艦娘ぐらし、始めました-Welcome to Kan-Colle world- 作:嵐山之鬼子(KCA)
月村提督は、簡単に開かないよう堅く結ばれた革紐を苦労しながらも解き、ゆっくりと金属製の箱の蓋を開いた。
50センチ四方ほどの箱の中に入っていたのは……。
「服……艦娘用の制服、か?」
一番上には、白地に赤と青の装飾が施されたノースリーブのワンピースらしき制服が、丁寧に折り畳まれて入っていた。傍らに赤い布、いやネクタイもきれいに丸めて置かれている。
「これは叢雲、いや叢雲改二か!」
思わずテンションが上がる提督。
というのも、黒インナーフェチである提督にとって、叢雲および叢雲改二は彼の鎮守府にいない数少ない黒インナー艦娘のひとりだからだ。
期待と好奇の想いを抑えつつ、叢雲改二用ワンピースとネクタイをまとめて箱から取り出し、サイドテーブルに置く。
その下に隠されていたのは……。
「!!」
予想通り、そこには黒い色彩に彩られたふたつの
僅かに下が透けて見えるほど薄い、化繊素材とおぼしきツルツルの布で作られたハイネックの半袖ハーフトップ。
ワンピースのあまりに短いスカート丈をカバーするために、叢雲改二が履いているデニール数多めの黒いパンティストッキング、いわゆる「黒スト」。
「! これは……ッ」
問題の黒ストを食い入るような視線で観察していた提督は、“ある事”に気付き、恐る恐るソレを手に取り間近から凝視する。
「まさか、コレ、ショーツがセットになっているのか!?」
そう。パンストのヒップ部分はものによってはそこだけ布地が厚くなっているケースもあるのだが、叢雲改二用黒ストのそこには内側に黒いハイレグ気味なショーツが一体化して縫い込まれていたのだ。
その刺激的な
(こ、コレを……このインナーを実際に艦娘が着ているトコロが見たい! そして願わくば着ているソレに触れたいッ!!)
叢雲や叢雲改二本人はいないとは言え、彼女と比較的体型の似通った艦娘、たとえば姉妹艦である吹雪型の駆逐艦娘なら、この鎮守府にも何人か存在する。
しかし、さすがに(ケッコンカッコカリすらしてない)駆逐艦娘を呼んで、コレ(黒インナー)を着てくれと頼むというのは無理がある。下手したら「憲兵さんこっちです」案件だし、そうでなくとも積み重ねてきた月村提督の信頼は即座に地に落ちるだろう。
いささか興奮に我を忘れがちな月村少佐にも、それくらいはわかるし、そこまで暴走することはできそうにない。
葛藤の末、提督が選んだ方策は──「せっかくだから自分で着てみる」という別方向で変態的な代物だった。
幸いにして、目の前にある叢雲改二用インナーは、トップもボトムも伸縮性があるので、男としてはいささか細身のこの提督なら多少無理すれば着ることはできるだろう。
キョロキョロと挙動不審気味に執務室内を見回し、ドアの鍵を内側からしっかりかけた提督は、いつも着ている白い海軍士官用制服をそそくさと脱ぎ捨てた。さらに“最後の砦”であるタンクトップとボクサーブリーフと靴&靴下も脱いで全裸となる。
僅かに震える手で、まずは黒いハーフトップを手に取り……思い切って袖を通す!
(あぁ……コレ、着るとこんな感じなんだ……)
掌で軽く触れた時とは大きく異なる、その滑らかでかつ密着感の強い感触にうっとりする提督。彼は知らないが、その感触は新体操の選手などが着用するレオタードに近いものだった。
細身とは言えまがりなりにも成人男子の肩幅で、13、4歳くらいの体格である叢雲改二用のインナーが着れるか、提督本人も懸念していたのだが、伸縮性豊かな布地のせいか問題なく着れている。
いや、「問題なく」は言い過ぎで、実際多少窮屈に締め付けられている感覚はあるのだが、その締め付け感が逆に「自分は今、叢雲改二用のアンダーウェアを身に着けているのだ」という倒錯した興奮を提督にもたらしていた。
当然のことながら、提督の股間の“単装砲”も仰角最大近くまで持ち上がっており、しかも今の彼は下半身丸出しなので、その状態が一目瞭然だ。
ソレに気付くと、さすがに恥ずかしかったのか、提督はそそくさと箱の中の黒ストを手に取った。
「せ、せっかくだし、コッチも履いてみようかな」
誰にともなく言い訳するかのようにそう呟くと、来客用のソファに腰掛け、ストッキングに片方ずつ足を通す。
ナイロン繊維で編まれたストッキングが爪先から自らの足をゆっくりと覆っていく未知なる感覚に、ハーフトップの時と同等かそれ以上の興奮を感じる提督。
元々あまり脛毛の濃い方でもないが、100デニール程度のかなり濃い目の黒の布地が、足首、ふくらはぎ、膝、太腿と覆っていくにつれて、それまであった男っぽさが消え失せ、艶めかしい“女の脚”に変わっていくのを恍惚とした心持ちで見つめる。
そうこうしているうちに、鼠蹊部近くの大腿に設けられた太線──ランガード部分よりさらに上の、パンティ部分まで着用する段になって、さすがに一瞬ためらったものの、毒を食らわば皿までと覚悟を決めたのか、一気に引き上げてパンスト内部に縫い付けられたショーツで下腹部を覆い隠す。
不思議なことに、あれほどいきり立っていたはずの“単装砲”は絶妙な黒ストの締め付けに全く抵抗せず、ショーツの中でそのまま下腹部にベタリと押し付けられた形になっている。
