艦娘ぐらし、始めました-Welcome to Kan-Colle world- 作:嵐山之鬼子(KCA)
※その18禁なお話「黒に惑わされたその末に」はR-18タグ付きで別途短編として掲載しました。気になる方はどうぞ。
「あの悲劇」からおよそ半年あまりが過ぎ、月村提督のもとにあった鎮守府には、(提督が艦娘になったこと以外に)現在大きくふたつの変化があった。
ひとつは、(元)月村少佐に代わって提督代理を務めていた古鷹(改二)が退役したこと。
提督代理になって2ヵ月ほどは、懸命にその任を果たしていたのだが……。
元は秘書艦だったとは言え、提督(代理)としてその責務を果たすのは、やはり色々無理があったのだろう。
それに加えて、(密かに慕っていた)月村が艦娘・村雨となったのみならず、日に日に男らしさや月村らしさを喪っていくのを間近で見ていたことで、心理的に限界を迎えてしまったのだ。
ふたつめが、提督不在となった鎮守府には、基地総司令のツテで間もなく別の提督が着任してきたことだ。
新たな提督の名前は「太刀川陽介(たちかわ・ようすけ)」。前任者同様、階級は少佐で、実は月村の士官学校での同期だった人物だ。もっとも、それほど親しかったわけでもない、「普通の知人」といった関係だったが……。
とは言え、一応は知り合いではあったという気安さと、ある意味、
そのおかげでもあってか、太刀川提督は比較的早くこの鎮守府に馴染み、また前任者から引き継いだ艦娘たちとも、それなりに良好な関係を築くことができたのだ。
そして、太刀川の着任から数えて3ヵ月半ほどが過ぎた現在の彼らの様子を見てみると……。
* * *
「──そろそろ時間か」
吸いかけのタバコを唇から引き剥がして、携帯用灰皿で火を消す。
鎮守府での仕事中はできるだけ吸わないようにしてるんだが、こういうプライベートで手持無沙汰な時くらいは一服してもバチは当たるまい。
──カラコロカラコロ
耳慣れない“足音”と共に小走りで待ち人が現れる。
「ごめんなさーい、提督、待った?」
本来なら男らしく甲斐性を見せて「いいや、全然」とでも言うのが筋だろうが、俺の目は待ち合わせに現れた少女の艶姿に釘付けになっていた。
薄桃色の地に赤で小花模様を散らした浴衣は、いつもはミドルティーンくらいに見える少女を、普段より幾分大人っぽく見せている。
あるいは平素はツインテールにしている長い髪を、今日はライトパープルのリボンで結い上げ、ポニーテイルにまとめてうなじを見せているのも、大人びた印象に一役買っているのかもしれない。
右手には「参」と書かれた団扇、左手には紅い巾着袋。
足元は、素足に黒く塗られた相右近の下駄。鼻緒が白と赤の二色で、下駄の側面が紺色に塗られているのが、彼女のいつもの衣装を連想させる。足の爪にはしっかりへオレンジのペディキュアが施されているあたり、お洒落でフェミニンな彼女の心遣いが感じられる。
「さほど待ってはいないさ。それより……見違えたな、村雨」
そう、俺の待ち人は村雨(改二)。部下の艦娘であり、着任以来ずっと秘書艦を任せている右腕であり──そして、つい先日告白し、晴れて恋人同士となった、俺の大事な大事な女の子だ。
なにぶん俺達ふたりとも“軍人”で、それほど休みなんかもとれない状況なのだが、幸いにして今は“
「んふふっ♪ ホント?
上機嫌でくるんと一回転して浴衣姿を見せつける村雨。
藤色の帯を左右非対称な“方花文庫結び”にしているあたりも、とても彼女らしいと言えるだろう。
「ああ、いつも可愛いが今日は特に可愛く見える」
「やぁん、提督ってば真面目な顔してそんなこと言うんだから~、でも、そういうトコロが好・き・よ♪」
満面の笑顔で村雨は、するりと俺に腕を絡めてくる。
想いを伝えあったのはおおよそひと月前で、デートらしいデートはまだ2、3回しかしていないため、少々戸惑いと羞恥もあるが、“彼女”が積極的なのに腰が引けていては
俺は極力「何も気にしてない」といった風を装いつつ、下駄を履いている彼女のペースに合わせて村雨をエスコートする。
「うふふっ(提督、ほっぺたがちょっと赤くなってるわよ)」
「? どうかしたか、村雨?」
「んーん、なんでもなーい♪」
* * *
──周囲の人間が砂糖吐きそうなレベルの甘々バカップルぷりを発揮しているふたりだが、皆さんは思い出していただきたい。
この村雨城……もとい村雨嬢(改二改造済み)が、元は提督かつ現提督・太刀川少佐と同期の男性士官だったことを!
なぜ、元彼・現彼女これほどまでに
大前提として、月村少佐には男性ながら艦娘になるための素質があったワケだが、一口に「艦娘になれる
戦艦、空母などの艦種で言えば、通常は1種類、多くとも2種類。
〇〇型といった艦型についても1~3種類程度が普通で、さらに言えば同型艦であっても個々人で相性は存在する。
月村少佐について言うなら、例の3つの“箱”のうち、一番相性が良かったのは「(初)月」で、次が「(叢)雲」。残る「(村)雨」はそれほど相性は良くなかった。
何? 「相性が悪いのに、一番適合しているのは納得がいかない」?
