武装である艦娘用艤装を装備できるようになった、ある種の霊的強化人間」らしい。

 つまり元々は人間──いや、艦娘になっても生物学的に99%は人間なのだそうだ。その証拠に、“解体”処置によって基本艤装とのリンクを外して退役した艦娘は、別段普通の人間と変わらず、妊娠や出産なども可能なのだとか(逆に艦娘である間は身体の老化は本来の10分の1以下に抑えられ、月経も訪れないため妊娠もしないらしいけど)。

 で、艦娘になる際、「ファーストボーン(FB)」と呼ばれるその型式の最初の艦娘以外は、すべてそのFB艦娘とよく似た容姿・性格に変貌するんだけど、「どこまでそのFB艦と近くなるか」を適合率と言うんだそうな。

 「適合率が高すぎると、元の人格がほとんど残らないので本人にとってはある意味不幸ですが、逆に低すぎるのも艦娘としてのポテンシャルを引き出すのが困難になります」

 「もっとも、適合率って、本来の意味ではFB艦娘じゃなく、わたしたちの“基”になった軍艦……の船魂(たましい)との相性を指す用語だったんだけどね。」

 大淀さんと明石さんが交互に教えてくれた。

 「とは言え、そもそもファーストボーン自体が、未だ該当する艦娘がいない船魂に、もっとも相性のよい女性が巡り合った時に生まれるものだから、適合率は極めて高いのよ。だから、現在はFB艦娘の適合率を100として、それを基準に以降の艦娘の適合率を計測するようになった……ってのが現状ね」

 流石に工作艦娘(はかせけい)だけあってか、このあたりの説明は明石さんの独壇場だ。

 「ちなみに三浦さん、もとい“浦風”の適合率はジャスト30%。艦娘として正常に動作できるギリギリの値ってところかな」

 理想は50~70%くらいらしい。それ以上だと「自分の人格が塗りつぶされ」かねないんだそうな。高すぎると危険、低過ぎてもダメって某人型決戦兵器のシンクロ率みたいだなぁ。

 「でも本来のと派生した意味とで同じ呼び名なのはややこしいですね」

 「確かにね。だから、後者については区別するために“浸食率”とも言われているわ」

 ちょ、それ、字面からして、どう考えてもアカンやつやん!

 「ま、まぁ、それはさておき。実際の艦娘としての特性その他については、駆逐艦娘向けの座学講義を週3回開催していますから、それに参加してください」

 成程、アニメでやってた駆逐艦の子たちに足柄さんが授業してたみたいなアレか。

 「わかりました」

 

 その後は、艦娘……というよりこの鎮守府の一員として暮らしていくための日常の心得的な規則全般(モノ)をひと通り教わってから、大淀さんに艦娘たちが非番時(オフ)を過ごす建物、通称“艦娘寮”へ案内してもらった。

 「駆逐艦の子は普通ふたり部屋なんですが、今ちょうど偶数で、“浦風”さんが入ると奇数なので、しばらくこの部屋をひとりで使ってもらうことになりますね」

 マジか! いきなり中学生くらいの女の子と同居(ルームメイト)って言われると確かに困ったろうから、ラッキーだったかも。

 「荷物については、届いていた分はすでに部屋に置いてあります」

 「──え?」

 確かに、4畳半ほどの広さの部屋の隅には、元の世界とほとんど同じに見えるゆうパ〇クの大きめの箱が3つ積まれていた。

 「ま、待ってください。コレってもしかして……」

 「はい、「本来のその体の持ち主である浦風さん」の所持品(もの)でしょうね」

 なんてこった……そう言えば、確かにこの鎮守府には陽炎型の浦風が赴任することになっていたんだよな。

 つまり、自分(の魂?)がこの身体に憑依(?)したことで、この身体の本来の持ち主(の魂?)は、身体の奥底に押し込められたか、最悪体外にはじき出されてしまったのかもしれない。

 自分(オレ)は悪くない、むしろ自分も被害者だ──そうは思うのだが、理屈(それ)だけでは割り切れない罪悪感に襲われる。

 「………」

 「何を考えてらっしゃるのかおおよそ想像はつきますが、だからこそ、貴方は自分を粗末にしないでくださいね」

 そうだ。どうしてこうなったのかわからない以上、今“俺”にできることは、もし「本物が戻って」きた時に困らないよう、浦風として精一杯戦果をあげ、かつ周囲とも良好な関係を築いておくことだろう。

 今までどこかふわふわした夢みたいな気分でいたけど、そう自覚したことで急速に覚悟が決まる。

 「──了解しました。陽炎型駆逐艦・浦風、これより艦隊勤務に於いてベストを尽くします」

 “俺”、いや“(うち)”は、大淀さんに向かって敬礼しつつ、そう口に出すことで、艦娘・浦風として真摯に生きることを改めて自らに誓った。

 

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