艦娘ぐらし、始めました-Welcome to Kan-Colle world-   作:嵐山之鬼子(KCA)

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Another5-2b.魅惑の黒に誘われて(転[月])

 ジュラルミン製の箱の蓋を開けた月村提督は、中に入っているモノを見て、目を見張った。

 

 「こ、これは、もしや……」

 そこにあるのは、白を基調に袖と襟の部分が黒い半袖のセーラー服。それだけなら女子中高生の制服としてありふれているが、ダークグレイのレザーコルセットが一緒についているとなると、これは間違いなく秋月型艦娘用の衣装だろう。

 

 上着(トップス)のすぐ下に黒いプリーツスカートが入っていたので、現在実装されている中での候補艦はふたり。秋月型2番艦・照月、そして……。

 「! やっぱり初月か!」

 

 上着とスカートを取り去ると、その下に漆黒のインナースーツが畳んで入れてあったのを見て、提督は歓喜の声を上げた。ちなみに初月はこの鎮守府にいない艦娘のひとりだ。

 

 秋月型の艦娘は、前述の通り白い半袖セーラー服に黒か白のプリーツスカートを履き、ウェストにレザーコルセットを巻く点は共通しているのだが……。

 現在、実装されている4人の中でも、4番艦の初月は少々独特の格好をしている。

 セーラー服とスカートの下に黒いインナーを着ている……という点では、長姉の秋月も同じなのだが、秋月のそれがハイネックの半袖シャツのような形状なのに対して、初月は首から下をくまなく覆う全身タイツのようなものを着込んでいるのだ。

 

 その材質も、秋月のインナーが伊吹・日向姉妹のものに近いストレッチ素材なのに対し、初月のソレは、レザーに近い見かけと触感を持ちつつ、同時にラバーのような高い伸縮性を有した謎の布(?)でできている。

 艦娘たちが着ている黒インナーの中でもレア中のレア物であり、月村提督のような黒インナーフェチにとっては垂涎の代物だ。

 そのある意味“憧れの逸品”を目にし、さらに実際に手で触れたことで、彼の中に強烈な衝動が湧き起こる。

 

 (着てみたい……この黒光りするインナースーツを、自分もまとってみたい……)

 

 もし少しでも提督に冷静さが残っていれば、自らの内に突然現れた強い欲望に疑念を抱いたかもしれない……が、すでに彼の心はあまりに熱い情念(パトス)に満たされ、理性的な判断ができる状態ではなかった。

 

 むしりとるようにして海軍士官服、そして下着の類まですべて脱ぎ捨てた青年は、箱から出した漆黒の全身スーツを広げて、その構造を確認する。

 スーツは、体幹部はもちろんのこと、手は五本の指先まで、足は靴下のように一体化したつま先まですべて一体成型されており、頭部を除く文字通り全身を覆う形となっている。

 

 前面には、ハイネックの首元からヘソの少し上あたりまで切れ込みがあり、切れ目の下端に小さなファスナーがついている。どうやらここから体を滑り込ませ、最後にファスナーを上げる仕組みになっているようだ。

 切れ目の内側に手を入れてみると、滑らかながら温かみのある何かの革らしき趣きの外側とは異なり、ツルツルしたエナメルのような感触がある。

 着込む段階では少々たいへんそうだが、実際に着て、そしてファスナーを閉めたときの肌のフィット感は、どれほどのものか……そう思うと、提督は胸の鼓動がドキドキと早鐘のように鳴るのを抑えきれない。

 

 まずは、来客用のソファに腰を下ろし、切れ目から右足を突っ込む。幸いにして予想したような窮屈さや引っかかりはほとんど感じられず、驚くほど順調に足先がスーツの中へと飲み込まれていった。

 

 「ふぅ……」

 意図せずお風呂に入った時のような満足げな溜息が漏れる。

 そう、それこそ温泉に浸かっているのと同等に気持ちよかったのだ。

 脚部に差し入れた右足の肌に、まるで吸い付くようにタイツが密着してくる。そのツルリとした触感は予想に反して冷たくはなく、むしろほのかな温かさをもって右脚の肌を包み込んできた。

 

 そして、僅かな締め付けを感じたかと思った数秒後には、その締め付けられるような感触は失せ、まるで何も着ていないような自然な感覚だけが残される──そう、あたかもタイツと足が融合したかのように。

 その感触の虜となった提督は、たまらず左足の方もタイツに突っ込み、「ふわぁ…」と再び歓喜の吐息を漏らしたかと思うと、さらにススッとタイツをたくし上げていく。

 両脚とも太腿の半ばまで覆われたところで、ソファから立ち上がり、タイツを腰まで引き上げる。

 

 「こ、これは……!」

 思わず驚きの声をあげる月村提督。

 左足をタイツに入れた時点で、彼自身の“単装砲”は最大仰角までいきり立っていたはずなのだ。

 それなのに、タイツをヘソの辺り──ちょうど切れ目の下限の位置までずり上げ、下半身を完全に覆ったところで改めて、股間に目をやれば、どのような仕組みなのか下腹部に押し付けられた“単装砲”のふくらみが、ほとんど見えなくなっている。

 

 懸命に目を凝らせば、「あ、ここ、なんか膨らんでる……かな?」とかろうじてわからなくもないというレベルだ。しかもタイツにはしわひとつ寄らず、ピッタリと肌に密着している。

