艦娘ぐらし、始めました-Welcome to Kan-Colle world-   作:嵐山之鬼子(KCA)

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小目的、中目的にこだわって、大目的を見失う。現実でも、よくありますよねぇ。


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 三度目の“夢”を観た日から数日。

 (うち)は、この鎮守府での暮らしにも徐々に慣れ、(軍属のはしくれでこういう言い方をするのもどうかと思うけど)日々是平穏な毎日を送っていた。

 

 座学の授業の方はとりたてて問題なく、身体を動かしての訓練も、「飛び抜けて優秀」とまではいかないが、「覚えが良い」・「平均よりは上」と言ってもらえる程度には好成果をあげている、らしい。

 4日目から始まった、比較的近場への遠征任務(文字面が変だが)への参加でも、特に大きなミスはしていないと思う。

 いや、あくまで同僚(なかま)の初春や白露たちの話なんで、提督や水雷戦のリーダーになる巡洋艦娘(おねえさん)たちからの評価は、わからんけど。

 

 「いえ、実際、練度ひと桁の駆逐艦としては、中の上から上の下と言ってよい仕上がりだと思いますよ」

 「大淀さんが、そう保証してくれるんは、ちぃと心強いのぅ」

 なにせ、元艦となった“大淀”は連合艦隊旗艦の経験を持っているから、それなりに戦術眼・作戦勘もあると思われるし、それを抜きにしても、数多くの艦娘との面識もあるようだしね。

 

 「基本艤装ならびに主砲、副砲、魚雷発射管の状態も良好です。“適合率”は43.8。こちらも問題ありませんね」

 3日経ったので、前回約束した通り明石さんが再度適合率(浸食率)を測ってくれた。

 あの時言われた通り、増えてはいるものの、その伸びは確かに鈍化している。

 (このまま50くらいで落ち着いてくれるとえぇんじゃがのぅ)

 そもそもこの(浦風の)身体自体、本来は他人様(よそさま)のモノなのだから、それで真っ当に艦娘できていることは、僥倖と言えるのだろう。

 艦娘の平均的な適合率であるらしい50前後で伸びが止まるなら、むしろ御の字だろう。

 

 「では。浦風さんの“卒業試験”のため、“南西諸島沖海域”に臨時第二艦隊出撃します」

 旗艦を務める祥鳳さんの号令に従い、私たちも出撃する。

 “臨時”とつくだけあって、今回は祥鳳・多摩・白露・初春(敬称略)そして浦風(うち)、という変則的な構成で隊を組み、戦場に向かうことになる。

 理由は、祥鳳さんが言う通り私のためだ。

 

 もっとも、これは私だけ特別扱いというわけではなく、井上提督配下に新米艦娘が配属されると、必ずこうやって、“熟練テスト”を行うことになってるらしい。

 ある意味、非効率なやり方ではあるが、こうやって万全の体勢下で“激戦の空気”を新米に体験させることで、次からはその空気に飲まれることなく動けるようになるらしいので、そのあたりは提督の裁量の範疇だろう。

 

 あえて懸念を言えば、「本格的な実戦」はこれが初めてということだろう。

 遠征の行き帰りで、遠目に深海棲艦を見かけたり、威嚇のための砲撃くらいは行ったが、そうした際、相手はすぐに敵わぬと見て逃げて行ったため、「どちらかが沈むまで戦う」という“死線”はまだくぐっていないのだ。

 

 だが……。

 

 「おどりゃあ、砲雷撃戦、開始じゃ!」

 4隻からなる敵偵察艦隊、5隻からなる敵前衛任務部隊との交戦を経て、最後に敵機動部隊との交戦に臨んだ時には、すでに私も臆することなく敵艦隊への戦意を保つことができていた。

 

 最初の祥鳳さんの開幕爆撃で駆逐ロ級3隻は撃沈しているので、残った中で一番格下の軽巡ヘ級へと向かう。

 

 「…………ッ!」

 軽巡ヘ級は、道中で遭遇した軽巡ホ級以上に人間的な造形──ほぼ人型の上半身が魚型の下半身と融合した、まさに“異形の人魚”とも呼ぶべき姿をしているが、それでも動揺することなく戦うことができた。

 

 そもそも、周囲を固めている僚艦のみんなは、練度40オーバーの祥鳳さん(無論、改造で艦載機数大幅増強済だ)を始め、いちばん低い白露でも20を超えて“改”になっている。

 この程度の敵がまともに戦って勝てるわけがなく、実際すでに空母ヲ級も重巡リ級も中破状態だ。

 その2隻を祥鳳さんと多摩さんが牽制しつつ、他の駆逐艦の子たちが、私とヘ級の戦いを見守っている。

 譬えるならこれは、肉食獣の親が子供に初めて狩りをさせるような、私のための(確率は低いとはいえど死の危険性のある)修練の場なのだろう。

 