無論、成人男子の“ソレ”は(特に勃起時は)それなりの体積があるので、普通はパンストを履いたくらいでは隠せず、くっきりその形が浮き上がるはずなのだが、先ほど以上に昂っているはずの提督の其処は、なぜか急速にその充血を失い、黒ストの色と締め付けもあってか、目を凝らせばかろうじてわかる程度の膨らみを留めているに過ぎなかった。
──その不自然さに月村提督が気付き、そこで手を止め、ふたつの黒インナーを脱いでいれば、その後の“悲劇”は免れたのかもしれない。
肩から二の腕の半ば、そして体幹部は喉元からおへその上辺りまでを黒いハーフトップに覆われ、下半身はへそのすぐ下から爪先まですべてを黒いストッキングとショーツによってシェイプアップされた姿となった提督は、恍惚としてその黒インナーに包まれた自らの身体に掌を滑らせた。
化学合成繊維特有のなめらかでツルツルとしてその手触りと、衣服だけでなく生身の“肉”がまとうことによって得られる弾力が、彼を魅了する。
元々あまり体格の良い方ではなかったが、上から身体を見下ろす限りでは、着ている布地の体型補整効果が強いせいか、ずいぶんと中性的、あるいは未成熟な女性のソレに近づいているようにも見える。
その所感を、自らの黒インナーに対するフェティッシュな嗜好が生み出す錯覚だろうと提督は思っているようだが……実はこの段階ですでに“変化”は少しずつ始まっていたのだ。
どうせなら執務室の隅ーの壁に備え付けられた鏡に、今の自らの倒錯的な姿を映そう……として、ふと彼の脳裏にひとつの“天啓”が浮かぶ。
(ここまでしたなら、せっかくだし、叢雲改二の残りの衣装も全部身に着けた方がいいのではないか?)
ソレは、黒インナーフェチとは言え、女装趣味やGID的な傾向を特に持っていなかったはずの
明らかに不自然なはずのその思いつきに、しかし疑問を抱くこともなく、月村提督は、箱から出して脇に置いておいた白い衣装を再度手にする。
背中から包むように胴部を回し、前布で止めるタイプの丈の短いワンピースの形状は、あるいは“チューブトップドレス”と呼ぶ方が正確かもしれない。
上はノースリーブかつオフショルダーで、スカート部も膝上30センチ近い超ミニなのだが、下に着ている2種類の黒インナーのおかげで、肌の露出自体はさほど多くない。
しかしながら、白と黒の色彩的コントラストや、両腿の前とバスト(より正確には乳首?)部のスリットがアクセントとなって、何とも言えない艶めかしさを醸し出している。
「おっと、ちゃんとネクタイも締めないとね」
さらに黒いインナーに覆われた細い首からぶら下がる深紅の
続いて箱のいちばん下に入っていたものも取り出す。
指の部分が黒く染められた白手袋。ソール部がオレンジ色に彩られたローファー風の黒い靴。女子中学生相当の叢雲改二のために作られたそれらは、普通に考えれば成人男子の体格を有する提督の手足に合うはずがないのだが……。
どちらも呆気ないほどすんなりと着用でき、特に窮屈さを感じさせることもなくフィットしている。
はたして、その事実が何を指し示しているのかは、間もなく“彼”も思い知ることになる。
ともあれ、艤装を除く叢雲改二用の衣装一式を残らず身に着けた提督は、高鳴る鼓動を抑えつつ、いよいよ鏡の前へと歩み寄った。
伏し目がちな視線の先に最初に映ったのは、ブラックとオレンジのツートンカラーのローファーを履いた足元。
そこから徐々に視線を上げていくと、黒いストッキングに覆われた脚部が目に入る。「年若い娘らしく」全体にほっそりと形よく整いつつも、黒スト補正もあってかむっちりとした太腿などからは艶めかしさも漂っている。
その太腿のランガードの設けられた辺りの少し上でミニスカートの裾が揺れる様も、健康的なお色気にひと役買っていると言えるだろう。
そのまま視線を上げると、そこには「思春期を迎えたばかり少女にふさわしい」細くくびれたウェストがあり、さらに「未だ成長途上でありながら十分に女らしさも意識させる」控えめに膨らんだバストがあるのも見てとれる。
──着替え始めてから、熱に浮かされた、あるいは酔ったようにぼんやりしていた提督の意識も、さすがにこの期に及ぶと、視界に映るその“姿”に違和感を覚えるようになっているのだが……それでも視線の移動は止まらない。
ぴっちりした黒いインナーに包まれた華奢な肩。インナーはハイネック構造となっており、「女の子らしい細い」首を喉元まで覆っている。
そしてその首の上にあるのは──琥珀色の瞳を持つやや吊り目がちなアーモンド型の目、ツンと小生意気に尖った形の良い鼻、薄紅色の唇……などのパーツが配された極上の美少女と呼んで差し支えない
襟の辺りで切り揃えていたはずの髪も、気が付けばボリュームたっぷりに腰まで伸び、さらにその色も典型的な日本人らしい黒から僅かにラベンダーがかった銀色へと変じつつある。
そう、ひとことで言い表せば、鏡に写っているのはまぎれもなく「吹雪型の艦娘・叢雲改二」にほかならなかった。
半ば無意識に右手を上げて鏡像が左手を上げるのを目視したり、視線を鏡から自らの胸部に転じてソコが確かに膨らんでいることを確認したり、さらに諦めきれずに“上”と“下”に手を伸ばした挙句、「ある」ことと「ない」ことを両掌で実感したりして、今の自分の現状が夢や錯覚ではないことを思い知らされた提督──いや、「叢雲」は、ついに意識を手放したのだった。