 “前”ばかりでなく後ろ──臀部の方も随分と形よくシェイプアップされ、俗な意味での“桃尻”と呼ぶにふさわしいプリプリしたヒップへと変わっていた。

 

 (それほど締め付けが強いって感じしないのに……凄い体型補整効果だなぁ)

 冷静に考えればかなり非常識な状態なのだが、憧れの黒タイツに眩惑されている提督は、そんなのんきな感想しか浮かんでいない。

 

 そして、そんな風に危機感皆無の状態だからか、そのまま上半身をタイツに包むことにも、なんら拒否感を抱かなかった。むしろ、喜々として腕の部分を持ち上げると、おもむろに右手から袖を通していく。

 多少なりとも身体を捻った姿勢になるため、ほんの少しだけ手間取ったものの、手を滑り込ませる行為自体にはまったく困難はない。むしろ、誘い込まれるようにスムーズに右手の指先が手袋部分に入り込み、そのままそこでタイツと肌が密着する。

 

 手を握ったり開いたりして確かめるが、このタイツは動きをまったく阻害しないばかりか、指先の感覚すらほとんど素手状態と変わりないように思う。

 他の大半の駆逐艦娘と異なり、秋月型の艦娘は戦闘時に武装を手持ちしないので、指先でトリガーを引くために微妙な感覚が要求されるわけではないので、提督としては少し意外だった。

 

 残る左手も袖に通し、右手同様に手袋部に馴染ませたのち、腹部からファスナーを引き上げる。

 本来少女が着るべきモノを細身とは言え成人男性がまとっているのだから、さすがにキツいのではないかと懸念していたのだが、まるでそんなことはなく、滑らかに動いたファスナーが喉元まである切れ目を完全に閉じていく。

 

 そうして頭部以外の全身を黒いタイツ状のインナースーツに包まれた“彼”の姿は、普段以上に中性的で、パッと見にはペチャパイ気味の痩せぎすの女性と見紛うばかりだ。

 

 半ば無意識に部屋の隅に移動し、壁にある大きめの鏡に己が姿をさらした提督は、そこに映る姿に7割の満足と3割の不満を同時に抱いた。

 前者はともかく後者については理由はわかっている。

 “彼”の視線が、箱から出してサイドテーブルに置かれたセーラー服やスカートに向かう。

 

 (そうだ……アレも残らず身に着けなくちゃ)

 頭の片隅で「何かがおかしい」という警鐘も鳴ってはいるのだが、その感覚に従う前に、“彼”の身体はサイドテーブルに歩み寄り、秋月型艦娘に共通する白と黒のセーラー服を手にとってしまっていた。

 

 ──そこから先のことは、あまりはっきりとは覚えていない。

 

 セーラー服をかぶり、黒いミニプリーツスカートを履き、さらにウェストにボタン留めのコルセットを装着したこと。

 底の部分が赤く、それ以外はコルセットと同様の素材でできたロングブーツに、なぜがぴったり足が納まったこと。

 ブーツと一緒に入っていた黒地に金文字で「第61駆逐隊」と記されたカチューシャを前頭部にはめたこと。

 そのすべてが熱に浮かされたような状態でひどく曖昧な記憶しか残っていない。ただ、その光景(ビジュアル)をうっすらとでも覚えているということは、おそらく鏡の前で着替えたのだろう。

 

 “彼”の意識が再びはっきりしたのは、艤装を除くそれら初月としての衣装をすべて着終わった直後に、それまでとは一転して、全身を覆う黒いインナースーツから強い締め付け感が伝わって来たからだった。

 いや、“締め付け感”などという生易しいものではない。

 

 つま先を、踵を、くるぶしを、ふくらはぎを、膝を、太股を……。

 尻肉を、股間を、鼠蹊部を、腰を、脇腹を、腹筋を……。

 肩を、二の腕を、掌を、鎖骨を、胸筋を、首筋を……。

 

 “ソレ”は予め用意された少女の形をした鋳型に、“彼”の肉体を無理やり押し込んで整形しようという確固たる「力と意志」だった。

 抗うこともできずに床の上にくず折れた提督は、呼吸をすることすら忘れてその痛みと拘束感に耐え続ける。

 

 もっとも、実際にソレが提督を苛んだのは、ほんの数十秒……長くとも1分にも満たぬ僅かな時間だった。

 唐突にその苦痛から解放された“彼”はよろよろと立ち上がり、目の前の鏡に映る己れの姿形(すがた)が、先ほどまでとは一変していることに気付く。

 

 そこには、それなりに女装が似合っているとは言え、あくまで中性的な背の高い青年の姿はなく……。

 獣耳のような形に跳ねたダークブラウンのセミロングの髪をなびかせ、巨乳と言えないまでも外見年齢相応の大きさの乳房があることが制服越しにもわかる、身長160センチくらいの可愛らしい少女が、驚いたような表情で鏡の中から此方を見つめていたのだ。

 

 そして、黒インナーを手にして以来ずっと頭の中にかかっていたモヤのようなものが、ようや晴れた今の提督は、その「初月にしか見えない少女」こそが今の自分の身体(すがた)なのだと理解していた。

 

 執務室に声にならない絶叫が響いたが……幸いにして(?)その卓越した防音性能に阻まれ、外部に漏れることはなかった。

 

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