 提督からの命令があったとは言え、嫌な顔ひとつせず、わざわざつきあってくれたみんなに報いるためにも、ここでできるだけ多くの実戦経験(こと)を学んでおこうと改めて決意する。

 

 幸い夕雲型に次ぐバランスのとれた能力の高さを誇る陽炎型駆逐艦だけあってか、未だ練度がひと桁な私も、軽巡ヘ級とは互角に近い戦いができている。

 無論、そうは言ってもまがりなりにも軽巡の火力と耐久力は侮れない……のだが、最初のひと当てで白露の主砲を受けており、中破状態だから全力を発揮できていないのだ。

 

 敵攻撃をかわしながら、脳裏に「艦これアーケード」の戦闘シーンを思い出し、思考をフル回転させる。

 (今の状態はどっちもT字有利・不利はない。複縦陣がやや崩れた形での同航戦じゃから、攻撃力は互いに微増状態。

 この距離で(うち)がヘ級の攻撃受けたら一発大破もありうるが、そしたら周囲のみんながかたしてくれるじゃろうし、あとのことは心配無用。

 なら逆に、私は自分ができる限りかわしつつ、攻撃当てることだけに専念するべきじゃね)

 

 覚悟をキメて、ヘ級の方に弧を描くような軌跡で接近しつつ、右手の12.7cm連装砲を胸の前で構える。

 向こうはてっきりこちらが安全策をとると思ってたのか、一瞬虚を突かれたような素振りを見せたが、すぐに立ち直り、同様に右手と一体化した主砲を向けて来た。

 砲口の中に青白い鬼火のような光が急速に充満していくのがわかる。

 アレが満ちた瞬間、こちらに発射してくるはずだ。

 

 (くはぁ~、ぶちきょうてぇ~)

 湧き上がる恐怖心を懸命に堪えつつ、敵が発射するタイミングを見逃さないよう集中する。

 

 (!)

 ヘ級の肩に力が入ったのを目撃した瞬間、思い切り右足を蹴りつけるようにして、横っ飛びに跳んで、敵の砲撃を躱す。

 左掌を水面につけるような体勢になりつつも、それでも右手の主砲をヘ級に向け、私は連続してトリガーを引いた。

 

  * * *  

 

 「しょっぱなから動きがイレギュラー過ぎるとか、全弾斉射したのに半分しか当たってないとか、いろいろ言いたいことはあるけど、とりあえず課題は合格にゃ」

 「っしゃあ!」

 戦闘終了後、今回の臨時第二艦隊のサブリーダーと試験艦を兼ねていた多摩の言葉に、思わずガッツポーズをとる浦風。

 

 「おめでとう、浦風さん。でも、あまりムチャはしないでくださいね」

 今回の旗艦を務めた祥鳳がねぎらいと心配の言葉をかける。

 かなり無茶した自覚はあるので、浦風は「すみません」と頭を下げるしかない。

 

 「そうだよー。まぁ、気持ちはわからないでもないけどさ」

 「確かにのぅ。上手くいったから良かったものの、いささか冒険が過ぎると言わざるを得ぬわ」

 僚艦である白露と初春の評価もやや辛めだ。

 

 「今回の浦風の課題(タスク)は、「戦闘終了まで小破以下の損傷で生き残ることじゃぞ?。極論を言えば、戦闘開始と同時に回避に専念しておっても、少なくとも今回に限っては誰も文句は言わなかったはずじゃ」

 初春の言葉に「エッ!?」という表情になった浦風が、他の3人の顔を見回すと、3人とも「うんうん」と頷いている。

 

 「そんなぁ……私の、あの一世一代の決断はいったい……」

 「そうですね。艦娘ですから、国や民間人を護るためなら、自ら危険に飛び込む決断が必要になることもあります。

 ですが、その必要もないのに“捨て身”になるのは決して褒められた真似ではありません。むしろ、沈めばそれだけ海軍の戦力が減るのですから、遠回りな利敵行為と言っても過言ではないのですよ」

 説明とも説教ともとれる祥鳳の理路整然とした言葉は、下手に罵られたり叱責されたりする以上に、浦風の心に堪えた。

 

 「でも、ある程度損傷していたとは言え、ほぼ単独でヘ級を大破させたのは、新米としては破格の好戦果だと言えなくもないにゃ」

 多摩のフォローはうれしいが、浦風としては「やっちまった」的な落胆が強かった。

 

 「まぁ、何はともあれ、帰ろ。お腹も減ったし、提督も首を長くしてわたしちの帰りを待ってるだろうしさ」

 空気を換えるべく、白露がわざと明るくおどけてくれたおかげで、全員気を取り直し、帰路に着く。

 

 (帰ったら、これまで以上に訓練に力ぁ入れんと、いかんのぅ)

 自省とともに心の中でそう誓う浦風だったが──その脳裏からは、自分の本来の素性や浸食率に関する懸念などが(一時的にせよ)一切消えているのは、果たして良かったのだろうか。

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