いや、それはむしろ逆だ。
相性があまり良くないからこそ、月村少佐が艦娘・村雨となるためには、
現在の“彼女”の精神状態を例の研究所の所長に見せれば、おそらく月村:村雨の比率を1:9ぐらいと分析するだろう。要するに「おおよそ村雨」である。
念のため断っておくと、あの“事件”当初は、これほど“村雨率”は高くなかったのだ。せいぜい3.5:6.5から3:7程度、つまり3分の1くらいは、月村青雲としてのパーソナリティもしっかり残っていた。
だが──ここで、彼(?)が提督を辞めて艦娘業に専念したのは悪手だった。
艦娘・村雨(しかも改二)として、水上戦闘や艦隊行動、さらには旗艦としての統率、挙句に秘書艦としての提督の
加えて、(元)部下の艦娘全員に「自分が
もっとも、艦娘は同じ艦娘を、本能的に艤装(制服含む)の気配で識別・感知している傾向があるので、当然と言えば当然かもしれない。
そんな風に日々「村雨ナイズ」されている“
前者で「月村としての理解者」を失い、少なからず気落ちしている心の隙間にスルリと入りこんだのが、新提督の太刀川だ。
──いや、言い方が悪かった。別段、彼は
ただ、当時(そして今も)村雨は秘書艦をしており、太刀川と接する時間が他の艦娘達より圧倒的に多かった。さらに言えば、村雨という
そして魚心あれば水心。やや寡黙だが好青年そのものといった提督から日々好意的な視線を向けられて、この“村雨”が徐々に女心に目覚めたのも無理からぬことと言えよう。
今からひと月程前の7月半ばに提督の方から想いを打ち明け、既に十分“提督LOVE”化していた村雨は、喜んでソレを受け入れた。
──で、その結果が、今、人目もはばからずに「リンゴ飴の食べさせっこ」などという破廉恥な真似をしているバカップルになるわけだ。
「綺麗……」
祭りの終焉時、物陰で血涙を流している
「(君の方が綺麗だよ……てのはさすがにキザ過ぎるか)うん、そうだな」
とか言いつつ、この
「──ねぇ、提督、さっきタコ焼き買いに行った時、ついでに隣の夜店で何買ってたのかしら?」
「この暗さの中で気付いてたのか。さすが艦娘、侮れないな」
ポリポリと頭を書きながら、提督はポケットの中のソレを村雨に差し出す。
「! これって……」
「まぁ、安物だけど、条件が整い次第渡す予定の指輪の手付、みたいなもんだと思ってくれ。さしづめ“コンヤクカッコカリ”ってところかね」
村雨の左手をとり、その薬指に先程夜店で購入した小粒な柘榴石のはまった指輪を着けさせる。
「うっふふふ♪ ありがと、提督。大事にするわね」
心底嬉しそうに微笑む村雨を見て、提督はできるだけ早く“本物”の方も渡してやろうと決意する。
「とは言え、アレを渡すには、
「はいはーい、村雨改二、がんばっちゃうわよ♪」
-おしまい-
ちなみに、このあと(元提督な)村雨は、5年間、太刀川提督の秘書艦(&第一艦隊旗艦)として活躍した後、退役(退役後の名前は「月村美雨(みう)」)。
翌日、提督と籍を入れて正式に結婚&妻・太刀川美雨となり、中堅提督として働く夫を今度は公私の“私”の部分から支えるよう努めます。
数年後には、一男一女に恵まれ、妻そして母として幸せな家庭生活を送ることになりました。
なお、夫の実家に挨拶に行った際、(戸籍年齢は同年ながら精々ミドルティーンにしか見えない)美雨を連れて行った太刀川は、家族からロリコン扱いされた模様(残当)。
最終的な艦娘浸食度は、作中でも語られている通り村雨:本人=9:1。一応、自分がかつて男性だったことは覚えているものの、その記憶は幼少時に読んだ絵本の内容なみにぼんやりと曖昧な感じです。
他の2ルートについては、
・叢雲ルート
7年ほど艦娘兼業の提督を務めたのち、伴侶(パートナー)の古鷹ともども退役(予備役に)。正式に同性婚で籍を入れ、丸1年ほど新婚生活を堪能した後、軍に復帰(艦娘には戻らず)。「銀髪の魔女」と恐れられる厳格な女提督として有名になる(古鷹はお家で主婦に)。
最終的な艦娘浸食度は叢雲:本人=5:5で非常に安定しており、ある意味、理想的な第三世代艦娘のメンタリティーと言える。
・初月ルート
10年ほど艦娘(時々提督)として軍務に励んだ後、退役。古鷹とはあくまで「いいお友達」止まり。代り(?)に退役後は、同じく退役した“姉”の秋月となぜか同居することとなった。その後は、通信教育で体育大学卒の資格を取った後、スポーツジムのインストラクターとして第二(第三?)の人生を歩むことに(なお、黒インナーフェチは一生治らなかった模様)。
最終的な艦娘浸食度は初月:本人=4.5:5.5で、比較的安定している方だが、なまじ男性としての自覚が残ったぶん、環境的には色々大変だった模様。
……といった未来を、作者としては妄想しています。